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◇◆◇ 鈴木正次特許事務所 メールマガジン ◇◆◇
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2020年2月1日号
本号のコンテンツ
☆知財講座☆
■弁理士が教える特許実務Q&A■
(26)新規事項を追加する補正
☆ニューストピックス☆
■「ONE TEAM」のロゴを商標登録出願(日本ラグビー協会)
■特許権侵害訴訟での損害賠償額算定方法の見直し(改正特許法)
■米中が知的財産権の保護強化で合意
■商標のファストトラック、2月から審査・運用を変更
■米国での特許取得件数、第1位IBM、キヤノン3位
■「商標拳〜ビジネスを守る奥義〜」動画を公開(特許庁)
☆イベント・セミナー情報
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特許庁は、ひとりでがんばる知財担当者や初めて出願手続をされた方などを対象に特許庁ホームページ内に「お助けサイト」を開設しました。特許庁から送付される「拒絶理由通知書」や「登録査定」に対して、次に何をすれば良いかを、わかりやすく紹介しています。
このサイトでは、手続きだけでなく、手数料一覧や審査基準など関連する「お助け情報」も簡単に参照できるようになっていますので、ぜひチェックしてみてください。
https://www.jpo.go.jp/system/basic/otasuke-n/index.html
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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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■弁理士が教える特許実務Q&A■
(26)新規事項を追加する補正
【質問】
特許出願を終えた後に出願済の内容に対して新しい技術的な事項を追加することはできないということですが、どのようなことが禁止されるのでしょうか?
【回答】
「新規事項を追加する補正は拒絶理由、無効理由になります」とよく言われます。どのようなものが「新規事項を追加する補正」とされるのか説明します。
特許出願後、出願内容を補充・訂正可能
発明は概念的なものです。このため、特許出願の際に特許請求する発明を文章(必要な場合には図面も添付)で説明することは容易でありません。そこで、特許出願の際に発明を説明するために提出していた文章、図面の内容を特許出願後に一切訂正できないことにすると新規な発明を他者に先駆けて公開※してくれた特許出願人、発明者の保護に欠けることになります。※特許出願の内容は出願後18カ月後に出願公開公報やJ-Plat Patで社会に公表されます。
そこで、特許出願の際に発明を説明するために提出していた文章、図面の内容を、特許出願後に、補充・訂正する補正が特許出願人に認められています。
補正後の内容で出願していたことになる
補正が行われた場合、その補正の効果はいつから発揮されるのか?が問題になります。
補正が行われた時点からのみ補正の効果が発揮されることになると、例えば、特許出願の審査で、補正が行われるたびに特許性判断の時期を補正が行われた時点に変更しなければなりません。これは非常に煩雑です。
そこで、特許法では、補正の効果は特許出願の時点に遡及する、すなわち、特許出願の時点から補正後の内容で特許出願が行われていたとして取り扱っています。
新規事項を追加する補正の禁止
上述したように補正は出願時に遡って効力を発揮します。これを補正の遡及効といいます。
一方、同一の発明について複数の特許出願が競合した場合、一日でも先に特許出願を行っていた者でなければ特許取得は認められません(先願主義 特許法第39条)。
このため、出願当初の明細書や図面(以下「当初明細書等」といいます)に記載した事項の範囲を超える内容を含む補正が特許出願後に行われ、当初明細書等に記載されていなかった技術事項が追加された補正後の発明が、補正の遡及効によって、特許出願の時点から明細書に記載されていたとして取り扱うと先願主義の原則に反することになります。
そこで、特許出願人のために補正を許容する一方、先願主義の原則を実質的に確保し、第三者との利害の調整を図る目的で、明細書等の補正については、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしなければならない、すなわち、新規事項を追加する補正を行ってはならないとされています(特許法第17条の2第3項)。
新規事項を追加する補正は拒絶、無効理由
補正が「当初明細書等に記載した事項」との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるか否かにより、その補正が新規事項を追加する補正であるか否かが判断されます。
「当初明細書等に記載した事項」とは、当業者によって、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項です。
補正が「当初明細書等に記載した事項」との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである場合、その補正は、新規事項を追加する補正でなく、他方、補正が新たな技術的事項を導入するものである場合、その補正は、新規事項を追加する補正であって拒絶理由を受けることになります。審査の過程で審査官が気づかずに特許成立してしまった場合には特許無効の理由になります。
どのような補正が新規事項追加になるか
特許審査基準に記載されている事例をいくつか紹介します。
A 当初明細書等に明示的に記載された事項にする補正:〇
補正された事項が「当初明細書等に明示的に記載された事項」である場合には、その補正は、新たな技術的事項を導入するものではなく許容されます。
B 当初明細書等の記載から自明な事項にする補正:〇
補正された事項が「当初明細書等の記載から自明な事項」である場合には、当初明細書等に明示的な記載がなくても、その補正は、新たな技術的事項を導入するものではなく許容されます。
補正された事項が「当初明細書等の記載から自明な事項」といえるためには、当初明細書等の記載に接した当業者であれば、出願時の技術常識に照らして、補正された事項が当初明細書等に記載されているのと同然であると理解する事項でなければなりません。
C 数値限定を追加又は変更する補正
(ア)その数値限定が新たな技術的事項を導入するものではない場合には許容されます。
例えば、明細書(発明の詳細な説明)中に「望ましくは24〜25℃」との数値限定が明示的に記載されている場合、その数値限定を請求項記載の発明(=特許請求する発明)に追加する補正は許容されます。
24℃と25℃の実施例が記載されている場合は、そのことをもって直ちに「24〜25℃」の数値限定を追加する補正が許されることになりません。
(イ)請求項(=特許請求する発明)に記載された数値範囲の上限、下限等の境界値を変更して新たな数値範囲とする補正は、以下の(i)及び(ii)の両方を満たす場合、新たな技術的事項を導入するものではなく、許容されます。
(i) 新たな数値範囲の境界値が当初明細書等に記載されている
(ii) 新たな数値範囲が当初明細書等に記載された数値範囲に含まれている
D 発明の効果を追加する補正
一般に、発明の効果を追加する補正は、新たな技術的事項を導入するものであって許容されません。
しかし、当初明細書等に発明の構造、作用又は機能が明示的に記載されており、この記載から発明の効果が自明な事項である場合は、その発明の効果を追加する補正は、新たな技術的事項を導入するものではなく許容されます。
E 具体例を追加する補正
一般に、発明の具体例を追加する補正は、新たな技術的事項を導入するものであるので許されません。
例えば、複数の成分から成るゴム組成物に係る特許出願において、「特定の成分を追加することもできる」という情報を追加する補正は、一般に、許されません。
同様に、当初明細書等において、特定の弾性支持体を開示することなく、弾性支持体を備えた装置が記載されていた場合において、「弾性支持体としてつるまきバネを使用することができる」という情報を追加する補正は、一般に、許されません。
むすび
特許出願を行った後、特許出願で提出した文章・図面に記載していなかった技術的事項を追加する補正を行うと「新規事項追加の補正である」ということで拒絶理由になり、また、特許権成立後に新規事項追加の補正が審査で見逃されていたことがわかると特許無効理由になります。そこで、特許出願の際の発明を説明する文章・図面は慎重に準備する必要があります。詳しくは専門家である弁理士にご相談ください。
<次号の予定>
特許庁の審査で「進歩性が欠如している」という拒絶理由を受けた際の対応について説明します。
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■ニューストピックス■
●「ONE TEAM」のロゴを商標登録出願(日本ラグビー協会)
日本ラグビー協会は、ワールドカップ(W杯)日本大会で活躍した日本代表のスローガン「ONE TEAM(ワンチーム)」のロゴを商標登録出願しました。
(提供:日本ラグビーフットボール協会)
日本代表は初の8強入りを果たす快進撃を見せ、「ONE TEAM(ワンチーム)」は日本チームの代名詞として一気に認知度が高まりました。これを受け、日本ラグビー協会は、第三者に悪用されることを防ぐ目的で大会終了後の昨年11月22日に出願しました。
「ONE TEAM」は、国籍や人種など、様々な背景の選手たちが思いを一つにし、団結して勝利を目指すスローガンとして、2016年に制定されました。史上初のベスト8入りを達成したことで、日本中でラグビーブームが起き、「ONE TEAM」は、「2019ユーキャン新語・流行語大賞」の年間大賞を受賞しました。
●特許権侵害訴訟での損害賠償額算定方法の見直し(4月1日施行)
本年4月1日から施行される改正特許法で特許権侵害訴訟における損害賠償額算定方法が見直されます。
特許権侵害訴訟での原告(特許権者)からの損害賠償請求は民法第709条の不法行為による損害賠償の規定に基づいて行います。しかし、特許権侵害では損害の立証が簡単ではないということで、特許法第102条に特許権侵害訴訟における損害賠償額算定方法が定められています。
侵害行為がなければ特許権者が販売することができた逸失利益を損害額と推定する(同条第1項)、侵害者の利益の額を損害額と推定する(同条第2項)、相当実施料額を損害額として請求できる(同条第3項)というものです。
(a)特許権者の逸失利益の覆滅された部分について相当実施料額の適用
特許法第102条第1項では、「侵害行為がなければ特許権者が販売することができた逸失利益」を原告(特許権者)が立証します。原告(特許権者)の立証によって「侵害行為がなければ特許権者が販売することができた金額」が損害賠償額としての逸失利益に推定されるようになっても、特許権者の逸失利益について、侵害者が、「特許権者の実施能力」や「特許権者が販売することができない事情」を反証すれば、推定された逸失利益が覆滅される旨が特許法第102条第1項に規定されています。
この場合、推定が覆滅された部分について、同条第3項による相当実施料額が認められるか否か、裁判例や学説では、肯定、否定、折衷の立場から様々な議論がなされてきました。
4月1日施行の改正法では、「特許権者の実施能力」がないことによる覆滅部分及び「特許権者が販売することができない事情」による覆滅部分について、以下のイメージ@のように、相当実施料額の請求が認められることになりました。これにより、被告(侵害者)が侵害訴訟において「特許権者の実施能力」がないこと等による覆滅部分を立証できたとしても、原告(特許権者)は覆滅が立証された部分について相当実施料額を損害額として請求できることになります。
(特許庁 第27回特許制度小委員会 資料1知財紛争処理システムの見直しの方向性(案)より)
(b)相当実施料額の増額
特許法第102条第3項は、特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額を損害額として請求できると規定しています。
相当実施料額の算定に当たり考慮すべき要素の明確化について、これまで様々な議論がなされていました。例えば、過去の実施許諾例、業界相場、等といった増額・減額のいずれかに働きうる一般的な考慮要素や、特許が有効であること、交渉の経緯、等といった増額に働きうる事後的な要素などです。
4月1日施行の改正法では、以下のイメージAのように、裁判所が、相当実施料額について、特許権の侵害があったことを前提として特許権者が侵害者との間で合意をしたならば得られたであろう額を考慮することができる旨規定されました。これにより通常の交渉時における相当実施料額より増額される場合があることが期待されます。
なお、4月1日施行の改正法による上述の特許権者の逸失利益の覆滅された部分についての相当実施料額の適用(特許法第102条第1項)における相当実施料額についても特許権の侵害があったことを前提として特許権者が侵害者との間で合意をしたならば得られたであろう額を考慮することができるようになります。
(特許庁 第27回特許制度小委員会 資料1知財紛争処理システムの見直しの方向性(案)より)
●米中が知的財産権の保護強化で合意
米中両政府は、貿易協議をめぐる「第1段階」の合意文書に署名しました。第1段階の合意には、知的財産権の保護や技術移転の強要禁止などの項目が盛り込まれました。
米政府が公表した協定文によりますと、知財分野においては特許、商標、営業秘密、地理的表示などの項目で合意しました。具体的には、模造品や偽造品の取り締まりを強化します。オンライン環境での侵害に対し、効果的で迅速な行動を義務付けます。電子商取引プラットフォームへの効果的な行動、偽造医薬品や関連製品への効果的な執行措置、国内や輸出される海賊品や偽造品への執行措置を強化します。
米国のブランド品の保護を図るため、悪意ある商標登録を無効にしたり、却下したりするような対策を求めます。
技術移転に関しては、中国が市場アクセスや行政承認または利益の受け取りを条件に、外国企業に技術移転の圧力をかけることを禁じます。いかなる技術移転や使用許諾も自発的で相互合意を反映した市場(取引)の条件に基づくよう求めます。産業政策に絡み、国家が海外技術の取得を目的に指示・支援する対外投資を禁じます。
ただ、米国が問題視していたハイテク産業や国有企業を支援する補助金の見直しなど、中国の構造改革をめぐる問題は先送りされました。
●商標のファストトラック、2月から審査・運用変更(特許庁)
特許庁は、2020年2月から商標のファストトラック審査の新たな運用を開始します。「ファストトラック審査」とは、通常案件より2カ月程度早く最初の審査結果通知を行う審査制度ですが、2月1日以降の出願については、出願から6ヶ月で審査開始になる予定で、大幅に短縮されます。
対象案件となるのは次の2つ要件をいずれも満たしている商標出願です。
(1)出願時に、「類似商品・役務審査基準」、「商標法施行規則」または「商品・サービス国際分類表(ニース分類)」に掲載の商品・役務(以下、「基準等表示」)のみを指定している商標登録出願
(2)審査着手時までに指定商品・指定役務の補正を行っていない商標登録出願
ただし、新しいタイプの商標に係る出願(動き商標、ホログラム商標、音商標など)及び国際商標登録出願は除きます。
また、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)で公表している「審査において採用された商品・役務名」等、「基準等表示」以外の商品・役務が指定されている場合は対象になりません。
【留意点】
ファストトラック審査の適用を受ける場合、指定商品・指定役務の記載を特許庁等が定めている商品名・役務名に合わせる必要があります。基準等表示と少しでも異なる商品名・役務名の場合は対象になりません。
例:第41類「セミナーの企画・運営又は開催」(類似商品・役務審査基準)の表示に対して、指定役務が第41類「セミナーの企画・運営」は、対象外となります。
ファストトラック審査の適用を受けようとするために、商品名・役務名を基準等表示に合わせることには注意が必要です。
例えば、比較的新しい商品や役務の場合、基準等表示に自分が指定したい商品・役務が記載されているとは限りません。また、商品・役務について具体的な記載をしたいと思っても、基準等表示に対応する商品・役務がないという可能性もあります。
このような場合、基準等表示に定めている商品名・役務名に合わせてしまうと、適切な商標登録ができなくなる可能性があるため注意が必要です。
●米国での特許取得件数、第1位はIBM、キヤノンが3位
米国の特許専門調査会社IFI CLAIMSパテントサービスによると、2019年に米国特許商標庁(USPTO)に登録された特許数(速報値)は、33万3,530件と過去最高を記録しました。
企業別の取得ランキングでは、米IBMが前年比2%増の9,262件で27年連続首位となりました。
第2位にはサムスン電子(6,469件)で、キヤノンは3,555件で第3位となり、日本企業としては第1位を獲得しました。キヤノンは、34年連続で5位以内を記録しています。
第4位にはマイクロソフト(3,081件)、第5位にはインテル(3,020件)、第6位にはLGエレクトロニクス(2,805件)、第7位にはアップル(2,490件)、第8位にはフォード・グローバル・テクノジーズ(2,468件)、第9位にはアマゾン(2,427件)、第10位にはファーウェイ・テクノロジーズ(2,418件)がランクインしています。
●「商標拳〜ビジネスを守る奥義〜」動画を公開(特許庁)
特許庁は、商標制度の重要性を広く知ってもらうため、カンフー仕立ての動画と特設サイト「商標拳〜ビジネスを守る奥義〜」を公開しました。
特に中小企業に対して、商標制度について無関心であることの経営リスクについて気付いてもらい、商標制度に関心を持ってもらうことを目指しています。
「商標拳」とは、後発による乗っ取りを防いだり、偽物の大量発生を阻止したりと、自社ビジネスの権利を守る拳法。動画は、模倣品の被害に遭い窮地に陥る企業の社長が、「商標拳(権)」を会得し、ニセモノを製造する悪徳模倣品業者に立ち向かうストーリーです。
特許庁は動画や特設サイトなどを通じて「商標権を知らずにビジネスをすることは経営上の大きなリスクになる」といったメッセージを伝えていく考えです。
◇ビジネスを守る奥義「商標拳」◇
https://www.jpo.go.jp/introduction/soshiki/design_keiei/shohyoken/index.html
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2月14日 TKP東京駅日本橋カンファレンスセンター
営業秘密・知財戦略セミナー
https://inpit-ipsenryaku-seminar2019.jp/
(工業所有権情報・研修館(INPIT))
2月21日 東京都中小企業振興公社
知的財産戦略セミナー ビジネスに勝つための知財経営戦略
https://www.tokyo-kosha.or.jp/chizai/seminar/2019/200221keieisenryaku.html
(東京都知的財産総合センター)
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