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◇◆◇ 鈴木正次特許事務所 メールマガジン ◇◆◇
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2022年8月1日号


  本号のコンテンツ


 ☆知財講座☆

 ■弁理士が教える特許実務Q&A■

(56)発明に利用されている自然法則の認識は必要か?


 ☆ニューストピックス☆

 ■マルチマルチクレーム制限後の出願状況を公表(特許庁)
 ■特許料等の予納 今後の変更予定(特許庁)
 ■「氏名商標」の登録要件を緩和へ(特許庁)
 ■シャインマスカットの中国流出、年100億円損失(農水省)
 ■無形資産を含む事業価値全体を担保に融資(政府)
 ■アマゾンジャパンと財務省関税局、模倣品の水際対策で協力
 ■営業秘密PR動画を公開(INPIT)



 特許料や手数料等の納付方法の一つである「予納」について、特許庁は今後、「特許印紙による予納」を廃止するとともに、新たに「インターネット出願ソフトを利用した予納」を開始する予定です。
 今号では、「予納」に関する変更内容について取り上げます。

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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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■弁理士が教える特許実務Q&A■

(56)発明に利用されている自然法則の認識は必要か?

【質問】
 特許取得を希望する発明がどのようなメカニズム・機序によって発明の目的を達成できているのかを解明してからでないと特許出願を行うことができないのでしょうか?

【回答】
 特許法において発明は「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの」と定義されています(特許法第2条第1項)。そこで、完成させた発明がどのようなメカニズム・機序によって発明の目的を達成できているのかという、発明に利用されている自然法則を解明、認識するまで特許出願することはできないのではないか?というご質問になったものと思います。回答は、「自然法則を解明、認識していなくても特許出願はできます。」です。今回は、この点について説明します。

<特許法上の「発明」の定義における「自然法則」>
 特許法第2条第1項の発明の定義における「自然法則」とは、自然界において経験によって見出された法則であるとされています。
 例えば、水は高い所から低い所へ流れる、丸太は水に浮かぶ、というようなものです。
 ニュートンの運動の法則、等、自然科学上、○○法則といわれているものは、当然、発明の定義における「自然法則」にあたります。このようなものに限られず、自然界において、経験上、所定の原因によって、所定の結果が生じると認識されている上述したような経験則も、発明の定義における「自然法則」に含まれます。

<特許法上の「発明」の定義における「自然法則の利用」>
 特許法では、発明を「自然法則を利用した・・・」と定義していることから自然法則そのものは特許法上の発明ではなく、自然法則を利用したものが初めて特許法上の発明になります。
 例えば、水車は、「水は高い所から低い所へ流れる」という自然法則を利用した発明になります。また、丸太を結束して構成した筏(イカダ)は、「丸太は水に浮かぶ」という自然法則を利用した発明になります。

<「自然法則の利用」がなぜ要求されるのか?>
 「この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする。」(特許法第1条)という法目的から、特許法で保護する発明には、実施可能性があり、常に、ある程度の確実性をもって同一の結果が反復され、発明者・特許出願人以外の第三者であっても、同じように、実現・再現できるものであることが要求されます。
 これらの要請に応えることができなければ、産業の発達という法目的を達成できません。
 この点、自然法則が利用されているならば、原因と結果との間には必ず因果関係が存在していますから、実施可能で、常に、ある程度の確実性をもって同一の結果が反復され、発明者・特許出願人以外の第三者であっても、同じように、実現・再現することができます。

<どの程度の再現確実性が要求されるか>
 「自然法則の利用」という観点から、「常に、ある程度の確実性をもって同一の結果が反復され」ることが要求される、といっても、100%の確実性が、常に、要求されるわけではありません。
 発明が開拓的、基本的なものである場合には、確実性、成功率は低いのが一般的であると考えられています。例えば、世界的発明とされている御木本幸吉氏の真珠養殖法の発明(特許第2670号(明治27年))では、当初、その成功率は1〜2%程度(300個のうち数個のみ)であったといわれています。
 確実性、成功率が低くても、特定の手段を採用することで、必ず、目的としている効果を現実に達成することができるならば、このような因果関係をもたらす自然法則の利用がなされているわけですから、特許法上の発明になります。

<自然法則を解明、認識してからでなければ特許出願できないか?>
 研究活動において発明の根本になっている自然法則を解明し、認識することは非常に重要です。
 しかし、特許の世界では、自然法則を利用しているがゆえに、実施可能で、常に、ある程度の確実性をもって同一の結果が反復され、発明者・特許出願人以外の第三者であっても、同じように、実現・再現できるものであれば十分です。
 そこで、完成した発明に利用されている自然法則を解明、認識することまでは要求されません。特定の手段を採用することで、必ず、目的としている効果を現実に達成することができる、と、発明者が経験上認識できたもので十分です。
 どのような理論によってこれが実現されているのかを発明者が解明、認識することなしに特許出願することが可能なのです。

<特定手段の採用で目的達成できる実施例が必要>
 完成した発明に利用されている自然法則を解明、認識することまでは要求されませんが、実施可能で、常に、ある程度の確実性をもって同一の結果が反復され、発明者・特許出願人以外の第三者であっても、同じように、実現・再現できるためには、特許出願の際に発明を説明するべく提出する明細書に、特定の手段を採用することで発明の目的を達成できることを示す実施例を記載する必要があります。
 特許請求している発明の実施可能性、実現可能性を立証する責任は発明者・特許出願人にあります。
 そこで、明細書に実施例、等を記載していない、等の事情により、特許請求されている発明に採用されている手段によって発明の目的を達成できるのか不明の場合には、特許請求している発明が自然法則を利用したものであるかどうか等についての検討・判断を受けることなく、拒絶され、特許成立しないことがあり得ます。例えば、実施可能要件違反(特許法第36条第4項第1号 明細書は経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていなければならない。)、サポート要件違反(特許法第36条第6項第1号 特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明細書に記載したものでなければならない。)等、明細書の記載要件が具備されていないとして拒絶されることがあります。

<特許出願後であっても自然法則の解明を目指すことが望ましい>
 上述したように、発明がどのような機序・メカニズムによって成り立っているのかを解明、認識することなしに特許出願することは可能です。
 この場合、特定の手段を採用することで、必ず、目的としている効果を現実に達成することができる、という発明者の認識が完全でなくても発明は成立し、特許出願して特許取得することが可能ということになります。
 ところが、利用している自然法則についての発明者の認識が完全でない場合、特許請求すべき発明の範囲を正確に認識できていない状態で特許出願することが起こります。
 例えば、目的とする技術的課題を解決するためには「構成要件Aと、構成要件Bと、構成要件Cとを備えていることが必須だ」と発明者が認識した場合、「構成要件Aと、構成要件Bと、構成要件Cとを備えている発明X。」として特許出願し、特許取得することになります。
 ところが、目的とする技術的課題を解決するためには「構成要件Aと構成要件B」だけが備わっていれば十分で、「構成要件C」は付属的で、無くてもよいものであった、ということが、発明の機序・メカニズムを把握せずに特許出願していた場合には起こり得ます。
 このような場合、たとえ特許成立しても、第三者が、「構成要件C」を採用せずに「構成要件Aと構成要件B」だけで実施していれば特許権侵害になりません。
 また、上述したように、実施例が必要だということで、実験を行い、実験で確認できた、例えば、「120℃〜150℃の温度範囲で加熱する」ことを必須の構成にして特許出願し、特許権取得したが、その後、「150℃〜170℃の温度範囲で加熱」しても同一の目的を達成できることが判明することがあります。このような場合、「160℃〜170℃の温度範囲で加熱」して同一の目的を達成している第三者を特許権侵害であるとして排除することはできません。
 そこで、上述したように、発明がどのような機序・メカニズムによって成り立っているのかを解明、認識することなしに特許出願することは可能ですが、そのような場合には、自然法則の解明を目指す研究、検討を特許出願後も続けることが望ましいです。特許出願後も継続していた研究、検討によって、最初の特許出願から一年以内に、より適切な発明の技術的範囲を把握できたならば、新たに特許出願を行う、あるいは、最初の特許出願に基づく優先権を主張した特許出願を行う、等により、より適切な技術的範囲での特許取得が可能になることがあります。
 詳しくは、専門家である弁理士にご相談ください。

<次号>
 「特許請求している発明は、実施例で行った実験で確認できた数値に基づいて範囲を特定しているものです。このような数値範囲で限定されている発明が、いわゆる『強い特許』だと考えてよいのでしょうか?」というご質問に対して次回はお答えします。

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■ニューストピックス■

●マルチマルチクレーム制限後の出願状況を公表(特許庁)

 特許庁は、マルチマルチクレーム制限後の出願状況を公表しました。
 https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/letter/multimultichecker.html#seigen

 それによると、特許出願全体に占めるマルチマルチクレームを含む出願の割合は、マルチマルチクレーム制限前は65%程度であったのに対して、制限後は5%程度(令和4年4月出願分は6.0%、同年5月出願分は4.5%)に減少しました。
 また、実用新案登録出願全体に占めるマルチマルチクレームを含む出願の割合も、マルチマルチクレーム制限前は25%程度であったのに対して、制限後は3%程度(令和4年4月出願分は3.3%、同年5月出願分は2.6%)に減少しました。

 「マルチマルチクレーム」とは、「他の二以上の請求項の記載を択一的に引用する請求項(マルチクレーム)を引用する、他の二以上の請求項の記載を択一的に引用する請求項」を意味します。
 特許出願後にマルチマルチクレームを含むことに気づいた場合は、例えば審査請求するときまでに自発補正することで、マルチマルチクレームに係る委任省令要件違反の拒絶理由が通知されることを回避することができます。
 ただし、そのような補正をしない場合には、マルチマルチクレームが含まれている旨の拒絶理由が通知されます。そして、その応答によりマルチマルチクレームが解消された補正後の請求項に係る発明が、その他の拒絶理由を有する場合には、最後の拒絶理由が通知され、補正をすることができる範囲が制限されるおそれがあるので、注意が必要です。


●特許料等の予納制度 今後の変更予定(特許庁)

 特許料や手数料等の納付方法の一つである「予納」について、従来、予納への入金は「特許印紙」に限られていましたが、令和3年の法改正によって予納への入金が「現金(電子現金)」へと変更になり、これに伴い、令和3年10月1日から「銀行振込による予納(現金納付)」を開始しています。
 特許庁は今後、新たに「インターネット出願ソフトを利用した予納」を開始するとともに、「特許印紙による予納」の廃止を予定しています。

■現行の予納制度■
(1)銀行振込による予納
 現金納付書を用いて金融機関窓口にて振り込み、納付済証を「予納書」に添付して特許庁へ提出し入金する方法。
 郵便局等で多額の特許印紙を購入し、書面に貼り付けて特許庁に納付するといった事務負担の大きい手続が不要となります。
(2)特許印紙による予納
 郵便局等で購入した特許印紙を「予納書」に貼り付けて特許庁へ提出し入金する方法。

■今後の変更予定■
(1)インターネット出願ソフトを利用した予納の開始(令和5年1月)
 インターネット出願ソフトを利用した予納(電子現金による予納)を開始。これにより、入金から予納書提出まで、オンラインで手続が完結します。
(2)特許印紙による予納の廃止(令和5年度前半)  電子現金による予納の開始後、一定期間経過後に「特許印紙」による予納入金を終了。今後、予納への入金手段は、書面においては「現金納付書」、インターネット出願ソフトにおいては「電子現金」での入金の取り扱いとなります。
 ただし、特許印紙による予納の廃止後も、予納制度自体は存続するので、既に入金済の予納残高、特許印紙による予納の廃止前に入金した残高及び予納台帳は継続して利用が可能です。


●「氏名商標」の登録要件を緩和へ(特許庁)

 特許庁は、「氏名ブランド」の商標登録が認められやすくするよう商標法を改正する方向で検討を進めています。
 現在、氏名を含む文字を商標として登録する場合、人格権保護の観点から、その氏名をもつ人全員の同意を得る必要があるため、事実上登録は困難となっています。ファッション業界などでは、デザイナーの氏名をそのままブランド名として使うことが多いようですが、近年、氏名の入った商標登録が拒絶されるケースが相次いでいます。

 例えば、アクセサリーデザイナーの菊地健氏がブランド名「KENKIKUCHI(ケンキクチ)」の文字列を含んだロゴを商標出願したところ、特許庁に登録を拒絶され、知財高裁も特許庁の判断を支持する判決を下し、最高裁判所への上告受理申立は却下されました。

   商願2017-69467

 特許庁は、商標中の氏名と同じ名前の他人が存在するかを電話帳「ハローページ」などで確認しています。例えば「ケンキクチ」は、「菊地健」「菊池健」など、同じ発音とみられる人々全員からの承諾が必要となり、事実上、登録は不可能に近い状況となっています。
 一方、欧米や中国、韓国では氏名を含む商標は一定の条件のもとで原則登録を認めていることや、企業のブランド展開を阻害する要因になっているとの指摘などから、特許庁では今後、商標に氏名が含まれている場合でも登録要件を緩和して登録しやすくする方向で検討を進めています。


●シャインマスカットの中国流出、年100億円損失と試算(農水省)

 農林水産省は、日本のブランド果実「シャインマスカット」が中国に不正流出したことにより、年間100億円以上の損失が発生しているとの試算をまとめました。
 農産品の新品種の開発者には、発明の特許と同じように「育成者権」と呼ばれる知的財産権が認められています。
 農水省では、中国側の推定出荷量をもとに、仮に中国の生産者が正規に種苗を購入していれば日本側が受け取れていたはずの育成権の許諾料を推計しました。中国国内のブドウ全体の面積に占める同品種の割合から推計した生産量に、同品種の市場出荷価格(1キロ当たり340円)を乗じ、出荷額を計算。許諾料を出荷額の3%と仮定した場合、損失額は100億円以上になると試算しました。
 こうしたブランド農産品の不正流出による経済損失の防止に向け、農林水産省では令和5年度中にも、新品種の育成者権の管理・保護や流出の監視などを専任で担う機関を設立する方針です。


●無形資産を含む事業価値全体を担保に融資(骨太の方針2022)

 政府は、「経済財政運営と改革の基本方針2022 新しい資本主義へ〜課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現〜」(骨太方針2022)を閣議決定しました。
 「骨太の方針2022」では、スタートアップ(新興企業)の支援策として、不動産などの有形資産を持たないスタートアップに対し、特許権やノウハウなどの無形資産を含む事業価値全体を担保に資金調達を可能とする仕組みを整備する方針です。
 また、経営者に求められる「個人保証」についても見直します。銀行から資金を借りる場合、信用保証協会による返済の保証が条件になることが多いのが現状です。その際、銀行と保証協会の双方から経営者が連帯保証人となる個人保証を求められます。自宅などを担保として差し出す必要があるため、個人の財産を失いかねず、創業の意欲をそぐ一因となっています。
 そこで信用保証協会は、創業5年未満の企業に対し個人保証を求める規則を見直し、原則、保証を不要とする制度を新設する予定です。
 また、金融庁は、法人と経営者個人の資産が明確に区分され、財務情報が適切に開示されていれば、個人保証を取らないよう金融機関に要請するとしています。


●アマゾンジャパンと財務省関税局、模倣品の水際対策で協力

 インターネット通販大手・アマゾンジャパンは、知的財産侵害物品などの国内流入防止に向け、財務省関税局と模倣品などの水際取り締まりに関する協力関係の強化について覚書を締結したと発表しました。
 財務省関税局が電子商取引(EC)事業者と覚書を締結するのは、今回が初めて。
 覚書の締結に伴い、アマゾンジャパンと財務省関税局は、模倣品などの国内流入防止のための協力関係の強化方法について共同で検討し、税関が差し止めた模倣品や関連する模倣品業者に関する情報交換を進めていくとしています。
 また、令和4年10月1日より、商標法と意匠法の改正法が施行され、海外からの模倣品流入への規制が強化されます。
 海外の事業者が模倣品を郵送等により日本国内に持ち込む行為について、権利侵害行為となることが明確化されました。
 その結果、海外の通販サイトで商品を購入した場合など、海外の事業者から送付される物品が(商標権、意匠権に係る)模倣品である場合、税関による没収の対象となります。


●営業秘密PR動画を公開(INPIT)

 INPIT(工業所有権情報・研修館)は、無料で知的財産が学べるe-ラーニングサイト「IP ePlat」で、営業秘密に関するPR動画を公開しました。
 https://www.inpit.go.jp/jinzai/ipeplat/info_r0701.html

 営業秘密の具体的な管理手法等について解説した動画で、第1弾から第3弾までの3件です。短いドラマ形式で、ビジネスにおける営業秘密の重要性を身近に感じることができるそうです。


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最終更新日 '23/02/28