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◇◆◇ 鈴木正次特許事務所 メールマガジン ◇◆◇
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2020年3月1日号
本号のコンテンツ
☆知財講座☆
■弁理士が教える特許実務Q&A■
(27)進歩性欠如を指摘する拒絶理由への対応
☆ニューストピックス☆
■意匠関係料金が改正(4月1日以降の出願)(特許庁)
■英国のEU離脱による知財分野への影響
■「マリカー」訴訟、標章使用は不正競争行為(知財高裁)
■日本意匠分類を改正、新たな保護対象に対応(特許庁)
■ファーウェイ、米通信大手を提訴
■「中小企業等特許情報分析活用支援事業」の公募が開始
☆イベント・セミナー情報
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「中小企業等特許情報分析活用支援事業」の第1回の公募受付が開始となりましたので、今号では同事業の概要を紹介します。
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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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■弁理士が教える特許実務Q&A■
(27)進歩性欠如を指摘する拒絶理由への対応
【質問】
特許出願について特許庁で審査を受けたところ、拒絶理由に引用された文献(先行技術文献)に記載されている発明に基づいて容易に発明できるものであるから特許を認めることができないという拒絶理由を受けました。反論して審査官に再考を求めることができるということなのですが、どのように反論を準備すればよいでしょうか?
【回答】
進歩性が欠如しているという拒絶理由を受けた場合に、審査官に再考を求めるべく提出する意見書、手続補正書の内容をどのように準備するか、一般的な例を紹介します。
<進歩性欠如を指摘する拒絶理由の一般的な形式>
進歩性欠如の拒絶理由通知は、一般的に、次のような構成になります。
審査を受けている本件特許出願(以下「本願」といいます)の特許請求の範囲の各請求項に記載されている発明(以下「本願発明」といいます)と対比する発明(引用発明)が記載されている先行技術文献(第一引用例)の指摘。
第一引用例記載の発明(引用発明)と本願発明との間に存在していると審査官が認定する一致点と相違点の指摘。
上述した相違点が記載されていると審査官が認定する他の先行技術文献(第二引用例)の指摘。
本願発明の技術分野では第一引用例に第二引用例を組み合わせることが容易であるとの指摘。
第一引用例記載の発明に第二引用例記載の発明を組み合わせると前述した相違点が解消されて本願発明に容易に想到することができ、本願発明は進歩性が欠如している、という指摘。
<特許請求している発明の確認>
拒絶理由通知書を受けたときには、もう一度、本願の明細書、図面を読み直して、本願発明の内容を確認することをお勧めします。
いきなり第一引用例、第二引用例を検討し、本願発明と相違している点はどこであるかを探したり、第一引用例、第二引用例に記載されている発明内容を前提とした上で、第一引用例、第二引用例記載の発明と異なるように本願発明の内容を考えるのは望ましくありません。
あくまでも特許取得を目指すのは本願で審査を受けている本願発明です。これがどのようなものであるか、本願の明細書、図面の記載内容に立ち返って確認した上で拒絶理由の指摘を検討するのがよいです。
<引用文献記載の発明の確認>
第一引用例の内容を検討します。本願発明と一致しているところはどのような内容であるかという観点から検討します。
本願発明と対比して第一引用例にどのような発明(引用発明)が記載されているか、本願発明との間の一致点として拒絶理由通知書で指摘されているのが一般的です。しかし、拒絶理由通知書の指摘が正しいとは限りません。
本願発明と相違しているところはどこか?という観点から、第一引用例の内容を検討するのではなく、第一引用例に記載されている発明であって、本願発明と一致しているところはどのようなところであるか、という観点から検討します。
あくまでも特許取得を目指すのは本願で審査を受けている本願発明ですから、本願発明から見て、第一引用例には本願発明のどの部分と一致している発明が記載されているか、という観点で、本願発明と第一引用例記載の発明との間の一致点を確認します。
<相違点の確認>
上述した観点で本願発明と第一引用例記載の発明との間の一致点を確認した後、再度、本願の明細書、図面に立ち返り、第一引用例に記載されている発明であって本願発明と一致している部分以外のところ、すなわち、本願発明が、第一引用例記載の発明と相違している点を確認します。
あくまでも特許取得を目指すのは本願で審査を受けている本願発明です。上述した観点で確認した本願発明と第一引用例記載の発明との間の一致点以外のところ、すなわち、本願発明が第一引用例記載の発明と相違している点を、本願の明細書、図面に立ち返って、確認します。
この際、相違点が明確になるように本願発明の記載内容を、出願時の明細書・図面の記載内容に基づいて補正する必要も検討します。補正することで、第一引用例に記載されている発明との相違点を明確にすることができれば、「進歩性欠如」という拒絶理由の指摘を解消できる可能性が高まります。
なお、補正する場合、特許出願の時点で特許取得を目指していた本願発明の実施形式が、拒絶理由を受けた時点(あるいは、この審査を受けた結果で特許成立する時点)でどのようになっているかを把握し、会社の事業で実施している形態を確実に保護できる内容で特許取得することを考えながら補正内容を検討することが望ましいです。
<第二引用例の発明内容の確認>
第二引用例に記載されている発明内容を確認します。拒絶理由通知書では、審査官が認定した本願発明と第一引用例記載の発明との間の相違点に対応する発明が第二引用例に記載されていると指摘されるのが一般的です。
しかし、上述した観点で本願発明と第一引用例記載の発明との間の一致点を確認した後、こうして確認できた本願発明と第一引用例記載の発明との間の一致点以外のところ、すなわち、本願発明が第一引用例記載の発明と相違している点を本願の明細書、図面の記載に基づいて確認しています。そこで、この検討で確認した、本願発明と第一引用例記載の発明との間の相違点が第二引用例に記載されているかどうか検討します。
本願発明と第一引用例記載の発明との間の相違点が第二引用例に記載されていないならば、拒絶理由通知書で指摘されたように、たとえ、第一引用例記載の発明に、第二引用例記載の発明内容を組み合わせることができても、本願発明には、容易に想到できないことになります。この点を意見書で主張できます。
<第二引用例を第一引用例に組み合わせる論理付け>
本願発明と第一引用例記載の発明との間の相違点が第二引用例に記載されていると認められる場合であっても、以下のような事情などがある場合には、進歩性欠如という拒絶理由通知書の指摘(第一引用例記載の発明に第二引用例記載の発明を組み合わせることで本願発明に容易に想到できる)は妥当でないとして意見書で主張することができます。
第一引用例記載の発明が解決しようとしている課題と、第二引用例記載の発明が解決しようとしている課題とが相違している。
=>第一引用例記載の発明が目指している方向と、第二引用例記載の発明が目指している方向とが相違しているので、第二引用例を第一引用例に組み合わせる契機、起因が存在しない。
第一引用例の記載の中に、第二引用例記載の発明を第一引用例記載の発明に組み合わせるきっかけになるような記載が存在していない。第二引用例の記載の中に、第二引用例記載の発明を第一引用例記載の発明に組み合わせるきっかけになるような記載が存在していない。
=>両者を組み合わせる契機、起因となる記載が第一引用例、第二引用例の中に無いので、第二引引用例を第一引用例に組み合わせる契機、起因が存在しない。
第二引用例記載の発明を第一引用例記載の発明に組み合わせると、第一引用例記載の発明の目的が達成できなくなる等の事情がある。
=>第二引用例記載の発明を第一引用例記載の発明に組み合わせることを阻害する事情が存在している。
<相違点の存在による本願発明特有の効果の確認>
上述したようにして本願発明と第一引用例記載の発明との間の相違点を確認しています。この相違点が存在することによって発揮される本願発明特有の機能・作用・効果を本願の明細書、図面の記載の中から把握します。
相違点が存在することによって発揮される本願発明特有の機能・作用・効果が存在するならば、本願発明に進歩性が存在する、すなわち、第一引用例、第二引用例の組み合わせによって本願発明に容易に想到することができたとする論理付けは成立しない、という主張の根拠になります。
相違点の存在によって発揮される本願発明特有の効果が第一引用例、第二引用例記載の発明によって発揮される効果とは異質の効果である、あるいは同質の効果であるが際立って優れた効果である場合には、そのような事情を説明して「第一引用例、第二引用例の組み合わせによって本願発明に容易に想到することができたとする論理付けは成立せず、本願発明は第一引用例、第二引用例記載の発明に対して進歩性を有する」と意見書で主張することができます。
<面接審査の検討>
上述した検討を行って、審査官に再考を求める意見書・手続補正書を準備し、特許庁へ提出する前に、拒絶理由を通知してきた特許庁審査官に面接審査を申し込むこともできます。
特許庁では特許出願人の代理人(弁理士)等からの申込みがあれば、原則、一回は面接を受諾する取扱いにしています。
https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/mensetu/index.html
拒絶理由通知書も、これに対応して提出する意見書・手続補正書も書面です。書面化された文章だけでは十分に説明することのできなかった事項を口頭で説明できる面接審査は、審査官が指摘したいと考えている拒絶理由の内容をより正しく理解し、また、本願発明をより正確に審査官に把握してもらうよい機会です。
そこで、必要があれば、代理人(弁理士)に依頼して担当審査官との面接を行うよう調整してもらうのはよい方法です。なお、拒絶理由通知書に対して回答できる期限(拒絶理由通知書発送日から60日以内)を考慮して日程的に余裕をもって面接審査を申し込むのが望ましいと思われます。
<次号の予定>
発明は「物」の発明、「物を製造する方法」の発明、「方法」の発明に区分されます。このような発明の区分に応じてどのような違いがあるのか紹介します。
以上
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■ニューストピックス■
●意匠関係料金が改正(4月1日以降の出願) (特許庁)
「特許法等の一部を改正する法律」の施行に伴い、令和2年(2020年)4月1日以降の意匠登録出願から意匠権の存続期間が従来の「登録日から20年」から「出願日から25年」に延長されます。
このことにより、4月1日以降の意匠関係料金が改正されます。
第21年から第25年までの登録料については、第4年から第20年までの登録料と同額を納付することになります。
(1)令和2年(2020年)4月1日以降にした出願
項目 | 金額 |
第1年から第3年まで | 毎年 8,500円 |
第4年から第25年まで | 毎年 16,900円 |
※意匠権の存続期間は意匠登録出願の日から25年をもって終了する。
(2)令和2年(2020年)3月31日以前にした出願
項目 | 金額 |
第1年から第3年まで | 毎年 8,500円 |
第4年から第20年まで(※第16年から第20年は、平成19年(2007年)4月1日以降の出願のみ) | 毎年 16,900円 |
※意匠権の存続期間は設定登録日から20年をもって終了する。
●英国のEU離脱による知財の影響
英国及び欧州連合(EU)は離脱協定を承認しました。これにより、英国は2020年1月31日にEUを離脱し、移行期間(2020年2月1日から2020年12月31日)が開始となりました。
英国知的財産庁(UKIPO)、欧州特許庁(EPO)、欧州連合知的財産庁(EUIPO)、世界知的所有権機関(WIPO)及び欧州委員会は、英国のEU離脱(Brexit)の知的財産への影響に関する情報を、それぞれ公表しました。
移行期間中は、EU法が引き続き現在と同様に英国において効力を有します。このため、現在の知的財産制度は、2020年12月31日までそのまま継続します。この移行期間中、英国知的財産庁のサービスの中断や英国の知的財産制度への変更はないとしています。
◇特許◇
欧州特許庁(EPO)はEUの機関ではないため、英国のEU離脱は現在の欧州特許制度には影響を与えません。英国をカバーする既存の欧州特許も影響を受けません。
◇商標◇
移行期間中…引き続き、英国はEU商標制度の構成国の一部のままとなり、EU商標による保護は英国に及びます。マドリッド制度を通じて保護されるEUを指定する商標の国際登録の効果は、引き続き英国に及びます。
移行期間の終了後…EU商標制度によって保護される商標は英国においては保護の対象とされなくなりますが、移行期間の終了時(2021年1月1日)に、英国知的財産庁は、既存のEU商標を有する全ての権利者に同等の英国商標を付与します(離脱協定第54条)。
◇意匠◇
移行期間中…引き続き、英国は欧州登録共同体意匠制度及び非登録共同体意匠制度の構成国の一部のままとなり、登録共同体意匠及び非登録共同体意匠による保護は英国に及びます。ハーグ制度を通じて保護されるEUを指定する意匠の国際登録の効果は、引き続き英国に及びます。
移行期間の終了後…移行期間の終了時(2021年1月1日)に、登録共同体意匠、非登録共同体意匠、及びEUを指定して保護された意匠の国際登録の効果は、英国においては有効ではなくなりますが、これらの権利は、直ちにかつ自動的に英国の権利に置き換えられます(離脱協定第54、56条)。
●「マリカー」訴訟、標章使用は不正競争行為(知財高裁)
公道を走る小型カートを貸し出す会社が「マリカー」という標章を使って営業するのは不正競争行為にあたるとして、人気ゲーム「マリオカート」を販売する任天堂が訴えた裁判で、知的財産高等裁判所は任天堂の訴えを認め、標章やキャラクターの使用禁止を命じました。
判決では「任天堂の『マリオカート』やキャラクターは著名なもので高い顧客吸引力がある。被告の会社はそれを不当に利用しようという意図をもって不正競争行為を行っている」と指摘し、任天堂の訴えを認めました。そのうえで、小型カートを貸し出す「MARIモビリティ」に対して、キャラクターの衣装の貸し出し禁止、「マリカー」などの標章をカートや広告から消して使用禁止にすること、さらに損害賠償として5000万円の支払いを命じました。
●日本意匠分類を改正、新たな保護対象に対応(特許庁)
意匠法の改正に伴い、物品に記録・表示されていない画像や建築物の外観・内装のデザインが新たに意匠法の保護対象となることから、特許庁は、J-platpatやGraphic Image Park(画像意匠公報検索支援ツール)による検索効率の向上を目的として、現行の日本意匠分類を改正します。
出願日が令和2年4月1日以降の意匠登録出願より改正意匠分類が適用されます。
日本意匠分類は、意匠に関する日本独自の分類のことで、物品の用途を中心にA〜Nのグループに分け、更にその下位に体系だった大分類、小分類、画像意匠分類が設けられています。また、平成17年1月1日から施行した日本意匠分類には、日本意匠分類を形態等の特徴で更に細分化したDタームもあります。
改正日本意匠分類は、建築物・内装のデザインと画像デザインに関するものが新設されます。画像デザインの件数増加も予想されるため、日本意匠分類記号のほか、新設の画像用Dターム(109肢)も用意される予定です。
「日本意匠分類(令和2年4月1日施行版)」は、令和2年4月1日から特許庁ホームページで掲載される予定です。
意匠制度小委員会「日本意匠分類の改正について」
https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/isho_shoi/document/11-shiryou/05.pdf
●ファーウェイ、米通信大手を提訴
中国の通信機器大手ファーウェイは、米国の通信大手ベライゾン・コミュニケーションズが特許を侵害しているとして、損害賠償を求める訴えを米国の裁判所に起こしたと発表しました。
ファーウェイによると、ベライゾンは、コンピューターネットワークやセキュリティー関連などの特許12件を無断で使用したとしています。ファーウェイは損害賠償やライセンス料の支払いを要求しましたが、両者の協議は物別れに終わったといいます。
ファーウェイは、安全保障上の懸念があるとして政府機関や自国の通信会社がファーウェイの製品を使えないようにする米国政府の措置に対して、これを差し止めるよう求める訴えを起こしていて、今回の提訴で、技術をめぐる米中の対立がさらに深まった形です。
●「中小企業等特許情報分析活用支援事業」の公募が開始
独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)では、中小企業やスタートアップ企業にとって、技術的専門性が高く、費用負担が大きい先行技術文献等の特許情報分析について、「研究開発」、「出願」及び「審査請求」の各段階のニーズに応じた包括的な支援を行っています。
(1)「研究開発」段階(無料:上限100万円の特許情報分析を実施)
・研究開発戦略の策定、重複研究の回避、新事業展開の可能性判断のための特許情報分析を行います。
(2)「出願」段階(無料:上限100万円の特許情報分析を実施)
・権利化可能性の把握、オープン・クローズ戦略策定等のための特許情報分析を行います。
(3)「審査請求」段階(受け付け準備中)
・出願内容に関連する特許情報分析を通じ、権利取得判断を支援します。
例えば、(1)・(2)では、特許マップの作成や侵害予防調査等、(3)では先行技術調査が実施可能です。現在、上記の研究開発・出願段階での特許情報分析の公募を受け付けています。
詳細は工業所有権情報・研修館(INPIT)のHPをご参照下さい。
https://ip-bunseki.inpit.go.jp/
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新型コロナウイルスの感染拡大の防止のため、現時点で開催を予定している各種イベント・セミナーについても、今後、開催中止となる可能性があるため、今月のイベント・セミナー情報は割愛させていただきます。
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発行元 : 鈴木正次特許事務所
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