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この度の熊本地方を震源とする地震により、被害を受けられた皆様に心からお悔やみとお見舞いを申し上げます。1日も早い復旧を心よりお祈り申し上げます。 優れた技術を有し、かつ、それらを海外において広く活用しようとする場合、外国で特許権や商標権などを取得することが重要です。しかし外国で特許権などを取得するには、翻訳費用や現地代理人費用などが発生し、中小企業にとっては大きな負担となっています。 このような状況に対して、特許庁は外国出願にかかる費用の半額を補助する支援事業を行っていますが、平成28年度の中小企業知的財産活動支援事業費補助金(中小企業等外国出願支援事業)の公募が6月にも実施予定となりました。 また東京都も外国特許出願費用の助成事業(5月9日から第1回公募)を公表しました。 外国特許出願を検討されている中小企業の皆様にとって有用な助成事業ですので、今号ではその概要を紹介します。 ┏━┳━┳━┳━┳━┳━┓ ┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃ ┗━┻━┻━┻━┻━┻━┛ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■特許制度の概要■ (5)特許出願から特許成立までの流れ(前半) 特許出願から特許成立までどのように進行するのかその流れの前半を説明します。 A.特許出願 特許取得を希望する者(特許出願人)は、発明の内容を文章にまとめて特許庁に提出します。図面を参照して発明を説明する場合には図面も提出します。 発明を説明する文章・図形の文字情報・図面情報を電子データにし、インターネット等のオンラインで特許出願できるようになっています。 発明者は、従来技術(従来どのように行っていたか)、従来の技術にはどのような問題が存在していたのか(従来行われていたもののどのような点を改善・改良したいと考えたのか)、問題点・課題を解決する目的で新たに採用した工夫はどのようなものか、それによって発揮された効果はどのようなものか、その工夫が実際に採用された例ではどのようになるのか、等々を簡単にまとめた発明届を提出するのが一般的です。 特許出願をする際にはこのような発明届の中から発明概念を抽出し、取得する特許権の効力範囲がより広く、強いものとなり、一方で、特許取得を希望する発明の効力範囲が明確に確定され、提出する文章(明細書、特許請求の範囲)、図面に記載されているようにすれば誰でもが同じように発明を再現できる程度に十分に説明する文章、図面を作成して特許庁へ提出します。 特許庁は特許出願を受け付けると特許出願日、特許出願番号を付与して特許出願人へ通知します。特許出願番号はカレンダーイヤーごとに1番から始まります。 これにより、同じ内容の発明がその特許出願日の後に特許庁へ提出(出願)されても、後からの出願には特許が認められないという先願の地位を確保できます(特許法第39条)。 B.特許出願公開(特許法第64条) 特許庁は特許出願を受け付けた後その内容を秘密に保ちます。一方、出願を受け付けて1年6カ月経過した後、原則として、すべての特許出願についてその内容を公表します。紙に印刷された特許出願公開公報を発行して公表するだけでなく、インターネットで閲覧できる特許情報プラットフォーム (J -Plat Pat https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/all/top/BTmTopPage ) でも公表され世界中で閲覧可能になります。 特許出願公開公報には特許出願番号とは別個の特許出願公開番号が付与されます。特許出願公開番号もカレンダーイヤーごとに1番から始まります。 自社が行っている研究開発・技術開発と同じ方向・内容の発明が掲載されている特許出願公開公報を発見したときには特許権侵害という問題が将来発生しないように、自社の研究開発・技術開発の方向を修正する等の参考にできます。 同業他社などが1年半前に特許出願していた内容を知り、これを検討し、特許出願公開公報に記載されている技術内容をより優れた発明を開発・創作する資料に利用することができます。 特許出願公開公報が発行されると掲載されている発明は出願公開公報発行の時点で秘密状態を脱した発明、すなわち、新しさ(新規性)を失った発明となり、その後に特許出願される発明に対する先行技術になります。 発行された出願公開公報に掲載されている発明と同一の発明をその後に誰かが特許出願しても、出願前に発行されていた出願公開公報に掲載されている発明であって既に新規性を失っているとして特許成立しません。 発行された出願公開公報に掲載されている発明に基づいて簡単・容易に考えつく程度の発明をその後に誰かが特許出願しても、出願前に発行されていた出願公開公報に掲載されている発明に基づいて簡単・容易に考えつくことができるので進歩性欠如であるとして特許成立しません。 そこで、自社で採用する可能性がある発明について誰よりも先に特許出願しておけば先願の地位(特許法第39条)を確保して、その後に第三者が同一発明を特許出願して特許権取得することを防止できるだけでなく、出願後1年6カ月経過して出願公開公報が発行されることで、その後に第三者が周辺の簡単・容易に考えつく程度の発明を特許出願して特許権取得することも防止できるようになります。 B−1 情報提供制度 特許出願公開公報に掲載されている発明について、その発明の特許性(新規性、進歩性など)を否定し得る技術文献(書物、研究論文、特許出願公開公報など)が存在していることを知っている者は、それが特許庁の審査で利用されることを求めて特許庁へ情報提供できます。情報提供は特許出願公開公報発行後であればだれでもが行うことができ、匿名で行うことも認められています。 http://www.jpo.go.jp/seido/s_tokkyo/tt1210-037_sanko2.htm B−2 補償金請求権(特許法第65条) 特許制度は産業の発達を目的にしています。このため、特許出願で提出する明細書、図面に記載されているようにすれば誰でもが同じように発明を再現できる程度に十分な説明が行われている必要があります。 そこで、だれでも特許出願公開公報の記載に従って発明を実施し、その実施品を製造、販売できます。このような行為は特許権侵害行為ではなく差止請求、損害賠償請求の対象になりません。特許権が成立した以降に特許権が成立している発明を第三者が勝手に実施(特許発明の実施品を製造、販売、等)する行為が特許権侵害だからです。 ただし、これでは、特許出願人の保護に欠けることになります。そこで、補償金請求権が認められています。 補償金請求権は、特許出願公開公報が発行された後、特許出願公開公報に掲載されている発明を実施している第三者に対して「警告書」を届けることで発生し、所定の条件を満たすことで、「警告書」を届けていた時点から特許成立までの実施行為に対して、特許権が成立した後に、実施料相当額の支払いを求めることが可能になる権利です。 「警告書」の送付を受けた者は指摘された特許出願公開公報に係る特許出願の内容を踏まえて対応を検討しますが、このような「警告書」が送付されることはあまりありません。 特許出願されたもの(=特許出願公開公報が発行されたもの)の中で最終的に特許成立するのは、技術分野に応じて相違がありますが、40〜45%程度です。そして、特許成立するものの多くは、審査の過程で拒絶理由に引用される先行技術を回避する目的で特許出願公開公報が発行された時点で特許請求していた発明よりも効力範囲が狭くなるように補正を行っています。 このような事情から、補償金請求権を成立させる「警告書」送付は一般的には行われず、補償金請求権を成立させる「警告書」を受けても、直ちに、警告を受けた実施行為を中止する事態になることはあまりありません。 (次号ではこの後の「審査請求」以降の流れについて紹介します) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■ニューストピックス■ ●外国出願にかかる費用の半額を補助● 平成28年度中小企業知的財産活動支援事業費補助金(中小企業等外国出願支援事業)の概要 特許庁は、中小企業の戦略的な外国出願を促進するため、外国への事業展開等を計画している中小企業等に対して、外国出願にかかる費用(外国特許庁への出願料、国内・現地代理人費用、翻訳費用等)の半額を助成する事業を行っています。 独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)と各都道府県等中小企業支援センター等が窓口となり、全国の中小企業が支援を受けることができます。 地域団体商標の外国出願については商工会議所、商工会、NPO法人等も応募できます。また、意匠においては、「ハーグ協定に基づく意匠の国際出願」も支援対象です。 ジェトロの応募受付期間は、6月中に実施予定です。 ◎応募資格 各都道府県の中小企業支援センター等の管内に事業所を有している「中小企業者」または「中小企業で構成されるグループ」(構成員のうち中小企業者が3分の2以上を占め、中小企業者の利益となる事業を営む者)で、応募時に日本国特許庁に対して特許、実用新案、意匠、商標の出願を既に行っており、採択後に同内容の外国出願を年度内に出願(PCT国際出願に基づく国内移行及びマドプロ出願、意匠のハーグ出願を含む)を行う予定であること。 ただし、ハーグ協定に基づく国際出願の場合、ハーグ出願時に日本国を指定締約国として含む場合は、外国特許庁への基礎となる先の国内出願がなくても対象となります。 ◎選定基準 先行技術調査等の結果からみて外国での権利取得の可能性が明らかに否定されないこと。 助成を希望する出願に関し、外国で権利が成立した場合等に、「当該権利を活用した事業展開を計画している」又は「商標出願に関し、外国における冒認出願対策の意思を有している」中小企業者等であること。 (※)冒認対策商標:第三者による抜け駆け出願(冒認出願)の対策を目的とした商標出願 ◎補助対象経費 外国特許庁への出願料、国内・現地代理人費用、翻訳費等 補助率・上限額補助率:1/2 上限額:1企業に対する上限額:300万円(複数案件の場合) 案件ごとの上限額:特許150万円 実用新案・意匠・商標:60万円 冒認対策商標:30万円 ◎補助金の交付までの流れ◎ 日本国特許庁へ出願→補助金の申請→採択決定→外国へ出願 →外国出願にかかる費用の支払い→必要書類を補助事業者へ提出→補助金額の確定→補助金の支払い 申請受付期間及び方法などの詳細は、都道府県等中小企業センター、独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)などの補助事業者にお問い合わせください。 https://www.jetro.go.jp/services/ip_service_overseas_appli.html ●東京都が外国特許出願費用の助成事業を公表● 東京都は、都内の中小企業者等を対象に、外国への特許出願等にかかる経費の一部を助成する事業を公表しました。 第1回目の公募期間は平成28年5月9日〜5月20日となっています。 ◎申込資格 東京都内の中小企業者(会社及び個人事業者)、中小企業団体、一般社団・財団法人 (1年度1社1出願に限る) ◎主な事業の概要 1.外国特許出願費用助成 対象経費:出願手数料 、弁理士費用、翻訳料、先行技術調査費用、国際調査手数料、国際予備審査手数料等 助成額:助成対象経費の2分の1以内、限度額300万円 受付期間:第1回:平成28年5月9日(月)〜5月20日(金) 2.外国実用新案出願費用助成事業 対象経費:出願手数料 、弁理士費用、翻訳料、先行技術調査費用、国際調査手数料、国際予備審査手数料等 助成額:助成対象経費の2分の1以内、限度額60万円 受付期間:随時募集 3.外国意匠出願費用助成 対象経費:出願手数料 、弁理士費用、翻訳料等 助成額:助成対象経費の2分の1以内、限度額60万円 受付期間:随時募集 4.外国商標出願費用助成 対象経費:出願手数料 、弁理士費用、翻訳料等 助成額:助成対象経費の2分の1以内、限度額60万円 受付期間:随時募集 5.外国侵害調査費用助成 対象経費:侵害調査費用、侵害品の鑑定費用、 侵害先への警告費用、税関での輸入差止対策費用 助成額:助成対象経費の2分の1以内、限度額200万円 受付期間:随時募集 6.特許調査費用助成 対象経費:調査委託費用 助成額:助成対象経費の2分の1以内、限度額100万円 受付期間:随時募集 随時募集の助成については、予算がなくなり次第、受付が終了となりますので、申請前に必ず東京都知的財産センターにお問い合わせください。 外国特許出願費用助成事業の詳細は、東京都知的財産総合センターHPをご参照ください。 http://www.tokyo-kosha.or.jp/chizai/josei/tokkyo/index.html ●「フランク三浦」の商標登録は有効● 〜知財高裁、特許庁の無効審決を取消し スイスの高級腕時計ブランド「フランク・ミュラー」を連想させる腕時計「フランク三浦」の製造販売会社が平成24年に商品「時計」等について、商標「フランク三浦」の登録を受けていたところ、スイスのフランク・ミュラー社が商標登録無効審判を請求し、特許庁は「フランク三浦」の商標登録を無効にする審決を昨年9月に下しました。これについて、知財高裁が、特許庁の審決を取消しました。 知財高裁は、「フランク三浦」と「フランク・ミュラー」とは、称呼においては類似するものの、外観において明確に区別し得るものであり、観念においても大きく異なるものである上に、商品「時計」等において、商標の称呼のみで出所が識別されるような実情も認められず、称呼による識別性が、外観及び観念による識別性を上回るともいえないから両商標は似ていないとしました。そして、「フランク三浦」及び「フランク・ミュラー」が商品「時計」等に使用されたとしても、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえないとしました。 フランク・ミュラー社は、「フランク三浦」社がフランク・ミュラー社の時計と外観が酷似した時計に商標「フランク三浦」を付して販売している事情も主張しましたが、そのような主張は、「商標『フランク三浦』の登録査定時以後の事情に基づくものであり、それ自体失当である」として排斥されました。 「仮に、この事情を考慮したとしても」とした上で、フランク・ミュラー社の時計は、多くが100万円を超える高級腕時計であるのに対し「フランク三浦」社の時計は、その価格が4000円から6000円程度の低価格時計である点などを指摘して、商標が類似するものとはいえないという認定を左右する事情にならないとしました。 ●特許登録件数、トヨタが1位● 〜特許庁ステータスレポート2015 特許庁の最新の統計情報などをまとめた「特許庁ステータスレポート2015」が発表されました。 同レポートによると、2015年の国内特許出願件数は31万8,000件と、14年と比べて2.3%減少した一方、出願年別に見た特許登録率(特許出願件数に対する特許登録件数の割合)は増加傾向にあります。 企業活動のグローバル化に伴い、海外で出願するケースが増えており、2015年に日本国特許庁を受理官庁としたPCT国際出願件数は43,097件で過去最高を記録しています。 商標の国内出願件数は14年比18.4%増の14万7,000件と大きく伸びました。音や動きなど新しいタイプの商標の申請受け付けが始まったことが影響したとみられます。意匠登録出願件数は2万9,903件。 特許登録件数を企業別みると、第1位はトヨタ自動車で4,614件、2位はキヤノンで3,717件、3位は三菱電機で3,364件となり、電機と自動車関連メーカーがトップ10の大部分を占めました。 商標登録上位5社は、第1位が資生堂で443件、2位はサンリオで370件、3位は富士通で283件、4位は花王で272件、5位は森永乳業で264件の順となっています。 特許庁ステータスレポート2015は特許庁のHPからPDFでダウンロード可能です。 https://www.jpo.go.jp/shiryou/toukei/pdf/status2016/all.pdf ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
5月12日 東京都港区 発明会館 http://www.jiii.or.jp/kenshu/h28/0511_12.pdf 知的財産権基礎講座〜実務に役立つ知財の基礎知識と基本手続きの習得〜 (発明推進協会) 5月12日 東京都豊島区 池袋ウェストパークビル http://event.tokyo-cci.or.jp/event_detail-68047.html 事例から学ぶ!“知財経営のヒント” (東京商工会議所) 5月19日 東京都港区 発明会館 http://www.jiii.or.jp/kenshu/h28/0519_20.pdf 出願から登録に至る知財「手続き」実務ノウハウ講座 〜強い権利取得へ向けた特許・実用新案・意匠・商標の出願から登録まで〜 (発明推進協会) ******************************************************** 発行元 : 鈴木正次特許事務所 〒160-0022 東京都新宿区新宿6‐8‐5 新宿山崎ビル202 TEL 03-3353-3407 FAX 03-3359-8340 E-mail: URL: http://www.suzuki-po.net/ ******************************************************** 本メールの無断転載はご遠慮下さい。 本メールマガジンの記載内容については正確を期しておりますが、弊所は、利用される方がこれらの情報を用いて行う一切の行為について責任を負うものではありません。 |