ビジネスモデル特許の解説

  目次
  1.ビジネスモデル特許
2.ビジネスモデル特許の具体例
3.ビジネスモデル特許出願の審査事例
〔戻る〕

  1.ビジネスモデル特許
  上へ
 ビジネスモデル特許とは?
 最近、「ビジネスモデル特許」という言葉をよく耳にするようになりましたが、「ビジネスモデル特許って何?」と思われる方も多いことでしょう。
 しかし、ビジネスモデル特許という言葉は、法律上の用語となっている訳ではなく、一言でいってしまえば、「ビジネスに関する発明に付与される特許」ということになると思います。例えばインターネット上の株取引等はビジネスモデルに分類されます。
 では、なぜ最近、ビジネスモデル特許なるものが注目を浴びるようになってきたのでしょうか。


 ビジネスモデル特許登場の背景
 ビジネスに関する発明は、インターネット商取引といったインターネットを利用するものが多く、ビジネスに関連する発明について特許を取得する意義・必要性が強く認識されるに至った背景には、パソコンの普及やインターネット等の社会的基盤整備の進展、これらを利用した新しいビジネス方法の急速な発展・拡大という社会の実態があります。
 インターネットを利用される方であれば、バナー広告を目にされたことがあることでしょう。バナー広告をクリックすれば、インターネット上で簡単にショッピングを楽しむことができます。このようなところにも、ビジネスモデル特許が見え隠れしています。


 ビジネスモデルは発明じゃない!?
 特許業界では、米国で「経済法則を利用した投資信託に関するコンピュータシステムに係る発明」が特許されたことが大きな話題となっており、ビジネスモデル特許が注目を浴びるようになってきた一つの要因となっています。
 しかし、特許権は、特許法に基づいて付与されるものですから、特許権が付与される対象は、「特許法上の発明」でなければなりません。これは、ビジネスモデルであっても例外ではありません。
 また、「特許法上の発明」であるか否かの基準は、各国様々です。
 日本の特許法では、発明の定義を、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの」と規定しています。この規定に基づいて判断をすると、「ビジネス方法そのもの」や「人為的な取決めそのもの」は、特許法上の発明に該当しないことになります。
 日本の特許法では、従来からこのような取り扱いをしていますし、ビジネスモデル特許がマスコミに取り上げられるようになった今日でもこのような取り扱いが変わることはありません。
 この点、今日の報道の中には、あたかも「ビジネス方法やアイディアそのもの」が特許の対象となり得るかのような印象を与えるものが見受けられ、特許法上の発明に該当しないものも多数含まれていると思われますので注意を要します。


 ビジネスモデル特許で業界の主導権を獲得!!
 しかし、特許法上の発明として認められ、見事に、特許となったものも存在します。例えば「インターネットを利用して広告情報を提供する方法に関する発明(特許第2756483号)」、「広告を見て資料請求してくる顧客の氏名、住所等の情報を自動的に集計し、その分析結果を広告主へ配信する顧客情報システム(特許第2897127号)」、「株等の有価証券に対する自動化された売買市場を形成させるための営業システム(特許第2587615号)」などは、特許となっています。
 今後、インターネット等の普及は一層進み、ビジネス方法に関連する特許出願も増加すると予想されます。
現状でビジネス方法に関連する特許出願が多くなされている金融・サービス関連産業の分野は、製造業などと異なり、これまで積極的な特許権取得があまり試みられていなかった産業分野です。
 特許権は同一の発明に対しては最先に出願した者に付与されます(先願主義)。つまり、同業他社に先駆けて特許出願し、権利取得をすることは、今後の事業展開の自由度を広げる上で大切な要素となってきます。
 パソコンやインターネットを利用した電子商取引等のみでなく、新たに案出・企画したビジネスの形態、方法がパソコンやインターネット等を利用して実現できるものである場合には、積極的に特許出願し、権利取得を目指してみてはいかがでしょうか。
 また、新たな事業の展開に併せて、商標登録を行って商標権を取得する等、工業所有権・知的所有権全般を視野に入れ、トータルでビジネスモデルを活用していくことも効果的でしょう。
 また、その一方で、自社が採用しようとしているビジネス方法が、パソコンやインターネットを利用するものである場合は、第三者の権利を侵害することがないよう十分な注意が必要となります。


〔戻る〕

  2.ビジネスモデル特許の具体例
  上へ
 新聞・雑誌・テレビ等において「ビジネスモデル特許」と表現されている「ビジネス関連特許出願」について、具体例をいくつか紹介する。
 
 「花の販売方法」(特開平9−204466号)
 花を販売する業者が、花及び花に関する情報をインターネットに接続可能なホストコンピュータに入力しておく。パーソナルコンピュータ等の端末からアクセスしたクライアントが、前記ホストコンピュータに記憶されている情報を利用して、花、ラッピング、リボン等を自己のパーソナルコンピュータの画像に表示させて選択し、希望するイメージにあった注文を行う花の販売方法である。
 従来行われていたビジネスを、インターネット等のビジネスシステムに関連するインフラストラクチャーの発展を踏まえ、これを利用して実現しようとしているものといえる。


 「個人ライフプランに基づく最適保険の自動設計装置」(特開平8−287159号)
 個人の死亡後に発生する資金を「残された家族の生活費等、毎年発生する資金」と「葬式費用、相続税のように個人の死亡した年のみ発生する一時的な資金」とに分類し、その資金の性格に適合させて、終身保険、定期保険、等の複数の種類の保険商品の組み合わせを提案するものである。ノート型の携帯パーソナルコンピュータに前記の最適な組み合わせを演算するために必要なデータと、演算処理のためのプログラムを記憶させておき、被保険者から聞き取った個人・家族等に関する情報を入力し、被保険者の面前で、最もふさわしいと考えられる保険商品の組み合わせ、将来の資金の動向などを画像に表示して生命保険商品の販売を行う際に用いるものである。
 従来、生命保険商品を販売する企業が多くの時間をかけ、また販売員の豊富な経験を活用して実行していた事項を、コンピュータの演算処理能力の向上などを踏まえて、より効果的、効率的に実行できるようにしたものといえる。


 「アドバイスシステム」(特開平9−245088号)
 カウンセリングを行う業者が、悩みごとを相談してくる人に対するアドバイス用のホームページのサイトを持つwwwサーバをインターネット上に開設しておく。前記ホームページには、アドバイス用の質問項目と、これに対して相談者が選択する回答項目とが設けられている。ネットワークを介してアクセスしてきた相談者が回答した後、カウンセリングを行う業者から、アドバイスを届けてよいか相談者に問い合わせがされ、相談者がこれを望めば、カウンセリングを行う業者の方から電子メールでアドバイスが届けられるシステムである。
 インターネットの双方向性を利用したものといえる。


 「仮想現実空間を利用したバーチャルハウジングセンターによる住宅総合案内システム」(特開平11−15995号)
 サーバ管理者がインターネット上に、仮想現実空間を利用したバーチャルハウジングセンターが生成されるサーバをおいて住宅総合案内サービスを提供する。住宅販売会社が当該サーバ管理者に申し込んで、前記バーチャルハウジングセンターの一部の割り当てを受け、自社が提供する住宅に関する情報(仮想住宅展示場、仮想モデルハウスなど)を提供する。住宅購入希望者がネットワークを介して前記サーバにアクセスし、前記住宅販売会社が提供する情報を受けとるものである。
 インターネットとコンピュータ技術の進展を踏まえた仮想現実空間を利用して住宅の展示・案内・販売という経済活動を行うものである。


 「投資マートシステム」(特開平11−15878号)
 インターネットを利用した未公開株を取引するためのシステムである。このシステムを提供する業者がインターネット上に開設したサーバコンピュータに、資金調達のためにこのシステムを利用する企業のコンピュータが接続されており、当該企業は、財務情報、株価情報などの自社の企業情報を提供している。このシステムを利用する投資家(出資者)は、自己のコンピュータから前記サーバコンピュータにアクセスし、前記企業から提供されている企業情報を閲覧することができ、また、電子メールを利用して前記企業への質問の送信、企業からの回答の受信を行うことができる。
 インターネットが有する情報の共有性という特性を利用して資金調達を希望する企業からの情報開示が担保された投資マートを創出しようとするものである。


 ビジネス戦略を確立しておく必要性
 いわゆる「ビジネス関連特許出願」とよばれるものの中には、一般的に、インターネット等のビジネスシステムに関連するインフラを利用して始めて実現できるようになった新たなビジネスのやり方について特許権取得目指すものと、従来から実施されていたビジネスの方法を、発展してきたコンピュータ基礎技術、インターネット等のビジネスシステムに関連するインフラを利用して実現するものとが含まれている。この相違は、特許権取得できた際に取得できる効果の有効性の大小に結び付くものである。
 インターネット等を利用した新しいビジネス手法であるので、この新しいビジネス手法における将来的な自社の独占排他的な実施を確実ならしめることに重点をおくのか、少なくもと自社の提供するインターネット等を利用したビジネスの実施の自由度を確保するということに重点をおくのか、あるいは、「ビジネスモデル特許出願済」と宣伝・広告できるという営業的な目的に重きをおくのか、自社のビジネスの戦略の上で、どのように「ビジネス関連特許出願」を位置付けるのか明確にした上で、特許出願の必要性、特許出願後の審査請求を行う時期等について検討することが大切であろう。


〔戻る〕

  3.ビジネスモデル特許出願の審査事例
  上へ
 いわゆるビジネス関連発明に係る特許出願についての審査事例を紹介する。
 
 コンピュータやインターネットを利用してビジネス手法を実現する発明
 米国のステートストリート事件において、有用性があり、具体的で現実的な限りは、ビジネス手法であっても、特許の対象となり得る(CAFC判決 1998年7月)と認められた発明は、日本へも国際出願ルートを介して特許出願されている(特表平6−505581号)。
 この特許出願に対しては、既に、「特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていない」とする拒絶理由(すなわち、特許請求の範囲の請求項に記載されている発明が特許法の保護対象たる発明に該当しない、という拒絶理由)が通知されている(平成11年9月24日起案)。
 この拒絶理由通知に示された特許庁審査官の判断を紹介する。なお、同時に「人間の行為を規定したものか、システムの動作ステップを規定したものか明らかでない」ので特許法第36条に規定する要件を満たしていないとする拒絶理由も通知されているが、ここでは、この拒絶理由についての説明は省略する。特許出願人は、特許法第36条違背の拒絶理由については、このように指摘された請求項を単に削除する対応のみ行っている。
 審査官は、本件出願の明細書を詳細に検討した上で、本件発明に至る上での課題は、以下の2点であったと認定している。
 A.会社投資法および証券法に適合し、規模の利益が得られ、かつ国内租税法に有利な取扱を受けるような資金運用法を開発する。
 B.前記会計処理及び税金処理を行うための処理をデータ処理システムにより行う。
 次に審査官は「特許請求の範囲の請求項に規定されている事項が、前記課題を解決するために自然法則を利用するための技術手段を伴うものであるかどうか」を検討し、この課題を解決するべくコンピュータに行わせるように採用されている技術的手段は、コンピュータが本来備えている処理機能であるところのデータ処理機能(データ保持手段、起動手段、データ処理手段)に他ならないとの見解を示し、「そうすると、請求項1において出願人が発明として提案する内容は、データ処理のためのコンピュータが本来有する機能の一利用形態であって、しかも、その利用形態は、特定の金融サービスに必要な会計および税務処理についての考察に基づいて定められたものであり、なんら技術的考察を伴うものでないから、これをもって『技術的思想の創作』ということはできない。」として前記拒絶理由を通知したのである。
 この拒絶理由に対しては、特許出願人から意見書、手続補正書が提出され、審査官に再考が求められているので、前記審査官の認定の帰趨は現時点では不明である。
 案出されたアイディアであるビジネスの手法(これは少なくとも特許法及び現状の審査基準では特許法上の発明に該当しない)が、コンピュータやネットワークなどを介して実現されるものであれば、特許法上の発明に該当するとして取り扱われ、当該発明が新規性、進歩性などの特許要件を備えているならば、特許が認められ得る。
 しかし、案出されたアイディアであるビジネスの手法が、コンピュータがそもそも備えている従来公知の処理機能(記憶、演算、情報伝達)を用いたものでしかなく、これらのコンピュータの処理機能の用い方のみに発明の特徴があり、これらの処理機能の用い方そのものが「発明」として特許請求されている場合、特許は認めれらないのではないかと考える。このような「発明」を保護することは、結局のところ、現行の特許法、審査基準では保護の対象としていない人為的取決め、単なるアイディアを保護することにすぎなくなると考えられるからである。


 コンピュータやインターネットを利用することなしにビジネス手法を実現している発明
 本年1月21日付で「婚礼引き出物の贈呈方法」なる特許が成立している(特許第3023658号)。
 この発明は、婚礼披露宴当日に披露宴参加者が婚礼の引き出物を持ち帰る必要がないように、引き出物贈呈者が「贈呈者名欄・贈呈者住所欄・数種に群分けして引き出物明細を記入した引き出物グループ欄を有する贈呈リスト」を用いて、贈呈者と贈呈者別の前記グループを特定して引き出物の送り届けを委託者に委託し、当該委託者が、当該贈呈リストに従って、指定された引き出物を、指定された場所に、指定された日に届ける方法に関するものである。
 特許庁の審査においては、単に人為的な取決めであって、自然法則が利用されていない、として特許法第29条第1項柱書違背の拒絶理由(特許法上の発明に該当しない)が通知された。
 これに対して、特許出願人は、「贈呈リストは物理的構成物であり、自然法則を利用している」との内容の意見書を提出している。
 従来より電話帳の見出し欄、視力検査表等の活字の配列、色彩等も、その構成によって、見やすい、理解しやすい等の一定の効果を必ず奏するならば、自然法則を利用した技術的思想の創作(特許法上の発明)に該当するとの取扱いがされており、本件特許における「贈呈リスト」が特許法の保護対象たる発明に該当し得る点は認められるところであろう。
 また、現行の審査基準では「請求項に係る発明の構成に自然法則を利用していない部分があっても、請求項に係る発明が全体として自然法則を利用していると判断される時は、その発明は、自然法則を利用したものとする。」とされている。
 そこで、前記意見書の提出によって本件特許の成立が認められたものと思われるが、本件特許の場合、請求項に記載された発明が「全体として自然法則を利用する」ものであるかどうかは微妙なところであろう。


〔戻る〕
鈴木正次特許事務所