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◇◆◇ 鈴木正次特許事務所 メールマガジン ◇◆◇
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2023年6月1日号


  本号のコンテンツ


 ☆知財講座☆

 ■弁理士が教える特許実務Q&A■

(66)先使用権(1)

  ☆ニューストピックス☆

 ■海外サーバーでも特許侵害を認定(知財高裁)
 ■特許非公開制度の基本指針を閣議決定(政府)
 ■「ゲーム実況」の無断投稿で配信者を逮捕
 ■AI活用めぐる国際ルールの策定で合意(G7)
 ■知財経営の実践に向けた「ガイドブック」公開(特許庁)
 ■大学発ベンチャー企業数が過去最多(経済産業省)
 ■「原出願が審判係属中の分割出願に対する審査中止の運用
 についてのQ&A」を公表(特許庁)
 ■助成金情報 令和5年度中小企業等海外侵害対策支援事業


 特許庁は、「知財経営の実践に向けたコミュニケーションガイドブック〜実践事例集〜」を公表しました。
 ガイドブックでは、知財を活用した企業経営の実践に向け、経営層と知財部門間のコミュニケーションの課題を取り上げ、知財経営に実際に取り組んでいる企業の事例などを紹介しています。
 知財経営を実践する際の参考になるかもしれません。

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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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■弁理士が教える特許実務Q&A■

(66)先使用権(1)

【質問】
 当社が行っている事業に対して「弊社が所有している特許権に対する侵害行為にあたる」との警告を受けた場合であっても、「当該事業は、当該特許権に係る特許出願が行われた時点で既に当社の事業として実施していたものであること」を立証できれば、当該事業を継続できると聞きました。これはどのようなことなのでしょうか?

【回答】
 ご質問いただいたものは、先使用による通常実施権で、センシヨウケン、あるいはサキシヨウケンと呼ばれる先使用権に関するものです。特許法第79条に規定されています。これについて説明します。

先使用による通常実施権=先使用権とは?
 特許庁は「事業者の皆様に先使用権制度に対する理解を深め、先使用権の証拠確保を効果的に実践していただくため」として「制度を利用するに当たり参考となる情報を集め」て「先使用権〜あなたの国内事業を守る〜」という冊子を平成28年(2016年)7月に発行しています。
 https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/senshiyo/document/index/senshiyouken_kanryaku.pdf
 この冊子では、先使用権の内容が次のように概説され、図示されています。
 「発明者Aが自社にとって大切な発明をノウハウとして取り扱い、特許出願を行わずに発明の実施である事業の準備をしていたところ、偶然に同じ発明をした発明者Bがその発明について特許出願をすることがあります。このような場合であっても、Aが、Bによる発明のことを知らずに自ら発明を完成しており、Bの特許出願の時点で、その発明を実施する事業の準備をしており、かつ、それらを裁判で証明できれば、Bが特許権を取得しても、Aはその発明を一定の範囲内で実施し続けることができます。」

 工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕(編集:特許庁総務部総務課制度審議室、発行:一般社団法人発明推進協会)では先使用権の内容が次のように例示されています。
 https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/kaisetu/kogyoshoyu/chikujokaisetsu22.html
 「甲が令和2年5月1日に苛性ソーダNの製造方法について特許出願をしたが、乙は甲の特許出願の内容である発明と同じ発明、すなわち、苛性ソーダNを製造する方法の発明を自分で独立的に(すなわち、甲の模倣としてではなく)発明し、令和2年5月1日には乙はその苛性ソーダNの製造方法の発明の実施をしていたとすれば、甲の特許出願が特許になった場合においても、乙は引き続き苛性ソーダNの製造をする権利を有する。」

先使用権の内容
 先使用権は、特許庁に出願(申請)を行って登録するものではありません。特許権者から「特許権侵害である」として差止請求訴訟や損害賠償請求訴訟を受けたときに、その裁判の中で抗弁として主張・立証し、裁判所で認めてもらうものです。裁判所で先使用権の成立が認められたならば、訴えの根拠になっている特許権に対しては「特許権侵害である」として訴えられた事業を継続できます。
 このように、先使用権は、「特許権侵害である」との差止請求訴訟や損害賠償請求訴訟の根拠になっている特許権に係る発明を事業として実施できる通常実施権と呼ばれる権利です。
 先使用による通常実施権=先使用権は、無償(対価が不要)です(特許法第79条)。先使用権の成立が裁判所で認められた者は、特許権者に対して許諾を求めたり、金銭を支払ったりすることなく、先使用権の成立が認められた特許発明の実施を継続できます。

先使用権が認められる理由
 先使用権(特許法第79条)が認められる理由の一つは、先に発明を行っていた者である先発明者と、特許権を取得した者である特許権者との間の公平を図ることにあるとされています。
 また、既に事業の実施や準備を行っていた者が、その後の特許出願で成立した特許権による権利行使を受けて事業設備の廃棄などを行わねばならなくなるのは産業政策上妥当でないという理由もあるとされています。

先使用権の成立要件
 裁判所で先使用権の成立が認められるためには以下のA〜D4つの要件がすべて主張、立証されなければなりません。

A.主体に関する要件
 先使用権の成立を主張する者が、

「(『特許権侵害である』という訴えの根拠になっている特許権の)特許出願に係る発明の内容を知らないで、自らその発明をした者」あるいは、
「当該特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得した者」
であることが必要です。
上述した先使用権が認められる理由からの要件になります。

 先使用権の成立を主張する者は、「特許権侵害である」という訴えの根拠になっている特許権の特許出願に関する発明の内容を知らないで独自に同じ発明をしていた者であること、あるいは、「特許権侵害である」という訴えの根拠になっている特許権の特許出願に関する発明の内容を知らないで同じ発明をした者からその発明の内容を知った者のいずれかであることを立証することになります。

B.時期に関する要件
 先使用権の成立を主張する者は、「特許権侵害である」という訴えの根拠になっている特許権に係る発明の実施である事業やその準備を、「特許権侵害である」という訴えの根拠になっている特許権の「特許出願の際、現に」実施していたことを立証しなければなりません。
 これも、上述した先使用権が認められる理由からの要件です。

C.地域に関する要件
 日本国内での実施行為が日本国の特許権に対する侵害行為であるとして訴えを受け、これに対して抗弁するので、日本国内において、上述した、発明の実施である事業やその準備をしていたことを立証しなければなりません。
 発明の実施である事業やその準備を行っていたのが海外においてのみである場合には、日本国の特許権に基づく権利行使に抗弁する日本国の先使用権は成立しません。

D.客体に関する要件
 先使用権の成立を主張する者が行っていたものが、(「特許権侵害である」という訴えの根拠になっている)特許権に係る発明についての「実施である事業」又は「その事業の準備」であることが立証されなければなりません。
 先使用権(特許法第79条)が認められる理由の一つは上述したように産業政策的な観点ですが、先発明者と特許権者との間の公平を図ることにもあります。
 そこで、先使用権は、事業設備を有する者だけでなく、「その事業の準備」を行っていた者にも認められることになっています。
 「その事業の準備」を行っていたとは、「少なくともその準備が客観的に認められ得るものであることを要する。したがって、単に頭の中で発明の実施をしようと考えたとか、実施に必要な機械購入のために銀行に資金借入れの申込みをしたという程度では事業の準備ということはできない。一方、その事業に必要な機械を発注して既に出来上がっている、又は雇用契約も結んで相当宣伝活動をしているような場合は事業の準備の中に含まれるであろう。」とされています(工業所有権法(産業財産権法)逐条解説)。

<次号のご案内>
 先使用権の成立を主張する者は上述したA〜Dの要件のすべてを立証しなければなりません。一方で、「特許権侵害にあたる」とする警告や訴訟の提起は突然やってきます。そこで、研究開発・技術開発により発明を完成し、すなわち、その発明を知得し、事業を準備し、実施するに至る経緯を、裁判所で認めてもらえる程度に、立証できるよう、資料収集し、保管しておくことが重要になります。
 資料の収集、保管の中で、先使用権の成立を立証する資料の証拠力を高める手法として公証制度、タイムスタンプがあります。
 次号では、先使用権の成立を立証する資料の収集・保管、公証制度、タイムスタンプの利用について紹介します。

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■ニューストピックス■

●海外サーバーでも特許侵害を認定(知財高裁)

 動画サイトの「ニコニコ動画」を運営するドワンゴが、再生中の動画にコメントを流す特許を侵害されたとして「FC2動画」の運営会社を訴えた裁判の控訴審で、知的財産高等裁判所は、請求を棄却した一審判決を変更し、特許権侵害を認め、コメント機能の配信停止と約1100万円の賠償を命じました。
 https://www.ip.courts.go.jp/vc-files/ip/2023/R4ne10046.pdf

 特許権は、効力が自国内でのみ認められる「属地主義」の原則がありますが、FC2の配信システムは米国にサーバーがあるため、効力が及ぶかどうかが争点となりました。
 知財高裁は5人の裁判官による大合議で審理。判決では「サーバーが国外にあっても、国内にあるシステムの構成要素が果たす役割や、利用の効果が得られる場所、その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮し、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは」、特許法の効力が及ぶという考え方を示しました。
 その上で「FC2のサービスには日本のユーザー端末が必要だ」などと指摘し、「全体として日本の領域内で行われたものとみることができる」と判断しました。


●特許非公開制度の基本指針を閣議決定(政府)

 政府は、昨年5月に成立した経済安全保障推進法の「特許非公開」に関する基本指針を閣議決定しました。令和6年5月に運用を開始する方針です。
 https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/doc/kihonshishin4.pdf

 特許の非公開制度とは、軍事転用が可能な民生技術(機微技術)を含む安全保障上の重要な技術が海外へ流出することを防止するため、これに該当する発明については通常の特許とは異なり、公開しないという制度です。

 基本指針によると、非公開の審査は2段階で実施。まず特許庁が第1次審査をします。そこで特許出願が機微技術に関する「特定技術分野」に該当する可能性があれば、内閣府の「保全審査」に移ります。審査の結果、保全指定を受けた発明については、出願公開や特許査定などを保留するとともに、特許出願人に対して、許可を受けない実施の禁止、発明内容の開示の禁止、情報の漏えい防止のための適正管理措置を講ずる義務などが課されることになります。
 機微技術を含んでいれば一律に非公開とするような硬直的な運用はせず、経済活動などへの影響を考慮し、適当と認めた場合に限り非公開とします。非公開の対象となった出願者には特許収入に代わる金銭補償制度を導入します。


●「ゲーム実況」の無断投稿で配信者を逮捕

 ゲームをしている映像をインターネット上に投稿する、いわゆる「ゲーム実況」を巡り、ゲーム会社の許可を得ないでユーチューブに公開したとして、宮城県警は、動画配信者を著作権法違反の疑いで逮捕しました。
 ユーチューブなどでは、ゲーム画面を映しながらプレーの様子を実況する「ゲーム実況」が人気を集めていますが、あらすじや結末などを無断で公開するような投稿も確認されています。このため、ゲーム各社では、実況動画を投稿する際の条件などをガイドラインで示しています。ガイドラインでは、あらすじや結末、特典映像などは公開しないなど、ゲームの性質によって様々な基準を設けています。
 今回、逮捕された配信者は、ガイドラインに違反して、ストーリー性のあるゲームのムービーシーンのみをつなぎあわせてエンディングまで編集したり、動画配信による広告収入を目的に複数の動画を無断投稿していたことなどから、悪質と判断されました。警察によると、「ゲーム実況」の配信者が著作権法違反の疑いで逮捕されたのは今回が初めてです。


●AI活用の国際ルール策定で合意(G7)

 主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)は、各国首脳らによる討議の成果をまとめた首脳宣言を発表しました。
 https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100507034.pdf

 首脳宣言では、対話型人工知能(AI)「チャットGPT」に代表される生成AIに関し、国際的なルール作りを進めることで合意しました。各国の閣僚による枠組み「広島AIプロセス」を立ち上げ、AIの開発や活用、規制などについて議論し、年内にも著作権保護などを含む見解をG7としてまとめる方針です。
 岸田首相は会見で、「人間中心の信頼できるAI」の構築に向けて、「信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)」など国際的な枠組みの設立を早期に目指すことを提案し、日本として資金の拠出など必要な協力をすることも表明しました。


●知財経営の実践に向けた「ガイドブック」を公開(特許庁)

 特許庁は、「知財経営の実践に向けたコミュニケーションガイドブック〜経営層と知財部門が連携し企業価値向上を実現する実践事例集〜」を公開しました。知財を活用した企業経営の実践に向けて経営層と知財部門とのコミュニケーションの課題を明らかにし、取り組むべき項目をガイドブックとして取りまとめています。
 https://www.jpo.go.jp/support/example/chizai_keiei_guide.html

 ガイドブックでは、知財を活用した企業経営を実践している企業と知財経営の実践に悩む企業を比較。それによると、「知財を活用した企業経営を実践している企業では、経営層と知財部門との十分なコミュニケーションのもとで、知財部門が企業の将来の経営戦略や事業戦略に対して知財の視点で積極的に貢献しています。一方、知財経営の実践に悩む企業では、経営層、知財部門が、知財部門の役割を、既存事業等を守るための知財管理として限定的に捉え、相互のコミュニケーションもその範囲内に留まっています」と分析しています。
 そのうえで、「知財経営の実践に悩む企業では、知財部門の役割に対する意識を変えることが必要です。また、知財部門が将来の経営や事業に関する情報に接する機会を設け、その上で、知財部門が情報を分析して経営層に提案するなど、経営層と知財部門とが将来の経営や事業に対して知財で貢献するための議論を繰り返すことが求められます」としています。

 ガイドブックでは、知財経営を実践している企業の知財担当者をヒアリングした結果、6社分の事例を紹介するとともに自社の課題を確認するためのチェックリストも掲載。
 また、「知財部門の役割と意識改革」「経営層と知財部門との情報共有の在り方」「経営層と知財部門のコミュニケーション強化のプロセス」など、実際に知財経営に取り組む際に参考となるようなノウハウやヒントなどを提供しています。


●大学発ベンチャー企業数が過去最多(経済産業省)

 経済産業省は、「令和4年度大学発ベンチャー実態等調査」結果(速報)を取りまとめ、公表しました。
 https://www.meti.go.jp/press/2023/05/20230516003/20230516003.html

 それによると、2022年10月時点の大学発ベンチャー数は3,782社で、2021年度の3,305社よりも477社増加し、企業数・増加数ともに過去最多を更新しました。多くの大学が前年度から数を伸ばしており、ベンチャー創出に力を入れていることがうかがえる結果となりました。

 大学別にみると、東京大学が前年度に続き1位(371社)で、42社増加。2位も前年度に続き京都大学267社(25社増)、3位は慶應義塾大学236社(61社増)、4位は筑波大学217社(39社増)、5位は大阪大学191社(11社増)。このうち、慶應義塾大学は増加数では1位となりました。
 6位以降では、東北大学、東京理科大学、名古屋大学、早稲田大学、東京工業大学の順で続きました。


●「原出願が審判係属中の分割出願に対する審査中止の運用についてのQ&A」を公表(特許庁)

 特許庁は「原出願が審判係属中の分割出願に対する審査中止の運用についてのQ&A」を公開しました。
 https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/general/bunkatu-shutugan_chushi_qa.html

 令和5年4月1日から原出願の拒絶査定後、拒絶査定不服審判請求に併せて分割出願されたものについては、原出願の前置審査または審判の結果が判明するまで、その分割出願の審査を中止するという運用がなされています。
 Q&Aは、運用変更に関する主な質問とその回答をまとめたものです。


◆令和5年度中小企業等海外侵害対策支援事業(特許庁)

 特許庁では、令和5年度中小企業等海外侵害対策支援事業として、「模倣品対策」「冒認商標無効・取消係争」「防衛型侵害対策」等の補助金の公募を開始しました。
 詳細及びお申し込み等は、窓口の独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)のHPをご参照ください。

(1)海外で見つけた模倣品対策
 https://www.jetro.go.jp/services/ip_service/
(2)冒認商標を取り消すための費用(冒認商標:海外でブランド名等を悪意の第三者が先取出願すること)。
 https://www.jetro.go.jp/services/ip_service_overseas_trademark.html
(3)海外で外国企業から警告を受けた場合の係争費用
 https://www.jetro.go.jp/services/ip_service_overseas.html


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発行元 : 鈴木正次特許事務所
〒160-0022 東京都新宿区新宿6‐8‐5
新宿山崎ビル202
TEL 03-3353-3407 FAX 03-3359-8340
E-mail:
URL: http://www.suzuki-po.net/

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最終更新日 '24/09/02