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特許庁は、商標審査に「ファストトラック審査」を導入しました。 ファストトラック審査とは、一定の条件を満たした商標登録出願について、通常出願より約2か月早く最初の審査結果通知を行う審査制度です。2018年10月1日以降の出願が対象となります。 特許庁では、ファストトラック審査の導入により、現在、通常案件で出願から約8か月を要している期間を6か月程度に短縮できるとしています。 今号では、この「ファストトラック審査」の概要と注意点について取り上げます。 ┏━┳━┳━┳━┳━┳━┓ ┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃ ┗━┻━┻━┻━┻━┻━┛ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■弁理士が教える特許実務Q&A■ (11)特許出願後の内容追加 【質問】 先頃特許出願していただいた発明と基本的な原理は同じなんですが、少し変えるともっとよくなるとわかりました。これは新しく特許出願しないといけませんか?先頃の出願に付け加えることはできませんか? 【回答】 先頃行った特許出願に付け加えることはできませんが、先頃の特許出願からまだ1年が経過していませんので、先頃の特許出願に基づく優先権というものを主張し、先頃の特許出願の内容に今回の改良部分が追加された新しい特許出願に乗り換えることができますます。今回は、この優先権主張出願について説明します。 新規事項を追加する補正は行えない 発明は発明者がその頭の中で考え出した技術的思想の創作であって抽象的なものです。これを、文章と、必要な場合に使用する図面とにまとめて特許出願しなければなりませんが、抽象的な発明概念を文章で説明することは容易ではありません。そこで、特許出願の際に提出していた文章、図面の記載内容を、特許出願後に、補充、訂正する手続補正を行うことが特許出願人に許されています。 ここで、特許出願で特許請求している発明の特許性(先後願、新規性、進歩性など)に関しては特許出願の時点を基準にして判断する取り扱いが行われています。 手続補正が行われた場合、補正後の内容についていつの時点を基準にして特許性を判断すればよいのか問題になります。手続補正が行われた時点を基準にすると複数回の手続補正が行われた場合、取り扱いが複雑になります。 そこで、特許法では、手続補正が行われた場合、特許出願の時点から補正後の内容であったとする取り扱いにしています。これを補正の遡及効といいます。 補正の遡及効によれば、手続補正によって出願時の明細書、図面に記載されていなかった新規な技術的事項が特許出願後に追加された場合であっても、機械的に、補正後の状態、すなわち、新規な技術的事項が追加されている状態で特許出願が行われていたとして取り扱われることになります。 このようになると、特許出願の時点を基準にして発明の特許性を判断しますので特許出願人以外の第三者に不利益になります。 そこで、特許出願の際に明細書、図面に記載されていなかった新規な技術的事項を特許出願後に追加する補正を行うことは禁じられています。このような新規事項追加の補正が行われると、そのことのみをもって特許出願が拒絶される理由になります。審査で見過ごされて特許成立していた場合には特許無効の理由になります。 このような事情ですのでご質問の改良発明を先ごろの特許出願に付け加えることはできません。 優先権主張出願 新規事項を追加する補正は行えないことから新たに見つかった改良、工夫などについては、新しく特許出願を行うことになります。 しかし、つい先頃に行った特許出願で特許請求している発明についての改良、工夫であり、別個に新しい特許出願を行って、2件の特許出願、2件の特許権で管理するよりも、1件の特許出願にまとめて審査を受け、特許権管理できるならばその方が便利ということもあります。 このような場合、つい先頃に行った特許出願から1年経過していないならば、新たに見つかった改良、工夫を、先頃の特許出願の内容に付け加えた新たな特許出願を、先頃に行った特許出願に基づく優先権を主張して行うことができます。これを優先権主張出願といいます。 資料:平成30年度知的財産権制度説明会(初心者向け)テキスト 第2章 産業財産権の概要 第1節 特許制度の概要 https://www.jpo.go.jp/torikumi/ibento/text/pdf/h30_syosinsya/1_2_1.pdf 優先権主張出願の一例を説明すると次のようになります。 ・第一回目の特許出願:2017年10月16日 明細書などに記載されている発明:a ・優先権主張出願:2018年10月16日 明細書などに記載されている発明:a、a'(a'はaの改良発明) ・第一回目の特許出願のみなし取り下げ 第一回目の特許出願は第一回目の特許出願日から1年4月が経過する2019年2月16日の時点で取り下げたものとみなされ、消滅します。 ・特許出願公開: 第一回目の特許出願日(2017年10月16日)から1年6月が経過した後に優先権主張出願の内容(明細書などに発明a、a'が記載されている)が出願公開されます。 ・審査請求できる期限: 優先権主張出願について審査請求できる期限は優先権主張出願の日から3年である2021年10月16日になります。 ・特許庁での審査における取り扱い: 優先権主張出願について審査を受ける際、発明aについての特許要件(先後願、新規性、進歩性など)は第一回目の特許出願日である2017年10月16日を基準にして検討・判断されるという優先的な取り扱いを受け、発明a'についての特許要件は優先権主張出願日である2018年10月16日を基準にして検討・判断されます。 ・特許権の存続期間の終期: 優先権主張出願について特許成立したならば、毎年、特許権を維持するための特許料(特許維持年金)を特許庁に納付することにより特許権を維持できますが、原則、「特許出願日から20年を越えない」とされている特許権存続期間の終期は、優先権主張出願日である2018年10月16日から20年が起算されます。 上記の一例で説明したように、優先権主張出願は、特許出願をする際に、既に行っていた自己の特許出願に記載していた発明を含めて包括的な発明として優先権を主張することで、その包括的な特許出願に係る発明のうち、先に出願されている発明につき、その特許審査等の基準の日又は時を先の出願の日又は時とするという優先的な取扱いを受けるものです。 技術開発の比較的初期の段階で順次生まれる基本発明及びその改良発明を随時出願し、後にこれらを一つの出願にまとめて出願することを可能にするものです。例えば、最初の特許出願(発明a)の日から1年以内であれば、一回目の優先権主張出願で改良発明a'を追加し、その後、最初の特許出願と一回目の優先権主張出願とに基づく優先権をそれぞれ主張して二回目の優先権主張出願を行って改良発明a''を追加し、発明a、a'、a''を特許請求している1件の特許出願にまとめることが可能です。 優先権主張出願を行う際の注意 優先権主張出願は最初の特許出願日から一年以内でなければ行うことができません。また、最初の特許出願の出願人と同一人でなければ行うことができず、最初の特許出願について出願後ただちに早期審査を受けたことで特許査定あるいは拒絶査定が1年以内に確定しているような場合には優先権主張出願の基礎にすることができません。 また、優先権主張出願で追加しようとする事項が先の特許出願の明細書で説明している発明の効果を補強的に支える実験・試験データであり、優先権主張出願で追加を行わなくても、先の特許出願の審査において意見書で発明の効果を主張する際の補強資料に使用すれば十分なものに過ぎないということもあります。 更に、改良発明を追加するつもりでいたところ、出願の単一性(特許法第37条)を満たさない関係の発明を追加することになって、審査の過程で分割出願(特許法第44条)を行う必要が生じ、優先権主張出願ではなく、先の出願とは別個の特許出願にしておけばよかったということも起こり得ます。 そこで、特許出願を行った後、改良発明などが誕生した場合には、その取扱いをどのようにすべきか、先の特許出願を担当している専門家である弁理士に相談することをお勧めします。 <次号のご案内> 特許出願した発明について特許庁での審査の結果を受けとることのできる時期はいつ頃になるのか、ご質問に回答します。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■ニューストピックス■ ●商標審査に「ファストトラック審査」導入(特許庁) 特許庁は、商標審査に「ファストトラック審査」を導入しました。 ファストトラック審査とは、一定の条件を満たした商標登録出願について、通常出願より約2か月早く最初の審査結果通知を行う審査運用です。2018年10月1日以降の出願が対象となります。 対象案件となるのは次の2つ要件をいずれも満たしている商標出願です。 (1)出願時に、「類似商品・役務審査基準」、「商標法施行規則」または「商品・サービス国際分類表(ニース分類)」に掲載の商品・役務(以下、「基準等表示」)のみを指定している商標登録出願 (2)審査着手時までに指定商品・指定役務の補正を行っていない 商標登録出願 ただし、新しいタイプの商標に係る出願(動き商標、ホログラム商標、音商標など)及び国際商標登録出願(マドプロ出願)は除きます。 また、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)で公表している「審査において採用された商品・役務名」等、「基準等表示」以外の商品・役務が指定されている場合は対象になりません。 早期審査は別途申請書を提出して申請する必要がありますが、「ファストトラック審査」は要件を満たしていれば自動的に適用されます。手数料は不要です。 特許庁では、ファストトラック審査の導入により、現在、通常案件で出願から約8か月を要している期間を6か月程度に短縮できるとしています。当面はファストトラック審査を「試行」として実施し、効果が見込めることが判明したら本格導入する方針です。 【注意点】 ファストトラック審査の適用を受ける場合、指定商品・指定役務の記載を特許庁等が定めている商品名・役務名に合わせる必要があります。基準等表示と少しでも異なる商品名・役務名の場合は対象になりません。 例:第41類「セミナーの企画・運営又は開催」(類似商品・役務審査基準)の表示に対して、指定役務が第41類「セミナーの企画・運営」は、対象外となります。 指定商品・指定役務として記載しようとしている商品名・役務名が特許庁等が定めている商品名・役務名と同じであれば問題ありませんが、ファストトラック審査の適用を受けようとするために、商品名・役務名を基準等表示に合わせるのは得策とはいえません。 例えば、比較的新しい商品や役務の場合、基準等表示に自分が指定したい商品・役務が記載されているとは限りません。また、商品・役務について具体的な記載をしたいと思っても、基準等表示に対応する商品・役務がないという可能性もあります。 このような場合、基準等表示に定めている商品名・役務名に合わせてしまうと、適切な商標登録ができなくなる可能性があるため注意が必要です。 ●「ステーキの提供システム」は発明で保護される(知財高裁判決) ステーキ専門店「いきなり!ステーキ」を運営している株式会社ペッパーフードサービスが所有している特許「ステーキの提供システム」(特許第5946491号)に係る発明は特許法上の発明に該当するか否かが争われた事件で知的財産高等裁判所は「特許法上の発明に該当する」との判断を下しました(平成29年(行ケ)第10232号 特許取消決定取消請求事件 平成30年10月17日判決言渡)。 ペッパーフードサービス社の特許第5946491号が成立した後「特許は取り消されるべきである」とする特許異議申立が提出され(異議2016−701090号)、特許庁は「特許法上の発明に該当しない」として「特許を取り消す」決定を下していました(平成29年11月28日)。 この特許取消決定の取消をペッパーフードサービス社が求めていたものです。 問題になった発明は次のように表現されています。 お客様を立食形式のテーブルに案内するステップと、お客様からステーキの量を伺うステップと、伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップと、カットした肉を焼くステップと、焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップとを含むステーキの提供方法を実施するステーキの提供システムであって、 上記お客様を案内したテーブル番号が記載された札と、 上記お客様の要望に応じてカットした肉を計量する計量機と、 上記お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別する印しとを備え、 上記計量機が計量した肉の量と上記札に記載されたテーブル番号を記載したシールを出力することと、 上記印しが上記計量機が出力した肉の量とテーブル番号が記載されたシールであることを特徴とする、 ステーキの提供システム。 「特許公報第5946491号」より 特許庁の取消決定では「本件特許発明は、その本質が経済活動それ自体に向けられたものであり、全体として『自然法則を利用した技術思想の創作』に該当しない」とされていました。 知財高裁の判決では「本件特許発明の技術的課題、その課題を解決するための技術的手段の構成及びその構成から導かれる効果等の技術的意義に照らすと、本件特許発明は、札、計量機及びシール(印し)という特定の物品又は機器(本件計量機等)を、他のお客様の肉との混同を防止して本件特許発明の課題を解決するための技術的手段とするものであり、全体として『自然法則を利用した技術的思想の創作』に該当するということができる。」とされました。 今回の知財高裁判決に基づいて特許庁で異議2016−701090号の審理が再開されます。特許庁は知財高裁判決に拘束されますので、今回の判決に従ってペッパーフードサービス社の特許第5946491号は維持されることになるものと思われます。 ●中小の知財めぐる「下請けいじめ」を調査(公正取引委員会) 公正取引委員会は、大企業が取引上の優位な立場を利用し、中小企業の独自技術やノウハウなどを不当に入手するなど、いわゆる「下請けいじめ」が行われていないか、実態調査に乗り出します。 これまで大企業が、中小企業の独自技術を安く提供させたり、ノウハウの詰まった図面などを提供させたりするケースが報告されています。中小企業としては、今後の取引継続を考え、大企業の不当な要求に従うケースが少なくないとみられますが、こうした行為は、独占禁止法に抵触する恐れがあります。このため、公正取引委員会は、今回初めて中小企業の知的財産をめぐる実態を把握するため調査を開始することにしました。 全国約3万社(中小の製造業)を対象にアンケートや聞き取り調査を行います。来春にも調査結果をまとめ、悪質な事例は公表する方針です。 ●バイオ医薬品の後発品を提訴(中外製薬) 中外製薬は、抗がん剤「ハーセプチン」(一般名:トラスツズマブ)の特許を侵害しているとして、同薬の後発品(バイオシミラー)の発売を予定している第一三共と米ファイザー日本法人を、それぞれ東京地裁に提訴しました。後発品の製造販売の差し止めを求めており、併せて仮処分も申し立てました。 中外製薬によると、「乳がん関連の用途特許」を侵害したとして提訴しました。対象特許はスイスの製薬大手ロシュの子会社ジェネンテックが保有しており、中外製薬は本特許権の専用実施権者。ジェネンテック社は今回の訴訟で中外製薬と共同原告となっています。 ハーセプチンの後発品には、日本化薬、第一三共、ファイザーの各社製品があります。第一三共とファイザーは、本年9月21日に製造販売の承認を受けました。日本化薬の後発品は、胃がんのみで承認を受けたため、中外製薬は日本化薬への提訴を取り下げた経緯があります。 ●「知的財産権活用企業事例集2018」を刊行(特許庁) 特許庁は、知的財産権を取得することで、市場を獲得・拡大した中小企業を紹介した「知的財産権活用企業事例集2018」(知恵と知財でがんばる中小企業52)を刊行しました。知的財産権を武器に様々な分野で活躍している中小企業52社の取組事例を紹介しています。 中小企業の力の源泉となる知的財産を積極的に活用する各企業の事例を、「きっかけ」、「取り組み」、「成果」のステップごとにポイントをまとめています。 特許庁ウェブサイトからダウンロードできます。 「知的財産権活用企業事例集2018」 http://www.jpo.go.jp/torikumi/chushou/kigyou_jireii2018.htm ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
11月21日 日本政策金融公庫新宿支店 知的財産セミナー2018「知的財産を知り、活かすチャンスです」 http://www.jpaa-kanto.jp/chizai_seminars/tokyo20181121.html (日本弁理士会関東支部) 11月30日 東京都中小企業振興公社 中小企業の係争対策セミナー 第2回 国内海外係争事例(意匠・商標・著作権・不正競争防止法編) http://www.tokyo-kosha.or.jp/chizai/seminar/2018/301130sangyozaisan.html (東京都知的財産総合センター) ******************************************************** 発行元 : 鈴木正次特許事務所 〒160-0022 東京都新宿区新宿6‐8‐5 新宿山崎ビル202 TEL 03-3353-3407 FAX 03-3359-8340 E-mail: URL: http://www.suzuki-po.net/ ******************************************************** 本メールの無断転載はご遠慮下さい。 本メールマガジンの記載内容については正確を期しておりますが、弊所は、利用される方がこれらの情報を用いて行う一切の行為について責任を負うものではありません。 |