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◇◆◇ 鈴木正次特許事務所 メールマガジン ◇◆◇
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2022年10月1日号


  本号のコンテンツ


 ☆知財講座☆

 ■弁理士が教える特許実務Q&A■

(58)特許の明細書のみに記載されている発明


 ☆ニューストピックス☆

 ■ 模倣品、個人輸入でも差し止め対象(改正関税法)
 ■トイレ紙「3倍巻き」特許めぐり提訴(日本製紙クレシア)
 ■ゼンリンの地図、著作物と認定(東京地裁)
 ■「つながる車」の特許料支払いで合意(トヨタ自動車など)
 ■「特定重要技術」20分野で絞り込み(経済安全保障推進法)
 ■代理権の証明、委任状の写しも可能(特許庁)



 10月1日に改正関税法が施行され、偽ブランド品など模倣品の輸入について、個人向けの規制が強化されました。個人で使用する場合であっても、海外の通販サイトで商品を購入した場合など、海外事業者から送付される物品が模倣品(商標権又は意匠権を侵害するもの)である場合、税関による輸入差止・没収の対象となります。

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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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■弁理士が教える特許実務Q&A■

(58)特許の明細書のみに記載されている発明

【質問】
 当社の特許権の明細書に記載されている発明を同業他社が無断で実施しているのに「特許権侵害だ、として追及することはできない」と言われてしまいました、どうしてでしょうか?

【回答】
 特許発明の独占が認められる効力範囲(特許発明の技術的範囲)は、特許請求の範囲の記載に基づいて決定されます(特許法第70条第1項)。明細書の中には記載されているのだが、特許請求の範囲には記載されていない発明については特許権に基づく独占排他的な効力は発揮されません。
 学会で発表される論文では冒頭のアブストラクトで発表内容の概要を紹介するのが一般的です。特許出願で作成される「特許請求の範囲」と、「明細書(発明の名称、技術分野、背景技術、先行技術文献、発明の概要(発明が解決しようとする課題、課題を解決するための手段、発明の効果、発明を実施するための形態、・・・))」との関係を、学会論文におけるアブストラクトのように考えて、明細書の中に記載している発明のすべてに特許権の効力が発揮される、と誤解される方もあるようです。特許出願ではそのようになっていないことを説明します。

特許権の効力が及ぶ範囲
 特許法第70条(特許発明の技術的範囲)の第1項に「特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。」と定められています。
 かつては「特許請求の範囲の記載は、発明の単なるインデックスにすぎず、特許権の独占排他的な効力がおよぶ『特許発明の技術的範囲』を定めるにあたっては、特許請求の範囲に記載された内容にのみ限定されることなく、明細書全体の記載からから判断すべき」という意見が存在した時代もありました。
 これに対して、現行特許法では上述したように規定され、明細書、図面の中には記載されているが、特許請求の範囲の欄には記載されていない発明は、特許発明の技術的範囲に包含されず、第三者の実施行為に対して差止請求や損害賠償請求を行うことができる特許権の効力範囲に属さないことが明示されています。
 なお、上述したように、特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められることが原則ですが、特許請求の範囲に記載された用語について明細書、図面の中に、その意味するところや定義が記載されているときは、それらを考慮して特許発明の技術的範囲の認定を行わねばならないことが特許法第70条第2項に規定されています。
 このような特許法第70条の規定により、

  • 特許発明の技術的範囲を明細書の中に記載されている実施例に限定して解釈することが容認されないこと、
  • 明細書の中には記載されているが特許請求の範囲には記載されていない事項を特許請求の範囲に記載されているものと解釈することが容認されないこと
 が明確にされていると考えられています。

明細書に記載されているが請求の範囲に記載されていない発明
 明細書の中に記載している発明であるが特許請求の範囲には記載されていない発明の一例を紹介すると次のようなものがあります。
 「断面が円形の木製の軸からなる鉛筆」しか世の中に存在していなかったし、知られていなかった時代に、「木製の軸を断面六角形にすることで傾いている机の上に置いたときでも転がりにくくなる鉛筆」、「木製の軸のどちらか一方の端部に消しゴムが固定されている鉛筆にすることで文字を書いている途中で間違ってしまったときに消しゴムを間違ったところに当てて、軸を握って強くこすりつけながら間違いを消すことができ、鉛筆と消しゴムとがバラバラになって消しゴムがどこに行ってしまったかわからなくなることを防止できる鉛筆」という発明を完成させたとします。
 特許出願にあたって明細書及び図面には、

  • 木製の軸が断面六角形になっている鉛筆と、
  • 木製の軸が断面六角形になっていて、軸の一方の端部に消しゴムが固定されている鉛筆と、
  • 木製の軸が断面円形で、軸の一方の端部に消しゴムが固定されている鉛筆
 を記載しておきました。
 一方、「木製の軸を断面六角形にすることで傾いている机の上に置いたときでも転がりにくくなる」というのが完成させた発明の一番のポイントと考えていたことから特許請求の範囲の請求項には次のように記載して特許権を取得しました。
【請求項1】
 木製の軸が断面六角形になっている鉛筆。
【請求項2】
 前記軸の一方の端部に消しゴムが固定されている請求項1記載の鉛筆。
 この場合、「木製の軸が断面円形で、軸の一方の端部に消しゴムが固定されている鉛筆」は成立している特許権の明細書、図面に記載されている発明ですが、特許請求の範囲に記載されている発明ではありません。
 そこで、同業他社が、「木製の軸が断面円形で、軸の一方の端部に消しゴムが固定されている鉛筆」を製造・販売する行為に対して、「特許権侵害になりますから製造・販売を行わないでください」と申し出ることはできません。
 特許請求の範囲の請求項2で「軸の一方の端部に消しゴムが固定されている鉛筆」についても特許請求されているような印象を受けますが、請求項2の発明は請求項1を引用している発明ですから、請求項2で特許請求している発明は「木製の軸が断面六角形になっていて、軸の一方の端部に消しゴムが固定されている鉛筆」になります。
 このため、上述した特許法第70条の規定に基づいて、同業他社が、「木製の軸が断面円形で、軸の一方の端部に消しゴムが固定されている鉛筆」を製造・販売する行為に対しては権利行使できないことになります。

拒絶理由通知に対応する際や特許査定を受けた際の注意
 特許出願時の明細書、特許請求の範囲、図面の中に記載した発明と同一の発明を、その特許出願の後に、第三者が特許出願して特許請求しても、「同一の発明について異なる日に二つの特許出願が行われた場合であって、後に行われた特許出願で特許請求されている発明になるので、先願主義の原則から、特許を認めることができない」とされ、第三者による後の特許出願は拒絶され、特許成立しません。特許出願を行うことで、特許出願時の明細書、特許請求の範囲、図面のいずれかの中に記載している発明について、このような先願の地位を確保できます。
 また、特許出願日から18カ月が経過して特許出願の内容が特許庁から特許出願公開されれば、特許出願公開された「特許出願時の明細書、特許請求の範囲、図面の中に記載されている発明」に基づいて簡単・容易に想到できる発明については、特許出願公開後に、誰が特許出願を行っても進歩性欠如で拒絶されて特許取得は認められないことになります。
 しかし、上述したように、明細書に記載はしているが特許請求の範囲に記載が行われていない発明については特許権の効力が発生しません。
 特許出願の審査において審査官から「進歩性欠如」を指摘する拒絶理由を受けた場合、特許請求する発明の効力範囲を狭める補正を行って拒絶理由の解消を図ることがあります。
 このような補正を行った場合には、明細書には記載されているが、特許請求の範囲に記載していない発明が発生することになります。
 このような発明について、あくまでも特許取得を目指して審査を受けるべく分割出願を行う必要が無いのかどうか慎重に考える必要があります。
 また、現状では、審査の結果、拒絶理由を発見できないので特許を認めるという「特許査定」を審査官から受けた場合であっても30日以内であって、なおかつ、特許権を成立させるための1〜3年分の特許料を納付する前であれば、明細書には記載されているが、特許請求の範囲に記載していない発明について分割出願を行って特許取得を目指すことが可能です。
 「特許査定」を受けた際には代理人弁理士から上述したように「1〜3年分の特許料を納付する前に分割出願を行う必要はありませんか?」という案内を受けることがあると思います。明細書の中に記載されている発明であるが特許請求の範囲には記載されていない発明については特許権による独占排他的効力が発生しないことを考えて慎重な判断を行われるようにお勧めします。

<次号>
 「先行技術文献調査を行って特許出願しましたから、直ちに、特許出願した発明内容を実施しても大丈夫ですよね?」というご質問に対して次回はお答えします。

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■ニューストピックス■

●模倣品の個人輸入の規制強化、10月1日施行

 本年10月1日に改正関税法が施行され、商標権・意匠権を侵害する物品(模倣品)の輸入に対する規制が強化されました。
 これまでは、個人的に使用する目的での輸入は商標法上の「業として」の要件を満たさないため、事業性のある輸入のみが規制対象でした。しかし、増大する個人の使用目的の模倣品輸入に対応し、海外事業者か゛模倣品を郵送により国内に持ち込む行為を商標権等の侵害として位置付けることとなりました。
 10月1日以降は、たとえ個人の使用目的であっても、それが模倣品である場合には輸入差止・没収の対象となります。海外の通販サイトなどで商品を購入する場合に限らず、国内の通販サイトで購入した商品であっても、海外から直接送付される場合もあるため、注意が必要です。

<税関における知的財産権侵害物品の差止状況>
 知的財産権を侵害する模倣品の輸入は高止まりしています。財務省関税局は、2022年上半期(1〜6月)に全国の税関で偽ブランドのバッグや衣類など模倣品の輸入を差し止めた件数は、1万2519件だったと発表しました。11年連続で1万2000件を超えており、高水準で推移しています。
 品目別では、財布やハンドバッグなどのバッグ類が3割弱の4126件、衣類が2割強の3348件と続いています。地域別では、中国からの輸入が9131件と全体の72.9%を占め最多。
 輸入形態としてはインターネット通販の普及で、国際郵便が約9割を占めています。

●トイレットペーパー「3倍巻き」特許で提訴(日本製紙クレシア)

 日本製紙クレシアは、従来の3倍の長さながら大きさをほぼ同じに抑えたトイレットペーパーの特許を侵害されたとして、同じ製紙会社の大王製紙に対し、製造・販売の差し止めと製品の破棄、3300万円の損害賠償などを求め、東京地裁に提訴したと発表しました。
 発表によりますと、日本製紙クレシアは、従来品より長さが3倍あるトイレットペーパー『スコッティ フラワーパック 3倍長持ち』に採用されている、柔らかさを保ったまま長さを3倍にするために施している表面の凹凸の大きさ、包装、紙の質といった3つの特許技術が、大王製紙が発売する『エリエール i:na(イーナ)』によって侵害されたとしています。
 これに対し、大王製紙は、「常に他社の知的財産権を侵害しないようビジネスを行っている。裁判で正当性を主張していく」とコメントしています。
 日本製紙クレシアは、1ロールの長さが従来の製品より3倍長いトイレットペーパーを6年前から販売していますが、大王製紙も従来の3.2倍の長さの製品を今年4月から販売しています。
 従来の製品よりも1ロール当たりが長いトイレットペーパーは、取り替え回数を減らすことができ、家庭での保管スペースも少なくて済むことなどから近年、販売を伸ばしており、両社の主力商品となっています。

●ゼンリンの地図、著作物と認定(東京地裁)

 地図作成大手のゼンリンが発行する住宅地図を無断で複製・頒布したとして、同社がポスティング会社に対して、著作権侵害行為の差し止めなどを求めた裁判で、東京地裁は「ゼンリンの住宅地図は著作物である」と認定し、ポスティング会社に侵害行為の差し止めと損害賠償の支払いを命じました。
 一般的に地図は、現状の建物や道路等を所定の記号などによって、客観的に表現するものであるため、文学や音楽、造形美術上の著作と比べて、著作権による保護を受けるのが困難です。
 一方、地図において記載すべき情報の取捨選択及びその表示方法に関しては、地図作成者の個性、学識、経験等が重要な役割を果たし得るものであるため、創作性が表れます。 ゼンリンの住宅地図について、東京地裁は「住宅地図に必要と考える情報を取捨選択し、より見やすいと考える方法により表示した」として、同社の住宅地図商品は、著作権法上の「著作物」(思想または感情を創作的に表現したもの)にあたると認定しました。

●「つながる車」の特許料支払いで合意(日本の自動車メーカー)

 インターネットに接続して外部と常時通信できる「コネクテッドカー(つながる車)」をめぐり、トヨタ自動車や日産自動車などは、「コネクテッドカー(つながる車)」に必要な通信技術の特許料を支払う契約を米国企業と締結しました。
 自動車業界では車をインターネットにつなぎ、外部と常時通信して自動運転をスムーズに行ったり、ソフトウエアのアップデートを行ったりできる「コネクテッドカー(つながる車)」の開発が急ピッチで進んでいます。
 こうした中、フィンランドのノキアなど、各国の通信関連企業が保有する特許の交渉窓口となっている米国企業「アバンシ」は、トヨタ自動車やホンダ、日産自動車など、日本の自動車メーカーとライセンス契約を結んだと発表しました。
 自動車各社は「コネクテッドカー(つながる車)」向けの特許技術を使う代わりに「アバンシ」に対し、1台当たり15ドルから20ドルの実施料を支払うことで合意したということです。
 今回の契約は、日本の自動車メーカーが「コネクテッドカー」の開発を重視していることを示すもので、自動車と通信が融合するこの分野の開発が一段と進むことが予想されます。
 例えば、トヨタ自動車は「T-Connect」というコネクテッドサービスを提供しており、基本的に新車は全てT-Connectに対応しています。車載通信機DCM(Data Communication Module)やスマートフォンなどによって、車両およびドライバー側の状況を判断し、事故発生などの緊急通報システムや警告灯点灯時に適切なアドバイスをもらえるシステムなど、さまざまな機能が利用できます。
 既に多くのメーカーがコネクテッドカーを開発・販売しており、富士経済の調査によると、日本では2019年に340万台販売されました。2035年にはヨーロッパや中国で販売台数が2,000万台を超えると予測されています。
 また5Gが実用化・普及していくことで、通信速度・容量が飛躍的に向上するため、コネクテッドカーはさらなる進化を遂げる可能性があります。

●「特定重要技術」20分野で絞り込み(経済安全保障推進法)

 政府は経済安全保障推進法で定めている「特定重要技術」の開発支援などに向けた基本指針案をまとめました。AI(人工知能)やバイオ技術、半導体技術など20分野で調査研究を進め、今後、支援の対象を絞り込む方針です。
 経済安全保障推進法では、国の安全保障に関わる「特定重要技術」について、官民一体での研究開発に向け、資金面などで支援する仕組みを盛り込んでいますが、対象となる分野については明確になっていませんでした。
 政府が示した基本指針案では「特定重要技術」の絞り込みに向けた調査研究について、20の技術領域を対象に行うとしています。
 20分野は以下のとおり。
▽バイオ技術▽医療・公衆衛生技術▽人工知能・機械学習技術▽先端コンピューティング技術▽マイクロプロセッサ・半導体技術▽データ科学・分析・蓄積・運用技術▽先端エンジニアリング・製造技術▽ロボット工学▽量子情報科学▽先端監視・測位・センサー技術▽脳コンピューター・インターフェース技術▽先端エネルギー・蓄エネルギー技術▽高度情報通信・ネットワーク技術▽サイバーセキュリティ技術▽宇宙関連技術▽海洋関連技術▽輸送技術▽極超音速▽化学・生物・放射性物質及び核▽先端材料科学
 優先的に支援する対象として決まった「特定重要技術」については、民間から研究者を公募したうえで、プロジェクトごとに官民の協議会を設置し、政府が予算措置を講じている基金から資金支援を受けることができます。

●代理権の証明、委任状の写しも可能(特許庁)

 特許庁は、行政手続の利便性向上への対応として、委任状の原本の写し(委任状の写し)についても、代理権を証明する書面として許容することを公表しました。
 委任状の原本に加え、委任状の写しの提出により、代理権の証明が可能になります。また、特許庁は、委任状のデータをプリントしたものでも代理権を証明する書面として受理するとしています。
 今後は、出願書類と同様にオンラインでの委任状提出もできるよう、検討を進めています。
 なお、PCT国際出願の場合は、国内手続と異なる運用となりますので、詳細は特許庁のホームページをご確認ください。
https://www.jpo.go.jp/system/process/shutugan/madoguchi/info/dairiken_shomei.html


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最終更新日 '23/03/28