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◇◆◇  鈴木正次特許事務所 メールマガジン  ◇◆◇
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2018年6月1日号


  本号のコンテンツ


  ☆知財講座☆

 ■弁理士が教える特許実務Q&A■

 (6)新規性喪失の例外


  ☆ニューストピックス☆

 ■平成30年度中小企業等海外侵害対策支援事業の概要
 ■「エ・バ・ラ、焼き肉のたれ」が音商標に
 ■「デザイン経営」宣言、意匠法改正など提起(特許庁)
 ■先発品の延長特許、後発医薬品の特許侵害認めず(最高裁)


  ☆イベント・セミナー情報


 日本貿易振興機構(ジェトロ)による平成30年度中小企業等海外侵害対策支援事業の公募が開始されました。
http://www.jpo.go.jp/sesaku/shien_kaigaishingai.htm
 同事業は、海外で取得した特許・商標等の侵害を受けている中小企業者に対し、現地での侵害調査をはじめ、模倣品業者への警告文作成、行政摘発までを実施し、その費用の2/3を補助するものです。
 中小企業の海外進出が活発化する中、適切な模倣品対策を講じることが重要となってきていますが、海外での知的財産活動費は中小企業にとっては大きな負担となっています。
 そこで今号では、中小企業等海外侵害対策支援事業の概要について紹介します。

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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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■弁理士が教える特許実務Q&A■

(6)新規性喪失の例外

【質問】
 展示会で当社の新製品を紹介したところ引き合いが多く来ています。実際の販売が始まる前に特許出願したいのですが、既に展示会に出展して社外の人に見せているので、これからでは特許出願できないのでしょうか?

【回答】
 特許出願を行う前に発明品を展示会に出展していた場合でも出展の日から6カ月以内に特許出願を行うことで特許取得可能になることがあります。これを新規性喪失の例外といいます。今回はこの新規性喪失の例外について説明します。

<特許出願前に新しさを失うと特許取得できない>
 どこの国の特許制度でも、特許出願より前に、秘密を守る義務を有しない人に、知られた発明は、特許を受けることができないのが原則です。既に世の中の人に知られてしまった発明に、その後の特許出願によって特許権という独占排他権を与えるのは、世の中に混乱を与え、産業の発達に役立たないと考えられるからです。

<特定の条件が満たされると例外扱いを受け得る>
 しかし、特許庁長官が指定している学会等で論文発表したり、刊行物への発表を行うことなどによって自らの発明を公開した後に、その発明について特許出願をしても一切特許を受けることができないとすると、発明者にとって酷で、産業発達への寄与という特許法の趣旨にもそぐわないことがあると考えられます。
 そこで、従来から、所定の条件の下で発明を公開した後に、所定の条件を守って特許出願した場合には、その公開によっては、その発明の新規性は喪失していないものとして例外的に取り扱うようにしています。これを「発明の新規性喪失の例外」といいます(特許法第30条)。
 現在では、下図のように、集会・セミナー等(特許庁長官の指定のない学会等)で公開された発明、テレビ・ラジオ等で公開された発明、販売によって公開された発明のように、特許を受ける権利を有する者の行為に起因して公開された発明についても新規性喪失の例外規定の適用を受けることができるようになっています。

平成29年度知的財産権制度説明会(初心者向け)テキスト
 第2章 産業財産権の概要 
第1節 特許制度の概要
https://www.jpo.go.jp/torikumi/ibento/text/pdf/h29_syosinsya/1_2_1.pdf

<新規性喪失の例外が認められる条件>
 新規性喪失の例外適用を受けるためには次の3つの手続が必要です。

[1]新規性喪失行為後6カ月以内に特許出願を行う
 特許を受ける権利を有する者(例えば、自分が完成させた発明についての特許を受ける権利を他人に譲渡していない時点の発明者や、発明者から発明についての特許を受ける権利を譲り受けている会社など)が、インターネットでの発表、展示会への出品、販売、新聞・テレビ・ラジオでの発表などを行うことによって、発明が、秘密を守る義務を有していない人に知られてしまった日から6カ月以内に特許出願を行う必要があります。

[2]特許出願と同時に新規性喪失例外適用申請する
 特許出願と同時に「新規性喪失の例外適用を受けたい旨」の申請を行う必要があります。

[3]特許出願後30日以内に証明書を提出する  その特許出願の日から30日以内に新規性を喪失した公開の事実を証明する書面を特許庁へ提出する必要があります。

<新規性喪失の例外であって先願の例外ではない>
 日本の特許制度では、同一の発明について複数の特許出願が競合した場合には、最も先の特許出願に特許権が与えられることになっています(先願主義)。
 発明の新規性喪失の例外規定は、発明者などが特許出願を行う前にその発明を公表してしまった場合に、その日から6カ月以内に特許出願が行われる、等の条件が満たされるときに限って、その特許出願に係る発明の特許性(新規性、進歩性)を判断するときに、当該公表によっては新規性を失っていなかったものとする取り扱いでしかありません。
 同一の発明について複数の特許出願が競合した場合に最も先の特許出願に特許権が与えられるという先願主義の例外規定ではありません。

https://www.jpo.go.jp/torikumi/ibento/text/pdf/h29_syosinsya/1_2_1.pdf

 上図の場合、本人が論文で公表した発明について6カ月以内に特許出願を行って新規性喪失の例外規定の適用を受けることができます。しかし、この場合でも、他人が独自に同じ発明をして、その発明について先に特許出願を行っていたときには、上記の本人の特許出願は同一の発明についての後からの特許出願になりますから、先願主義の規定によって拒絶され、特許が認められないことになります。
 上図の場合、他人の特許出願は、その出願前に公知になっていた論文の記載内容に基づいて新規性、進歩性欠如で特許を受けることができませんが、発明が完成したならば、インターネットでの発表、展示会への出品、販売、新聞・テレビ・ラジオでの発表などを行うより前に特許出願を行うことが原則になります。

<外国への特許出願には例外適用されない>
 新規性喪失の例外規定については各国ごとに取り扱いが相違しています。インターネットでの発表、一般的な展示会への出品、販売、新聞・テレビ・ラジオでの発表などに関しては新規性喪失の例外が認められない国の方が多数です。そこで、例えば、日本では新規性喪失の例外が認められて特許取得できたが、中国、韓国などでは、日本での新規性喪失行為(例えば、一般的な展示会への出品、販売)によって既に新規性を失った発明であるとして拒絶され、特許が認められません。
 海外でも販売、等を行う製品であって、海外での特許取得も検討しなければならないものについては、原則通り、世の中の人に知られてしまう前に日本で特許出願を行うという注意が必要です。

<新規性喪失例外期間の延長>
 「不正競争防止法等の一部を改正する法律案」が、本年5月23日に可決・成立し、5月30日に公布されて、改正特許法第30条の規定は本年6月9日に施行されることになりました。6月9日から施行される改正特許法第30条の規定によれば、新規性喪失の例外期間が、上記で説明した従来の6カ月から1年に延長されます。平成29年12月9日以降に上述した新規性喪失行為が行われていて、本年6月9日以降に特許出願が行われる場合には、改正特許法第30条により、新規性喪失行為日から1年以内であれば新規性喪失の例外適用を受けることが可能になります。

<次号のご案内>
 世の中の人に知られてしまう前に特許出願を行うことが望ましい、といっても、特許庁への特許出願を代理する弁理士、特許事務所にはどのような情報を準備して特許出願の依頼に行けばよいのか、次号はこの点に関するご質問に回答します。
以上


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■ニューストピックス■

●平成30年度中小企業等海外侵害対策支援事業の概要●

 特許庁は、日本貿易振興機構(ジェトロ)を通じて、中小企業等海外侵害対策支援事業を実施しています。
 同事業は、海外で取得した特許・商標等の侵害を受けている中小企業に対し、模倣品の製造元や流通経路等を把握するための侵害調査及び調査結果に基づく模倣品業者への警告文の作成、行政摘発、税関差止申請、模倣品が販売されているウェブページの削除等について、その経費の2/3(上限額:400万円)を補助するものです。

 また、冒認商標無効・取消係争支援事業では、中国等海外で現地企業から、自社のブランドの商標や地域団体商標を冒認出願(海外でブランド名等を悪意の第三者が先取出願)された中小企業等に対し、異議申立や無効審判請求、取消審判(例:中国における三年不使用取消)請求など、冒認商標を取消すためにかかる費用の2/3(上限額:500万円)が助成されます。

各支援事業の支給対象・要件など詳細は特許庁HPでご参照ください。
http://www.jpo.go.jp/sesaku/shien_kaigaishingai.htm

●「エ・バ・ラ、焼き肉のたれ」が音商標に

 エバラ食品工業は、テレビCMなどで使用してきたサウンドロゴ「エ・バ・ラ、焼き肉のたれ」が「音商標」として登録されたと発表しました(登録番号 第6039687号)。
 「音商標」は、音楽的要素(メロディ、ハーモニー、リズム、またはテンポ、音色など)のみで構成される「音」の登録を認めたもので、例えば、CMなどに使われるサウンドロゴやパソコンの起動音などがあげられます。
 サウンドロゴとは、企業がCMなどにおいて、自社の呼称や商品名などにメロディを付けたりあるいは音声や効果音などの音響でアピールして宣伝効果を高めるブランド手法とされます。
 音商標は、特許庁が企業のブランド戦略の多様化を受け、2015年4月から新しいタイプの商標として出願を受け付けたもので、これまでに音が商標登録された例としては、「ファイトーイッパーツ」(大正製薬)、「ブルーレット置くだけ」(小林製薬)、「正露丸」のラッパのメロディー(大幸薬品)などがあります。

●「デザイン経営」宣言、意匠法改正など提起(特許庁)

 特許庁の有識者会議「産業競争力とデザインを考える研究会」は、デザインによる我が国企業の競争力強化に向けた課題の整理とその対応策の検討を行い、『「デザイン経営」宣言」』として報告書を取りまとめました。
http://www.meti.go.jp/press/2018/05/20180523002/20180523002.html

 報告書では、近年、米アップルや英ダイソンなど、外国企業による「デザイン重視」の製品開発が技術革新や企業競争力につながっていると指摘。日本企業においてもブランド価値を高め、競争力を強化する「デザイン経営」へ向けた意識改革が求められると提言しました。
 報告書では、「デザイン経営」について、デザインを企業価値向上のための重要な経営資源として活用する経営と定義。それは、デザインを重要な経営資源として活用し、ブランド力とイノベーション力を向上させる経営だとしています。アップル、ダイソン、良品計画、マツダ、メルカリ、AirbnbなどのBtoC企業のみならず、スリーエム、IBMのようなBtoB企業も、デザインを企業の経営戦略の中心に据えており、「デザイン経営」の実践企業・成功企業としました。
 「デザイン経営」の必要条件として、経営チームにデザイン責任者がいることと、事業戦略構築の最上流からデザインが関与することの2つを上げました。この2つの条件を満たした上で、デザイン部門を組織の要に置くことや、デザイン手法により顧客の潜在ニーズを抽出すること、デザイン人材の積極登用などに取り組むことが重要との考えを示しました。

・意匠法改正も提起
 また、報告書では、デザイン保護の受け皿となる意匠法の改正についても提起しました。
 近年、個々の製品について、個別に行われがちであったデザイン開発は、特に欧米の自動車やスマートフォンのデザインを中心に、複数の製品群を一貫したコンセプトに基づいてデザインする手法に移行しつつありますが、現行の意匠制度では、一貫したコンセプトに基づいた製品群のデザインについて、意匠権を取得しようとしても、最初に出願されたデザインが公開されると、後発のデザインは、原則意匠登録を受けることができません。
 このため一貫したデザインコンセプトによって創作された後発のデザインについては、最初に出願されたデザインが公開された後であっても意匠登録することができるよう検討すべきだとしています。

●先発品の延長特許、後発医薬品の特許侵害認めず(最高裁)

 抗がん剤の後発医薬品に特許を侵害されたとして、スイスの製薬会社デビオファーム社が東和薬品に後発薬の製造・販売の差し止めを求めた訴訟で、最高裁第3小法廷は、デビオ社の上告を退けました。デビオ社の敗訴とした二審・知的財産高裁判決が確定しました。
 訴訟では、先発薬の特許が延長された場合、どのようなケースが特許侵害にあたるかが争点となりました。医薬品は製造・販売の承認手続きに時間がかかることから、特許の保護期間の20年に加え、特許庁が認めれば最長5年間、特許を延長できますが、延長された期間における特許の効力が及ぶ範囲は承認を受けた物を、承認を受けた特定の用途について実施する場合のみに狭められるため、訴訟では延長期間中に保護される範囲について争われました。
 医薬品の特許延長後の効力については、用法や用量など国の承認を受けた範囲に限られると規定されています。
 知財高裁の大合議判決では、「成分や分量、用法などにわずかな差異や形式的な差異しかない場合、実質的に同一とみなされる」との判断基準を示し、技術的特徴や作用効果の違いかなどから判断すべきだとしました。
 そのうえで、東和薬品の製品には先発品にはない添加物が含まれており、「実質的に同じ物ではない」として、延長特許の効力は及ばないと結論づけ、特許侵害を認めずにデビオ社の請求を棄却しました。

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  ■イベント・セミナー情報■

6月12日 虎ノ門三井ビル
営業秘密・知財戦略セミナー
(工業所有権情報・研修館(INPIT))

6月11・18・25日 AP秋葉原
中小企業にとっての商標セミナー
(東京都知的財産総合センター)

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発行元 : 鈴木正次特許事務所
〒160-0022 東京都新宿区新宿6‐8‐5
新宿山崎ビル202
TEL 03-3353-3407 FAX 03-3359-8340
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最終更新日 '18/10/22