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◇◆◇ 鈴木正次特許事務所 メールマガジン ◇◆◇
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2020年8月1日号
本号のコンテンツ
☆知財講座☆
■弁理士が教える特許実務Q&A■
(32)面接審査
☆ニューストピックス☆
■オープンイノベーション促進のための「モデル契約書」公開
■スタートアップの約15%が知財で不利益な扱い(公取委)
■商標の指定役務、「仮想通貨」は「暗号資産」に変更(特許庁)
■ブリヂストン、商標とトレードドレス訴訟で勝訴(ブラジル)
■令和元年意匠法改正の特設サイトを作成(特許庁)
■特許査証制度、10月1日施行
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経済産業省は、共同研究契約やライセンス契約交渉時に留意すべきポイントを解説した『モデル契約書ver 1.0』を公開しました。交渉の際に必要となる「秘密保持契約」「PoC(技術検証)契約」「共同研究開発契約」「ライセンス契約に関するモデル契約書」が提示されています。
今後、他社との共同開発やライセンス契約を行う際には、どのような点に留意して交渉すべきか参考になると思われます。
今号では『モデル契約書ver 1.0』の概要について紹介します。
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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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■弁理士が教える特許実務Q&A■
(32)面接審査
【質問】
特許庁で審査を受けている特許出願について審査官から拒絶理由通知書を受けました。審査官は当社発明のポイントを誤認されているように思われます。特許庁の審査官に面談して当社や、発明者の考えを説明することはできないのでしょうか?
【回答】
特許出願や特許出願中の諸手続は書面によって行われる書面主義が原則です。しかし、審査の迅速性・的確性や、安定した特許権の付与という観点から、審査官と特許出願人・代理人との間で十分な意思疎通が図られていることが望ましいと考えられており、審査官と面談して発明者・出願人の意見を述べることが可能になっています。特許庁審査官との間で行う面接審査について紹介します。
<面接ガイドライン>
審査官と代理人(代理人がいない場合は出願人本人や知的財産部員など)(以下の説明で「代理人等」と表します。)との間で行われる面接や面接に代わる電話・FAX等による連絡は、特許出願の審査手続を円滑に進める上での有効な手続であると考えられて、従来から、実施されていました。
近年では、特許権の活用が重要性を増し、国際的に信頼される高品質な特許権を成立させることが、グローバルな事業展開を保障し、イノベーションを促進する上で不可欠なものになっているという認識から、審査官と代理人等とが互いに意思疎通を図ることが従来にも増して重要となっていると考えられています。
そこで、代理人等との面接審査を積極的に活用することにより、審査官と代理人等との間の意思疎通を円滑に行い、安定した権利の付与に資することを目的として、特許庁は、「面接ガイドライン」の見直しを行って公表しています。
面接ガイドライン「特許審査編」
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/mensetu_guide_index.html
以下、面接ガイドライン【特許審査編】の概要を紹介します。
<「面接」の定義>
「面接ガイドライン」でいう「面接」は、審査官と代理人等とが特許出願の審査に関わる意思疎通を図るために行う面談を意味するとされています。
審査官との面接は、特許出願の内容について、代理人等とのコミュニケーションや相互理解を深め、納得感の高い結論を得ることを目的として行われるとされています。
特許出願の内容について、審査官の技術理解を容易にするための技術説明も面接ガイドラインの対象になっています。
そこで、出願人(会社の代表者)や、代理人弁理士が面接に臨むだけでなく、面接対象の特許出願の発明者が面接に参加して技術説明を行うことも可能です。
<面接を行う時期>
面接は、特許出願について審査請求した後から可能になります。
一般的には、拒絶理由通知を受け取った後に担当審査官に面接審査を申し込んでいます。なお、審査請求後で実際に審査に入る前に面接審査を申し込むことも可能であるとされています。この場合、審査に入る時期は、特許庁への審査進行状況伺い等によって知ることができます。
特許審査着手状況の問い合わせについて
https://www.jpo.go.jp/faq/status/patent.html
代理人等からの申込みがあれば、審査官は、原則、一回は面接を受諾するとされています。
なお、面接の申込みに対し、審査官が審査室の長(審査長・技術担当室長)と協議した結果、面接の趣旨を逸脱するおそれがあるなど面接を受諾することが適当でないと判断した場合には受諾されないことがあります。
また、拒絶理由通知書を受けた後に審査官に面談を申し込む場合、拒絶理由通知書で指定されている意見書提出期限(拒絶理由通知書発送日から60日)の直前になって面談の申し入れを受けた場合には、審査官が時間的に対応できないということが起こり得ます。
そこで、拒絶理由通知書を受けた後に審査官に面談を申し込む場合には、意見書提出期限を考慮し、日程的な余裕を見て面談を申しこむことが望ましいと思われます。
<面接の申し込みと準備>
代理人が選任されている場合は、代理人から面接の申込みを行い、代理人が選任されていない場合は、出願人本人や知的財産部員など、責任ある応対をなし得る者が面接の申込みを行うことになります。
一般的には、特許出願の代理をしている弁理士が、拒絶理由通知書に記載されている担当審査官の特許庁内線電話番号に電話を入れて面接審査を申し込んでいます。
どのような目的で面接を申し込むのか、面接の趣旨、代理人等が計画している面接の内容について、出願人、代理人の間で意思疎通を図った上で、面接を申し込むことが望ましいです。
そして、その目的に沿った書類、等の資料を準備して、設定された面接日時に特許庁を訪問します。一般的な面接の所要時間は30分〜1時間程度です。
面接の目的に応じて、特許請求している発明の補正案、発明の補足説明資料、拒絶理由通知書で拒絶理由に引用された先行技術文献記載の発明と本願発明との相違点を明確にするための技術説明用の対比資料などを準備することになります。
審査官に電話を入れて面接審査を申し込む際に、その趣旨に応じて、例えば、特許請求している発明の補正案を準備しているならば事前に審査官へFAX送信するように審査官から要請を受けることもあります。
なお、特許庁で行う面接では、面接終了後に審査官が面接記録を作成し、参加していた代理人等が自署します。この面接記録や、面接審査で提出した資料などは審査記録として後に特許庁から公開される情報になります。どのような内容の資料を面接審査において提出するのかあらかじめ吟味しておくことが望ましいです。
<テレビ面接システムを用いた面接>
特許出願日から18カ月が経過している等により、既に特許出願の内容が出願公開されているものについては、テレビ面接システム、Webアプリケーションを利用した面接が行われるようになっています。
テレビ面接システムを用いた面接について
https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/mensetu/telesys_mensetu.html
インターネット回線を利用したテレビ面接システムでは、代理人等が自身のPCから面接に参加して、審査官とコミュニケーションを図ることが可能になっています。特許庁のウェブサイトで紹介されているように出願人は会社から、代理人弁理士はその特許事務所から、同時に、インターネット回線を利用したテレビ面接に参加することが可能です。
<むすび>
特許出願で拒絶理由通知書を受けた後に担当審査官との間で行う面接審査は、拒絶理由通知書、意見書、手続補正書という書面・文章では表しきれない情報を、納得いくまで口頭で審査官に説明し、審査官から説明を受けるよい機会です。
拒絶理由通知書に対しては最終的に意見書、手続補正書という書面を準備して特許庁審査官へ提出しますが、面接審査を行うことで、審査官との間での口頭での意見交換を踏まえて書類準備できます。
特許出願の拒絶理由通知書を受けた後に審査官との面接をご希望される場合には、出願を代理している弁理士に、早めに、その旨の希望を伝えて準備されることをお勧めします。
<次号の予定>
特許庁のウェブサイトで「2020年度知的財産権制度入門テキスト」が公開されました。次回は、このテキストの中で説明されている「特許情報プラットフォームを利用した特許情報の検索」を参照して特許調査方法の概要を簡単に説明します。
以上
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■ニューストピックス■
●研究開発型スタートアップと事業会社のオープンイノベーション促進のための「モデル契約書ver 1.0」を公表(経済産業省)
経済産業省は、研究開発型スタートアップと事業会社の連携を促進するため、共同研究契約やライセンス契約交渉時に留意すべきポイントを解説した『モデル契約書ver 1.0』を公開しました。
https://www.meti.go.jp/press/2020/06/20200630006/20200630006.html
近年、大企業がスタートアップと連携し、新たな価値を創造するオープンイノベーションが重要視されていますが、スタートアップには専門部署がないなど、契約に関する知識が不足している面もあることから、経済産業省は、適切な契約を促すための「モデル契約書」を策定しました。
モデル契約書には、交渉の際に必要となる「秘密保持契約」「PoC(技術検証)契約」「共同研究開発契約」「ライセンス契約に関するモデル契約書」が提示されています。
また、仮想の取引事例を設定して、契約書の取り決め内容を具体化することで、交渉の「勘所」を学ぶことができます。
契約書の文言の意味を逐条解説で補足することで、当該記載を欠いた場合の法的リスクなど、契約に潜むビジネスリスクへの理解を深めることができます。
公正取引委員会による「スタートアップの取引慣行に関する実態調査」の中間報告で明らかになった問題事例にも対応しており、実際の契約交渉で論点となるポイントを知ることができます。
今後、他社と共同開発やライセンス契約を行う際には、どのような点に留意して交渉すべきか参考になると思われます。
●スタートアップの約15%が知財で不利益な扱い(公取委)
公正取引委員会は、スタートアップ企業と大企業の取引状況に関する実態調査の中間報告を公表しました。
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2020/jun/200630.html
それによると、約15%のスタートアップ企業が、知的財産やノウハウをめぐり、「納得できない行為」を経験し、うち75%が今後の取引への影響を懸念して受け入れざるを得なかったとしています。
公取委のヒアリングでは、「自社の重要な資料(アルゴリズム含む)を取引先が他社に開示することがあった」「スタートアップ側だけが秘密情報を開示するなど、大企業だけに一方的に有利な条項があった」などの訴えがあり、大企業と不利な契約を強いられている実態が浮き彫りとなりました。
大企業側が有利な立場を利用してスタートアップに不利益を与えれば独占禁止法の「優越的地位の濫用」にあたるおそれがあり、公取委は詳しく調査を進める方針です。
●商標の指定役務、「仮想通貨」は「暗号資産」に変更(特許庁)
「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」が成立し、「資金決済に関する法律」(資金決済法)に定められた「仮想通貨」の呼称が「暗号資産」に変更となりました。
改正資金決済法の施行(令和2年5月1日)に伴い、「暗号資産」に関する役務と認められる表示の例が以下のように変更となりました。
出願日が令和3年1月1日以降の商標登録出願においては、採択できない表示として審査されるため注意が必要です。
<認められる例>
第36類 (類似群コード:36A01)
「暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換」
「暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換の媒介・取次ぎ・代理」
「暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換に関して行う利用者の金銭の管理」
「暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換の媒介・取次ぎ・代理に関して行う利用者の金銭の管理」
「他人のために行う暗号資産の管理」
<認められなくなる例(令和3年1月1日以降の出願から)>
第36類 (類似群コード:36A01)
「仮想通貨交換業に係る仮想通貨の売買」
「仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換」
「仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換の媒介・取次ぎ・代理」
「仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換又は仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換の媒介・取次ぎ・代理に関して利用者の金銭又は仮想通貨の管理」
●ブリヂストン、商標とトレードドレス訴訟で勝訴(ブラジル)
ブリヂストンは、ブラジルのタイヤリトレッド会社であるNew Tyre社を相手に提起していた商標権侵害訴訟およびトレードドレス侵害訴訟で勝訴したと発表しました。
ブリヂストンは2015年1月、同社の登録商標「TURANZA」および同社製品「TURANZA ER300」のトレッドパタン(タイヤが路面と直接接する部分に刻まれている溝の模様)を使用してタイヤを生産・販売するNew Tyre社の行為は、商標権侵害およびトレードドレス侵害に該当するとして提訴しました。
サンパウロ控訴裁判所は、New Tyre社に対して、侵害行為の停止と損害賠償の支払いを命じる判決を下しました。
知的財産権の一種である「トレードドレス」(trade dress)とは、一般に消費者にその製品の出所を表示する、製品あるいはその包装などの視覚的な外観の特徴を指し、商品等のパッケージや表示をはじめとする全体のイメージ的なものを意味します。ただ、国際的にその定義は確立しておらず、国によって保護される対象や法制度も異なっています。
今回の判決を受け、同社は、「トレッドパタンの不正使用がトレードドレス侵害と認められた点で、ブラジルにおいて画期的な判決となった」と評価しています。
●令和元年意匠法改正の特設サイトを作成(特許庁)
特許庁は、令和元年意匠法改正の特設サイトを作成し、意匠法改正に関する最新情報を紹介しています。
https://www.jpo.go.jp/system/design/gaiyo/seidogaiyo/isyou_kaisei_2019.html
意匠法は大幅に改正され、保護対象の拡充、関連意匠制度の見直し、意匠権の存続期間の変更などが行われました。意匠法改正は令和元年特許法等の一部を改正する法律として公布され、ほとんどの規定は本年4月1日から既に施行されています。
今回の法改正の大きな特徴として、保護対象の拡充があげられます。これまで意匠法の保護対象は「物品」に限られ、不動産や個体以外のものなど「物品」でないものは保護されませんでしたが、本改正により、「物品」のデザインに加え、物品に該当しない建築物(店舗、ビル、橋)やクラウド上の画像デザインも保護対象とされ、建築物の内装も登録できるようになりました。
具体的には、画像では、商品購入用の画像や時刻表示用画像、建築物では、博物館やホテル、内装では、店舗の内装や渡り廊下の内装などの登録が可能となりました。
新たに保護対象となった意匠の出願状況については、多くの企業から高い関心が示されているとして、特許庁はサイトで「画像」「建築物」「内装」の意匠登録出願件数を公表しました。
●特許の査証制度、10月1日施行
令和元年改正特許法は2020年4月1日に施行されましたが、施行が未定だった「査証制度」の創設が10月1日施行と決定されました。
査証制度は、裁判所が選定した中立な立場の専門家が、被疑侵害者のオフィスや工場等に立ち入り、特許権侵害の立証に必要な調査を行い、裁判所に報告書(査証報告書)を提出する制度です。
査証による証拠収集は、製品を分解しても分からないような製造方法やプログラム、市場に出回っていないようなBtoB製品、さらには持ち出すことが困難な大掛かりな工場設備などの場合、従来、権利者が入手できなかった証拠が入手しやすくなり、侵害の立証がしやすくなると考えられます。
査証の要件は厳格に設定されており、「侵害行為の立証に必要(必要性)」「特許権侵害の可能性が高い(蓋然性)」「他の手段では証拠が十分に集まらない(補充性)」「相手方の負担が過度にならないこと(相当性)」などが明文化されています。
また、秘密保護の仕組みも含まれ、立ち入りを受ける側からの専門家選定に対する異議申し立て、報告書中の秘密情報の黒塗り、専門家の秘密漏えいに対する刑事罰などが規定されています。
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発行元 : 鈴木正次特許事務所
〒160-0022 東京都新宿区新宿6‐8‐5
新宿山崎ビル202
TEL 03-3353-3407 FAX 03-3359-8340
E-mail:
URL: http://www.suzuki-po.net/
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