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◇◆◇ 鈴木正次特許事務所 メールマガジン ◇◆◇
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2023年3月1日号


  本号のコンテンツ


 ☆知財講座☆

 ■弁理士が教える特許実務Q&A■

(63)シフト補正

  ☆ニューストピックス☆

 ■期間徒過後の救済規定に係る回復要件を緩和(特許庁)
 ■原出願が審判係争中の分割出願に対する審査中止の運用開始
 ■特許非公開制度の指針案を策定(政府)
 ■ルブタンの赤い底靴、色彩商標の登録認めず(知財高裁)
 ■違法アップローダーの情報開示を命じる(東京地裁)
 ■YouTubeの音楽利用巡り、JASRACとグーグルが新契約


 令和5年4月1日から手続期間の徒過により消滅した特許権等についての回復要件が、「正当な理由があること」から「故意によるものではないこと」に緩和されます。
 今号では、これらについて特許庁から公表されている情報を紹介します。

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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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■弁理士が教える特許実務Q&A■

(63)シフト補正

【質問】
 特許出願で審査を受けて特許請求の範囲を補正する際に「シフト補正は禁止されています」というアドバイスを受けました。シフト補正というのはどのようなものなのでしょうか?

【回答】
 特許出願の審査で拒絶理由を受けた後に行う特許請求の範囲の補正で、特許請求する(=審査を受ける)発明の内容を大きく変更する補正が、いわゆるシフト補正と呼ばれているものになります。
 複数の発明を一件の特許出願の中に盛り込んで特許請求して審査を受けることができるように、一件の特許出願の中に含めることのできる発明の範囲が「発明の単一性」として特許法第37条に規定されています。シフト補正の禁止は、特許法第37条の「発明の単一性」の規定と関係しています。今回は、シフト補正が禁止されている趣旨などについて説明し、次回で、特許法第37条の「発明の単一性」の内容について説明します。

<シフト補正が禁止されている趣旨>
 いわゆる「シフト補正の禁止」は、特許法第17条の2第4項に規定されています。拒絶理由を受けて特許請求の範囲を補正するときは「その補正前に受けた拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された発明と、その補正後の特許請求の範囲に記載される事項により特定される発明とが、特許法第第37条の発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するものとなるようにしなければならない。」という規定です。
 特許出願の審査で拒絶理由通知を受けた後に特許請求する(=審査を受ける)発明の内容が補正によって大きく変更されると、審査官は、それまでの審査で行っていた先行技術調査、審査の結果を、補正後の発明についての審査に活用できなくなることがあります。このようになると、審査官は、先行技術調査、審査をやり直すことになります。
 そこで、特許出願の審査で拒絶理由通知を受けた後に特許請求する(=審査を受ける)発明の内容を大きく変更する補正を許容することは、迅速、的確な特許権付与という観点からは望ましくありません。
 また、特許請求する(=審査を受ける)発明の内容が、審査を受けた後に大きく変更される補正が行われる特許出願と、そのような補正が行われない特許出願との間で取り扱いの公平性を確保するという観点からも特許出願の審査で拒絶理由通知を受けた後に特許請求する(=審査を受ける)発明の内容を大きく変更する補正を許容することは望ましくありません。
 そこで、上述したシフト補正の禁止という補正の制限が導入されています。

審査を受ける前に行う補正には課されない
 特許出願の際に特許庁へ提出した明細書・図面、等の記載内容を補充・訂正する補正は、特許出願後であればいつでも行うことができます。ただし、審査請求して特許庁審査官から拒絶理由の通知を受けた後は、拒絶理由通知書で指定された期間などの所定の期間、時期にしか補正を行うことができません。
 上述したシフト補正禁止の制限は、「拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された発明」と規定されています。そこで、拒絶理由通知書を受けて行う際の補正に課される制限になり、審査を受ける前に行う補正では新規事項追加禁止の制限を受けますが、シフト補正禁止という制限は受けません。
 なお、特許出願では、特許庁におけるいわば第一審としての一人の審査官による審査で「拒絶理由通知書で指摘した拒絶理由が解消しないので特許を受けることができない」として「拒絶査定」を受け、その後3カ月以内に、特許成立を目指して拒絶査定不服審判を請求し、3人あるいは5人の審判官による合議での慎重な審理を求めることがあります。
 この拒絶査定不服審判を請求した後に審判官合議体などから拒絶理由通知を受けることがあります。上述したシフト補正禁止の制限は拒絶査定不服審判請求後に拒絶理由を受けて補正する際にも課されます。

シフト補正禁止の規定に違反した場合
 特許法第17条の2第4項に規定されているシフト補正の制限に違反した場合は、拒絶理由を受けます(特許法第49条第1号)。また、いわゆる「最後の拒絶理由通知」に対する応答としてされた補正がシフト補正禁止の制限に違反している場合には補正却下の理由になります(特許法第53条第1項)。
 審査官が「シフト補正禁止の制限に違反している」と判断して拒絶理由を通知する場合であって、「シフト補正禁止の制限に違反している」という拒絶理由のみを通知しなければならないならば、その拒絶理由は、「最初の拒絶理由通知に対する応答時の補正によって通知することが必要になった拒絶理由のみを通知する拒絶理由通知」になりますから、いわゆる「最後の拒絶理由」になります。
 また、補正却下された場合(特許法第53条第1項)は補正する前の状態に戻り、最後の拒絶理由で指摘されていた拒絶理由が解消されていないとして「拒絶査定」を受けることが一般的です。
 「最後の拒絶理由」を受けてから行う特許請求の範囲の補正や、拒絶査定不服審判請求する際に行う特許請求の範囲の補正には、請求項の削除、特許請求の範囲の限定的減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれかを目的とするものでなければならない(特許法第17条の2第5項)という制限が課せられます。
 そこで、拒絶理由通知を受けてから行う補正には、シフト補正と判断されることがないような内容で行うことが求められます。
 なお、シフト補正にあたると認定される補正後の発明は、その特許出願の出願時の明細書、図面に記載されていた発明であるならば、その特許出願から適式に分割出願(特許法第44条)を行って審査を受けることができます。この分割出願の審査で新規性、進歩性などの特許要件を具備していると判断されれば、特許権が成立します。
 このように、シフト補正がなされたとしても、シフト補正にあたると認定された補正後の発明については、その特許出願から適式な分割出願(特許法第44条)を行って審査を受けるべきところをそのようにしなかったという、いわば手続上の不備が存在していたものでしかありません。
 そこで、シフト補正がなされた特許出願が、そのことに起因する拒絶理由などを受けることなく、そのまま特許査定されたとしても直接的に第三者の利益を著しく害することにはならないと考えられます。
 このため、上述したように、シフト補正禁止の制限に違反した場合は拒絶理由を受けることなどになりますが、シフト補正禁止の制限に違反していたことは、特許権成立後に申立や請求が行われる特許異議申立て、特許無効審判請求での理由にはなっていません。

シフト補正禁止の判断を受ける対象
 シフト補正禁止の制限は「拒絶理由通知を受けて補正した後の特許請求の範囲に記載されている発明」が、「補正前に受けた拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された発明」との間で、特許法第第37条の発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当しているかどうかということで判断されます。
 「拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された発明」とは、新規性(特許法第29条第1項)、進歩性(同法第29条第2項)、拡大先願(同法第29条の2)、先願(同法第39条)についての審査がなされた発明のことです。
 シフト補正が禁止されている趣旨は、上述したように、補正前になされた先行技術調査、審査を有効に活用することにありますから、審査官は、補正前の審査を受けた発明の中で、先行技術調査を要する上述した条文の要件についての審査がなされた発明に基づいて、補正後の発明がシフト補正に該当するかどうかを判断することになっています。
 なお、審査がなされた結果、新規性、進歩性、拡大先願、先願についての拒絶理由が発見されていなかった発明も「拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された発明」にあたるとされています。

シフト補正であると判断される場合
 「拒絶理由通知を受けて補正した後の特許請求の範囲に記載されている発明」が、「補正前に受けた拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された発明」との間で、特許法第第37条の発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当していない場合に、シフト補正にあたると判断されることになります(特許法第17条の2第4項)。
 一の特許出願の特許請求の範囲に記載されている2個の請求項に記載されている発明を対比した時に、両者の間に、同一の又は対応する特別な技術的特徴が存在しているときに、「特許法第第37条の発明の単一性の要件を満たす一群の発明」ということになります。
 特許法第37条の発明の単一性の要件は、審査を受けている特許出願の特許請求の範囲に記載されている二以上の請求項記載の発明の間で検討・判断されます。シフト補正禁止の規定(特許法第17条の2第4項)は、この単一性の要件を、補正前の特許請求の範囲に記載された発明と、補正後の特許請求の範囲に記載された発明との間に拡張したものであるといえます。
 特許出願の手続を専門家である弁理士に依頼している場合には、シフト補正禁止の制限に違反する補正が弁理士から提案されることはあまりありません。また、違反する可能性がある場合には「この補正の内容ではシフト補正禁止の規定に違反するという拒絶理由を受けることになるかもしれません」という説明を事前に受けるのが一般的であると思われます。
 「審査を受けている発明には新規性、進歩性を認めることができない」という拒絶理由を受け、指摘された拒絶理由を覆すべく、特許請求する発明の内容を大きく変更しようとすると「シフト補正禁止の制限に違反している」という拒絶理由や、補正却下の決定を受けることがあります。そこで、専門家である弁理士によく相談することをお勧めします。

<次号のご案内>
 次号では、一の特許出願の特許請求の範囲に記載されている2個以上の請求項に記載されている発明の間に要求される特許法第37条の発明の単一性の要件(対比する発明の間に、同一の又は対応する特別な技術的特徴が存在している)について説明します。

以上

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■ニューストピックス■

●期間徒過後の救済規定に係る回復要件の緩和(特許庁)

 本年4月1日付で一部が施行される、特許法等の一部を改正する法律(令和3年法律第42号)により、期間徒過後の救済規定に係る回復要件が「正当な理由があること」から「故意によるものでないこと」に緩和されます。
 以下、「正当な理由があること」から「故意によるものでないこと」に緩和される期間徒過後の救済規定に係る回復要件を「故意でない基準」といいます。
 審査請求期限の徒過、特許権を維持するために毎年のように特許庁へ納付する特許料(=特許維持年金)の納付期限の徒過など、従来の「正当な理由があること」を回復要件としていたものが、「故意でない基準」によって救済される対象になります。
 なお、「故意でない基準」による救済の場合、新たに創設される回復手数料の納付が必要になります。
 詳細は特許庁のウェブサイト<期間徒過後の救済規定に係る回復要件が「正当な理由があること」から「故意によるものでないこと」に緩和されます | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp) >でご確認ください。
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/kyusai_method2.html
 なお、施行日である令和5年4月1日以降に手続期間を徒過した手続が「故意でない基準」によって救済される対象になり、令和5年3月31日以前に手続期間を徒過した手続については、従来から実施されていた「正当な理由があること」が回復要件になります。

回復理由書の提出期限
 「故意でない基準」が回復要件になる所定の手続(例えば、特許出願についての審査請求手続、特許維持年金納付手続)について、所定の手続期間内(例えば、特許出願についての審査請求手続であれば特許出願日から3年以内に限られている手続期間内)に手続をすることができなかったことが「故意によるものでない」ときは、期間徒過後の手続ができるようになった日から2月以内かつ手続期間の経過後1年以内(商標に関しては6月以内。)に、「所定の期間内に行うことができなかった手続」(例えば、特許出願の審査請求手続)を行うとともに、「(手続をすることができなかった理由を記載した)回復理由書を特許庁へ提出する」ようになります。
 上述した特許庁ウェブサイトでは次のように図解されています。


 なお、優先権の主張などについても、「故意でない基準」による救済を受けることができますが、上述した回復理由書の提出期限とは異なる期限に所定の手続を行う必要があります。詳しくは、上述した特許庁ウェブサイトでご確認ください。

回復理由書に記載すべき事項
 回復理由書には、「所定の期間内に手続をすることができなかった理由及び手続をすることができるようになった日」、「手続をしなかったことが故意によるものでないこと」を記載するようになります。
 なお、特許出願についての出願審査の請求の回復理由書の場合は、「出願審査の請求を遅延させることを目的とするものではなかったこと」も記載するようになります。
 以上の理由を裏付ける証拠書類の提出は必須にされていませんが、「(特許庁が)必要があると認める場合(疑義がある場合)」、追って、特許庁から「証拠となる書類の提出要求」がされる場合があります。

回復手数料
 「故意でない基準」による救済を受ける場合、所定の期間内に行うことができなかった手続をするとともに、上述の回復理由書を特許庁へ提出します。回復理由書の提出にあたっては各法域ごとに異なる金額の回復手数料を特許庁へ納付します。特許庁から公表されている回復手数料の金額は、特許:212,100円、実用新案:21,800円、意匠:24,500円、商標:86,400円です。
 なお、手続期間内に手続をすることができなかった理由について、手続をする者の責めに帰することができない理由(=不責事由)があり、かつ、その事実を証明する書面により不責事由が確認できる場合は、回復手数料が免除されることがあるとされています。

回復要件
 特許庁は、出願人等から救済の対象となる手続書面と、回復理由書とが期間徒過後の上述した所定の期間内に提出されているか、回復手数料が納付されているか、「故意でない基準」を満たすかを検討し、回復の判断をするとしています。

「故意でない基準」による救済が認められない事例
 上述した特許庁ウェブサイトでは「出願人等が手続をしないと判断して所定の期間を徒過した後、期間徒過後に状況の変化などを理由に救済手続をすることとした場合は、手続をすることができなかった理由が『故意によるものである』と判断され救済が認められない可能性があります。」とされています。
 また、期間を徒過した理由が「故意に手続をしなかった」と判断され、救済が認められない可能性がある事例が複数示されており、その中には、以下のものがあります(詳しくは上述した特許庁ウェブサイトでご確認ください。)。

<救済が認められない可能性がある事例:期間徒過後の社内の方針転換>
 出願審査の請求手続:出願人の例
 特許出願を行ったが、出願審査の請求期限までに出願審査の請求の要否を社内検討した結果、不要と判断した
 出願審査請求期間の徒過後、社内の方針転換により、出願審査の請求を行うこととしたため、回復理由書を提出した。

<救済が認められない可能性がある事例:権利放棄決定後の他社からの照会>
 特許料納付手続:特許権者の例
 社内で特許権の必要性について検討をした結果、維持しない判断としたため特許料の納付、追納を行わなかった。
 追納期限の徒過後、他社が消滅した特許権に関心を示したので、権利を維持するよう方針転換し、回復理由書を提出した。

<救済が認められない可能性がある事例:廃業後の後継者の就任による事業再開>
 商標権の更新手続:商標権者の例
 申請人(サービス業)は、商標権を有していたが、後継者がいないことから廃業することにした。
 廃業するので商標権の更新登録申請は必要ないため、手続を行わなかった。
 更新登録申請の手続期限の徒過後、後継者が就任することになり事業を継続することとなったため、回復理由書を提出した。

●原出願が審判係属中の分割出願に対する審査中止の運用を開始(特許庁)

 二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願にする分割出願は、明細書等の補正をすることができる時又は期間内、特許査定謄本送達後30日以内、最初の拒絶査定謄本送達後3カ月以内のいずれかのときに行えるようになっています(特許法第44条)。
 特許庁は、原出願の拒絶査定後、拒絶査定不服審判請求にあわせて分割出願が行われたものであって、所定の期間内に、出願人又は代理人から所定の申請が行われた案件について、特許法第54条第1項を適用し、原出願の前置審査又は審判の結果が判明するまで当該分割出願の審査を中止する運用を本年4月1日から開始すると公表しました。
 「原出願の拒絶査定後、拒絶査定不服審判請求にあわせて分割出願されたものについては、原出願の前置審査又は審判の結果を踏まえて当該分割出願の審査をする方が便宜である場合があり」、また、「出願人にとって、原出願の拒絶査定不服審判の結果を踏まえて分割出願の対応を検討できることは、より効率的かつ効果的な出願戦略の構築につながると期待される」からであるとしています。
 特許庁ウェブサイト<原出願が審判係属中の分割出願に対する審査中止の運用について | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)>には4月1日からの取り扱いが以下のように図解されています。 https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/general/bunkatu-shutugan_chushi.html


(引用:特許庁HP)

 上述した取り扱いの対象となる出願は、令和5年4月1日以降に審査請求がされた審査着手前の出願であって、以下の(1)〜(3)の全ての要件を満たす特許出願であるとされています。

(1)原出願の拒絶査定後に分割された分割出願であること
(2)原出願について拒絶査定不服審判請求がされており、原出願が前置審査又は拒絶査定不服審判に係属中であること
(3)原出願の前置審査又は審判の結果を待つことが便宜であるもの

●特許非公開制度の指針案を策定(政府)

 政府は、昨年成立した経済安全保障推進法に基づき、安全保障にかかわる先端技術の「特許非公開制度」に関する指針案を策定しました。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/keizai_anzen_hosyohousei/r5_dai5/siryou4.pdf
 特許は原則、出願1年6カ月後に公開されますが、経済安保法では、安全保障にかかわる先端技術の流出を防ぐため、新設する審査組織が「保全指定」すれば、特許を非公開にすると規定しています。
 指針案では、安全保障上の懸念から非公開とすべき発明として、安全保障に「多大な影響を与え得る最新技術」を保全指定の対象とし、「極超音速兵器の推進技術」や「宇宙・サイバーなどの最新技術」などを例示しました。
 このほか、「国民生活や経済活動に甚大な被害を生じさせる手段となり得る技術」も対象とし、「大量破壊兵器への転用が可能な核技術」も含まれるとしています。
 指針案では、特許出願の非公開によって外国などへの出願も禁止されることで、出願した人が通常生ずべき損失を補償するなどとしています。出願した人の損失がどのようなケースで補償されるのか、今後、補償の対象となり得る損失例について、別途Q&A等の形で示す方針です。

●ルブタンの赤い底靴、色彩商標の登録認めず(知財高裁)

 フランスの高級靴ブランド「クリスチャン ルブタン」が、赤い靴底(レッドソール)の赤色を「色彩商標」(色彩のみからなる商標)として商標登録を求めた裁判で、知財高裁は、ルブタンの請求を退けました。
 ルブタンは2015年4月、特許庁に商標登録出願(商願2015−29921)をしましたが、拒絶されました。これを不服として審判請求をしましたが、2022年5月にも「色彩としてはありふれたもの」などとして、請求は退けられました。それを受け、知財高裁に対して審決の取り消しを求める訴訟を起こしていました。
 ルブタンの「レッドソール」は表示位置(靴底)は特定されているものの、文字や図形と組み合わせたものではなく、輪郭のない単一の赤色のみで構成されています。
 知財高裁は、ルブタンの「レッドソール」は、色彩のみの商標として登録するほどの知名度(使用による識別力)がないと判断。また、赤色は色彩としてはありふれたもので、靴底を赤色にするのは、多くの事業者で使用されているデザイン手法であり、第三者による使用を不当に制限することは、「公益上も支障がある」などとして、ルブタン側の請求を棄却しました。
 色彩商標は2014年の商標法改正によって新たに登録の対象となりましたが、現時点でも登録例は9件しかありません。MONOの消しゴム、セブンイレブンの看板、チキンラーメンのパッケージなどで、登録された9件は、すべて複数の色の組み合わせの商標であり、単独の色だけで登録できた事例はまだありません。


 (商願2015−29921)

●違法アップローダーの情報開示を命じる(東京地裁)

 東京地方裁判所は、ファイル共有ソフト「BitTorrent」を使って音楽ファイルを違法アップロードしているユーザーについて、プロバイダーであるGMOインターネットグループに対し、発信者情報を音源の権利を有するレコード会社に開示するよう命じる判決を下しました。
 日本レコード協会の会員であるレコード会社は、違法アップローダーに対して著作隣接権(送信可能化権)侵害に係る損害賠償請求等を行うため、プロバイダ責任制限法にもとづいてインターネットサービスプロバイダ13社へ違法アップローダーと思われるIPアドレス、所有者の氏名、住所および電子メールアドレスの開示を求めていました。
 これまでに8社からは任意で情報開示がありましたが、応じなかった5社に対しては訴訟を起こしていました。今回の判決で、対象となったIPアドレスのうち、ログが残っていなかった4件を除く全てが開示されることになりました。
 レコード会社は、開示された発信者情報に基づき、今後、違法アップローダーとの間で「今後著作権侵害をしない旨の誓約」および「損害賠償金の支払い」に関する協議を進める方針です。

●YouTubeの音楽利用巡り、JASRACとグーグルが新契約

 日本音楽著作権協会(JASRAC)は、グーグルとYouTube上でのJASRAC管理楽曲の利用について、新たな許諾契約を締結したことを発表しました。
 発表によると、JASRACは、YouTubeの自動判別システム「Content ID」の活用を本格的に開始します。「Content ID」は、グーグルが開発した著作権で保護されたコンテンツを識別するためのシステムです。「Contents ID」の導入により、今後は投稿された動画内にJASRACの管理楽曲が含まれていると、投稿者に対してJASRACが著作権の申し立てをしたという通知が届く場合があります。
 こうした楽曲を使用している動画に対し、これまで広告が表示されなかった動画にも、広告が表示され、広告収益の一部は著作物使用料として、JASRAC経由で楽曲の権利者へ分配されるという仕組みであるとしています。
 JASRACによると、これは著作権侵害の申し立てではなくJASRAC管理楽曲の使用を動画投稿者に知らせることが目的なので、通知が来ても動画を削除したり非公開にする必要はないとしています。


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最終更新日 '23/12/11