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◇◆◇  鈴木正次特許事務所 メールマガジン  ◇◆◇
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2019年9月1日号


  本号のコンテンツ


  ☆知財講座☆

 ■弁理士が教える特許実務Q&A■

(21)特許出願の明細書の記載


  ☆ニューストピックス☆

 ■改正意匠法、主なポイント
 ■「人間将棋」の商標出願に拒絶理由通知(特許庁)
 ■アセアンとの知財協力を強化(特許庁)
 ■IoT関連技術に関するIPCを新設(特許庁)
 ■商標審査で民間を活用(特許庁)


  ☆イベント・セミナー情報


 特許など知的財産をめぐるトラブルを迅速に解決するため、東京、大阪両地裁は10月から「知財調停」の新制度を導入する予定です。
 「知財調停」は、非公開の話し合いによって短期間での紛争解決を図るもので、裁判に比べて、費用や時間が抑えられるほか、紛争が表に出ることによる経営リスクを避けられるメリットがあります。
 今号では、東京・大阪地裁で導入される「知財調停」について紹介します。

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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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■弁理士が教える特許実務Q&A■

(21)特許出願の明細書の記載

【質問】
 特許出願を行うときには特許取得を希望している発明の内容を誰でもが再現できるように文章、図面で説明しなければならないと聞いています。そうすると、当社で秘密にしておきたい技術事項もすべて文章、図面で説明しないと特許出願を行うことができないのでしょうか?

【回答】
 特許出願人が特許権取得を希望している発明を誰でもが再現できる程度に十分な説明を文章(と、必要な場合には図面と)で行うことが特許出願の際に要求されます。この「特許出願人が特許権取得を希望している発明を誰でもが再現できる程度に十分な説明」というのはどのようなものかご疑問にお答えします。

特許出願を行う発明
 新しく開発した技術内容が、その時点の業界、同業他社の技術動向からすれば、いずれ同業他社も気づくことになると思われるようなものである場合には、特許出願を行うことが望ましいと思われます。いずれ同業他社も気づくと思われる技術内容ならば、先に出願を行って自社で特許権取得する、あるいは、後から特許出願を行う同業他社には特許権成立しないようにすることが望ましいからです。
 また、新しく開発した技術内容を採用した新商品を市場に提供したときに、同業他社がそれを購入、等して分析することで、新しく開発した技術内容がどのようなものであるか把握できてしまう場合にも、特許出願を行うことが望ましいと思われます。市場に投入した新商品を分析した同業他社が追随する商品を後追いで市場に投入してきたときに「特許権侵害になります」として排除できる可能性が無くなってしまうからです。
 一方、上述した事情などに該当しない場合には、ノウハウとして会社の営業秘密で保護を図る、あるいは、先使用権での保護を検討することがあります。
 営業秘密の保護(不正競争防止法第2条第1項第4号、等)、先使用権(特許法第79条)については経済産業省や特許庁が発行しているパンフレット、等をご参照ください。

 「営業秘密〜営業秘密を守り活用する〜」経済産業省
https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/trade-secret.html
 「先使用権制度について」特許庁
https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/senshiyo/index.html

特許出願で発明を詳細に説明するのは何故か
 特許制度は、新しい技術(発明)を開発し、それを特許出願によって社会に公開した者に対し、特許庁での審査の結果、新規性・進歩性などの特許性を備えていると認められたときに、特許出願日から原則として20年を越えないという所定の期間、特許権という独占排他権を付与することで発明の保護を図り、他方で、特許出願によって社会に公開された新しい技術内容を特許出願人・特許権者以外の第三者に知らせ、その新しい技術内容を利用する機会を与えて産業の発達を図るものです(特許法第1条)。
 発明のこのような保護と利用は、特許出願人が特許出願の際に、特許取得を希望する発明を文章、図面で説明するべく提出する明細書、特許請求の範囲、必要な場合の図面によって図られることになります。
 「特許請求の範囲」の記載によって特許権者が独占排他的に行うことのできる技術的範囲が確定します。
 「明細書」と、必要な場合の「図面」(機械系の特許出願では発明の説明が容易になるので必ず図面を提出することが一般的です)とによって、新しい技術(発明)が社会に知られ、第三者に利用する機会を与えることになります。
 この利用には、特許出願後18カ月が経過してから特許庁によって発行される特許出願公開公報の記載内容(明細書、図面)を参照することで行う技術開発・研究での利用と、特許権消滅後に特許請求されている発明を誰でもが自由に実施(再現)することによる利用とがあります。
 「産業の発達」という特許法の目的からすれば、特許権消滅後に特許請求されている発明を誰でもが自由に実施(再現)することによる利用は大切です。そこで、特許出願の際に提出する明細書は「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならない、とされています(特許法第36条第4項第1号)。これは、「実施可能要件」と呼ばれています。
 「実施可能要件」が具備されていない場合、たとえ、新規性・進歩性といった特許要件を具備している発明であっても、拒絶されて特許成立しません。

特許審査基準で説明されている実施可能要件
 特許出願の際に提出する明細書に要求される「実施可能要件」に関して、特許審査基準では、特許出願人が特許取得を希望する発明のカテゴリーが「機械・器具」、「装置」、「材」、「剤」などの「物」である場合、物の使用方法、測定方法、制御方法などの物を生産する方法以外の「方法(いわゆる単純方法)」である場合、物の製造方法、物の組立方法、物の加工方法などの「物を生産する方法」である場合の三態様に分けて、それぞれ、次のように説明しています。

「物」の発明
 その物を作れ、かつ、その物を使用できるように以下の(1)〜(3)の条件を満たすように説明を行う。
(1)「物の発明」について明確に説明されていること
(2)「その物を作れる」ように記載されていること
(3)「その物を使用できる」ように記載されていること

「方法」の発明
 その方法を使用できるように以下の(1)、(2)の条件を満たすように説明を行う。
(1)「方法の発明」について明確に説明されていること
(2)「その方法を使用できる」ように記載されていること

「物を生産する方法」の発明
 その方法により物を生産できるように、以下の(1)、(2)の条件を満たすように説明を行う。
(1) 「物を生産する方法の発明」について明確に説明されていること
(2) 「その方法により物を生産できる」ように記載されていること
 明細書の記載要件(特許法第36条)に関しては、運用をより明確化し、具体的な事例に基づいて記載要件の判断、出願人の対応等について説明するとして特許庁から事例集が公表されています。

https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/handbook_shinsa/document/index/app_a1.pdf

実際の特許出願での明細書の記載
 上述した特許審査基準で要求されている条件からしますと「自社で秘密にしておきたい技術事項もすべて文章、図面で説明しないと特許出願を行うことができないのか?」とご心配されるかもしれません。
 しかし、発明は、「木は水に浮かぶ」、「水は高いところから低いところに流れる」等の自然法則を利用した技術的思想の創作です。自然法則を利用していますから、原因と結果との間に、技術者であればだれでもが理解できる因果関係が必ず存在しているのが発明です。
 また、特許出願で特許請求されている発明が誰でも再現できる程度に明細書、図面に記載されているかどうかを判断する者は、明細書、図面の記載だけでなく、その特許出願の出願時点における技術常識をも踏まえて判断します。
 更に、特許出願を行う発明は、いずれ同業他社も気づくことになると思われるもの、発明が採用されている新製品を分析すれば内容を把握できるもの等であることが一般的です。
 そこで、これらの点を踏まえて特許出願の明細書、図面を準備するならば、「自社で秘密にしておきたい技術事項をすべて文章、図面で説明しないと特許出願できない」ということはあまりご心配されることなく特許出願の明細書、図面を準備できると思われます。
 詳しくは特許出願の明細書等を準備する専門家である弁理士にお問い合わせください。

<次号の予定>
 次回は先使用権制度についてのご質問への回答を紹介します。

以上

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■ニューストピックス■

●「知財調停」制度を導入(東京・大阪地裁)

 特許など知的財産をめぐるトラブルを迅速に解決するため、東京、大阪両地裁は10月から「知財調停」の新制度を導入します。原則3回程度の非公開の話し合いによって最短3カ月程度で決着を図ることが可能です。訴訟を起こして争うより費用や時間が抑えられるほか、紛争が表に出ることによる経営リスクを避けられるメリットがあります。
 新たに始まる両地裁の「知財調停」は、当事者から提出された資料などに基づき、知財裁判の経験が豊富な裁判官1人と弁護士や弁理士などの調停委員の計3人が審理にあたります。
 東京地裁が示した審理モデルによると、原則3回の審理で期間は3〜6ヶ月程度での紛争解決が見込まれています。
http://www.courts.go.jp/tokyo/vcms_lf/40-tizaityoutei-bessi3.pdf

 調停が成立すれば、合意内容は裁判の確定判決や和解合意書と同じ法的拘束力を持ちます。当事者間で合意できなければ調停は不成立となり、通常の裁判に移行することもあります。
 東京地裁では、知財調停に適した事案として、当事者間の交渉中に生じた紛争であり、争点が過度に複雑でないものや、交渉において争点が特定されており、当事者双方が話し合いによる解決を希望している事案などをあげています。例えば、以下のようなものを想定しています。

@商標の類否に関する紛争事例
A商標の先使用権の有無に関する紛争事例
B著作権侵害の有無に関する紛争事例
C知的財産権の侵害による損害額に争いがある事例
D営業秘密の不正取得等の有無に関する紛争事例
E形態模倣の有無に関する紛争事例
F特許権侵害の有無に関する紛争事例(ただし、争点がシンプルであるものや交渉等を通じて争点が特定されている事案等)
G特許権の帰属に関する紛争事例
Hライセンス料に関する紛争事例

 具体的には「他社と製品の共同開発中に特許トラブルになったが、協力関係を維持したまま解決したい」など、訴訟を起こせば相手と敵対関係になることを恐れ、訴訟にまでは踏み切れないケースなどが想定されます。
 調停制度ができれば、非公開で短期間での紛争解決が期待でき、知財トラブルに司法を利用する企業が増えると見込まれています。

●「人間将棋」の商標出願に拒絶理由通知

 伝統工芸品である「将棋の駒」の産地として知られる山形県天童市が出願していた「人間将棋」の名称の商標登録について、特許庁は拒絶理由を通知しました。
 甲冑姿の武者駒が巨大な盤上を動き、棋士が対局する「人間将棋」というイベントは、特定のイベントではなく、人間を駒に見立てた将棋イベントを広く意味する商標になっていると判断されるので登録は認められないとされました。
 「人間将棋」と銘打ったイベントは、天童市のほか兵庫県姫路市、岐阜県関ケ原町、岡山県倉敷市など全国3カ所で行われています。このため、登録が認められるためには、「人間将棋と言えば山形県天童市が行なっているイベントであるという認識を現時点で世の中の人が持っている」ことを立証する必要があります。
 天童市のイベントは1956年から行なわれているようです。特許と異なり商標には新規性という概念はありませんが、早めに出願しないと、他人の使用により登録が困難になったり、さらには、他人に先に出願されてしまったりするリスクがあるため、注意が必要です。

●アセアンとの知財協力を強化(特許庁)

 特許庁は、東南アジア諸国連合(ASEAN)と知財協力を強化すると発表しました。日ASEAN特許庁長官会合では、2019年度における日ASEAN知財アクションプランが合意されました。
 合意されたアクションプランでは、「出願書類の翻訳によって生じる問題に関する知見の共有」「東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)による、先端技術分野における各国特許審査制度の調査研究」「国際出願制度(マドリッド・プロトコル/ハーグ協定)の加盟/運用協力」「人材育成、審査業務管理に関する協力」の計画などで合意しました。
 日本企業が取得した特許の権利を翻訳のミスを理由に正当に行使できない問題の解決へ議論を進めることでも一致しました。日本からASEANに出願する場合、翻訳が障壁の一つになっていました。
 翻訳のミスがあった場合、事後的に訂正できず、権利が保障されない問題も起きていることから事後の訂正を認める制度をつくり、日本企業の知的財産が守られるようにする予定です。
 日本からASEANへの特許出願は年間1万件前後あり、件数の増加が見込まれています。特許庁は日本企業がアジアに進出する際に国内と同様の審査が受けられるよう環境を整える狙いです。

●IoT関連技術に関するIPCを新設(特許庁)

 IoT関連技術に関して、2020年1月から新たな国際特許分類(IPC)が新設されます。この分類に、IoT関連技術に関する分類「G16Y」が追加されることになりました。IoTに関するファセット分類「ZIT」は日本固有の特許分類でありますが、こちらはIPCのため、世界共通の分類となります。
 G16Yは、ZITの付与観点に対応する「業種」に加え、「モノにより探知または収集された情報」「IoTインフラストラクチャ」「情報処理の目的に特徴があるIoT」という新たな観点で分類されています。
 G16Yの定義については、ZITの本質的な定義を維持しつつ各国の意見を踏まえ採択された経緯から、ZITの定義から以下のように変更されています。
(1)ZITでは、ネットワークに接続されたものであるのに対して、G16Yでは、インターネットに接続されたものに限定
(2)ZITでは「新たな価値・サービスを創造する」との観点から、単にネットワークと接続している技術を排除しているのに対して、G16Yでは、上記観点を採用せず、汎用の計算機および通信機器、単なる監視または単なる制御といった汎用的な機器や機能を付与対象から除外

 詳細は特許庁HP
https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/bunrui/ipc/ipc_iot_kanren.html

●商標審査で民間を活用(特許庁)

 特許庁は、商標の審査効率を向上させるため、「商標における民間調査者の活用可能性実証事業」を計画し、このプロジェクトをJAPIO(一般財団法人日本特許情報機構)が受託しました。JAPIOは、商標登録出願に必要な商標登録の要件と不登録事由に関する調査を行い、その結果を調査報告書にまとめます。プロジェクト受託期間は3年間。
 近年、商標登録出願件数が増加しており、「特許庁ステータスレポート2018」によると、2017年における商標登録出願件数は過去最多の17万3,611件(国際出願除く)となっています。この数字は2011年と比べ約1.8倍に達しています。
 商標出願の増加に伴い、審査期間が長期化するおそれがあります。
 そこで、特許庁は民間を活用することで商標審査を円滑に進める方針です。


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  ■イベント・セミナー情報■

9月20日 虎の門三丁目ビルディング
産学連携推進と知的財産
http://www.jiii.or.jp/kenshu/2019/0920.pdf
(発明推進協会)

9月27日 TKP東京駅八重洲カンファレンスセンター
営業秘密・知財戦略セミナー タイムスタンプ活用編
https://inpit-ipsenryaku-seminar2019.jp/_src/1398/20190927_tokyo.pdf
(工業所有権情報・研修館)

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最終更新日 '20/04/28