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◇◆◇ 鈴木正次特許事務所 メールマガジン ◇◆◇
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2021年7月1日号
本号のコンテンツ
☆知財講座☆
■弁理士が教える特許実務Q&A■
(43)いわゆるビジネスモデル特許(1)
☆ニューストピックス☆
■「鬼滅の刃」のデザイン3種類が商標登録(集英社)
■脱炭素に向けた各国の知財競争力(エネルギー白書2021)
■改正著作権法が成立
■ワクチン関連の特許出願が増加(欧州特許庁)
◆助成金情報 令和3年度 外国出願補助金(ジェトロ)
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日本貿易振興機構(ジェトロ)では、外国への事業展開を計画している中小企業に対して、国内出願(特許、実用新案、意匠、商標)と同内容の外国出願にかかる費用の半額を助成しています。
本年度の助成金の応募受付が開始されましたので、日本で行った出願をベースに外国での権利化も検討している場合は、ぜひ活用されることをおすすめいたします。
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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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■弁理士が教える特許実務Q&A■
(43)いわゆるビジネスモデル特許(1)
【質問】
「ビジネスモデル特許」という言葉を耳にすることがあります。従来になかった新しいビジネスのやり方について特許を取得できるのでしょうか?
【回答】
新聞・ニュースの報道で「ビジネスモデル特許」という言葉を耳にしますが、これは正確な用語ではなく、特許庁ではビジネス関連発明という用語を使用しています。「ビジネスモデル特許」という用語を用いますと、ご質問のように、「従来になかった新しいビジネスのやり方について特許を取得できるのではないか」と誤解される方がいるようですが、特許権で「従来になかった新しいビジネスのやり方」そのものを保護することはできません。話題になったことがある「いきなりステーキ」の事案を題材にしてこの問題を説明します。
<「ステーキの提供システム」特許>
平成28年(2016年)6月10日に発明の名称を「ステーキの提供システム」とする特許第5946491号が成立しました。
特許第5946491号
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-5946491/52C9F01BF06EBC1B312C4603CB288AFD55C7C382D1892353B71AD76F393F4792/15/ja
この特許に対して特許掲載公報発行後6カ月以内に特許異議申立が提出され、特許庁は異議2016-701090号として審理し、平成29年11月28日に「特許を取り消す」という決定を下しました。
特許取消決定の要旨は、特許第5946491号として成立した「ステーキの提供システム」は、その本質が、経済活動それ自体に向けられたものであり、特許法で保護する対象になっている「発明」に該当しないから、そもそも特許成立すべきではなかった、というものでした。
特許取消決定を受けた「ステーキの提供システム」の発明は次のように表現されているものでした。
A:お客様を立食形式のテーブルに案内するステップと、お客様からステーキの量を伺うステップと、伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップと、カットした肉を焼くステップと、焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップとを含むステーキの提供方法を実施するステーキの提供システムであって、
B:上記お客様を案内したテーブル番号が記載された札と、
C:上記お客様の要望に応じてカットした肉を計量する計量機と、
D:上記お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別する印しとを備え、
E:上記計量機が計量した肉の量と上記札に記載されたテーブル番号を記載したシールを出力することと、
F:上記印しが上記計量機が出力した肉の量とテーブル番号が記載されたシールであることを特徴とする、
G:ステーキの提供システム。
上述の構成要件Aがあることから、「お客様を立食形式のテーブルに案内し、お客様からステーキの量を伺い、伺ったステーキの量を肉のブロックからカットし、カットした肉を焼き、焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステーキの提供」という、飲食店における店舗運営方法、経済活動に特許が成立することはないのだ、とお考えになった方も多かったのではないかと思われます。
ところが、この「ステーキの提供システム」の発明は、上述の構成要件B〜Fをも備えているもので、「『ビジネスのやり方』そのもの」というものではありません。知財高裁ではこの点が考慮されて上述の特許取消決定(平成29年11月28日)が取り消されました。
<「ステーキの提供システム」の特許性を認めた知財高裁判決>
上述の特許取消決定に対して特許権者が不服であるとしてその取り消しを求めた訴訟(平成29年(行ケ)第10232号 特許取消決定取消請求事件)で知財高裁は特許取消決定を取り消しました(平成30年10月17日判決言渡)。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/058/088058_hanrei.pdf
そして、この知財高裁判決に従って、特許庁は異議2016-701090号の審理を再開し、今度は、特許を維持するという判断を下したのです(平成30年12月4日)。
知財高裁の判決及びこれを踏まえた特許庁における特許維持決定の要点は次のようなものでした。
上述の構成要件B〜Dにおける「札」、「計量機」、「シール(印し)」は、特定の物品又は機器(装置)であって、「札」に「お客様を案内したテーブル番号が記載され」、「計量機」が、「お客様の要望に応じてカットした肉を計量」し、「計量した肉の量と札に記載されたテーブル番号を記載したシールを出力」し、この「シール」を「お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別する印し」として用いることにより、お客様の要望に応じてカットした肉が他のお客様の肉と混同することを防止することができるという効果を奏する。
本件特許発明は、札、計量機及びシール(印し)という特定の物品又は機器を、他のお客様の肉との混同を防止して本件特許発明の課題(お客様に、好みの量のステーキを、安価に提供する)を解決するための技術的手段とするものであり、全体として「自然法則を利用した技術的思想の創作」(=特許法が保護する対象である発明)に該当するということができる。
<ビジネスのやり方・方法そのものには特許成立しない>
特許法は産業の発達を法目的にしています。このために、「自然法則を利用した技術的思想の創作」(=特許法が保護する対象である発明)でなければ特許権を付与しないことにしています。
ここで、自然法則とは、例えば、「水は高いところから低いところに流れる」というようなものです。「大気圧(1気圧)下で水に熱を加えていけば100℃で沸騰する」という自然法則を利用した発明であれば、北海道においてであろうが、沖縄県においてであろうが、どこで、誰が行っても、その発明を同じように再現することができます。これによって産業の発達を図ることが可能になります。
一方、自然法則を利用していないもの、例えば、ビジネスの方法、ビジネスのやり方などは、人間同士の間での取り決め、約束事に過ぎませんから、いったん取り決めていた事項、約束事を変更すれば、従前とは異なるものになってしまい、どこで、誰が行っても、同じように再現できるものにはなりません。
そこで、「従来になかった新しいビジネスのやり方」そのものについて特許権を取得することはできないのです。
<「ステーキの提供システム」の特許性はなぜ認められたのか>
特許維持が認められた「ステーキの提供システム」は、「お客様を案内したテーブル番号が記載された札」(構成要件B)と、「お客様の要望に応じてカットした肉を計量する計量機(構成要件C)と、客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別する印し(構成要件D)とを備えています。
そして、構成要件Cの計量機は「計量した肉の量と札に記載されたテーブル番号を記載したシールを出力する」計量機(構成要件E)です。また、構成要件Bの「お客様を案内したテーブル番号が記載された札」は、「計量機が出力した肉の量とテーブル番号が記載されたシール」(構成要件F)です。
このような構成要件B、C、D、E、Fを備えていれば、お客様が要望した量の肉を、当該要望を行ったお客様のテーブルに、間違えることなく届けることができます。
そして、「お客様を立食形式のテーブルに案内し、お客様からステーキの量を伺い、伺ったステーキの量を肉のブロックからカットし、カットした肉を焼き、焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステーキの提供」(構成要件A)を行っている店舗は、日本国内のどこにおいて営業する場合であっても、構成要件B、C、D、E、Fを備えていれば、お客様が要望した量の肉を、当該要望を行ったお客様のテーブルに、間違えることなく届けることができます。
いわば、自然法則が利用されているかのように、発明(ステーキの提供システム)を再現することができるのです。
このような観点から、特許性を認めるという知財高裁及び特許庁の判断がなされています。
<同業他社は同様の方法でステーキ提供できないのか?>
特許第5946491号が有効に存続している下でも、同業他社は、「お客様を立食形式のテーブルに案内し、お客様からステーキの量を伺い、伺ったステーキの量を肉のブロックからカットし、カットした肉を焼き、焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステーキの提供」という営業を行うことが可能です。
特許権の効力が及ぶ範囲に関しては、いわゆる、オールエレメントルールが適用されます。特許第5946491号でいえば、上述の構成要件A〜Gが全部実施されているときにはじめて特許権侵害が成立し、構成要件A〜Gの中のどれか一つでも実施されていなければ特許権侵害は成立しません。
例えば、「お客様の要望に応じてカットした肉を計量する計量機(構成要件C)が出力するシールが「計量した肉の量とテーブル番号を記載したシール」ではなく、「テーブル番号を記載したシール」でしかなく、焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶ従業員がお客様に提供する際に「お客様のご要望の○○○gのお肉です」と口頭でお肉の量を説明する等するならば、構成要件A〜Gの中の一つが実施されていないことになりますから特許権侵害は成立しません。
そこで、特許第5946491号が有効に存続している下でも、同業他社は、同じような形式のステーキ店を特許権侵害することなく実施できます。
<次号>
「重量を計量し、計量した重量と、計量したものに関する特定の情報とが記載されるシールを出力する計量機」というような「特定の物品又は機器」が、発明によって解決しようとしている課題を解決する技術的手段に用いられていることになれば、上述の「ステーキ提供システム」のように、後は、新規性と進歩性という特許要件を満たすことで特許権が成立します。
そこで、「当社のような製造業にビジネスモデル特許は関係ない」などとお考えになっている事業部門でも、いわゆる「ビジネスモデル特許」=ビジネス関連発明についての特許が成立することがあります。次回はこのようなもののいくつかを紹介します。
以上
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■ニューストピックス■
●「鬼滅の刃」のデザイン3種類が商標登録(集英社)
大ヒット漫画「鬼滅の刃」の登場人物が着用している羽織のデザイン3種類が商標登録されました。
漫画の版元である集英社は、2020年6月24日、作品中に登場する6人が身に着けている羽織や着物の柄を対象に商標出願しました。特許庁は、今年6月3日、このうち3種類を商標登録しました。主要キャラクターとして登場する冨岡義勇、胡蝶しのぶ、煉獄杏寿郎(れんごく・きょうじゅろう)が着ている羽織のデザインです。
指定商品は、電子機器関連、アクセサリ関連、文房具関連、かばん関連、被服関連、おもちゃ関連。悪質な便乗商品、違法なコピー商品を阻止する狙いがあります。
一方で、ほかの竈門炭治郎(かまどたんじろう)などが着用していた羽織のデザインは特許庁より拒絶理由通知書が提出されています。
竈門炭治郎の緑と黒の正方形を互い違いに並べた柄に関して、通知書では、「いわゆる『市松模様』の一種と理解されるものですから、全体として、装飾的な地模様として認識されるにとどまり、かつ、その構成中に自他商品の識別力を有する部分を見出すこともできない」として登録を認めませんでした。
商標法では、原則として地模様(模様的に連続反復する図形等)のみからなる商標は、識別力がないという理由で登録を認めていません。
一般的に、服や着物の柄は装飾的な地模様に該当し、登録を拒絶される可能性が高いといえます。
ただし、その地模様によって他の商品と識別できることが認められれば、登録される場合があります。例えば、伊勢丹の紙袋のチェック柄(伊勢丹チェック)は消費者に周知されており、自他商品の識別力があるとして、最終的に商標登録(登録第5241411号)されています。
●脱炭素に向けた各国の知財競争力を分析(エネルギー白書2021)
政府は、「令和2年度エネルギーに関する年次報告」(エネルギー白書2021)を閣議決定しました。
今回の白書では、二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロとする「カーボンニュートラル」実現に向けた14の重点産業分野の「特許競争力」を分析。日本、米国、中国、韓国、台湾、英国、ドイツ、フランスの主要8か国・地域を対象に、過去10年間の各分野における特許数、特許の注目度などを定量化した指標(トータルパテントアセット)をもとに評価を行いました。
それによると、日本は、「水素」「自動車・蓄電池」「半導体・情報通信」「食料・農林水産」の4分野でトップとなりました。また、他の6分野(洋上風力、燃料アンモニア、船舶、カーボンリサイクル、住宅・建築物/次世代型太陽光、ライフスタイル)でも世界第2位または第3位となっており、高い知財競争力を保有していると分析しています。
日本が首位になっている分野について、個別にみると、「水素」と「自動車・蓄電池」は、日本が他国と比較して強い分野と言えますが、両分野において日本の自動車メーカー・自動車部品メーカーが高い知財競争力を持ち、他国企業を大きく離していることが要因となっています。
「半導体・情報通信」については、上位50社中19社を日本企業が占めており、半導体の素材から製造装置、情報通信機器・システムまで幅広い企業が上位に入っています。「食料・農林水産」では、日本の農業用機械の特許が強く、欧米の化学メーカーを抑え上位に入っています。
◇令和2年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2021/pdf/
●改正著作権法が成立
改正著作権法が参院本会議で可決、成立しました。図書館が書籍などの著作物の一部を電子データ化し、メールやファクスで送信できるようにして、図書館に出向かなくてもスマートフォンなどで閲覧できるようにすることなどが盛り込まれました。来年6月までの利用開始を目指しています。
改正法では、メールなどで送信できるのは「著作物の一部分」とし、図書館側に作家らへの補償金支払いも義務付けることで、作家や出版社の利益を確保します。補償金は利用者への転嫁を想定しています。
金額や「一部分」の範囲などの詳細は今後検討します。
●ワクチン関連の特許出願が増加(欧州特許庁:EPO)
欧州特許庁(EPO)がまとめた報告書によると、2020年は欧州での医薬品分野の特許出願件数が前年比10.2%増えるなど、ヘルスケア分野が急成長しました。ワクチン関連の出願が増えたことなどから出願件数は過去2番目の多さとなりました。
2020年に欧州特許庁に出された特許の出願件数は180,250件で、過去最多だった前年に比べると0.7%減少しましたが、過去2番目の多さを維持しています。新型コロナウイルスの感染拡大で企業活動は大きな影響を受けましたが、ワクチンや医療器具関連などの特許出願が増えたことにより、ほぼ横ばいとなりました。
国別に見ると、日本は21,841件で、アメリカ、ドイツに次いで3位となりました。
分野別で最も出願が多かったのが、医療器具やマスクなどの衛生用品を含む「医療技術」部門で14,300件。医薬品やバイオテクノロジー分野も大きく伸びました。
日本からの出願では、クリーンエネルギー関連を含む「電気機械や装置など」が前年比4.6%増、「デジタルコミュニケーション」も10.6%と大幅に伸びました。
◆令和3年度 外国出願補助金(ジェトロ)◆
日本貿易振興機構(ジェトロ)では、中小企業等の戦略的な外国出願を促進するため、外国への事業展開を計画している中小企業等に対して、国内出願(特許、実用新案、意匠、商標)と同内容の外国出願にかかる費用の半額を助成しています。
令和3年度の外国出願補助金の応募受付が開始されました。
【対象事業】既に日本国特許庁に出願済みの特許、実用新案、意匠、商標を活用して、海外展開を図るために外国へ出願する事業
【対象経費】外国特許庁への出願手数料、弁理士費用、翻訳料など
【補助率】補助対象経費の2分の1以内
【補助上限額】
1企業に対する上限額:300万円
案件ごとの上限額:特許:150万円 実用新案・意匠・商標:60万円
【受付期間】令和3年7月21日(水)17:00必着
その他の詳しい要件は、ジェトロHPをご参照ください。
https://www.jetro.go.jp/services/ip_service_overseas_appli.html
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〒160-0022 東京都新宿区新宿6‐8‐5
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E-mail:
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