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◇◆◇  鈴木正次特許事務所 メールマガジン  ◇◆◇
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2021年2月1日号


  本号のコンテンツ


  ☆知財講座☆

 ■弁理士が教える特許実務Q&A■

(38)発明者の補正


  ☆ニューストピックス☆

 ■病院が建築物として初の意匠登録(三菱地所設計)
 ■特許無効審判など口頭審理をオンライン化(特許庁)
 ■「懲罰的賠償制度」の導入は慎重な意見(特許制度小委員会)
 ■中国で「今治」商標申請、異議申立へ(今治市など)
 ■「マリカー訴訟」、任天堂の勝訴確定(最高裁)
 ■営業秘密を持ち出し転職した元社員を逮捕(警視庁)



 改正意正法により、建築物の外観などの意匠を保護することができるようになり、企業のブランドイメージを高めるような独創的な建築物が意匠登録されています。
 今号では、新たにデザインの保護対象となった「建築物」の意匠登録について取り上げます。

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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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■弁理士が教える特許実務Q&A■

(38)発明者の補正

【質問】
 特許出願の際に願書(特許願)に記載して特許庁へ届け出ていた発明者を訂正したいのですが可能ですか?

【回答】
 特許出願が特許庁に係属している場合であれば、特許出願の際に願書(特許願)に記載した発明者を補正することが可能です。

<出願が特許庁に係属している場合に限り補正可能>
 特許出願の際に願書(特許願)に記載して特許庁へ届け出ていた発明者は、この者が発明を完成させたという事実行為を表明しているものですから特許出願を行った後に補正・訂正を行う必要は生じないということが原則です。
 そこで、従来から、特許出願後の発明者の補正は簡単には行うことができないものとされていますが、特許出願が特許庁に係属している場合に限って補正をすることが許されています
(特許庁 方式審査便覧 21.50
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/hoshiki-shinsa-binran/document/index/21_50.pdf)。
 なお、特許出願が特許庁に継続している場合に限って発明者の補正が認められるので、特許権が成立した後に発明者を訂正することはできません。

<発明者を補正する際に必要な手続>
 特許庁 方式審査便覧 126.70では、以下に説明するような発明者の補正を行う場合に応じて、それぞれ、以下に説明する手続補正書を特許庁に提出することで発明者の補正を行うことができるとしています。
特許庁 方式審査便覧 126.70
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/hoshiki-shinsa-binran/document/index/126_70.pdf

<発明者自体を変更する補正>
 発明者自体を変更する補正としては、例えば、発明者 特許一郎 と願書(特許願)に記載していたものを発明者 発明一郎 に補正する発明者の変更や、発明者として一人しか記載していなかった場合に発明者を複数人に補正する発明者の追加、発明者として複数人を記載していた場合に発明者を一人に補正する等の発明者の削除を行う場合が例示されています。
 いずれの場合でも、発明者の補正を特許庁に届け出る「手続補正書」を特許庁に提出することで補正を行うことができます。
 ただし、上述の「手続補正書」に【その他】の欄を設け、発明者を誤記した原因(例えば、特許出願人の会社担当者が、特許出願を、出願代理人である弁理士に依頼した際に、発明者の氏名を間違って伝えた、等)に言及して、変更(追加、削除)を行う理由を具体的かつ十分に記載する必要があります。
 また、発明者相互の宣誓書(変更前の願書の発明者の欄に記載のある者と補正後の同欄に記載される者の全員分の真の発明者である旨又はない旨の宣誓)を上述した「手続補正書」に対する「手続補足書」に添付して書面で特許庁へ提出する必要があります。
 この発明者相互の宣誓書は、変更前の願書(特許願)の発明者の欄に記載されている者(××××)と、補正後の発明者の欄に記載される者(△△△△と□□□□)の全員分の住所又は居所と氏名とが記載されていて、発明者の相互関係(△△△△と□□□□とが真の発明者であり、××××は発明者ではない旨)が宣誓されているものになります。

<発明者の表示の誤記を訂正する補正>
 例えば、発明者 特許二郎 と願書(特許願)に記載すべきところを、発明者 特許二朗 と誤記していた場合にこの誤記を訂正する補正です。
 発明者の補正を特許庁に届け出る「手続補正書」を特許庁に提出することで補正を行うことができます。
 この際、「手続補正書」に【その他】の欄を設け、発明者を誤記した原因(例えば、特許出願の代理人である弁理士が、願書(特許願)に発明者の氏名を記入した際、漢字が誤変換されていることに気づかず、そのまま特許出願を行ってしまった、等)に言及して、誤記の理由を具体的かつ十分に記載する必要があります。

<発明者の記載順序を変更する補正>
 例えば、複数人の発明者を特許一郎、発明一郎の順で願書(特許願)に記載すべきところを、一番目に発明一郎、二番目に特許一郎と願書(特許願)に記載していた場合に、発明者の記載順序を訂正する補正です。
 発明者の補正を特許庁に届け出る「手続補正書」を特許庁に提出することで補正を行うことができます。
 この際、「手続補正書」には、補正後の発明者の欄に正しい順番で発明者を記載し、【その他】の欄を設けて「発明者の順序の変更(発明者の記載内容に変更なし)。」と記載します。

<特許出願前に願書(特許願)の記載を確認する>
 以上に説明したように、特許出願後であっても、特許出願が特許庁に係属している限り発明者の補正を行うことが可能です。
 しかし、特許出願は、特許出願で特許請求する発明について特許を受ける権利(特許法第33条)を所有している者のみが行うことのできるものです。特許出願を行った特許出願人が特許出願に係る発明について特許を受ける権利を所有していないときには特許出願を拒絶する理由になり、特許権成立後にこれが判明した場合には特許無効の理由になります。
 一方、特許を受ける権利は発明をすることにより生じるもので、原則としては、発明完成時に、当該発明についての特許を受ける権利を、発明者が原始的に取得することになります。
 このため、願書(特許願)に記載している発明者の表示に間違いがあって、特許出願後に補正を行う必要が生じる場合、「特許出願人は、特許出願前に、発明者から、適式に特許を受ける権利の譲渡を受けていたのか?」疑義が生じることがあり得ます。そこで、特許出願を行う代理人弁理士と十分な連絡を取り合って、特許出願前に願書(特許願)の記載を十分に確認しておくことが望ましいです。

<次号の予定>
 特許出願に対して「従来技術に基づいて容易に発明できた」という趣旨の「進歩性欠如」を指摘する拒絶理由を特許庁審査官から受け、拒絶理由の解消を目指して、審査官に再考を求めるべく意見書、補正書を準備する際、拒絶理由の指摘が何を言っているのかよく理解できない、ということがあります。次回は、「進歩性欠如」を指摘する拒絶理由に対応する際のポイントについて説明します。

以上

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■ニューストピックス■

●病院が建築物として初の意匠登録(三菱地所設計)

 三菱地所設計は、改正意匠法により新たな保護の対象となった建築物の意匠として、同社が設計した「ゼロ動線病棟」が、建築物「病院」において国内で初めて登録されたと発表しました。

(意匠登録第1672637号)
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/DE/JP-2020-006760/FD1CE3D807BC909FC0BC7FCB6C805633593880B0768DBF7B77065C237D65BE95/30/ja

 願書の「意匠の特徴」欄〔出願人の記載をそのまま掲載しており、特許庁は内容について審査をしていません。〕には、スタッフステーションと病室が直接接する(隣接)することで看護動線距離が“0”となる、として次のような記載がされています。
 従来の一般的な病院では、我が国の建築基準法等に基づく採光基準を満たすよう、外部(外気)に面した病室が設けられる。これに対し、本願意匠は、建築基準法施行令第20条第2項の規定(いわゆる縁側採光の規定)を用いることで、採光基準を満たしつつ、通常であれば外部となるところに廊下(兼避難経路)を設けた平面計画となっている。また、病院の中央部には、各病室に隣接するようにスタッフステーションが設けられている。このような採光計画及び平面計画に意匠上の特徴がある。

 改正意正法により、建築物の外観などの意匠を保護することができるようになり、企業のブランドイメージを高めるような独創的な建築物が登録されています。病院以外でも、建築物の意匠として、意匠登録第1671773号「商業用建築物」(株式会社ファーストリテイリング)や意匠登録第1671774号「駅舎」(東日本旅客鉄道株式会社)などが登録されています。
https://www.meti.go.jp/press/2020/11/20201102003/20201102003.html

 ビルや店舗の建物だけでなく、工場、倉庫、ホテル、学校、博物館、競技場、商業施設と住居の複合建築物など、あらゆる建築物を登録することが可能です。今後も企業ブランドのシンボルとなるような建物の意匠登録が増えていくと思われます。

◇新規性と創作非容易性(登録要件)◇
 意匠登録が認められるための条件(登録要件)の主なものに「新規性と創作非容易性」があります。

□新規性
 意匠制度は、意匠の創作を奨励し、産業の発達に寄与することを目的とするものであることから、意匠登録の対象となる意匠は、新しい創作がなされたものでなければならず、新規性が要求されます。
 日本国の内外を問わず、意匠登録出願前に、公衆に知られていた意匠や、刊行物に記載されていた意匠、インターネットなどを通じて公衆に利用可能となった意匠は、新規性を喪失していて登録が認められません。また、これらの意匠に類似している意匠も新規性を喪失していて登録が認められません。

□創作非容易性
 出願された意匠の属する分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に創作できる意匠に排他的な権利(=意匠権)を与えると、産業の発展に役立たず、かえってその妨げとなることから、出願された意匠について当業者が容易に創作できる場合は、意匠登録が認められません。
 令和2年(2020年)1月6日時点の情報に基づいて特許庁の審査第一部 意匠課 意匠審査基準室が作成した「〜 令和元年意匠法改正対応 〜 意匠の審査基準及び審査の運用」によれば、自然物(例えば、りんご)をほとんどそのまま「ペーパーウェイト」として表したにすぎない意匠や、公知の乗用自動車の形状をほとんどそのまま「自動車おもちゃ」として表したにすぎない意匠、「エッフェル塔」の形状をほとんどそのまま「置物」として表したにすぎない意匠、公知の「キーホルダー用下げ飾り」と「キーホルダー用金具」を寄せ集めて表したにすぎない意匠などが創作容易で登録を受けることができないものとして例示されています。
〜 令和元年意匠法改正対応 〜 意匠の審査基準及び審査の運用
https://www.jpo.go.jp/news/shinchaku/event/seminer/text/document/isho_text_2019/resume.pdf


●特許無効審判など口頭審理をオンライン化へ(特許庁)

 特許庁は、特許無効審判等の口頭審理をオンライン化する方針です。これまでは当事者が特許庁の審判廷に出向いて公開で行っていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大を契機に非接触・オンライン化を進めます。
 特許の審判には、拒絶査定不服審判や無効審判等がありますが、当事者系審判である無効審判には口頭審理があります。口頭審理は、特許庁の審判廷に呼び出しを受けた当事者及び参加人が出頭して開催されますが、口頭審理をウェブ会議システムを利用してオンライン化できれば、移動時間を含めた金銭的、人的負担が大幅に軽減されます。
 インターネットを通じた公開(傍聴)については、引き続き慎重に検討する必要があるとしています。


●「懲罰的賠償制度」などの導入は慎重な意見(特許制度小委員会)

 産業構造審議会の特許制度小委員会は、報告書「ウィズコロナ/ポストコロナ時代における特許制度の在り方(案)」を公表しました。
 今回はこの中から「懲罰的賠償制度」「侵害者利益吐き出し型賠償制度」について取り上げます。
 特許権を侵害された者を適切に救済し、侵害の抑止を図ることは重要です。そこで小委員会では、損害賠償制度の充実を図る観点から懲罰的賠償制度及び侵害者利益吐き出し型賠償制度について検討してきました。

◇懲罰的賠償制度◇
 小委員会の審議では、侵害者に制裁を加えることを目的とするような懲罰的賠償制度については否定的な意見が多く出され、早期の制度化に向けた検討を進めることには慎重であるべきとして、制度の導入は見送られる方向です。
 具体的には、実施料相当額の算定に当たり相場の倍額の賠償額が認められることが定着するのであれば、あえて懲罰的賠償制度を導入する必要性はないという意見、海外の高額な懲罰的賠償の判決を日本で執行しなければならなくなる可能性があることについて危惧する意見など、制度の導入には慎重な意見が多数を占めました。

◇侵害者利益吐き出し型賠償制度◇
 また、侵害者の手元にある利益を特許権者に取得させる「侵害者利益吐き出し型賠償制度」については、権利保障や侵害抑止の観点から、その導入を求める意見がある一方で、令和元年特許法改正において損害賠償額の算定に係る規定である特許法第102条が見直されたばかりである状況や、同条の考え方について明確化した知財高裁判決が出されたことなどを踏まえ、制度の早期導入には慎重な意見が多数となりました。


●中国で「今治」商標申請に異議申立へ(今治市など)
〜中国での商標先取りの防止〜

 中国の企業が食品や広告の商標として「今治」という文字の登録を申請していたことが分かり、今治市などは対策協議会を開いて、中国の特許庁に対して異議申立を行うことを決めました。
 対策協議会は、中国で去年7月、現地の企業が食品や広告の商標として「今治」という文字の登録を申請したことが分かったことから、今治市と地元の商工会議所などによって設置されました。
 「今治」の文字をめぐっては、これまで「今治タオル」などが中国の特許庁に商標申請されましたが、いずれも今治市などの異議申立や司法手続きが認められ、登録には至っていません。

◆中国における商標登録の原則

 日本も中国も先願主義を採用しているため、原則としては、その国で先に出願した者が権利者になります。「今治タオル」では、第三者が先に中国に出願したため、後から出願した四国タオル工業組合の出願が拒絶されました。
 中国商標法では、中国国内で有名な外国地名は登録できないことになっていますが、日本の都市名は一部の都市を除いて一般的に広く知られているとはいえません。このため、多くの日本の地方都市の名前は中国では「有名な外国地名」に該当せず、登録されてしまう場合があります。
 日本の地名が中国で商標を先取される事態を避けるためには、先に商標を日本側が取得することが有効です。商標出願をしていない場合は、定期的に中国の商標の公報をチェックする必要があります。
 もし、自分の地域の地名商標を見つけたら異議申立期間に手続を行い、登録前に阻止することが重要です。商標の登録後であれば、「取消審判」を請求することができます。
 これらの手続をするためには、できるだけ多くの証拠を収集することが重要です。その地名が中国の公衆に知られていることを証明する資料として、地名が記載された新聞やパンフレットなどの資料などが必要となります。

◆支援制度
 自治体や地域の組合が中国企業や中国人よりも先に商標出願することが重要ですが、海外への出願には多額の費用がかかるため、特許庁やジェトロでは、さまざまな支援制度を整備しています。
 海外企業に自社の商標を先取出願された場合の「冒認商標無効」や「取消係争支援」などの支援制度では、冒認商標を取り消すための異議申立、無効審判請求、取消審判請求に要する費用の一部を補助します。補助率は2/3で、上限額は500万円。

 詳細は、特許庁HP「中小企業等海外侵害対策支援事業」をご参照ください。新年度の募集は、まだ始まっていなので、タイミングを合わせて、支援制度の利用を検討してみてはいかがでしょうか。
https://www.jpo.go.jp/support/chusho/shien_kaigaishingai.html


●「マリカー訴訟」、任天堂の勝訴確定(最高裁)

 任天堂のゲームキャラクター「マリオ」の衣装と公道用カートを貸し出していた東京のレンタル会社に対し、任天堂が「マリカー」という標章の使用禁止と損害賠償を求めた裁判で、最高裁判所は被告側の上告を棄却し、使用差し止めと5000万円の賠償を命じた控訴審判決が確定しました。
 2審の知的財産高等裁判所は、「任天堂のマリオカートやキャラクターは著名で、レンタル会社はそれを不当に利用しようという意図を持って、不正競争行為を行っている」として、マリカーなどの標章の使用を禁止することや、キャラクターの衣装の貸し出し禁止のほか、5000万円の賠償を命じました。
 また、任天堂は、レンタル会社が保有していた商標登録「マリカー」についても、その登録を無効にすることを求めて特許庁に無効審判を請求していましたが、審判では、「マリカーは、ゲームソフト分野のみならず広く一般消費者においても認識されていた」として、商標登録を無効にする審決が下されています。


●営業秘密持ち出し転職した元社員逮捕(警視庁)

 ソフトバンクは、同社を退職し、楽天モバイルに転職した元社員が不正競争防止法違反の容疑で警視庁に逮捕されたと発表しました。
 ソフトバンクの説明によると、元社員は秘密保持契約を締結していたにも関わらず、退職申告から退職までの間に、営業秘密に当たるネットワーク技術に関する情報ファイルを不正に持ち出していたことが判明。不正に持ち出したとされる情報は、4Gや5Gネットワーク用の基地局設備や、基地局同士または基地局と交換機をつなぐ固定通信網に関する技術情報としています。
 ソフトバンクは、近く楽天モバイルに対し、自社の営業秘密の利用停止と廃棄などを目的とした民事訴訟を提起すると発表しました。
 一方、楽天モバイルは、「営業情報を弊社業務に利用していたという事実は確認されていない。5Gに関する技術情報も含まれていない」とするコメントを発表しています。


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最終更新日 '21/12/06