********************************************************************
◇◆◇ 鈴木正次特許事務所 メールマガジン ◇◆◇
********************************************************************
このメルマガは当事務所とお取引きいただいている皆様、または当事務所とご面識のある皆様にお届けしています。
知的財産に関する基礎知識や最新の法改正情報など、実務上お役に立つと思われる情報をピックアップして、送らせて頂きます。
メルマガ配信をご希望でない場合は、誠に恐縮ですが、下記アドレスまでお知らせください。
suzukipo@suzuki-po.net
━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━
2021年9月1日号
本号のコンテンツ
☆知財講座☆
■弁理士が教える特許実務Q&A■
(45)いわゆるビジネスモデル特許(3)
☆ニューストピックス☆
■「知的財産取引に関するガイドライン」公表(中小企業庁)
■「たけのこの里」が立体商標登録(明治)
■発明者の表示、AIは認めず(特許庁)
■人気スマホゲームの特許訴訟で和解(任天堂とコロプラ)
■注目度の高い論文数、中国が1位(科学技術指標2021)
■全体意匠と部分意匠の関連意匠登録例を公開(特許庁)
|
中小企業庁は、「知的財産取引に関するガイドライン(指針)」を公表しました。
ガイドラインでは中小企業と大企業が知的財産に係る取引を行うに当たり注意すべきポイントや契約書のひな形も示しています。
他社との共同開発や業務委託等の契約をする際の参考にしてみてはいかがでしょうか。
┏━┳━┳━┳━┳━┳━┓
┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
┗━┻━┻━┻━┻━┻━┛
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■弁理士が教える特許実務Q&A■
(45)いわゆるビジネスモデル特許(3)
前々回から、いわゆる「ビジネスモデル特許」について紹介しています。
今回は、「ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を利用して実現する発明」という特許庁の定義によれば「ビジネス関連発明」とされるものであって、製造現場で使用されるものを紹介します。
<製造コスト管理装置>
発明の名称を「製造コスト管理装置、製造コスト管理方法および製造コスト管理プログラム」とする特許第6781019号は、物を生産する現場、事業などにおける「ビジネス関連発明」の一つです。
特許第6781019号
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6781019/4FC23336F672CDA25B4CC938725CE4A8CCCC3792BA299BF243D0FC691BF5F13D/15/ja
特許請求の範囲の請求項1「製造コスト管理装置」は次のように表現されています。
(請求項1)
制御部を備える製造コスト管理装置であって、
複数工程を経て最終製造物を製造する場合において、
前記制御部は、
原材料の重量に、所定の要素に応じて各工程ごとに設定される設定歩留まり率を乗じることにより、初工程における製造物の理論重量を算出する理論重量算出手段と、
算出した理論重量に基づく値と、前記最終製造物の重量と、に基づいて、前記最終製造物に関する歩留まりを算出する歩留まり算出手段と、
を備えること、
を特徴とする製造コスト管理装置。
発明内容を説明する明細書の記載によれば、「化学業界、食品業界、鉄鋼業界等を中心とした製造業分野において、最終製造物を製造するに至るまでに複数の製造工程が存在する場合、各工程の歩留まりを把握するためには、各工程についての投入実績(投入値)と出来高(出来高値)を計測しなければならない。しかしながら、業務効率を考慮すると、各工程それぞれについて、実際の製造記録をとることにより、前記投入実績および前記出来高を把握するのは現実的ではない(0016段落)」とされています。
このような中で、特許第6781019号発明は、「初工程の投入実績および最終工程の出来高を予め入力し、さらに、統計情報に基づく初工程における歩留まり情報をもとにして、最終工程の歩留まりを把握でき、これにより、各工程ごとの材料の原価金額を計算できる製造コスト管理装置」を提供可能にしたとされています。
<市販のパソコンで実現される「製造コスト管理装置」>
特許第6781019号発明は「製造コスト管理装置」ということですが、この管理装置は、市販のデスクトップ型パーソナルコンピュータや、市販されているノート型パーソナルコンピュータ、PDA(Personal Digital Assistants)、スマートフォン、タブレット型パーソナルコンピュータなどの携帯型情報処理装置で実現できることになっています。
コンピュータのCPU(Central Processing Unit)などによって請求項1に記載されている「制御部」が実現されます。
この制御部が、
原材料の重量に、所定の要素に応じて各工程ごとに設定される設定歩留まり率を乗じることにより、初工程における製造物の理論重量を算出する理論重量算出手段としての理論重量算出部と、 算出した理論重量に基づく値と、最終製造物の重量とに基づいて、最終製造物に関する歩留まりを算出する歩留まり算出手段としての歩留まり算出部
を構成することになります。
パソコンを上述した「理論重量算出手段としての理論重量算出部」、「歩留まり算出手段としての歩留まり算出部」として機能させるコンピュータプログラムがパソコンにインストールされることで特許第6781019号発明「製造コスト管理装置」が実現されているのです。
<パソコンで製造コストを管理する>
特許第6781019号発明「製造コスト管理装置」を実現しているパソコンに、オペレータが、原材料の重量と、所定の要素に応じて各工程ごとに設定される設定歩留まり率を入力します。
この入力に基づいて、上述した理論重量算出手段が、初工程における製造物の理論重量を算出します。
「例えば、複数工程中におけるA工程に関して、原材料がX軟鋼線材であり、用いる処理剤が酸であり、洗浄方法Yを用いるときは、A工程における設定歩留まり率を90%にするという様に設定することできる」とされています。
設定歩留まり率については、統計情報に基づく各工程の歩留まり率を用いることができるとされています。また、「各要素の組合せから推定される推定値であってもよいし、または、各要素の組合せによって実際にA工程を行うことにより過去に実測した実測値であってもよい。」とされています。
あとは、オペレータが、特許第6781019号発明「製造コスト管理装置」を実現しているパソコンに、最終製造物の重量を入力することで、歩留まり算出手段が、上述の理論重量算出手段が算出している「理論重量に基づく値」を参照して「最終製造物に関する歩留まりを算出する」ことになります。
これによって、「各工程についての投入値および出来高値を実際に計測せずとも、統計情報に基づく各工程の歩留まり率を用いることにより、前記投入値および前記出来高値の理論値を算出し、製造コストを管理できるという効果を奏する。」とされています。
<製造業でもビジネス関連発明は特許成立することがある>
特許庁は「ビジネスモデル特許」という用語を使用しないで、「ビジネス関連発明」という用語を使用しています。そして、「ビジネス関連発明」は「ビジネス方法がICT(情報通信技術)を利用して実現された発明」のことであって、例えば、販売管理や、生産管理に関するアイデアが、ICTを利用して実現された発明になっていて、特許出願の時点で、新規性や進歩性などの特許性を備えているならば特許成立しますとしています(特許庁HPビジネス関連発明とは)。
https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/sesaku/biz_pat.html#anchor1-1
特許庁は、特許出願で特許請求されている発明の技術分野を示す国際特許分類(IPC(International Patent Classification)としてG06Qが付与されている特許出願に係る発明を「ビジネス関連発明」と定義しています。
Gは「物理学」に関する技術分野、G06は「計算または計数」に関し、G06Qは「管理目的、商用目的、金融目的、経営目的、監督目的または予測目的に特に適合したデータ処理システムまたは方法」とされています。
上述した特許第6781019号には国際特許分類G06が付与されていて、2016年11月22日に特許出願され、特許庁で審査を受けたところ一度も拒絶理由が通知されることなく、「拒絶理由を発見できない」として2020年10月19日に特許成立しています。
上述した請求項1記載の発明内容で、2016年11月22日の時点で、新規性、進歩性を備えていると認められたのです。しかも、特許庁での審査の過程で拒絶理由を一度も受けることなく、です。
物の生産などを主たる事業としていることから「ビジネスモデル特許は我が社には関係がない」とお考えになっている製造業の分野でも、パソコンやスマートフォンを用いて生産管理、生産支援、等を行っているならば、それが、「ビジネス関連発明」として特許の種になることがあるかもしれません。
心当たりのある方はこの道の専門家である弁理士にご相談ください。
<次号>
いわゆる「ビジネスモデル特許」ついて紹介は今回でひとまず打ち切りにし、次号では、特許庁が公表している「特許庁関係手続における押印の見直し」について紹介します。
以上
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ニューストピックス■
●知的財産取引に関するガイドライン」を公表(中小企業庁)
中小企業庁は、「知的財産取引に関するガイドライン(指針)」を公表しました。
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/chizai_guideline.html
ガイドラインは、中小企業の知財やノウハウを保護するために作成されたもので、大企業が優越的な立場を利用して中小企業の知財を不正取得するなどのトラブルを防ぐことを目的としています。
具体的には、契約締結前に、相手方の秘密情報を相手方の事前の承諾なく取得又は開示を強要しないことや、相手方の意思に反して、秘密保持契約締結無しに、相手方の秘密を知り得る行為をしないことを求めています。
製造、開発段階に関しては、無償の技術指導・試作品製造等の強制をしないこと、承諾がない知的財産やノウハウ等の利用をしないこと、共同開発の成果は、技術やアイディアの貢献度によって決めることを原則とし、これと異なる場合は相当の対価を支払うことを求めています。
また、特許出願、知的財産権の譲渡、無償許諾に関しては、取引と直接関係のない、または独自に開発した成果について出願等に干渉しないこと、相手方に帰属する知的財産権について、無償譲渡の強要や自社への単独帰属を強要しないこと、また、相手方の知的財産権の無償実施を強制しないことを求めています。
●「たけのこの里」が立体商標登録(明治)
特許庁は明治のチョコレート菓子「たけのこの里」の立体的な形状を商標登録(登録番号6419263号)しました。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2018-071264/512C24D6116DFC2B6C8692BA11B5DE8FF40BB0EC8CEE6A1D5215F828CF07F11C/40/ja
(出典:商標公報:6419263号)
「たけのこの里」は、円すい形のクッキーにチョコレートをかけた形状で、1979年の発売以来、40年以上続いている人気商品です。
立体商標は、立体的な形状についても商品やサービスを識別する機能があるものとして商標登録を認めるという制度です。
今回の登録により、「たけのこの里」がチョコレート菓子の中でも特別な形状であり、消費者に「見ただけでたけのこの里だと分かる」識別力を有していると証明できたことになります。
また、姉妹商品である「きのこの山」は、2018年3月に立体商標登録(登録番号6031305)されています。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2017-081777/485C5C2E09DC93A0EC9A5858953D83C207841C1FFE1313602675F5AA3C79A5DB/40/ja
●発明者の表示、AIは認めず(特許庁)
特許庁は、発明者の表示について、人工知能(AI)等を含む機械を発明者として記載することは認めていないと発表しました。
特許庁は、特許出願の願書の「発明者」の欄には、発明をした自然人の氏名を記載すべきものとして取り扱っています。
海外ではAIを発明者として認める司法判断が示されているケースがあります。これに対し、特許庁は発明者の表示は、自然人に限られるものと解しており、「願書等に記載する発明者の欄において自然人ではないと認められる記載、例えば人工知能(AI)等を含む機械を発明者として記載することは認めていない」と通知しています。
発明者の欄に自然人以外の名称を記載してしまった場合は、「願書等の記載事項に不備があるものとして、手続に方式上の違反がある場合に該当することから、相当の期間を指定して手続の補正をすべきことを命じます」としています。
●人気スマホゲームの特許訴訟で和解成立(任天堂とコロプラ)
スマートフォン向けの人気ゲーム「白猫プロジェクト」をめぐり、任天堂が特許権を侵害されたとして、ゲームを開発したコロプラに損害賠償を求めていた裁判で、コロプラは、約33億円を支払うことで和解したと発表しました。和解に伴い、任天堂は訴訟を取り下げました。
任天堂は、コロプラの配信ゲーム「白猫プロジェクト」でタッチパネルの操作技術など計6件の特許権を侵害されたとして、約97億円の損害賠償とゲームの配信停止を求める訴訟を東京地裁に起こしていました。
コロプラは「和解による早期解決を図ることが最善であると判断した」とコメントしていて、ゲームの配信は今後も続けるとしています。
●注目度の高い論文数、中国が1位(科学技術指標2021)
文部科学省の科学技術・学術政策研究所(NISTEP)は、世界主要国の科学技術に関する研究活動を分析した「科学技術指標2021」を公表しました。
それによると、日本は、研究開発費、研究者数はともに主要国(日米独仏英中韓の7か国)の中で第3位、論文数(分数カウント法)は世界第4位、パテントファミリー(2か国以上への特許出願)数では世界第1位で、昨年と同じ順位となりました。
他の論文に多く引用される「注目度の高い論文」をみると、1位は中国の約4万200本で、シェア24.8%。昨年1位だった米国の約3万7100本、22.9%を抜いて初めてトップに立ちました。米中両国で半分近いシェアを占めています。日本は約3800本、2.3%で、インドに抜かれて昨年の9位から10位に後退しました。
●全体意匠と部分意匠の関連意匠登録事例を公開(特許庁)
特許庁は、「物品等の全体と部分の間の関連意匠登録事例」を公表しました。
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/design/buppin.html
登録事例では、物品等の全体について意匠登録を受けようとする意匠と、物品等の一部について意匠登録を受けようとする意匠の間で、本意匠・関連意匠として登録されたものの中から、意匠の類否について参考となるものを紹介しています。
意匠制度には、関連意匠制度と部分意匠制度があります。関連意匠制度とは、一つのコンセプトから創作された複数の「バリエーション」の意匠について一群として保護するという制度です。ある意匠を本意匠と定め、その本意匠に類似する意匠を関連意匠として意匠登録することができます。
これらの意匠制度は、相互間の類否判断が難しくなります。そのため、全体意匠と部分意匠の関連意匠戦略を検討する際に、登録事例集は参考になると思われます。
********************************************************
発行元 : 鈴木正次特許事務所
〒160-0022 東京都新宿区新宿6‐8‐5
新宿山崎ビル202
TEL 03-3353-3407 FAX 03-3359-8340
E-mail:
URL: http://www.suzuki-po.net/
********************************************************
本メールの無断転載はご遠慮下さい。
本メールマガジンの記載内容については正確を期しておりますが、弊所は、利用される方がこれらの情報を用いて行う一切の行為について責任を負うものではありません。