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2019年10月1日号
本号のコンテンツ
☆知財講座☆
■弁理士が教える特許実務Q&A■
(22)先使用権制度
☆ニューストピックス☆
■知財侵害物品の差止状況と輸入差止申立制度
■店舗の外観・内装を立体商標で保護へ(特許庁)
■対アップル訴訟、島野製作所の請求を棄却(東京地裁)
■類似ゆるキャラの使用停止認めず(東京地裁)
■ゲームソフトの特許権侵害を認定(知財高裁)
☆イベント・セミナー情報
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財務省は、令和元年上半期の全国の税関における偽ブランド品などの知的財産侵害物品の差止状況を発表しました。
輸入差止件数は、前年同期と比べて7.3%減少したものの、引き続き高水準でした。
税関による輸入差止の多くは、権利者からの「輸入差止申立」を受けた物品について行われています。海外で製造・販売された偽造品の流入を防止するためには、税関に対し、輸入差止申立を行うことが効果的です。
今号では、知的財産侵害物品の差止め状況と、侵害物品を市場に出回る前に水際で排除することができる「輸入差止申立制度」について紹介します。
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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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■弁理士が教える特許実務Q&A■
(22)先使用権制度
【質問】
特許権者から「特許権侵害になるので実施を中止してください」と申し入れを受けた場合でも、自社が以前から実施していた行為であるならば、中止せずに、実施事業を継続できると聞いたことがあります。これについて教えてください。
【回答】
ご質問は先使用権(センシヨウケン)に関するものです。先使用権制度の内容を説明しましょう。
<特許権は最先の特許出願に与えられる>
特許権は、新規性・進歩性等の条件を備えている発明を、特許権者が独占・排他的に実施できる権利です。この特許権は、先願主義の下、同一の発明については、最も早く特許出願を行った者に与え
られます。
<特許権は最先の特許出願に与えられる>
特許権は、新規性・進歩性等の条件を備えている発明を、特許権者が独占・排他的に実施できる権利です。この特許権は、先願主義の下、同一の発明については、最も早く特許出願を行った者に与えられます。
<先使用権>
先使用権は、他社が特許出願を行った際に、その特許出願で特許請求されている発明を自社で既に完成させていて、当該完成させていた発明(=他社の特許出願で特許請求されている発明)を実施する事業や、事業の準備を、他社が特許出願を行った際に行っていた者(以下「先使用権者」といいます)に認められる権利です(特許法第79条)。
他社の特許権に対して先使用権が認められた先使用権者は、当該他社から当該他社の特許権に基づく権利行使を受けることなく事業を継続できます。
<特許権者と先使用権者との公平>
特許出願の時点で新しさを有している発明でなければ特許権は認められません。ところが、特許出願が行われた時点で、既に、その特許出願された発明の事業を実施していた者(この者が先使用権者になります)がいた場合、特許出願された発明は特許出願の時点では新しさを有していなかった可能性があります。
しかし、特許庁がその事情を把握できなければ、「新規性欠如」として拒絶されることはないので、特許権が成立することがあります。
このようなときに、いちいち、「新規性欠如である」として特許無効審判請求を行わなければならないとすれば先使用権者にとって負担になります。
例えば、後述しますように、先使用権立証に用いる資料は、たとえ公証人による公証を受けたものであっても、社内資料のように、秘密を守る義務を有する者のみが知っていた情報であることが一般的です。特許無効審判請求の際に特許発明の新規性、進歩性を否定する先行技術に使用できるものは、秘密を守る義務を有しない人が知っていた公知の技術情報でなければなりません。このため、先使用権立証のために資料を残しておいたとしても、当該資料を用いて特許無効審判請求を行うことは簡単ではありません。
また、当該特許権の特許出願の際に実施事業を開始した等で現存している先使用権者の事業設備などを「特許権侵害だから」ということで廃棄しなければならないとすることは産業政策の上で好ましいものではありません。
そこで、他者に先駆けて一日でも先に特許出願を行うことで特許権を取得した特許権者と、当該特許権者とは別個・独自に発明を完成させて先に実施を行っていた先使用権者との間の公平を図る観点から先使用権(特許法第79条)が認められています。
<先使用権成立の条件>
特許庁が発行しているパンフレット「先使用権 〜あなたの国内事業を守る〜」では次の図表で解説されています。
https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/senshiyo/document/index/senshiyouken_kanryaku.pdf
上記の例では、発明者Aが発明を完成させたところ、会社は「この発明実施品を市場に投入してもどこに発明があるのか分析・把握することは難しいだろう」、「これから数年の間に同業他社がこの発明内容に想到することはないと思われる」等の判断で、その発明についての特許出願を行うことなく、発明実施品を市場に投入する事業を開始しました。
一方、偶然、他社の発明者Bが同一内容の発明を別個に完成させ、それを他社が特許出願して特許権取得しました。
すなわち、発明者Aは、発明者Bによる発明を知らずに、自ら発明を完成させ、発明者Bの会社が特許出願を行った時点で、発明者Aの会社は、発明者Aが完成させた発明を実施する事業の準備を開始していました。
このような場合に、発明者Aの会社が上記の事情を証拠に基づいて立証することができれば、先使用権の成立が認められることになります。
詳しくは特許庁による「先使用権制度について」をご参照ください。
https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/senshiyo/index.html
<先使用権の存在は裁判所で判断される>
先使用権が成立して、先使用権者が実施事業を継続できることになるかどうかは、裁判所が判断する事情になります。
特許庁に届け出て先使用権の成立を認めてもらうというようなことはありません。
<先使用権成立に必要な証拠>
このため、自社の技術者が完成させた発明を特許出願せずに会社の事業で実施開始し「将来『特許権侵害』の訴えを受けた場合には先使用権で対抗しよう」と考える場合には、裁判所が認めてくれるような十分な証拠を残しておく必要があります。
上述したパンフレットでは、研究開発段階、発明完成段階、事業化に向けた準備開始を決定した段階、事業の準備段階、事業の開始及びその後の段階、等々でそれぞれどのような資料が証拠として採用可能であるか説明されています。
<証拠の客観性>
難しいのは、客観的な証拠でなければならない、ということです。発明品の製造を開始するために作成した設計図であっても、社内の者しか見ることのできない秘密の資料であったならば、「本当に、設計図に記載されている日付の時点でこの設計図が作成・完成されていたと認めることができるのか?」という問題になることがあります。
このため、上述したパンフレットでは、先使用権の立証に必要な技術や製品に関連する資料をまとめて公証人による公証を得る方法や、PDFファイルの添付ファイルとした上でタイムスタンプの付与を受ける方法などが紹介されています。
<先使用権での保護を目指す場合の注意事項>
他社がどのような技術内容で特許権取得するか事前に予測することは困難です。そこで、先使用権立証のための証拠を残しておいても、成立した他社の特許権の権利範囲に対応する先使用権成立を立証できず、実施を中止する、特許権者から実施許諾を受けざるを得ない、となることがあり得ます。
また、発明実施品を製造・販売する事業を継続していたのだが、途中で、発明実施品の仕様を変更したことで、残しておいた資料では先使用権の成立を立証できなくなった、ということもあり得ます。
更に、特許権は各国独立で各国ごとに特許出願して各国ごとに特許権取得する必要があるのと同様に、先使用権も各国で独立しています。そこで、日本で先使用権によって実施事業を継続できるとしても、中国など、他の国では事業実施できないということが生じ得ます。
そこで、先使用権による保護を受けるのか、同業他社に先駆けて特許出願を行うことで、少なくとも、自社が特許出願を行った後に他社が特許出願した後願特許権による権利行使を受けることがないようにするのか等々、慎重に検討することが大切です。
また、特許出願による保護を受けずに、先使用権による保護を受けようとする場合には、どのような時期に、どのような証拠を、どのようにして残しておくのか、慎重に配慮しながら進めることになります。
いずれにしても、これらの事情についての専門家である弁理士に相談することをお勧めします。
<次号の予定>
次号では「特許権侵害にあたります」との警告を受け取った場合の対応についてのご質問に回答します。
以上
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■ニューストピックス■
●知財侵害物品の差止状況と輸入差止申立制度
財務省は、令和元年上半期の全国の税関における偽ブランド品などの知的財産侵害物品の差止状況を発表しました。
https://www.mof.go.jp/customs_tariff/trade/safe_society/chiteki/cy2019/2...
輸入差止件数は12,844件で、前年同期と比べて7.3%減少したものの、引き続き高水準でした。また、輸入差止点数は577,534点で、前年同期と比べて14.7%減少しました。
仕出国(地域)別の輸入差止件数では、中国が全体の83.7%(10,752件)を占めました。
品目別では、 医薬品の輸入差止件数が337件(前年同期比 66.0%増)と増加。また、医薬品、煙草及び喫煙用具、美容品など、健康や安全を脅かす危険性のある知的財産侵害物品の輸入差止めが増加している状況です。
侵害された権利は、商標権が最も多くなっています(輸入差止件数:96.8%、輸入差止点数:88.6%)。
◆輸入差止申立制度◆
輸入差止申立制度とは、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権などを侵害する貨物が輸入されようとする場合に、権利者が税関長に対して、自己の権利を侵害する貨物の輸入を差止めるよう申し立てる制度のことです。
税関による輸入差止の多くは、権利者からの「輸入差止申立」を受けた物品について行われています。海外で製造・販売された偽造品の流入を防止するためには、税関に対し、輸入差止申立を行うことが効果的です。
また、裁判に比べてコストがかからず、結果が出るのが早いのもメリットです。
申し立ての際には、輸入者を特定する必要はなく、侵害物品が市場に出回っていることの証明ができれば、海外から輸入された時点で侵害物品を排除することができるため、侵害物品の出所を特定できない場合も、この方法を使うことができます。
手続きでは、侵害の事実を説明する侵害被疑物品・その写真、弁理士が作成した鑑定書などが必要になるほか、税関で侵害物品であることを識別できるサンプル、写真、カタログなどを提出します。
申立が受理されれば、侵害品は税関で差し止められることになります。
海外模倣品に苦慮されている方がいましたら、輸入差止申立制度の活用を検討してみてはいかがでしょうか。
●店舗の外観・内装を立体商標で保護へ(特許庁)
改正意匠法の成立により、店舗の外観・内装を含む建築物の空間デザインが新たに保護対象となりました。空間デザインとして保護された店舗の外観・内装は、商品・役務の出所を表示するものとして識別力を獲得し、商標として機能する場合もあります。
特許庁は、企業のブランディング活動を支援する必要性を踏まえ、商品・役務の出所を表示するものとして識別力を有する店舗の外観・内装については、商標として保護する方向で検討を進めています。
店舗の外観・内装は、特に大規模チェーン店などでは統一したデザインで使用され、企業や店舗のブランディングのための保護ニーズが高まっています。実際に店舗の外観・内装を模倣する事例も多く、商品等の出所を示す外観は、例えば、米国では、いわゆる「トレードドレス」として保護されることがあります。
「トレードドレス」について米国商標法上の定義はなく、商品形状、包装容器の形状のほか、飲食店などの外観や内装も含まれます。国によって保護対象や法制度も異なっています。
特許庁では、現行の商標制度の見直しにあたり、店舗の外観・内装以外の立体的形状についても併せて検討することが望ましいとして、立体商標制度の見直しと立体商標等に関する審査運用の見直しについて検討を進める方針です。
●対アップル訴訟、島野製作所の請求を棄却(東京地裁)
米アップルに電源アダプターに使われる部品を供給していた電子部品メーカーの島野製作所が、不当な値下げやリベート要求があったなどとして約100億円の損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は、島野側の請求を棄却する判決を言い渡しました。
損害賠償請求の審理に先立ち、訴訟では「どの国の裁判所で審理するか」という「国際裁判管轄」が争われました。
両社は契約時に「紛争は(アップル本社がある)米カリフォルニア州の裁判所で解決する」と合意していたため、日本の裁判所で審理できるかが争点となりましたが、地裁は平成28年2月、中間判決で「合意が成立する法的条件を満たしておらず無効」と判断、国内で審理することを決めていました。
判決では、両社は基本契約で米カリフォルニア州法を準拠法と規定していたと指摘。債務不履行については、州法に基づけばアップルが発注予測として示した数量を注文する義務はないと判断。独禁法違反については、原告側が州法に基づく主張や立証をしていないとして「不法行為の成立は認められない」と判断しました。
島野製作所は判決を不服として東京高裁に控訴しました。
●類似ゆるキャラの使用停止認めず(東京地裁)
高知県須崎市が、市のマスコットキャラクター「しんじょう君」の著作権を侵害しているとして、酷使したキャラクターの「ちぃたん☆」の使用停止を求めた仮処分の申し立てについて、東京地裁は却下する決定を下しました。
須崎市は、ニホンカワウソをモチーフにした「しんじょう君」を市のマスコットキャラクターにしていますが、同じ作者がデザインした類似ゆるキャラの「ちぃたん☆」が、著作権を侵害しているなどとして、今年2月、運営する東京の会社に着ぐるみなどの使用停止を求める仮処分を東京地裁に申し立てていました。
これについて東京地方裁判所は、須崎市が「ちぃたん☆」の着ぐるみのデザインを認識したうえで、1年以上にわたり、使用中止を求めていないことなどから、市の「黙示の許諾」が認められるとして、9月20日付けで、使用停止を求める仮処分の申し立てを却下しました。
須崎市は、「市議会とも相談の上、抗告も視野に進めていきたい」とコメントしています。
●ゲームソフトの特許権侵害を認定(知財高裁)
ゲーム大手のカプコンが、人気ゲームソフト「戦国無双」などを販売するコーエーテクモゲームスに特許権を侵害されたとして、約9億8千万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、知財高裁は、特許侵害を認めコーエー側に約1億4384万円の支払いを命じました。
一審・大阪地裁判決は、カプコンが持つ2件の特許のうち1件を有効としてコーエーに517万円の支払いを命じましたが、知財高裁は2件とも有効と認め、賠償額を大幅に増額しました。
争点となったのは、「戦国無双」などのシリーズの一部で続編となるソフトも購入すれば、新たな武器などゲーム内の特典を入手できる機能。コーエー側は「似た機能を持つ既存ゲームがあり、新規性がない」と主張しましたが、判決では「既存ゲームから容易に発明できたとはいえない」として特許有効と判断しました。
カプコンの特許は地裁審理中に出願から20年の有効期限が切れており、コーエー側のゲーム販売などに影響はないとみられます。
10月11日 東京都中小企業振興公社
技術契約セミナー「特許ライセンス契約のポイントと契約条項の考え方」
https://www.tokyo-kosha.or.jp/chizai/seminar/2019/191011keiyaku.html
(東京都知的財産総合センター)
10月23日(水) 東京都新宿区 新宿三葉(ミツバ)ビル
知財高裁大合議判決の解析「二酸化炭素含有粘性組成物」事件
http://ht-law.net/information_201910.html
(TH総合法律事務所/TH弁護士法人 弁護士・弁理士 高橋淳)
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