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2022年1月1日号


  本号のコンテンツ


 ☆知財講座☆

 ■弁理士が教える特許実務Q&A■

(49)実用新案登録に基づく特許出願(1)


 ☆ニューストピックス☆

 ■4月1日より訂正審判等の通常実施権者の承諾不要に
 ■1月から新たな公報システムによる公報を発行(特許庁)
 ■音楽機器のズームが米Zoomを商標権侵害で提訴
 ■編み物のユーチューブ動画、削除申し立てで賠償命令
 ■特許庁と農林水産省がコラボ動画を公開



 新年明けましておめでとうございます。 
 本年も、さらなる知財サービスの向上に努めて参りますので、より一層のご支援、お引立てを賜りますよう、お願い申し上げます。

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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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■弁理士が教える特許実務Q&A■

(49)実用新案登録に基づく特許出願(1)

【質問】
 特許ではなく実用新案登録で十分と考えて実用新案登録を受けたのですが、「実用新案権では権利行使が難しい」といわれました。この実用新案登録を特許に変更できないでしょうか?

【回答】
 実用新案登録出願の状態から特許出願へ変更することは従来から認められています。現状では、実用新案登録に基づいて特許出願を行うことが可能になっています。今回は、実用新案登録に基づく特許出願を検討するようになる事情がなぜ発生するのか説明し、次号で、実用新案登録に基づいて特許出願を行う際の注意点を説明します。

<実用新案で保護される考案は発明として特許でも保護される>
 特許法では、保護する対象を「発明」とし、「発明とは自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義しています(特許法第2条第1項)。
 実用新案法では、保護する対象を「考案」とし、「考案とは自然法則を利用した技術的思想の創作」と定義しています(実用新案法第2条第1項)。
 なお、実用新案では、「考案」の中でも「物品の形状、構造又は組み合わせに係る考案」しか保護されないことになっています(実用新案法第1条)。このため、「材」、「剤」などの「物質」や、「方法」などは実用新案では保護されません。
 上述したように、「発明」の定義に「高度のもの」という文言が含まれ、「物品の形状、構造又は組み合わせに係る考案」しか実用新案登録の対象にならない理由は、特許制度、実用新案登録制度が創設された明治時代に遡る歴史的経緯によります。
 「自然法則を利用した技術的思想の創作」を保護することで産業の発達を図るべく、明治時代に、特許制度を創設した際、「物品に関する技術的な特徴などちょっとした工夫が産業上役立つことも多く、また、日常生活の便宜を増大することから、いわゆる小発明(考案)を保護するために」、特許制度と共に設けられたのが実用新案制度です(2021年度知的財産権制度入門テキスト 実用新案制度の概要)。
 なお、特許要件、登録要件としての進歩性(出願前に知られていた事項に基づいて当業者が簡単・容易に発明・考案できたものではない)のレベルに関しては、現状では、「発明」と「考案」との間に相違を設けない取り組みになっています。日本のように技術が進んでいる国で「自然法則を利用した技術的思想の創作」を保護する際に、「容易に創作できた」あるいは、「きわめて容易に創作できた」と二重の基準(ダブルスタンダード)で臨むことは好ましくないと考えられているからです。
 上述したように、「自然法則を利用した技術的思想の創作」という点で、特許で保護される「発明」と、実用新案で保護される「考案」とは同じです。特許では保護される「物質」や「方法」などが実用新案では保護されないというだけなので、実用新案で保護の対象になる「考案」は、必ず、特許で保護される対象の「発明」になります。

<実用新案制度と特許制度との違い>
 上述したように保護する対象に共通性がありますが、いわゆる小発明を簡易に保護するという実用新案制度の趣旨から、「物質」や「方法」などが実用新案では保護されないというだけでなく、両制度の間に大きな相違があります。
 以下は、特許庁のウェブサイトに掲載されている2021年度知的財産権制度入門テキストの I 概要編、第2章 産業財産権の概要、第2節 実用新案制度の概要 [1]実用新案制度の目的と保護対象に掲載されている「実用新案制度と特許制度の違い」です。

https://www.jpo.go.jp/news/shinchaku/event/seminer/text/document/2021_nyumon/1_2_2.pdf

 上掲の図に記載されているように、実用新案は小発明を簡易に保護するという観点から、権利存続期間が出願日から10年を越えないところ、特許権では、原則として、出願日から20年を越えない期間にわたって保護を受け得る等の相違が特許制度と実用新案制度との間に存在しています。この他に、両制度の間には、以下に説明する大きな相違が存在しています。

<無審査登録制度(実用新案法第14条)>
 特許では特許出願人などから提出された審査請求により、特許庁審査官が審査を行って、新規性、進歩性、等の登録要件を満たしていると認められたものに対してのみ特許権が付与されます。これに対して、実用新案では新規性、進歩性などの登録要件を審査せずに実用新案権を付与する無審査登録制度が採用されています。
 新規性、進歩性などの登録要件を審査することなしに実用新案権が付与される実用新案登録出願の流れは以下のようになっています。

2021年度知的財産権制度入門テキスト 出願から実用新案権取得までの流れ

<実用新案技術評価制度(実用新案法第12条)>
 実用新案権は、特許権と同じく、権利侵害者に対して差止請求(実用新案法第27条)や、損害賠償請求(民法第709条、実用新案法第29条)することのできる独占排他権です(実用新案法第16条)。
 上述したように、新規性、進歩性、等の登録要件についての審査を受けることなしに付与されている実用新案権にこのような強い効力が認められていることから、実用新案権者には、権利行使にあたって、より高度な注意義務が課されます。実用新案技術評価書が作成される実用新案技術評価制度はこの目的で創設されています。
 特許庁へ提出された請求に基づいて、審査官が、実用新案登録に係る考案の有効性(新規性、進歩性などの登録要件を具備しているものであるかどうか)について評価を行って作成し、請求人へ届けるものが実用新案技術評価書です。
 特許庁の審査官が作成している実用新案技術評価書は、実用新案権の有効性に関する客観的な判断材料になります。
 実用新案権者が「実用新案権侵害を行っている」と認める者に対して実用新案権侵害差止請求訴訟を提起する等の権利行使する場合には、無審査で付与されている実用新案権の濫用を防止し、第三者に不測の不利益を与えることを回避するという観点から、実用新案技術評価書を提示して警告した後でなければなりません(実用新案法第29条の2)。
 「この規定に反し、実用新案技術評価書を提示せずに行った警告は、有効なものとは認められず、その状態で侵害訴訟を提起しても、直ちに訴えが却下されるわけではないが、評価書が提示されない状態のままでは、権利者の差止請求、損害賠償請求等は認容されないものと解される」とされています(工業所有権法逐条解説)。

<無過失賠償責任(実用新案法第29条の3)>
 実用新案権者が権利行使(例えば「警告書」送付)した場合であって、権利行使を受けた側などが実用新案登録無効審判を請求し、特許庁の審理で実用新案登録が無効にされ、その審決が確定した場合には、実用新案権者は、権利行使を受けた側が被った損害を賠償しなければなりません(実用新案法第29条の3)。いわゆる、無過失賠償責任を負わなければならないという規定です。なお、実用新案権者が、「実用新案技術評価書」の評価(登録性を否定する旨の評価を除く。)に基づき権利を行使したときや、その他相当の注意をもって権利を行使したときは上述の無過失賠償責任を免れると考えられています。
 特許庁審査官が審査を行った上で付与されている特許権に基づいて警告書送付、特許権侵害差止請求訴訟の提起などを特許権者が行う場合、このような無過失賠償責任を負う必要はありません。

<実用新案登録から特許出願への変更を希望することになる事情>
 実用新案と特許との間では保護対象が共通していることから、従来から、いったん実用新案登録出願したものを、その出願が特許庁に係属している間に特許出願へ変更することが認められています。
 しかし、無審査登録の実用新案では、実用新案登録出願については、出願料や1〜3年分の登録料が納付されている等の方式的事項や、実用新案登録請求の範囲に記載されていて保護が求められている「考案」が、そもそも、実用新案登録の対象にしている「物品の形状、構造又は組み合わせに係る考案」であるか等の基礎的な事項についてのみ審査され、これらが満たされている実用新案登録出願に対しては、直ちに、登録が認められます。
 このため、実用新案登録出願後2カ月程度で登録になって実用新案権が成立することが一般的です。
 そこで、従来から認められている実用新案登録出願から特許出願への変更は、実用新案登録出願後2カ月程度の間しか認められないことになってしまいます。
 無審査登録による簡易な保護で十分であると考えて実用新案登録出願し、登録を受けている場合であっても、実用新案登録後の技術動向の変化や、事業計画の変更に伴って、審査を経た安定性の高い権利を取得したいとなることがあり得ます。
 特に、実用新案技術評価書は、特許出願の審査で審査官から通知される拒絶理由通知書のように、進歩性欠如、等の否定的な評価を受けた際に意見書・補正書提出によって反論し、再考を求めることで、拒絶理由解消=特許査定という肯定的評価に変えることができるものではありません。
 警告書を送付する際に添付することが義務付けられている実用新案技術評価書が否定的な評価になるならば、実用新案権者は警告書送付すら躊躇せざるを得なくなります。
 そこで、審査を経た安定性の高い権利を取得したいとなることがあります。このような場合が、実用新案登録を特許出願に変更したいという要望が上がるときになると思われます。

<次号>
 次号では、実用新案登録に基づいて特許出願を行う際の注意点を説明します。

以上

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■ニューストピックス■

●4月1日より訂正審判等の通常実施権者の承諾不要に

 従来、特許権者が、訂正審判や訂正の請求をする場合には、通常実施権者(ラインセンスを受けた者)の承諾を得ることが必要でした。
 しかし、特許権のライセンス形態は複雑化してきており、訂正等についてすべての通常実施権者から承諾を得ることは困難です。
 このような状況に対応するため、4月1日より特許権の訂正等において、通常実施権者の承諾は不要となります。

【承諾が不要となる手続】
・訂正審判の請求
・特許無効審判または特許異議申立ての手続の中で行う訂正請求
・実用新案権の訂正
・特許権、実用新案権及び意匠権の放棄

 ただし、専用実施権者や質権者は引き続き承諾が必要です。
 引き続き、許諾を必要としたい通常実施権者は、権利者とあらかじめ取り決めておくよう、ライセンス契約を見直しておく必要があります。
 このほか、商標権の放棄については、引き続き、専用使用権者、質権者及び通常使用権者の承諾が必要となります。


●新たな公報システムによる公報を発行(特許庁)

 特許庁は、本年1月12日より新たな公報システムによる公報を発行すると発表しました。
 主な変更点としては、
@公開公報(特許)、登録公報(特許及び実用新案)、登録公報(意匠)、公開公報(商標)及び登録公報(商標)とも、「毎週発行」から原則「毎日発行」
A再公表特許を廃止
B判定公報を廃止
CPDF公報の発行を中止
 公報システム刷新に対応した公報については、新たに公報発行サイト(新URL)を立ち上げ、2022年1月12日から発行する予定です。
 詳細は特許庁HPをご参照ください。

https://www.jpo.go.jp/system/laws/koho/oshirase/system-sasshin20201222.html


●音楽機器のズームが米Zoomを商標権侵害で提訴

 音楽用電子機器の「ズーム」は、自社の登録商標と「極めて類似した標章」を使用しているとして、ビデオ会議システム「ZOOM」を運営する米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ(ZVC)を相手取り、商標権の侵害行為の差し止めを求める訴訟を東京地裁に提訴したと発表しました。
 ズームの発表によると、ZVCが会議用プログラムを提供する際に使用している「Zoom」のロゴがズームの登録商標と極めて酷似しており、差止等の請求を行なったとしています。
 ズームは「当社登録商標が法的に保護されるべき知的財産であることの確認が訴訟の目的」として、損害賠償請求は行わず、和解金による解決も受け付けない姿勢を示しています。
 また、ズームは昨年9月にもZOOMの国内販売代理店を務めるNECネッツエスアイを相手取って同様の訴訟を提起しています。
 このとき発表された文書では、ズームが提供していないビデオ会議サービスに関する問い合わせがサポート窓口に殺到したことや、社名の誤認によって株価が乱高下したことを挙げており、類似したロゴの継続使用によって事業運営上の支障だけでなく、投資家への損害が生じていることを主張しています。

ズーム社の「商標登録(4940899)」

米国ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ社の「商願2020−61572」


●編み物のユーチューブ動画、削除申し立てで賠償命令

 編み物の動画を投稿している「ユーチューバー」の女性が、同じような動画を投稿する別の「ユーチューバー」からの申し立てで動画を削除されたのは不当だとして損害賠償を求めていた裁判で、京都地方裁判所は削除の申し立てをした被告側に慰謝料と広告収入の損害など計約7万円の支払いを命じました。
 被告女性が「著作権を侵害された」とユーチューブに通知し、ルールに基づき投稿した2本の動画が一時、削除されました。このため原告女性が「編み方は著作物にあたらず、通知を悪用した不法行為」と訴えていました。
 判決では、「技術や手法といったアイデアは、著作権法による保護の対象とはならない」と指摘し、双方の動画については「編み方の説明や表現方法が類似しているとは認められない」と判断しました。
 その上で、ユーチューブに著作権侵害を通知した被告側の対応について、「著作権侵害の成否に問題があると認識しながら、独自の見解で通知した行為に著しい注意義務違反がある」として、被告側の過失を認めました。


●特許庁と農林水産省がコラボ動画を公開

 特許庁は、農林水産省YouTubeチャンネルBUZZ MAFFと連携し、地理的表示(GI)保護制度や品種登録制度など知的財産保護制度の認知拡大に向けたコラボ動画を公開しました。

https://www.youtube.com/watch?v=uKV1qUyZrk8

 特許庁としては、他省庁と連携したYouTube動画配信は初めての取組となります。農林水産業を支える知財と、それを取り扱う専門官庁である特許庁業務の紹介を通じて、幅広い層に特許・商標等の知財を身近に感じてもらうことを目的としています。
 両省庁は、「動画を通し、知財と農林水産業との関わり等について、関心を深めていただければ幸いです」としています。


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最終更新日 '22/07/18