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◇◆◇ 鈴木正次特許事務所 メールマガジン ◇◆◇
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2021年8月1日号
本号のコンテンツ
☆知財講座☆
■弁理士が教える特許実務Q&A■
(44)いわゆるビジネスモデル特許(2)
☆ニューストピックス☆
■著作権の窓口を一元化へ(知的財産推進計画2021)
■「Yahoo!」の商標権を取得(ヤフー)
■秘密管理性を充足していない顧客情報は営業秘密としては保護されない
(知財高裁)
■特許の標準審査期間は15.0か月(特許庁)
■10月から銀行振込による予納が可能(特許庁)
◆オリンピックと知的財産
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新型コロナウィルスの感染拡大により1年間延期となっていた「東京2020オリンピック・パラリンピック」が開催され、連日、熱戦が繰り広げられています。
そこで今号では、「オリンピックと知的財産」について取り上げてみます。
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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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■弁理士が教える特許実務Q&A■
(44)いわゆるビジネスモデル特許(2)
前回から、いわゆる「ビジネスモデル特許」ついて紹介しています。
前回も説明しましたように、特許庁は、「ビジネス関連発明」という表現を使用していて「ビジネスモデル特許」という表現を使用していません。特許庁によれば、「ビジネス関連発明」とは、「ビジネス方法がICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を利用して実現された発明」のことで、「特許制度は技術の保護を通じて産業の発達に寄与することを目的としています。したがって、販売管理や、生産管理に関する画期的なアイデアを思いついたとしても、アイデアそのものは特許の保護対象になりません」が、「そうしたアイデアがICT(情報通信技術)を利用して実現された発明は、ビジネス関連発明として特許の保護対象となります。」としています。
特許庁HPビジネス関連発明の最近の動向について
https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/sesaku/biz_pat.html
販売管理や、生産管理に関するアイデアをICT(情報通信技術)を利用して実現する発明が、なぜ、新しい「ビジネスモデル」と称されるのか、最近テレビ放送で紹介された例を使って説明します。
特許発明「商品の返品・返却を行うための返品・返却装置」
テレビ放送で紹介されたのは、三菱商事(株)と、(株)ローソンとが2018年に共同で特許出願し、2020年に特許取得した特許第6751112号(発明の名称:商品の返品・返却を行うための返品・返却装置)です。
特許第6751112号
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6751112/65BDF8EDC0AD2E6F13C0FC5CA033C377F770277675D881E9779A7FE325DC7F69/15/ja
特許を取得した発明は次のように表現されています、
「商品の返品・返却を行うための返品・返却装置であって、
コンピュータと、
プリンタと、
を備え、
前記コンピュータは、
前記商品を返品・返却したい消費者が提示する返品・返却予約をしていることを示す返品・返却受付コードを読み取る読み取り部と、 前記読み取り部が読み取った前記返品・返却受付コードを、外部の返品・返却サーバに送信し、前記返品・返却サーバから、前記商品の配送状況を管理するための配送コードを受信する通信部と、
前記返品・返却サーバから送信されてきた前記配送コードを表示したラベルを、前記プリンタに印刷させるプロセッサと、
を具備し、
前記消費者が、印刷された前記ラベルを前記返品・返却に係る商品に貼付することができ、
前記読み取り部が、前記商品に貼付された前記ラベルが表示する前記配送コードを読みとった場合、前記通信部は、前記読み取り部が読み取った前記配送コードを、外部の返品・返却サーバに送信する
ことを特徴とする返品・返却装置。」
返品・返却の手間と、返却コストの軽減を図るビジネスモデル
特許発明は上述したように表現されていますが、テレビ放送では、返品・返却の手間とコストを軽減できる新しいビジネスモデルと紹介されました。
インターネットなどのネットワークを介して、いわゆるEC事業者から購入した商品を、購入後、直ちに、返品したい場合や、レンタルした服、鞄、靴などを返却することがあります。このような場合の返品・返却の手間や、その際の送料負担(返品コスト)は小さくありません。
上述した特許第6751112号の表現の中には「返品・返却の手間」、「送料負担(返品コスト)」というような単語が登場しません。どうして、返品・返却の手間とコストを軽減できる新しいビジネスモデルとして紹介されたのでしょうか。
以下の図は、特許第6751112号に図2として含まれている「商品配送システムの構成を示す説明図」です。この図を参照しながら説明します。
<返品・返却コードの取得>
商品の返品・返却を希望する消費者(ユーザ)は、使用しているスマートフォンからインターネットを介して、EC事業者のウェブサイト(EC事業者サーバ)へアクセスします。返品・返却を希望する旨を入力し、「返品・返却予約をしていることを示す」返品・返却コードを発行してもらい、発行してもらった返品・返却コード(例えば、二次元バーコード情報)をスマートフォンにダウンロードします。
返品・返却コードを発行したEC事業者サーバは、その情報を、返品・返却サービスセンターの返品・返却サーバへ伝えます。
<店舗に商品を持参して返品・返却>
(返品・返却コードの送信と配送コードの取得)
自分が使用しているスマートフォンに返品・返却コードをダウンロードした消費者(ユーザ)は、近所のコンビニエンスストアへ行き、配備されているコンピュータを操作して返品・返却コードを読み取らせます。コンピュータは読み取った返品・返却コードをインターネットを介して返品・返却サーバへ送ります。
返品・返却サーバでは、EC事業者サーバから受け取っていた返品・返却コードと、コンビニエンスストアのコンピュータから取得した返品・返却コードとを照合し、照合確認できたならば、返品・返却品の配送状況を管理するための配送コード(例えば、バーコード情報)を作成し、インターネットを介してコンビニエンスストアのコンピュータへ送ります。
(配送コードを貼り付けた返品・返却品の発送)
配送コードを取得したコンビニエンスストアのコンピュータはそれを、プリンタによってラベル印刷します。
消費者(ユーザ)は、コンビニエンスストアに配備されている箱に返品・返却品を収納し、印刷されたラベルをその箱に貼り付け、コンビニエンスストアのコンピュータによって箱に貼り付けられているラベルに表示されている配送コードを読み取らせます。
コンビニエンスストアのコンピュータが読み取った配送コードはインターネットを介して返品・返却サーバへ送られます。返品・返却サーバは受け取った配送コードをインターネットを介して物流センターに配備されている物流センター端末(コンピュータ)に送ります。こうして、消費者(ユーザ)から預かった、返品・返却品が収納されていて、配送コードが表示されているラベルが貼り付けられている箱の配送状況が管理されます。
<なぜ、返品・返却の手間を軽減できるのか?>
商品などの返品・返却を希望する消費者(ユーザ)は、自分が使用しているスマートフォンからインターネットを介して、EC事業者のウェブサイト(EC事業者サーバ)へアクセスし、「返品・返却予約をしていることを示す」返品・返却コードを発行してもらい、それをスマートフォンにダウンロードします。
あとは、上述したコンピュータと、プリンタと、返品・返却品を収容する箱を備えている店舗(例えば、コンビニエンスストア)へ行き、コンピュータに返品・返却コードを読み取ってもらい、プリンタから出力された配送コードが表示されているラベルを返品・返却品を収容する箱に貼り付けて店舗(例えば、コンビニエンスストア)に預けるだけで済みます。
返品・返却品を送り付ける先(例えば、EC事業者)の住所情報や、返品・返却品を発送する消費者(ユーザ)の住所情報などを送り状などに記入する手間は不要です。このため、送り状などに記入する手間が不要になるだけでなく、個人情報の保護を図ることもできます。
そして、店舗(例えば、コンビニエンスストア)では、上述したコンピュータと、プリンタと、返品・返却品を収容する箱を備えておきさえすれば、店舗従業員が特に対応を行うことなしに、返品・返却品の受付、取り扱いを行うことができます。
<なぜ、送料負担(返品コスト)を軽減できるのか?>
従来の返品・返却の仕組みであれば、消費者(ユーザ)からEC事業者への返品・返却は、直接、運送事業者を介して行われていました。そこで、EC事業者、消費者(ユーザ)のどちらが送料を負担するにしても、送料負担(返品コスト)には小さくないものがありました。
一方、上述の図2によれば、上述したコンピュータと、プリンタと、返品・返却品を収容する箱を配備している店舗(例えば、コンビニエンスストア)に消費者(ユーザ)が持ち込んできた返品・返却品は、店舗から、その店舗に商品を配送・納品している配送トラックによって物流センターに運ばれます。
物流センターから商品を配送・納品することに使用される配送トラックは、物流センターから店舗に向かっているときは満杯ですが、帰りは、空になるのが一般的です。
この配送トラックの空になった、空いているスペースに、消費者(ユーザ)から預かった、返品・返却品が収納されていて、配送コードが表示されているラベルが貼り付けられている箱を積み込んで物流センターまで運びます。
物流センターでは、返品・返却サーバから取得していた配送コードと、配送トラックの空きスペースに積まれてきた箱に貼り付けられているラベルに表示されている配送コードとを照合しながら、EC事業者ごとの受け渡しを手配、管理します。
この結果、EC事業者は、自社向けの返品・返却品が集約されている物流センターからの配送だけを運送事業者に依頼すればよいので、送料負担(返品コスト)の軽減が可能になるというものです。
<ビジネスアイデアが情報通信技術を利用して実現された発明>
特許第6751112号発明は、社会一般のコンピュータと同じく、読み取り部と、通信部と、プロセッサとを備えているコンピュータと、プリンタとだけで構成されています。
ここで、本発明では、
読み取り部は、返品・返却受付コードを読み取る処理と、プリンタが印刷したラベルに表示されている配送コードを読み取る処理を行います。
通信部は、読み取り部が読み取った返品・返却受付コードを返品・返却サーバに送信し、返品・返却サーバから配送コードを受信し、読み取り部が読み取った、プリンタが印刷したラベルに表示されている配送コードを、返品・返却サーバに送信する処理を行います。
そして、プロセッサは、通信部が返品・返却サーバから取得した配送コードが表示されているラベルを、プリンタに印刷させる処理を行います。
読み取り部、通信部、プロセッサを備えている点で世間一般のコンピュータと相違しているところがないコンピュータの読み取り部、通信部、プロセッサが上述した処理を行う点で、特許第6751112号発明は、情報通信技術を利用して実現された発明になります。
そして、コンピュータとプリンタとが配備されている場所を、消費者(ユーザ)が持ち込んできた返品・返却品を収容する箱を備えている店舗(コンビニエンスストア)にし、コンピュータの読み取り部、通信部、プロセッサが上述した処理を行うことで、返品・返却のための送り状作成などの手間が不要になるという、ビジネスアイデアが情報通信技術を利用して実現された発明ということになります。
<配送トラックの帰り便の利用は発明に含まれていない>
店舗(コンビニエンスストア)に物流センターから商品を運んできた配送トラックの帰り便の空いているスペースに、消費者(ユーザ)から預かった、返品・返却品が収納されていて、配送コードが表示されているラベルが貼り付けられている箱を積み込んで物流センターまで運ぶことで、返品・返却コストの軽減が可能になるわけですが、この事情は、特許請求する発明の中に記載されていません。
特許出願の際、特許請求の範囲の各請求項に記載される発明については「特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない」とされています(特許法第36条第5項)。
特許請求する発明の文章の中に「店舗(コンビニエンスストア)に物流センターから商品を運んできた配送トラックの帰り便の空いているスペースを利用する」ことを書き込まなくても、冒頭の発明表現にすることで、「特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべて」を記載したことになるし、第三者が、同じようなビジネスモデルを事業で行おうとすれば、必ず、コンピュータの読み取り部、通信部、プロセッサに、このような処理動作を行わせることになるであろうと思われる事項だけが、冒頭の発明表現に記載されているということになります。
販売管理や、生産管理に関するアイデアをICT(情報通信技術)を利用して実現する発明が、なぜ、新しい「ビジネスモデル」と称されるのかを理解する手掛かりになるのではないかと思われます。
<次号>
次号では、製造業の製造現場で使用される「ICT(情報通信技術)を利用して実現する発明」であることから特許庁の定義によれば「ビジネス関連発明」とされるものについて紹介します。
以上
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■ニューストピックス■
●著作権の窓口を一元化へ(知的財産推進計画2021)
政府は、知的財産に関する施策をまとめた「知的財産推進計画2021」を決定しました。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/chizaikeikaku20210713.pdf
このうち著作権については、権利者不明の著作物や個人がSNSに投稿した動画などの権利処理に向け、著作権処理や利用窓口を一元化する制度を創設する方針が盛り込まれました。著作物を再利用しやすくするとともに、徴収した利用料を権利者へ適正に還元することを目指します。
現在、アニメや音楽などのインターネット配信が拡大していますが、オンライン配信する場合、分野ごとに著作権者の許諾が必要で、権利処理に関する負担が大きくなっています。また、コンテンツの権利者が自らの権利を著作権等管理事業者(集中管理団体)に預けていなかったり、そもそも権利者が不明だったりする場合は、著作物の管理はより困難になっています。
こうした状況を踏まえ、今後、権利者からの委託がない場合や、権利者と連絡が取れない場合でも、著作権者で作る「集中管理団体」が一元的な窓口となり、一括して権利処理を行える制度を創設します。年内に結論を得て、著作権法を改正する方針です。
●「Yahoo!」の商標権を取得(ヤフー)
ヤフーは、日本国内における「Yahoo!」、「Yahoo! JAPAN」の商標権の取得などを含むライセンス契約を米アポロ・グローバル・マネジメントと結んだと発表しました。
「Yahoo!」ブランドは、米通信大手ベライゾン・コミュニケーションズが2017年に米ヤフーを買収して取得し、ベライゾン傘下のネットメディア事業「ベライゾン・メディア」が管理していました。ヤフーは国内で「Yahoo!」ブランドを利用する際は、ライセンス手数料をベライゾンに支払う必要がありました。
今回の契約は、「Yahoo!」関連の商標などを管理する主体がベライゾン社からアポロ社へ移ることを受けたもので、この契約により、ヤフーはこれまでのライセンス契約を終え、関連する商標を日本で取得できるようになりました。
新たな契約によりヤフーは、ロイヤルティなしに、関連する商標・技術などが利用可能になり、機動的な事業展開が可能になるとしています。対価としてヤフーは、1,785億円を支払うとしています。
●秘密管理性を充足していない顧客情報は営業秘密としては保護されない(知財高裁)
まつげエクステンションの専門店を運営するリリーラッシュ社が、元従業員が顧客に関する情報を持ち出した行為などが不正競争行為に該当するとして、損害賠償と行為差止を求めた訴訟で、知的財産高等裁判所は、同社の請求を棄却しました。
令和2年(ネ)第10066号 損害賠償請求、不正競争行為等差止請求控訴事件(原審 東京地方裁判所 平成31年(ワ)第10672号、同第10673号)
https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/444/090444_hanrei.pdf
リリーラッシュ社は、元従業員(被控訴人Y1)に対して、同人がリリーラッシュ社の顧客に関する情報を取得した行為が営業秘密の不正取得であるから不正競争行為に当たるとして、また、被控訴人Y2、Y3らが共同経営するまつげエクステサロンにおいて、上記営業秘密が被控訴人Y1により不正取得されたことを知りながら、又は重過失によりそれを知らないで上記営業秘密を取得、使用等したことについて不正競争行為に当たるとして、被控訴人ら対して損害賠償金の支払を求めるとともに、被控訴人Y2及び同Y3に対してリリーラッシュ社が「顧客情報」と主張するリーラッシュ社の顧客に関する情報の使用の差止め及び廃棄を求めていました。
原審(東京地裁)はリリーラッシュ社の請求をいずれも棄却し、リリーラッシュ社が知財高裁に控訴していました。
知財高裁は、以下のように判断して、リリーラッシュ社の控訴を棄却しました。
「顧客カルテは、その画像が日常的に従業員の私用スマートフォン等に特段の制約もなく記録され続けていたのであり、控訴人の営業期間を通じれば顧客の範囲及びその数は相当多数かつ広範なものに至っているとうかがわれる一方、その漏出、拡散等を防止する格別な手段がとられていたとは認められない。そうすると、このような顧客カルテの利用状況に鑑みて、少なくとも、特に従業員間で共有を図られていたと推察される顧客カルテの施術履歴部分は、不競法に定める秘密管理性の要件を満たしていない。」
「本件施術履歴は、秘密管理性を欠くのであるから、その余の点について判断するまでもなく、営業秘密であるとは認められない。したがって、本件送信行為が営業秘密の侵害に係る不正競争行為に該当する余地はないから、控訴人の被控訴人Y1に対する請求は、理由がない。」
「本件施術履歴は、秘密管理性を欠くため営業秘密とは認められないから、被控訴人Y2及び被控訴人Y3の不正競争行為の前提となる被控訴人Y1の営業秘密不正取得行為は認められず、被控訴人Y2及び被控訴人Y3が、営業秘密不正取得行為が介在したことを知って、又は重大な過失より知らないで営業秘密を取得したり、その取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為をすることもない。」
「以上のとおり、控訴人の請求は理由がないから、控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当である。したがって、本件控訴は理由がない。」
人間の頭の中で考え出され、財産的な価値を生み出す知的な情報(例えば、ノウハウなど)を、特許出願を行うことなしに会社の営業秘密として保護しようとする場合の秘密管理性の重要性を認識させる判決でした。
秘密管理性に関しては経済産業省のホームページに詳しく説明されています。
営業秘密〜営業秘密を守り活用する〜 経済産業省
https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/trade-secret.html
●特許の標準審査期間15.0か月、平均FA期間は10.2か月
〜特許行政年次報告書2021年版〜
特許庁は、知的財産に関する国内外の動向等をまとめた「特許行政年次報告書2021年版」を公表しました。
https://www.jpo.go.jp/resources/report/nenji/2021/index.html
今回は報告書の中から特許、意匠、商標の権利化までの期間と平均FA期間や審判の動向などを取り上げます。
権利化までの期間(標準審査期間、最終処分期間)とは、審査請求日から取下げ・放棄又は最終処分を受けるまでの期間です。
FA(ファーストアクション)期間とは、出願から審査結果の最初の通知(主に特許査定や拒絶理由通知書)が出願人等へ発送されるまでの期間です。
特許の「権利化までの期間」(標準審査期間)は平均15.0か月であり、「一次審査通知までの期間」(平均FA期間)は10.2か月でした。
意匠の「権利化までの期間」(標準審査期間)は平均7.1か月、「一次審査通知までの期間」(平均FA期間)は6.3か月でした。
商標の「権利化までの期間」(標準審査期間)は平均11.2か月、「一次審査通知までの期間」(平均FA期間)は10.0か月でした。
また、2020年の特許審査実績をみると、一次審査件数は222,344件。特許査定件数は164,846件、拒絶査定件数は55,154件、特許登録件数は179,383件となりました。
特許査定率は74.4%でした。
【審判の動向】
2020年における拒絶査定不服審判の請求件数は、特許が16,899件、意匠が367件、商標が742件でした。
拒絶査定不服審判の平均審理期間は、特許は12.2か月、意匠は7.3か月、商標は9.5か月でした。
無効審判については、特許・実用新案では、平均審理期間は12.5か月、意匠では12.7か月、商標では13.7か月でした。
特許・実用新案の訂正審判は、平均審理期間は3.0か月。異議申立ての平均審理期間は、特許では7.4か月、商標では8.6か月であり、商標の取消審判では8.8か月でした。
【特許・商標出願件数】
特許出願件数では、これまで年間30万件を超える水準で推移してきましたが、2020年は288,472件となり、30万件を割り込みました。一方で、国際出願(PCT国際出願)の件数は、2019年まで増加傾向を示しており、2020年は49,314件と前年に比べ4.5%減少したものの、依然として高い水準を維持しています。
商標出願件数は181,072件。内訳は、国際出願は前年比7.8%減の17,924件、それ以外の出願件数は同4.8%減の163,148件となりました。
商標登録件数は、近年は11万件前後で推移していましたが、2020年は135,313件に増加しました。
●10月から銀行振込による予納が可能(特許庁)
特許庁は、10月より銀行振込による特許料等の予納が可能となると発表しました。
特許料や手数料等の納付方法の一つとして、出願人(利用者)が、特許庁に対して一定の金額をあらかじめ納めておくことにより、都度の手続にかかる料金納付に充てることを可能とする「予納制度」がありますが、改正特許法により、特許印紙による予納が廃止されることになりました。
印紙による予納は、利用者が郵便局などで多額の特許印紙を購入し、書面に貼り付け、特許庁に納付する必要があるため、利用者と特許庁双方に大きな事務負担があるといった課題がありました。
今後、特許庁では必要な政省令の改正を行い、10月より銀行振込による予納の受付を開始するとしています。また、これまではオンラインでのみクレジットカード支払いが可能でしたが、今後は、窓口でのクレジットカード支払いも可能となります。
特許印紙による予納は、引き続き利用可能ですが、一定期間ののち(2年程度後を想定)、特許印紙による予納から銀行振込による予納へ一本化される見込みです。
予納制度は存続しますので、既に入金済の予納残高、特許印紙による予納の廃止前に入金した残高及び予納台帳についても引き続き利用可能です。
◆オリンピックと知的財産◆
オリンピックに関連したロゴマークやキャッチコピーを広告や販売促進、ノベルティグッズ等に使用したいと検討している方もいるかしれません。ただ、オリンピックに関するエンブレム、ロゴ、用語、名称をはじめとする知的財産は、商標法、不正競争防止法、著作権法等で保護されており、公式スポンサーでなければ使用することができないため、注意が必要です。
また、商標登録されていない用語等であってもオリンピックを容易に連想させるような表現についても規制対象となっています。例えば、『目指せ 金メダル!』など、オリンピックをイメージする用語をビジネスで使用する行為は、公式スポンサーと誤認を引き起こすとの理由から「アンブッシュ・マーケティング(便乗商法)」ととられ、使用差止めや損害賠償請求の対象となる場合もありますので、注意が必要です。
また、「Tokyo 2020 〇〇〇〇〇」や「〇〇〇〇〇リンピック」のように、伏せ字を利用してオリンピックやパラリンピックを連想させる表現も禁止事項とされています。
このほか、様々な用語も保護対象とされています。オリンピック、オリンピズム、オリンピアン、オリンピアード、パラリンピック、パラリンピアン、「より速く、より高く、より強く」、 聖火/聖火リレー/トーチ/トーチリレー、オリンピック日本代表団選手/パラリンピック日本代表団選手、などです。
また、JOCのスローガン「かんばれ!ニッポン!」は登録商標(商標登録第4481000号)ですので、オリンピック以外でも使用には十分注意する必要があります。
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会では、「大会ブランド保護基準」を示していますので、ご参照ください。
https://gtimg.tokyo2020.org/image/upload/production/ujqwxe8cojnsrmewsbfa.pdf
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