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◇◆◇  鈴木正次特許事務所 メールマガジン  ◇◆◇
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2019年5月1日号


  本号のコンテンツ


  ☆知財講座☆

 ■弁理士が教える特許実務Q&A■

 (17)特許出願の拒絶理由への対応(分割出願)


  ☆ニューストピックス☆

 ■商標に特化した活用事例集を作成(特許庁)
 ■車両電動化関連技術の特許実施権を無償提供(トヨタ)
 ■「氷結」の容器が立体商標に(キリンビール)
 ■特許権の存続期間の延長に係る審査基準を改訂(特許庁)


  ☆イベント・セミナー情報


 特許庁は、商標に特化した初の活用事例集「事例から学ぶ商標活用ガイド」を作成しました。この活用事例集は、「商品名」「ロゴマーク」などの商標について、ビジネスでの活用方法や権利化するメリットが紹介され、商標制度の概要についても学べると内容となっています。
 商標の作り方、権利化の動機、権利取得後の活用方法・効果等について知りたい方は、ぜひチェックしてみてください。

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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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■弁理士が教える特許実務Q&A■

(17)特許出願の拒絶理由への対応(分割出願)

【質問】
 特許庁から届いた審査結果(拒絶理由通知書)で、一部の発明について進歩性欠如との指摘を受け、残りの発明については「拒絶理由を発見しない」との指摘を受けました。特許権を早く成立させたいのですが、一方で、進歩性欠如という指摘を受けた発明については時間がかかっても特許取得を目指したいと考えています。なにか方法あるでしょうか?

【回答】
 「拒絶理由を発見しない」との指摘を受けた発明のみについて早期に特許権成立させ、一方、進歩性欠如との指摘を受けた発明については分割出願を行って、特許成立を目指して、もう一度、審査を受けることができます。

特許庁からの拒絶理由通知
 特許出願についての特許庁での審査の結果(拒絶理由通知書)では、特許請求の範囲に複数の発明が記載されている場合、複数の発明のそれぞれについて審査結果が示されます。
 例えば、特許請求の範囲に次のような2つの発明を記載していて、請求項1記載の発明に関しては、拒絶理由通知書で引用した先行技術文献記載の発明に基づいて、当業者が、容易に発明することができたので進歩性欠如、請求項2記載の発明に関しては「現時点では、拒絶の理由を発見しない。拒絶の理由が新たに発見された場合には拒絶の理由が通知される。」との指摘を受けることがあります。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
 断面が六角形で、木製の軸を有し、当該軸の表面に塗料を塗った鉛筆。
【請求項2】
 前記軸の後端に消しゴムが付いている請求項1記載の鉛筆。
 上述の特許請求の範囲の記載は、平成30年度知的財産権制度説明会(初心者向け)テキストの「第2章 産業財産権の概要」、「第1節 特許制度の概要」で、特許発明の技術的範囲(第38ページ)に関して、特許権の効力が及ぶ範囲に属する(「特許権侵害」だとして排除できる範囲)か否かとして次のように説明されているものです。

https://www.jpo.go.jp/news/shinchaku/event/seminer/text/document/
h30_syosinsya/1_2_1.pdf

特許権の効力は各発明により広狭がある
 上記の説明にあるように、請求項2の発明で特許成立した場合、他社が、「断面が六角形で、木製の軸を有し、当該軸の表面に塗料を塗った鉛筆であって、前記軸の後端に消しゴムが付いている鉛筆」を製造・販売しているならば、それを特許権侵害行為であるとして差止請求、損害賠償請求できることになります。
 一方、上述した請求項2の発明では特許権取得できたが、上述した請求項1記載の発明では特許権取得できなかった場合、他社が、「断面が六角形で、木製の軸を有し、当該軸の表面に塗料を塗った鉛筆」を製造・販売する行為は特許権侵害でなく、自由に行えることになります。

特許取得(広い効力範囲、実施している範囲)
 このため、上述した拒絶理由通知書を受けた特許出願人が、ひとまずは、自社が既に行っている「断面が六角形で、木製の軸を有し、当該軸の表面に塗料を塗った鉛筆であって、前記軸の後端に消しゴムが付いている鉛筆」の製造・販売行為を自社の特許権で確実に保護すべく、請求項2の発明についてただちに特許権取得すると共に、請求項1の発明についても、今後の他社の動きをより効果的に抑制するために、引き続き、特許権取得を目指したい、と考えることがあります。

分割出願(特許法第44条)
 このような場合、上述した拒絶理由通知書への回答手続(意見書・手続補正書提出)で、審査を受ける発明を請求項2の発明のみにし、特許請求の範囲から削除した請求項1記載の発明について、分割出願を行って、あらためて審査を受けるようにすることができます。
 これによって、請求項2の発明についてはただちに「特許査定」を受け、1〜3年分の特許料納付によって特許権が成立します。そこで、自社で製造・販売している「断面が六角形で、木製の軸を有し、当該軸の表面に塗料を塗った鉛筆であって、前記軸の後端に消しゴムが付いている鉛筆」に、特許権成立後は「特許第○○○○○○号」という特許表示を付けることができるようになります。
 また、分割出願を行った請求項1の「断面が六角形で、木製の軸を有し、当該軸の表面に塗料を塗った鉛筆」に関しては、分割出願を行った日ではなく、最初の特許出願の日を基準として特許性(新規性、進歩性など)についての審査を受け、特許庁審査官から上述した進歩性欠如という拒絶理由を受けたならば、今度は、腰を据えて反論を行って、審査官に再考を求め、特許権成立を目指すことができます。
 分割出願は新たな特許出願になりますので、特許出願料(14,000円)を特許庁に納付し、審査請求料(138,000円+請求項の数×4,000円 中小企業の場合はこの1/2に減額)を納付する審査請求手続を行わなければ審査を受けることができません。このように、費用の面では負担になりますが、特許出願人が実際に製造・販売している製品に関して一日でも早く特許権を成立させ、一方、他社を抑制できる、より効力範囲の広い特許権取得を目指す、という観点から、上述したような拒絶理由を受けた際に検討する余地があるものです。
 詳しくは専門家である弁理士にご相談ください。

<次号の予定>
 「この程度の工夫」、「この程度の改良」で特許出願して特許取得できるものでしょうか?という問い合わせを受けることがよくあります。このようなご質問に回答します。

以上


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■ニューストピックス■

●商標に特化した活用事例集を作成(特許庁)

 特許庁は、商標に特化した初の活用事例集「事例から学ぶ 商標活用ガイド〜ビジネスやるなら、商標だ!」を初めて作成しました。
https://www.jpo.go.jp/support/example/trademark_guide2019.html

 活用ガイドは、商標だけに着目し、ビジネス目線で掘り下げた内容となっており、「商品名」や「ロゴマーク」等、身近にある商標についての活用方法や権利化のメリットなどを紹介しています。
 企業における商標の作り方、権利化の動機、権利取得後の効果などについて、実際の事例を通じて紹介するとともに、商標制度の概要についても学べる内容になっています。

【事例紹介】(消費者目線の商品名にしたら売上げが30倍に)
 大坂府に本社があるレッグウェアの専門メーカー「岡本株式会社」は、足の「冷え」や「むくみ」の悩みを解決するソックスとして、足首にあるツボの三陰交を暖める機能を有するソックスを開発して「三陰交を暖めるソックス」というブランドで販売していましたが、売上げがあまり伸びませんでした。
 そこで、ネーミングを変更して消費者目線の「まるでこたつソックス」に変更したところ、売上げが30倍以上と爆発的に増加しました。

 これはブランド戦略が成功した事例といえますが、活用ガイドには、こういった中小企業の成功事例が20例掲載されており、読んでみると今後のブランド戦略を考えるうえで大変参考になると思われます。

●車両電動化関連技術の特許実施権を無償提供(トヨタ自動車)

 トヨタ自動車は、ハイブリッド車(HV)などの電動化関連技術の特許実施権を無償で提供すると発表しました。併せてトヨタの車両電動化システムを導入したメーカーに対し、製品化に必要な技術サポートも実施します。
 世界的に環境規制が強まる中、競合他社にも電動化車両技術を広く提供することで関連部品の需要を増やし、コスト低減につなげるほか、トヨタが強みを持つHVを中心とした電動車両の市場拡大を目指す方針です。

 車両電動化技術については、同社が20年以上にわたるハイブリッド車(HV)の開発を通じ、高性能化、コンパクト化、低コスト化を進めてきたコア技術。HV、プラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)などのさまざまなタイプの電動車開発に応用できます。
 公開するのはHVのモーターやエンジン、システム制御関連など電池を除くすべての領域。内訳は、2019年3月末時点で、モーター約2590件、パワー・コントロール・ユニット(PCU)約2020件、システム制御約7550件、エンジン・トランスアクスル約1320件、充電機器約2200件など。適用に当たっては、トヨタと具体的な実施条件等について協議の上で契約を締結する必要があります。

 無償提供の期限は2030年末までで、無償提供をすでに始めている燃料電池関連の技術特許の期限も、従来の20年末から30年末に延長します。

(トヨタの発表資料より)

●「氷結」の容器が立体商標に(キリンビール)

 キリンビールが2001年から販売している「氷結」シリーズで使用している「ダイヤカット缶」が立体商標(指定商品「第33類 缶入り酎ハイ」)として登録されました。(商標登録第6127292号)

 同社は、表面にダイヤ形の凹凸が施されたアルミ缶を立体商標として出願しましたが、特許庁から拒絶査定を受けています。 文字や図形などが表示されていない容器が登録されるためには、容器の形状だけで商品が認識できるほどに消費者に高く認知されている必要があります。
 そこで、使用による識別力獲得の立証手段として「アンケート調査」を採用し、「ダイヤカット」が消費者に認知されているとの調査結果を主張しました。
 その結果、拒絶査定不服審判において、商標法 3条2項(使用による識別力獲得)が適用され、拒絶査定を覆すことができました。

「商標登録第6127292号」(商標公報より引用)

●特許権の存続期間の延長に係る審査基準を改訂(特許庁)

 環太平洋パートナーシップ協定の締結及び、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律(平成28年法律第108号)により特許法第67条等は改正されています。
 この特許法第67条等の改正に伴い、特許庁は平成31年3月27日付で「特許権の存続期間の延長に係る審査基準の改訂」を公表しました。
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/
kaitei2/encho_shitsumon_1903.html

 改訂後の審査基準は2020年(令和2年)3月10日以降に行った特許出願に係る特許権の存続期間の延長登録の出願の審査に適用されます。
 特許権の権利存続期間は、原則として、特許出願の日から20年を越えません(特許法第67条第1項)。
 特許権の差止請求や損害賠償請求等の権利行使は特許権が発生してから可能になります。このため、特許権の設定登録が、想定される一定の期間を超えた時期にされた場合には、特許権者にとって権利行使が可能である期間が短くなります。
 特許権者が権利行使できない期間について特許権の存続期間の延長を行うことは、特許権者にとって利益になります。一方、特許権の権利行使を受ける可能性がある第三者にしてみれば、いたずらに特許権の存続期間が延長されることとなると、事業の安定性等に影響する可能性があります。
 そこで、特許権者の権利行使の期間を十分確保する一方で、存続期間の延長による出願人間の公平性、第三者への影響等を考慮し、特許権の設定登録までに出願又は審査請求から一定の期間を要した場合に権利期間を補償する、期間補償のための特許権の存続期間の延長の制度が追加されたのが上述の特許法第67条等の改正です。

 特許権の設定登録が特許出願の日から起算して5年を経過した日又は出願審査の請求があった日から起算して3年を経過した日のいずれか遅い日(基準日)以後になされたときは、延長登録の出願により存続期間を延長できることにし、延長できる期間は、基準日から特許権の設定登録の日までの期間に相当する期間から、特許庁の責めに帰さない理由により経過した期間及び審判・裁判の期間等の特許出願に係る手続や審査に要した期間以外の期間を控除した期間(延長可能期間)を超えない範囲内の期間となっています(第67条第3項)。

 特許庁「環太平洋パートナーシップ協定に伴う特許法改正の概要」

 なお、上述の特許法第67条等の改正は、従来から、特許法第67条等に規定されている、医薬品等に係る特許権の存続期間の延長の制度を実質的に変更するものはありません


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  ■イベント・セミナー情報■

5月9日 東京都中小企業振興公社
技術契約セミナー【基礎編】
http://www.tokyo-kosha.or.jp/chizai/seminar/2019/190509keiyakukiso.html
(東京都知的財産総合センター)

5月20日 東京都中小企業振興公社
特許・実用新案セミナー【基礎編】
http://www.tokyo-kosha.or.jp/chizai/seminar/2019/190520tokkyojitsushin.html
(東京都知的財産総合センター)

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発行元 : 鈴木正次特許事務所
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最終更新日 '20/01/03