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◇◆◇ 鈴木正次特許事務所 メールマガジン ◇◆◇
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2019年6月1日号
本号のコンテンツ
☆知財講座☆
■弁理士が教える特許実務Q&A■
(18)簡単な工夫は特許取得不可能か?
☆ニューストピックス☆
■改正意匠法、主なポイント
■特許審査の結果を翌日公開(特許庁)
■改正特許法、損害賠償額の算定方法を見直し
■タイムスタンプの活用事例を紹介(INPIT)
■新減免制度のリーフレットを発行(特許庁)
☆イベント・セミナー情報
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製品の形状やデザインを保護するための改正意匠法が5月10日、参議院で可決、成立しました。
今回の意匠法改正は、「保護対象の拡充」、「関連意匠制度の変更」など、意匠の出願戦略を検討するうえで重要な項目が多く含まれており、実務面で大きな影響があると思われます。
今号では、改正意匠法の主なポイントについて取り上げてみます。
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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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■弁理士が教える特許実務Q&A■
(18)簡単な工夫は特許取得不可能か?
【質問】
当社で従来から使用している製造装置に少し改良を加えたところずいぶんと使い勝手がよくなり、生産性も向上しました。ほんのちょっとした工夫に過ぎないのですが、おそらく、この業界ではまだ採用されていないと思います。この程度の工夫では特許出願しても特許は認められないでしょうか?
【回答】
発明の内容を知った後では「ほんの小さな工夫、改善に過ぎない」と考えるようなものでも、新規性、進歩性、等の特許が認められるための条件を備えているならば特許成立します。
<特許性に関して後知恵での判断は禁物>
特許庁の審査官が審査を行う際に注意を払うことの一つに、後知恵に陥らないようにする、があります。
特許出願にあたって、発明者・特許出願人は、発明の目的(発明が解決しようとする課題)、課題を解決するために発明者・特許出願人が採用した工夫、その工夫によって課題が解決されるメカニズム、等を、特許庁に提出する明細書、図面などに十分に説明します。
審査官は、提出されているこの明細書、図面の内容を熟読した上で、特許請求されている発明に特許を与えることができるかどうかを検討・判断します。いわば、手品の種明かしを教えてもらった後に手品を見ているようなものです。特許出願の明細書、図面を読むことで把握した知識、いわば、後知恵に基づいて、特許請求されている発明の特許性を検討・判断すると、「特許請求されている発明は簡単に考えつくことができたもので、進歩性欠如ではないか」と、なってしまうことがあるので、これを戒めるものです。
<特許成立に要求される主要な条件>
特許庁の審査で特許が認められるために要求される主要な条件は3つあります。特許請求している発明が産業上利用できるものであること、特許出願の時点で世界のどこにも存在せず・知られておらず・使用されていなかったこと=新規性を有すること、特許出願前に知られていた発明・技術・知識に基づいて特許出願の時点で簡単・容易に発明できたものでないこと=進歩性を有すること、です。
<産業上の利用可能性>
会社の事業で使用している装置、会社の事業で製造しているもの、等についての改善、改良であれば、一般的に、一点目の産業上の利用可能性を満たします。
<新規性>
2点目の新規性ですが、特許請求している発明と対比される「先行技術」として、日本国内又は外国において、特許出願前に、公然知られた発明、公然実施をされた発明、頒布された刊行物に記載された発明又はインターネット等を通じて公衆に利用可能となった発明があげられています(特許法第29条第1項各号)。
世界中のどこででも知られていなかったし、使用されてもいなかった、なんてことが要求されるのでは、「新規性のある発明」と認められるのは難しいのでは?と、お考えになるかもしれません。
しかし、特許審査基準では、審査官は、特許請求されている発明が新規性を有しているか否かを、特許請求されている発明と、新規性及び進歩性の判断のために引用する先行技術(引用発明)とを対比した結果、特許請求されている発明と引用発明との間に相違点があるか否かにより判断し、「相違点がある場合」は、審査官は、特許請求されているが「新規性を有していると判断する」としています。
今回のご質問の「従来から使用している製造装置に少し改良を加えた」という「工夫」は、何らかの効果(今回の場合は、使い勝手の向上、生産性向上)を発揮させる、技術的な考え方ですから、抽象的な概念です。
この抽象的な概念とまったく同一の先行技術(引用発明)が存在しているということはあまりありません。発明は、抽象的に表現されるものです。新規性及び進歩性の判断のために引用される先行技術(引用発明)も抽象的な概念で表現されています。このため、新規性及び進歩性の判断のために引用される先行技術(引用発明)と、特許請求されている発明とを対比すると、どんなに小さくても、どこか一つくらい、相違しているところ、相違点が存在するものです。
このように、ほんの小さな相違点でも、従来知られていた、従来使用されていた知識、技術と相違しているところがあるならば、2点目の新規性も存在する、ということになります。
事実、特許庁の審査において、審査官が通知した「新規性欠如」を指摘する拒絶理由に対して特許出願人が特許請求している発明の表現を補正する対応を行ったにもかかわらず、「『新規性欠如』という拒絶理由は解消していない」として審査官の最終判断たる拒絶査定が下されるケースはあまり多くありません。
<進歩性>
特許庁の審査で、審査官が通知した拒絶理由に対して意見書・補正書を提出し、審査官に再考を求めたにもかかわらず「拒絶理由は解消していない」として拒絶査定が下される場合のほとんどは「進歩性欠如」という拒絶理由です。
この進歩性に関しても、今回採用した工夫によって、使い勝手の向上、生産性向上というような特有の効果が発揮されているのであれば、進歩性の存在が認められて特許成立することがあり得ます。
特許庁の審査官が特許請求されている発明についての進歩性の有無を検討・判断するときには、まず、調査で発見した先行技術の中から、進歩性の有無を検討・判断することに最も適した一の引用発明(先行技術)を選んで主引用発明とします。そして、この主引用発明と、特許請求されている発明との一致点・相違点を認定し、この相違点に関し、他の引用発明(副引用発明)を適用したり、技術常識を考慮したりして、「特許請求している発明は、先行技術(引用発明)に基づいて簡単・容易に発明できた」と論理づけることができるかどうかを検討します。
主引用発明と、特許請求されている発明との間の相違点が、「主引用発明からの設計変更」程度のものでしかない、あるいは「先行技術の単なる寄せ集め」に過ぎない、等と認定できるような場合には、「特許請求している発明は、先行技術(引用発明)に基づいて簡単・容易に発明できたので進歩性欠如」と論理づけられることになります。
一方、主引用発明と、特許請求されている発明との間の相違点が前記のようなものではなく、その相違点を埋めるのに適した他の先行技術(副引用発明)を調査で発見できなかったような場合には、「特許請求している発明は、先行技術(引用発明)に基づいて簡単
・容易に発明できた」という論理づけを行うことができなくなり、進歩性の存在が認められることになります。
このため、今回採用した工夫が極めて簡単なものであって、後から考えると、だれでも発想できたものではないか、と思われるような場合であっても、上述した論理付けを行うことができないならば進歩性が認められて特許成立することがあります。
「簡単な工夫に過ぎないので誰が特許出願しても特許成立しないだろう」と考えていたところ、同業他社が特許出願し、特許取得したことで、会社の事業に支障が生じることもあり得ます。
そこで、会社の事業を行っている過程で誕生した簡単な工夫、改良であっても、特許取得の可能性があるのかどうか、等を専門家である弁理士に相談されることをお勧めします。
<次号の予定>
簡単な技術的な工夫については特許出願ではなく、実用新案登録出願するようにしていた時代がありました。今日、実用新案登録出願と特許出願とはどのようにすみ分けられているのか、ご質問にお答えします。
以上
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■ニューストピックス■
●改正意匠法が成立 主な改正ポイント
改正意匠法が参院本会議で可決、成立しました。改正項目は多岐にわたりますが、ここでは主なポイントについて取り上げます。
(1)保護対象の拡充
物品に記録・表示されていない画像や建築物の外観・内装のデザ
インを新たに意匠法の保護対象とします。
具体的には、物品に記録されていないクラウド上に保存されてネットワーク経由で表示される画像(例:乗換ガイダンスサイトを画面に表示し、そこに表示されている画像)や、壁・道路等に映写される画像なども保護対象とします。
建築物の内装については、1意匠1出願の原則の例外として、家具や什器等の複数の物品等の組合せや配置、壁や床等の装飾等により構成される内装が、全体として統一的な美感を起こさせるような場合に限り、1意匠として意匠登録を認めます。
(2)関連意匠制度の見直し
・関連意匠の出願可能期間を本意匠の登録の公表日まで(8か月程度)から、本意匠の出願日から10年以内までに延長します。
・関連意匠にのみ類似する意匠の登録を認めます。
本改正により、長期間にわたって少しずつ製品をモデルチェンジしていく場合などに、その一連のシリーズを保護することが可能になります。
ただし、本意匠の出願日から10年経過前であっても、本意匠が既に消滅している場合には、関連意匠の出願は認められません。
また、他人が実施等して公知になった意匠と類似していれば、その関連意匠の出願は拒絶されます。
(3)意匠権の存続期間の延長
「登録日から20年」から「出願日から25年」に延長。
(4)意匠登録出願手続の簡素化
・複数の意匠の一括出願を認めます。
・物品の名称を柔軟に記載できることとするため、物品の区分を廃止します。
意匠の国際登録に関するハーグ協定に基づく意匠の国際登録制度では、複数意匠の一括出願が認められており、国内出願についても1つの願書で複数の意匠の出願を認めます。
しかし、1つの意匠ごとに1つの意匠権を発生させる原則は維持し、実体審査や意匠登録は現行と同じく意匠ごとに行います。
◇主なポイント◇
@画像デザインの保護
・操作画像や表示画像について、画像が物品に記録・表示されているかどうかにかかわらず保護対象とする
・壁や道路等に映写される画像なども保護対象
A空間デザインの保護
現行法の保護対象である物品(動産)に加え、建築物(不動産)の外観や内装も保護対象
B関連意匠制度の拡充
・関連意匠の出願可能期間を本意匠の出願日から10年以内までに延長
・関連意匠にのみ類似する意匠の登録を認める
C意匠権の存続期間の延長
「登録日から20年」から「出願日から25年」に延長
D複数意匠一括出願の導入
1つの願書で複数の意匠の出願を認める
●特許審査の結果を翌日公開(特許庁)
特許庁は、5月7日から特許審査の結果を原則として翌日公開としました。従来は特許庁で書類が発出されてから約3週間後に審査・審判経過情報が参照可能となっていましたが、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)の機能改善に伴い、原則、特許庁で書類が発出された翌日に審査・審判経過情報が反映されます。
特許出願を検討している企業が、出願時の調査で競合他社の審査情報を素早く入手できれば、出願戦略も立てやすくなり、効率的な権利化を図ることができます。
また、これまでの特許情報プラットフォームでは、商標における審査段階の書類の内容を確認することができませんでしたが、機能改善に伴い、商標の審査段階及び審判段階における書類として、例えば、平成31年1月以降の拒絶理由通知書、意見書、手続補正書、面接記録、応対記録などの内容が新たに照会可能になりました。
●改正特許法、損害賠償額の算定方法を見直し
改正特許法が参院本会議で全会一致で可決、成立しました。損害賠償額の算定方法を見直し、優れた技術を持った中小やベンチャー企業の保護を強化します。
法改正により侵害者が販売した数量のうち、特許権者の生産能力などを超えるとして賠償が否定されていた部分については、侵害者にライセンスしたとみなして、損害賠償を請求できることとします。
ライセンス料相当額による損害賠償額の算定に当たっては、特許権侵害があったことを前提として交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨を明記します。損害賠償額算定方法の見直しについては、特許法だけでなく、実用新案法、意匠法、商標法において同旨の改正を実施します。
また、特許権の侵害の可能性がある場合、中立な技術専門家が、被疑侵害者の工場やオフィスなどに立ち入り、特許権の侵害立証に必要な調査を行い、裁判所に報告書を提出する制度を創設します。
●タイムスタンプの活用事例を紹介(INPIT)
INPIT(工業所有権情報・研修館)は、知的財産分野におけるタイムスタンプの活用事例を公表しました。
https://faq.inpit.go.jp/tradesecret/ts/jirei/
タイムスタンプとは、先使用権の確保や営業秘密の漏えい対策などのために、電子書類の存在時刻と非改ざんを証明するサービス。
その「預かり証」を発行することで、保有時点の立証説明が可能となります。近年、自社技術の保護と事業のクローズ戦略として活用する企業が増えています。
具体的な取り組み事例としては、自社技術と他社技術のコンタミネーションをタイムスタンプで防止したり、製品カタログを社外に公開する前に、タイムスタンプを付与しているケースなどを紹介しています。
【タイムスタンプの活用が想定されるケース】
◇特許、意匠、商標等の侵害訴訟において、被疑侵害者が先使用権を主張する際に、発明や意匠の実施である事業又はその準備をしていたことを立証したり、商標の先使用を立証したりするケース
◇他者の特許権や意匠権の有効性を争う審判や訴訟等において、特許や意匠登録の無効理由となる技術情報等が、出願された時点において公知であった事実を立証するケース
◇商標登録の取消しの審判において、商標権者等が登録商標の使用を立証するケース
◇営業秘密漏えい事件の訴訟において、漏えいした技術を営業密保有者自らがその時点以前に保有していたことを立証するケース
●新減免制度のリーフレットを発行(特許庁)
特許庁は、2019年4月1日以降に審査請求をした案件の減免制度(新減免制度)についてのリーフレットを発行しました。
https://www.jpo.go.jp/system/process/tesuryo/genmen/genmen20190401/document/index/leaflet.pdf
新たな減免制度は、一定の要件を満たす中小企業等を対象に、「審査請求料」、「特許料(第1年分から第10年分)」及び「国際出願に係る手数料」等の料金が減免される制度です。また、減免申請手続も大幅に簡素化されています。
リーフレットでは、制度の概要や要件などがわかりやすく説明されており、Q&Aも掲載されていますので、ご参照ください。
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◇外国特許出願費用助成事業(東京都)◇
外国特許庁への特許、実用新案、意匠、商標及び冒認対策商標の登録・出願に要する出願手数料、外国出願に要する代理人費用(現地・国内代理人費用)、翻訳費用等を補助。
https://www.tokyo-kosha.or.jp/chizai/josei/tokkyo/index.html
◇外国侵害調査費用助成事業(東京都)◇
外国における自社製品の模倣品・権利侵害について、事実確認調査、侵害品の鑑定、侵害先への警告等の対策や、外国で製造された模倣品の国内への輸入を阻止するために、それらに係る費用の一部を補助。
https://www.tokyo-kosha.or.jp/chizai/josei/shingai/index.html
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6月17・24日 東京都中小企業振興公社
商標セミナー
https://www.tokyo-kosha.or.jp/chizai/seminar/2019/190617shohyo.html
(東京都知的財産総合センター)
6月25日 東京都知的財産総合センター
発明提案書のまとめ方セミナー
https://www.tokyo-kosha.or.jp/chizai/seminar/2019/190625teiansho.html
(東京都知的財産総合センター)
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発行元 : 鈴木正次特許事務所
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