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◇◆◇  鈴木正次特許事務所 メールマガジン  ◇◆◇
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2021年10月1日号


  本号のコンテンツ


  ☆知財講座☆

 ■弁理士が教える特許実務Q&A■

(46)特許庁関係手続における押印の見直し


  ☆ニューストピックス☆

 ■「マツモトキヨシ」の音商標認める(知財高裁)
 ■特許無効審判等の口頭審理、「オンライン出頭」が可能に
 ■ビジネス関連発明、分野別の出願動向(特許庁)
 ■中国と台湾がTPPに加入申請
 ■知財侵害の輸入差し止め67%増(財務省)
 ■特許庁への手続き、旧氏(旧姓)併記が可能に


 特許法等改正に伴い、10月1日から特許無効審判等の口頭審理で、当事者が審判廷に出向くことなく、オンラインで手続を行うことが可能になりました。
 口頭審理をオンライン化することで出頭の必要がなくなり、審判の当事者は、移動時間を含めた金銭的、人的負担が大幅に軽減されることになりました。
 今号では、口頭審理の「オンライン出頭」について取り上げてみます。


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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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■弁理士が教える特許実務Q&A■

(46)特許庁関係手続における押印の見直し

【質問】
 デジタル庁が設置され、行政手続においてこれまで義務化されていた押印や、書面化で廃止されるものがあると聞きました。特許庁に対する手続においても何か変更はあるのでしょうか?

【回答】
 新型コロナウイルス感染拡大防止・予防のための新しい生活様式への移行や、デジタル社会への対応、行政手続の更なる利便性向上が要請されている下で、特許庁においても一部の手続を除き押印が不要になりました。特許庁が公表している「特許庁関係手続における押印の見直し」を紹介します。

<規制改革実施計画(令和2年7月17日閣議決定>
 「特許庁関係手続における押印の見直し」は、昨年7月17日の閣議決定「規制改革実施計画」を踏まえています。閣議決定「経済財政運営と改革の基本方針 2020」における「書面・押印・対面主義からの脱却」には概略次のように記載されています。

書面・押印・対面主義からの脱却等
 書面・押印・対面を前提とした我が国の制度・慣行を見直し、実際に足を運ばなくても手続できるリモート社会の実現に向けて取り組む。このため、全ての行政手続を対象に見直しを行い、原則として書面・押印・対面を不要とし、デジタルで完結できるよう見直す。また、押印についての法的な考え方の整理などを通じて、民民間の商慣行等についても、官民一体となって改革を推進する。行政手続について、所管省庁が大胆にオンライン利用率を引き上げる目標を設定し、利用率向上に取り組み、目標に基づき進捗管理を行う。

<特許庁関係手続における押印の見直しについて>
 上述した閣議決定に基づいて、経済産業省特許庁は、昨年12月28日、特許庁関連の手続を規定する特許法施行規則等を含む「押印を求める手続の見直し等のための経済産業省関係省令の一部を改正する省令」を公布・施行しました。これにより一部の手続を除き押印が不要となりました。
 その後、本年6月11日、特許登録令を含む「押印を求める手続の見直し等のための経済産業省関係政令の一部を改正する政令」及び「特許登録令施行規則等の一部を改正する省令」が公布され、本年6月12日以降に特許庁に提出する書面において押印が不要となった手続が拡大しました。
 詳しくは特許庁のHP「特許庁関係手続における押印の見直しについて」で紹介されていますが、「押印の見直しの考え方と全体像」は次のように紹介されています。
特許庁関係手続における押印の見直しについて
https://www.jpo.go.jp/system/process/shutugan/madoguchi/info/oin-minaoshi.html

 今回の見直しにより690種の書類について押印が不要になりました(令和2年12月に廃止:666種、追加して令和3年6月に廃止:24種)。特許庁のHPには上掲の図表のように押印を存続する33種の手続が列記されているだけで押印廃止となった書類690種は列記されていません。
 押印を存続する33種の手続は「偽造の被害が大きい手続」という観点から選定されているようです。

<従来通りに押印した書類での提出も可能>
 押印が不要になった書類に関しては「押印又は識別ラベルの貼付の欄」が存在していない新しい書式を用いて、押印を行わずに特許庁へ提出することになりますが、「令和2年12月28日の施行日後当分の間は旧様式又は旧書式での手続も認められます。 旧様式又は旧書式による手続書面に対しては、旧様式又は旧書式であることを理由にして補正が命じられることはありません。」と特許庁は説明しています。

<代理人弁理士に対する委任状への押印>
 特許出願、意匠登録出願、商標登録出願、等や、拒絶査定不服審判請求、等の特許庁への手続を代理人弁理士に委任する際の委任状については、令和2年12月28日以降、押印は不要になりました。
 また、出願人名義変更、等の権利の移転関係手続についても特許庁へ提出する委任状への押印は、令和3年6月12日以降、不要になりました。
 なお、「委任状は、委任者と受任者の間の合意の下、作成されるべきものであり、かつ、代理人が自己の責任において提出することになるため、特許庁は、これを真正な委任状として受理することになります。」という説明で、「委任状の記載事項は、委任者の個人名・代表者名も含めて、全て印字(タイプ印字を含む)でよいことになった」とされています。
 また、特許庁は、「代理人が提出する委任状は、委任者と受任者の間で合意し、作成されたものとして、疑義がない限り、(押印の無い委任状や、外国人(外国に住む日本人)の場合の署名の無い委任状)を真正な委任状として取り扱います。」とされています。
 そこで、代理人弁理士からは、従来通り、特許庁提出用に、捺印した委任状の提供が要請されることがあると思われます。

<特許出願人名義変更の際の証明書>
 特許出願を行った後に、当該特許出願に係る発明についての特許を受ける権利を他者に譲り特許出願人の名義変更を行う、あるいは、単独の特許出願であったものについて特許を受ける権利の一部を他者に譲って共同の特許出願にする特許出願人名義変更を行うことがあります。
 このような場合には、特許出願に係る発明についての特許を受ける権利を他者に譲ることを証明する「譲渡証書」を作成し、特許庁へ提出する「特許出願人名義変更届」に添付する必要があります。
 この「譲渡証書」については従来通り押印が必要とされています。
 この際に使用する印鑑については「令和3年末までは、(捺印済の包括委任状を既に特許庁へ提出済、等の事情で、特許庁が届出印を把握している場合は)届出印での手続が可能ですが、令和4年1月1日以降は、求められた場合に印鑑証明書が提出できない印鑑の使用ができません。」とされています。
 そこで、令和4年1月1日以降、上述した「譲渡証書」を作成していただく場合には実印で押印していただく必要があり、場合によっては、その実印についての印鑑証明書(発行日から3カ月以内)をご準備いただくことになるかもしれません。

<登録に関する証明書についての実印での押印>
 特許庁が公表している「登録に関する申請書及び添付書面への押印について」 によれば、本年6月12日に施行された改正特許登録令及び特許登録令施行規則等により、権利の移転等に関する手続に必要な書面には全て本人確認が可能な「実印」又は「実印により証明可能な法人の代表者印」の押印が必要になりました。
登録に関する申請書及び添付書面への押印について
https://www.jpo.go.jp/system/process/toroku/iten/sonota/oin.html
 権利の移転等に関する手続に必要な書面の一例としては、特許権成立後に特許権を譲渡して名義変更を行う際に必要になる「譲渡証書」があります。
 上述した特許出願中の「特許出願に係る発明についての特許を受ける権利」についての譲渡証書と同様に、実印で「譲渡証書」を作成していただく必要があり、場合によっては、その実印についての印鑑証明書(発行日から3カ月以内)をご準備いただくことになるかもしれません。

<次号>
 自社の製品を展示会で公表したり、実際に販売開始した後であっても1年以内に所定の手続を伴った特許出願を行えば「新規性を喪失していない」ものとして例外的に取り扱われます。それでは、自社が行った特許出願の内容が出願後18カ月経過して特許庁から特許出願公開された事実についても新規性喪失の例外として取り扱ってもらえるのか?次号ではこのようなご質問に対して回答します。

以上

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■ニューストピックス■

●「マツモトキヨシ」の音商標認める(知財高裁)

 テレビCMなどで使用されている「マツモトキヨシ」の音商標出願(商願2017−7811)が「他人の氏名が含まれる」などと登録を拒絶されたとして、ドラッグストア大手・マツモトキヨシホールディングスが、特許庁の審決取り消しを求めた訴訟で、知財高裁は、マツキヨ側の主張を認める判決を言い渡しました。
 商標法は「他人の氏名」を含む商標を、同姓同名の他人の承諾なしには登録できないと定めています。音商標は2015年に導入され、マツキヨは17年に出願しましたが、特許庁は、電話帳「ハローページ」に「マツモトキヨシ」と読む別人が複数掲載されていることなどを理由に商標登録を拒絶していました。
 これに対し、知財高裁は、マツキヨの音商標は「『マツモトキヨシ』の広告宣伝(CMソングのフレーズ)として広く知られていた」と認定。「通常、容易に連想、想起するのはドラッグストアの店名としての『マツモトキヨシ』であって、普通は、『マツモトキヨシ』と読まれる人の氏名を連想するものと認められない」として、マツキヨの音商標は「他人の氏名」を含む商標に該当しないと判断しました。


●無効審判等の口頭審理、「オンライン出頭」が可能に(特許庁)

 特許法等の改正に伴い、10月1日より審判の口頭審理において、当事者等が審判廷に出頭することなく、オンラインで手続きを行うこと(オンライン出頭)が可能になりました。  本改正により、新型コロナウイルス感染症の影響を受けずに口頭審理が開催可能になるとともに、デジタル化に対応するため、審判長の判断により審判廷に出頭することなく、当事者がウェブ会議システムを通じて口頭審理に関与できるようになりました。
 これにより当事者は移動時間を含めた金銭的、人的負担が大幅に軽減されます。
 オンラインでの出頭が認められる例としては、当事者・参加人のいずれかが希望し、審判長が認めた場合や感染対策のために審判長が必要と判断した場合があげられています。 オンライン出頭は、すべての当事者がオンラインで関与する場合だけでなく、一部が審判廷に出頭し、一部がオンラインで関与することも認められます。
 また、複数の者が、代理人事務所、出願人企業の会議室、自宅など、複数のそれぞれ異なる場所からオンラインで関与することもできます。
 証拠の原本や現物の確認を必要とする場合は、審判廷への出頭が必要(一部の者の出頭でも可)となります。


●ビジネス関連発明、分野別の出願動向(特許庁)

 特許庁はビジネス関連発明の最近の動向についての調査結果を公表しました。
https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/sesaku/biz_pat.html

 ビジネス関連発明とは、ビジネス方法がICT(情報通信技術)を利用して実現された発明で、いわゆる「ビジネスモデル特許」とも呼ばれています。
 販売管理や生産管理に関する画期的なアイデアを思いついたとしても、アイデアそのものは特許の保護対象になりませんが、そうしたアイデアがICTを利用して実現された発明は、ビジネス関連発明として特許の保護対象となります。
 分野別のビジネス関連発明の出願件数の推移をみると、2019年に出願されたビジネス関連発明のうち上位を占めるのは、以下の3分野です。

@サービス業一般(宿泊業、飲食業、不動産業、運輸業、通信業等)
AEC・マーケティング(電子商取引、オークション、マーケット予測、オンライン広告等)
B管理・経営(社内業務システム、生産管理、在庫管理、プロジェクト管理、人員配置等)

 「サービス業一般」には、近年流行しているカーシェアリングサービスや民泊ビジネス等が含まれ、スマホやオンライン上で提供されるサービスの多様化を反映していると考えられます。
 「EC・マーケティング」の出願増加は、フリマアプリやネットオークションを含む電子商取引の隆盛と、それに伴うマーケティングや広告ビジネスの活発化が要因と考えられます。
 2015年以降、特に高い伸び率を示しているのは「管理・経営」であり、社内の業務システムや在庫管理の最適化に人工知能(AI)を活用する発明が代表例としてあげられます。
 第一次、第二次産業関連は、件数自体は少ないのですが、2013年から2019年にかけて2倍程度に出願が増加しており、幅広い分野でICTを活用した課題解決が図られている傾向がうかがえます。
 また、ビジネス関連発明の特許出願件数は、近年増加傾向にあり、2019年は10,769件の出願がありました。スマートフォンやSNSの普及に加え、AI、IoT技術の進展により、ICTを活用した新たなサービスが創出される分野(金融分野など)が拡大していることも出願増加の要因として考えられます。


●中国と台湾がTPP加入を正式に申請

 中国と台湾が、日本をはじめとする11カ国が参加するTPP(環太平洋経済連携協定)への加盟を相次ぎ正式申請しました。
 中国は米国が脱退したTPPに加わることで、成長が続くアジア太平洋地域の通商分野で影響力を高める狙いがあるとみられます。
 台湾はTPPに加盟することで、中国への経済依存度を引き下げる狙いがあります。仮に中国の加入が実現した場合、台湾の参加は事実上不可能となるため、申請を急いだ可能性もあります。中国は台湾の加盟申請に反発しています。
 中国と台湾がTPPに加入するには、知的財産権の保護、国有企業の優遇制限など、TPP協定が定める厳格なルールを順守することが前提となります。
 TPPの対象となる知的財産に関する項目としては、「特許」「商標」「意匠」「著作権」「医薬品の保護」「地理的表示」等が規定されています。
 データを扱う電子商取引などの分野でもルールを定めています。
 例えば、ある国が外資企業に対しサーバーを自国内に設置することを義務付けることやソフトウエアの設計図にあたる「ソースコード」の開示要求を禁止しています。
 また、知的財産権の行使に関する事項として、WTO・TRIPS協定(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)、ACTA(偽造品の取引の防止に関する協定)と同等またはそれを上回る規範を導入することが記載されています。
 参加申請への今後の対応について、日本政府は、「中国がTPPの高いレベルのルールを守れるのか見極める必要がある」と慎重な立場で、加入交渉手続きを始めるかどうか、加盟各国と協議するとしています。


●知財侵害の輸入差し止め67%増(財務省)

 財務省は、2021年1?6月に知財侵害で全国の税関で差し止められた輸入品が前年同期比で67.2%増えたと発表しました。
https://www.mof.go.jp/policy/customs_tariff/trade/safe_society/chiteki/cy2021_1/index.html

 輸入差止件数は14,600件と前年同期比で5.0%の減少となりましたが、輸入差止点数は460,764点で、前年同期と比べて67.2%増と大幅に増加しました。 地域別の輸入差止件数では、中国が全体の80.3%(11,721件)を占め、引き続き高水準で推移しています。ベトナムやフィリピンも増えました。
 輸入差止件数14,600件のうち、偽ブランド品などの商標権侵害物品が構成比96.3%(前年同期比5.3%減)、次いで著作権侵害物品が2.1%(同42.1%増)。意匠権侵害物品が構成比1.1%、特許権侵害物品が構成比0.5%と前年より増加しています。
 品目別ではイヤホンなど電気製品が17.5%と最も多く、人気アニメ「鬼滅の刃」関連の偽グッズなどの差し止めも大幅に増加しました。


●特許庁への手続き、旧氏(旧姓)併記が可能に

 近年、住民票やマイナンバーカード、運転免許証、旅券等の公的証明書の旧氏併記を認めていることなどから、特許庁への手続においても氏名欄への旧氏の併記が10月からできるようになりました。
 具体的には、特許庁に提出する全ての書類を対象に、発明者、出願人、審判当事者等の氏名欄において、次のように、旧氏を併記(括弧書きで記載)することが可能になりました。

【特許出願人】
【住所又は居所】 東京都千代田区霞が関3−4−3
【氏名又は名称】 特許(実用) 太郎

 2021年10月1日前にした出願であっても、手続補正書を提出することにより願書の「発明者」等の欄を補正することができます。ただし、出願が特許庁に係属している場合に限られます。設定登録後に、発明者等を補正することはできないので、注意が必要です。
 これまでは、婚姻等により姓が変わってしまうと、発明者や出願人の同一性を確認する手間がかかりましたが、10月1日施行の特許法等の改正に伴い、旧姓を表示することができるので、その手間が省けることになります。


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最終更新日 '22/02/10