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2022年11月1日号
本号のコンテンツ
☆知財講座☆
■弁理士が教える特許実務Q&A■
(59)特許出願後に直ちに発明を実施しても大丈夫か?
☆ニューストピックス☆
■特許審査官とのオンライン面接
■特許訴訟で当事者以外から意見募集(知財高裁)
■特許侵害で賠償額にライセンス相当額含める(知財高裁)
■音楽教室の著作権使用料、生徒の演奏は対象外(最高裁)
■知的財産など無形資産を担保にした融資制度(金融庁)
■コロナ治療薬の後発品の特許を開放(塩野義製薬)
■特許印紙による予納期限、令和5年3月31日まで
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近年、特許庁では、従来の「特許庁での面接」、「出張面接」に加えて、オンライン面接を積極的に実施しています。
特許審査においては、2021年に実施された面接審査1,689件のうち、1,423件をオンラインで実施、昨年比40.2%と大幅に増加しました。
今号では、特許審査官とのオンライン面接について取り上げます。
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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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■弁理士が教える特許実務Q&A■
(59)特許出願後に直ちに発明を実施しても大丈夫か?
【質問】
特許出願の前に特許庁のJ-PlatPat(特許情報プラットフォーム)で先行技術文献調査を行ってから特許出願を行いました。先行技術文献調査では特に問題にすべきと思われる先行特許出願は発見できていません。そこで、特許出願した発明内容を、直ちに、会社の事業で実施したいのですが大丈夫でしょうか?
【回答】
特許出願前の特許庁J-PlatPatでの先行技術文献調査では調査できていない範囲があります。そこで、「直ちに実施しても大丈夫」と言えるわけではありません。今回はこの事情を説明します。
特許出願公開公報は出願日から18カ月経過しないと発行されない
特許出願について特許庁から公開される情報・発行される公報には「公開特許公報」(=特許出願公開公報)、公表公報(=外国語で提出された後に、日本国への移行手続及び、日本語への翻訳文提出手続が日本国特許庁に対して行われた国際出願の日本語翻訳文)、特許掲載公報があります。
この中で、日本国特許庁が特許出願を受け付けた後に、一番早く発行される公報は、一般的に、「公開特許公報」(=特許出願公開公報)です。
「公開特許公報」(=特許出願公開公報)が日本国特許庁から発行されるのは、原則として、特許庁が出願を受け付けてから18カ月(=1年半)経過した後になります。
公報が特許庁から発行されるまでは、特許出願人やその代理人、又はこれらの人からの委任状を持った人が出願書類を閲覧する以外、特許出願の内容を知ることはできません。
特許掲載公報は特許権成立後2週間程度経過しないと発行されない
特許出願後に直ちに審査請求が行われ、更に、「早期審査事情説明書」が提出されて早期審査の対象になり早期に特許成立した場合には上述した「公開特許公報」(=特許出願公開公報)が発行される前でも特許掲載公報が発行されることがあります。
独占排他権である特許権が成立した技術内容を広く社会に公示し、特許掲載公報発効後の6カ月以内であれば特許庁に対して何人も再審査を求める特許異議申立提出を可能にしているものです。
特許掲載公報が特許庁から発行されるのは特許権が成立してから2週間程度経過してからになるのが一般的です。
J-PlatPatでは特許出願公開公報・特許掲載公報しか検索できない
J-PlatPatで先行技術文献調査できるのは「公開特許公報」(=特許出願公開公報)が特許庁から発行されてから、あるいは、特許掲載公報が日本国特許庁から発行されてからになります。
そこで、特許出願の前に特許庁のJ-PlatPatで先行技術文献調査を行っていても直近18カ月の間に特許庁に提出されている特許出願については調査できていないのが一般的です。
また、特許出願後に直ちに審査請求が行われ、更に、「早期審査事情説明書」が提出されて早期審査の対象になり早期に特許成立して「公開特許公報」(=特許出願公開公報)が発行される前に特許掲載公報が発行されるものも、特許権成立直後であれば特許掲載公報が未発行で、J-PlatPatで行った先行技術文献調査では調査できていないことがあります。
「直ちに実施しても大丈夫」なのか?
特許出願の前に特許庁のJ-PlatPatで先行技術文献調査を行っていても直近18カ月の間に特許庁に提出されている特許出願については調査できていないことが一般的です。また、直近に成立している特許権の特許掲載公報が発行されていなくて調査できていないこともあります。
特許出願した発明内容を直ちに会社の事業で実施開始した場合、出願前の調査で把握できなかった期間に出願が行われ、実施開始後に出願公開された他社の特許出願で特許請求されている発明との間で抵触関係が生じることがあります。
この場合には、当該出願公開に係る特許出願の出願人から「御社の実施行為は、御社の実施開始前に弊社が特許出願し、御社の実施開始後に特許出願公開公報が発行された弊社の特許出願で特許請求している発明に抵触します。今後、弊社が特許庁で審査を受け、特許権が成立して、成立した弊社の特許権に御社の実施行為が抵触する場合には、この警告書をお届けした日から弊社特許権成立までの御社の実施行為に対して実施料相当額の補償金(特許法第65条)の支払いを求めることになります。」という警告書を受けることがあり得ます。
また、出願前の調査時点では特許掲載公報が発行されていなかった特許権との間で抵触関係が生じることもあります。
この場合には、出願前の調査時点では特許掲載公報が発行されていなかった特許権に係る特許権者から、実施行為が特許権侵害にあたるとして侵害行為の停止を求める警告書を受け取る、等の事態になります。
実施したときの安全を確認する目的での早期審査
上述したように「直ちに実施しても大丈夫」ということができない事情が存在していますが、特許出願について早期に審査を受けることで実施した時の安全を確認できます。
特許出願の審査では先願の規定(同一の発明について異なる日に複数の特許出願があったときは最先の特許出願に係る特許出願人でなければ特許を受けることができない)(特許法第39条)及び、先行している特許出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲、図面の全体に対して先願の地位を与える拡大先願の規定(特許法第29条の2)に関する審査が行われます。
そこで、特許出願公開が行われていない、等の事情で特許出願前に先行技術文献調査できなかった範囲の他社の特許出願に係る発明との間での関係性に関しての審査が行われます。これにより、調査できなかった範囲に抵触するものが存在しているかどうかに関して判断できます。
また、特許出願の審査では、特許出願前に発行されていた特許出願公開公報、特許掲載公報に記載されている発明に基づいて、当業者が、容易に想到できる程度のものであるかどうかが進歩性の判断で検討されます。進歩性の判断が行われることで特許出願に係る発明の進歩性を否定することに用いられる先行特許出願としてどのようなものが存在していたかを特許庁の審査で確認できます。
特許出願で特許請求している発明を特許出願後、直ちに、実施する場合、上述したように特許庁での審査を受けることで調査できなかった範囲に抵触するものが存在しているかどうかを確認できます。
そこで、特許出願後に特許出願に係る発明の事業を直ちに開始する場合などでは、その事情を専門家である弁理士に説明し、審査請求や、早期審査を受けるための早期審査事情説明書提出を行う必要性について相談することをお勧めします。
<次号>
「特許出願を行ったので、その内容を会社のホームページで紹介したいのですが何か気を付ける必要はありますか?」というご質問に対して次回はお答えします。
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■ニューストピックス■
●特許審査官とのオンライン面接●
特許庁は、リーフレット「DX時代における特許審査官とのコミュニケーション」を公開し、テレワーク中の審査官との電話連絡、オンライン面接の手続やメリット、活用例等について紹介しています。
近年、特許庁では、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、従来の「特許庁での面接」、「出張面接」に加えて、オンライン面接を積極的に実施しています。特許庁に出向いて面接を行う場合、移動の時間や費用がネックとなっていましたが、オンライン面接システムを活用することで、時間や費用を抑えられることからオンライン面接の実施件数が増えています。
特許庁ステータスレポート2022によれば、特許審査においては、2021年に実施された面接審査1,689件のうち、1,423件をオンラインで実施、昨年比40.2%と大幅に増加しました。
また、審判においては、「オンライン口頭審理」を2021年10月に開始し、10月以降に実施された口頭審理20件のうち、13件をオンラインで実施しています。
<オンライン面接のイメージ>
下のイメージ図にあるように、特許出願人は自社の会議室などに設置しているPCから、代理人弁理士は自分の特許事務所に設置しているPCから面接審査に参加できます。特許庁まで行く必要がなく、また、特許出願人も代理人弁理士も会社、事務所から移動することなく審査官とコミュニケーションを図ることができます。
インターネットに接続可能なPC、ウェブカメラ、ヘッドセット(あるいはマイクとスピーカー)さえそろっていればオンライン面接に参加できます。オンライン面接用の特別なソフトウェアをインストールする必要はありません。また、オンライン面接で特許庁に対して支払う費用は発生しません。
<引用:特許庁HP「オンライン面接について」>
<オンライン面接の活用例>
オンライン面接では口頭で説明するだけでなく、文書作成ソフト、表計算ソフト、PDFソフト、等の電子データを、ウェブサイトの「ホワイトボード」に貼り付け、参加者の間で共有することや、ホワイトボードに貼り付けた電子データに参加者がマーカーやメモを付すことも可能。
補正案や説明資料を画面共有することで、説明のポイントがわかりやすく、よりよいコミュニケーションが図れます。書類だけでなく、動画を共有することも可能です。
<手続>
オンライン面接は、審査請求してから審査手続きが終了するまでいつでも実施できます。一般的には実際に審査に入る前や拒絶理由通知を受け取った後に申し込む場合が多いようです。
面接申し込みは、代理人が特許庁審査官に電話を入れて申し込みを行う方法以外に、特許庁がホームページで公表している「面接申し込みフォーム」を使用して申し込みを行うこともできます。
・DX時代における特許審査官とのコミュニケーション
https://www.jpo.go.jp/resources/report/sonota-info/document/panhu/tokkyo_communication.pdf
・オンライン面接について
https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/mensetu/telesys_mensetu.html
●特許訴訟で当事者以外から意見募集(知財高裁)
知的財産高等裁判所は、インターネット上の動画のコメント表示に関する特許訴訟で、争点について外部の専門家から意見を求める「第三者意見募集制度」を採用することを決めました。
意見募集が行われるのは、動画サイト「ニコニコ動画」を運営するドワンゴが、動画再生中のコメント表示を巡る配信システムの特許を侵害されたとして、「FC2動画」の運営会社を訴えている訴訟の控訴審。ドワンゴ側の申し立てに基づき、今年4月施行の改正特許法で導入された「第三者意見募集制度」が採用されました。判決の影響が大きい訴訟で、裁判所が幅広い観点から検討できるように導入された新たな手続きで、実施されるのは今回が初めて。
「日本版アミカスブリーフ(amicus brief)」と呼ばれ、集まった意見は当事者が証拠として活用できます。判決の影響が当事者だけでなく国内外の多くの業界に及ぶ可能性があり、国際的な観点からも検討する必要があるとして、裁判所が必要と認めた場合に当事者以外の専門家から意見を募集します。集まった意見書は、原告側と被告側が内容を確認したうえで、裁判の証拠として活用します。
●特許侵害で賠償額にライセンス相当額含める(知財高裁)
大阪市のマッサージチェア販売会社が、マッサージチェアの構造に関する特許を侵害されたとして競合店に賠償請求を行った訴訟の控訴審で、知財高裁は大合議で、一審判決を破棄して特許侵害を認め、損害額をより広範囲に算定できる判断を示しました。
知財高裁の判決では、侵害で生じた特許権者の損害額については、侵害した側がそれによって得た利益などを基に推定した金額に、特許のライセンスを供与したとみなした場合の実施料の算出額も損害額に上乗せできると判断。これまでより広い範囲で特許侵害の損害額を認定する考え方を示し、被告のファミリーイナダは、原告のフジ医療器に約3億9000万円の損害賠償を命じられました。
一方、同じ2社が大阪地裁で争った別の特許権侵害訴訟では、被告と原告が逆転した形で争われ、特許を侵害したフジ医療器に対し、ファミリーイナダへの28億円超の損害賠償を命じる判決が下されています(ファミリーイナダ社ホームページ)。地裁判決においてもライセンス料相当額を損害額に含めるなど、従来よりも広範囲で特許侵害による損害額を認める内容となっています。
●音楽教室の著作権使用料、生徒の演奏は対象外(最高裁)
音楽教室のレッスンでの楽曲演奏に関して、日本音楽著作権協会(JASRAC)が著作権使用料を徴収できるかどうかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁は、「生徒の演奏からは徴収できない」とする初判断を示しました。その上で、教師と生徒両方の演奏から使用料を徴収できると主張したJASRAC側の上告を棄却。教師の演奏からのみ徴収できるとした2審・知財高裁判決が確定しました。
楽曲を利用する「主体」が、実際に演奏する教師や生徒か、運営する教室側かという点が争われました。
最高裁の判決は、生徒の演奏について、「教師から指導を受けて技術向上を図ることが目的で、課題曲を演奏するのはその手段に過ぎない」と指摘。生徒側が支払う受講料は指導を受ける対価であり、曲を演奏すること自体の対価ではないとして、音楽教室側が「著作物の利用主体だということはできない」と結論づけました。
音楽教室での著作権について司法判断が確定するのは初めてで、全国の音楽教室に影響を及ぼすとみられます。
JASRACと音楽教室側は最高裁判決後、徴収対象と確定した教師分の著作権使用料について金額などの協議を始める考えを示しています。
●知的財産などを担保にした「事業成長担保権」を創設へ(金融庁)
金融庁は、土地や工場といった不動産だけでなく、特許や技術力、ノウハウなどの無形資産を含めた事業価値全体を融資対象とする「事業成長担保権」を創設する方向で検討を進めています。
不動産等を保有していなくても強い特許権や独自の技術力などを保有するスタートアップやIT企業などが資金調達しやすい制度を創設して、事業発展を後押しするのが目的です。
一般的に銀行などの金融機関が融資を行う際の担保権の対象は、不動産、動産(工作機械、在庫品等)、株式、債権(売掛金、貸付金等)等が中心です。金融庁の調査によると、中小企業の約4割が「不動産などを保有していないと融資を受けられない」と回答しています。このため、金融庁では、不動産担保や経営者保証に依存してきた日本独自の融資慣行を見直し、有形資産を持たない中小・新興企業に資金を供給する新たな流れをつくりたい考えです。
一方で、金融機関にとっては、不動産担保権や株式担保権の場合と異なり、「事業成長担保権」の場合、無形資産の評価は容易ではなく、ノウハウも十分ではないという指摘があります。無形資産に担保権を設定するためには、これまで以上に金融機関の「目利き力」の強化が課題となっています。
●コロナ治療薬の後発品の特許を開放(塩野義製薬)
塩野義製薬は、新型コロナウイルス感染症治療薬として開発中の抗ウイルス薬について、途上国向けに広く提供するため、特許料を徴収せず後発薬の生産を認めると発表しました。
医薬品の公平な供給を支援する国際組織「医薬品特許プール(MPP:Medicines Patent Pool)」とライセンス契約を結びました。
治療薬が承認されれば、MPPから製造方法や特許を提供された世界のジェネリック医薬品(後発薬)メーカーが同薬を生産し、117カ国に供給できるようになります。
塩野義は、WHO(世界保健機関)が新型コロナを国際保健上の緊急事態に指定している間は売り上げに対する特許料を放棄するとしています。
●特許印紙による予納期限、令和5年3月31日まで(特許庁)
特許庁は、特許印紙により特許料等をあらかじめ納付できる期限を令和5年3月31日までとすると公表しました。
https://www.meti.go.jp/press/2022/10/20221014003/20221014003.html
行政手続のデジタル化が進む中、特許料等の予納についても、特許印紙ではなく現金(銀行振込等)で納付する形に法改正がなされたことに伴い、経過措置として特許印紙による予納期間が設けられていました。
なお、現金(銀行振込等)による予納は、来年4月以降も可能です。
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