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◇◆◇ 鈴木正次特許事務所 メールマガジン ◇◆◇
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2023年1月1日号


  本号のコンテンツ


 ☆知財講座☆

 ■弁理士が教える特許実務Q&A■

(73)拒絶理由を受けた「物」発明から「方法」発明に補正する対応


 ☆ニューストピックス☆

 ■知財一括法の施行日決まる(特許法、商標法、意匠法など)
 ■「イノベーションボックス税制」創設(政府・税制改正大綱)
 ■生成AIの機械学習で考え方示す(文化庁)
 ■特許出願非公開制度、本年5月1日に施行(政府)
 ■「日本ネーミング大賞」、初音ミクが最優秀賞
 ■意匠の新規性喪失の例外規定の解説動画を公開(特許庁))


 新年明けましておめでとうございます。
 本年も、さらなる知財サービスの向上に努めて参りますので、より一層のご愛顧を賜りますよう、お願い申し上げます。
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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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■弁理士が教える特許実務Q&A■

(73)拒絶理由を受けた「物」発明から「方法」発明に補正する対応

【質問】
 「装置」についての発明で特許出願し、審査を受けたのですが、進歩性欠如という拒絶理由を受けました。拒絶理由に引用された先行技術文献の内容を読むと特許庁審査官の指摘は妥当なように思われます。しかし、この「装置」をどのように使用するか、その「使用方法」に関しては、先行技術文献に記載も示唆もされていません。「装置を使用する方法」ということにして特許取得を目指すことはできないでしょうか?

【回答】
 特許出願時の明細書、図面の中に記載していた「装置を使用する方法」であるならば、特許請求する発明を「物」の発明である「装置」から、「装置を使用する方法」に補正して審査を受けることが可能です。この事情について説明します。 <発明の種類(カテゴリー)>
 自社が開発した新規な技術について、他社の実施行為をより広い範囲で排除できるようにするためには、いろいろな角度から特許取得を目指す発明を検討して把握することが大切です。
 特許法では、発明を「物の発明」と「方法の発明」とに大別し、更に、「方法の発明」の中に「物を生産する方法の発明」という種別を設けて、発明の種類(カテゴリー)ごとに、どのような行為が発明の実施に該当するのか定めています(特許法第2条第3項)。
 「2023年度知的財産権制度入門テキスト T 概要編 第2章 産業財産権の概要 第1節 特許制度の概要」では以下の図を用いて解説が行われています。

https://www.jpo.go.jp/news/shinchaku/event/seminer/text/document/2023_nyumon/1_2_1.pdf

<発明の種類(カテゴリー)に応じた実施行為の定義>
 上掲の図のように、〇〇装置、○○機械、〇〇材、○○剤、コンピュータプログラムのような「物」の発明の場合、その「物」を生産する行為、その「物」を使用する行為、その「物」を販売などによって譲渡する行為、その「物」を貸渡しする行為、その「物」を輸出する行為、その「物」を輸入する行為、その「物」を譲渡又は貸渡しするために展示する行為やカタログによる勧誘・パンフレットの配布などのようにその「物」の譲渡又は貸渡しのために行う申し出、インターネットなどのネットワークを通じてコンピュータプログラムを提供する行為などが発明の実施に該当します。
 そこで、特許成立している「物」の発明について、権原なき第三者が、前述したような行為を行うと特許権侵害ということになります。
 「物を使用する方法」、「計測方法」などのいわゆる「単純方法」の発明の場合には、その「方法」を使用する行為が発明の実施に該当し、権原なき第三者が、特許成立している「方法」を使用すると特許権侵害ということになります。
 「物を生産する方法」の発明の場合には、「単純方法」発明の場合と同じく、その「方法」を使用する行為が発明の実施に該当します。また、その「方法により生産した物」を、使用する行為、販売などによって譲渡する行為、貸渡しする行為、輸出する行為、輸入する行為、譲渡又は貸渡しのための申し出を行う行為なども発明の実施に該当します。
 そこで、権原なき第三者が、特許成立している「生産方法」により物を生産したり、その行為によって生産した物を使用する、販売、等すると特許権侵害ということになります。

<「物」の発明で特許取得を目指すことが一般的>
 「単純方法」で特許取得した場合、その「単純方法」が使用されている(実施されている)ことを容易に把握できるのであるならば、成立した特許権の効力に基づいて差し止め請求、等を行うことができます。一方、その「単純方法」が、工場の中で実施されるものであって、他社の工場内で実施されているかどうか把握することが難しい場合には、特許権取得できても権利行使することは難しいことになります。
 「物を生産する方法」で特許取得した場合、上述したように、「その生産方法で生産した物」を使用する行為、販売する行為などに対しても特許権に基づく権利行使可能ですが、やはり、特許成立している「生産方法」発明が、同業他社の工場内において実施されていることを把握して立証する必要があり、特許権取得しても権利行使することは容易ではありません。
 特許取得を目指す〇〇装置の使用方法が新規なものである場合、「〇〇装置とその使用方法」というように「物発明」と「方法発明」とを1件の特許出願で同時に特許請求することがありますが、上述したように、特許権の効力範囲が最も広いのは「物」の発明ですので、特許取得を目指す発明を〇〇装置、○○機械、〇〇材、○○剤、コンピュータプログラムのように「物」の発明として表現できるときには、「物」の発明で特許取得を目指して審査を受けることが一般的です。

<「物」の発明から「方法」発明への補正>
 今回のご質問のように、「物」の発明で特許出願し審査を受けたところ進歩性欠如を指摘する拒絶理由を受け、これを解消することが困難であると判断できる場合、拒絶理由通知書に回答する際に、特許請求する発明を「〇〇装置を使用する方法」のように「方法」発明に補正して特許取得を目指すことが可能です。
 また、拒絶理由通知書で進歩性欠如の拒絶理由に引用された先行技術文献の記載と対比・検討した時に「方法」発明に補正すれば特許取得の可能性が十分あると考えられるが、「物」発明に対する進歩性欠如を指摘する拒絶理由に対して反論できる余地があるのではないかとも考えられる場合に、進歩性欠如を指摘する拒絶理由に反論して審査官に再考を求める対応を行って「物」発明についての特許取得を目指しつつ、審査を受けている特許出願から分割出願(特許法第44条)を行い、分割出願で特許請求する発明を「方法」発明に補正して審査を受け、「方法」発明についての確実な特許取得を目指す、という道もあります。
 ただし、いずれにしても、補正後の「方法」発明が特許出願時の明細書、図面に記載されていたものでないと、「新規事項追加の補正である」として補正後の発明が拒絶される理由になります。
 また、審査を受けていた「物」発明から、明細書に記載していた「方法」発明に変更する補正が、拒絶理由が通知された後に発明の内容を大きく変更することを禁止しているシフト補正禁止規定(特許法第17条の2第4項)に違反することになる場合も、補正後の発明が拒絶される理由になります。
 そこで、審査を受けていた「物」発明から明細書に記載していた「方法」発明に変更することを希望される場合には、専門家である弁理士に十分に相談することをお勧めします。

<次号のご案内>
 特許出願の審査で特許庁審査官から受けた拒絶理由を解消できない場合、審査官の最終判断である「拒絶査定」が下されます。「拒絶査定」を受けた場合であっても3カ月以内に拒絶査定不服審判を請求することで、特許庁における第二審(拒絶査定不服審判)で3名の審判官合議体による慎重な審理を受けることができます。次回から特許出願に対する拒絶査定への不服申し立てである拒絶査定不服審判について説明します。

以上

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■ニューストピックス■

●知財一括法の施行日決まる(特許法、商標法、意匠法など)

 令和5年6月14日に「不正競争防止法等の一部を改正する法律」(知財一括法)が公布されましたが、その施行期日が決定しました。
https://www.meti.go.jp/press/2023/11/20231124001/20231124001.html

 今回の改正では、デジタル技術の活用により、特に中小企業・スタートアップの事業活動が多様化していることなどに対応するため、(1)ブランド・デザイン等の保護強化、(2)コロナ禍・デジタル化に対応した知的財産手続の整備、(3)国際的な事業展開に関する制度整備の観点から、不正競争防止法、商標法、意匠法、特許法、実用新案法、工業所有権特例法の改正が行われました。

 これらの改正内容のうち、今回施行日が決まったのは以下のとおりです。

【令和6年1月1日施行】

  • 優先権証明書のオンライン提出許容のための規定整備
  • 書面手続のデジタル化のための改正
  • e-Filingによる商標の国際登録出願の手数料納付方法の見直し
  • 意匠の新規性喪失の例外規定の適用手続の要件緩和
【令和6年4月1日施行】
  • 不正競争防止法改正関連の措置事項
  • 他人の氏名を含む商標に係る登録拒絶要件の見直し
  • 商標におけるコンセント制度の導入
  • 中小企業の特許に関する手数料の減免制度の見直し

◆法改正説明会を開催(特許庁)
 特許庁は、「不正競争防止法等の一部を改正する法律」が公布されたことを踏まえ、法改正説明会を全国で順次開催します。
https://kaiseisetsumei-jpo2023.go.jp/information
【東京都:令和6年1月9日(火曜日) 日本教育会館】

 説明会では、改正された不正競争防止法、商標法、意匠法、特許法、実用新案法、工業所有権特例法の改正事項を中心に説明が行われます。
 また、2024年の5月に運用開始が決まった「特許出願非公開制度」についても取り上げます。経済安全保障に対する関心が高まる中、制度の概要や留意すべき事項(外国出願が禁止される場合など)を中心に説明が行われる予定です。

●「イノベーションボックス税制」を創設

(政府・与党 2024年度税制改正大綱)

 政府・与党は、2024年度税制改正大綱をまとめました。賃金上昇を図るため、所得税と住民税の定額減税や企業の賃上げを後押しする税制の拡充などが盛り込まれました。
https://storage2.jimin.jp/pdf/news/policy/207233_1.pdf

 知的財産分野では、企業が国内で研究・開発した特許などで得られた所得を対象に、法人税を減税する「イノベーションボックス税制」の創設が盛り込まれました。国内での研究開発を促し、企業の国際競争力を高める狙いがあります。
 政府・与党の税制大綱によると、企業が国内で自ら研究開発を行った特許権または人工知能(AI)分野のソフトウェアに係る著作権について、当該知的財産の国内への譲渡所得または国内外からのライセンス所得に対して、所得の30%の所得控除を認めるとしています。
 一方、経済産業省などが要望していた知財を組み込んだ製品の売却収入については、優遇税率の対象となりませんでした。製品開発では他社の知財も使われる場合が多く、それぞれの知財の売り上げ貢献度などを算出するのは難しいことなどから見送られました。

●生成AIの機械学習で「考え方」示す(文化庁)

 生成AI(人工知能)と著作権の保護の在り方を検討している文化庁は、著作権法が認めているAIによる無断での機械学習について、著作権者側が複製防止などの対策を講じているにもかかわらず、AIが無断で機械学習した場合、著作権侵害になり得るとの考え方を示しました。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoseido/r05_05/
 一方で、AIによる生成物の作風や画風が著作物と類似しているだけでは、著作権の侵害にはあたらないとの見解も示しています。

 著作権法30条の4は、原則としてAIが画像データなどの著作物を許諾なく機械学習することを認めており、「著作権者の利益を不当に害する」場合は例外としています。しかし、どのようなケースが例外にあたるかは、ほとんど示されていないことから、今回、文化庁としての「考え方」の素案を示しました。
 また、海賊版サイトなどからAIが学習した場合、利用者だけでなく、関与の程度によっては、AI開発事業者やAIサービス提供事業者なども責任が問われる可能性にも言及しました。

●特許出願非公開制度、本年5月1日に施行(政府)

 政府は、経済安全保障の強化のため先端技術などの特許出願を非公開に指定できる制度を本年5月1日に施行することを決定しました。
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/syoreikaisei/sangyozaisan/20231218.html

 経済安全保障推進法(経済安保法)では、軍事転用が可能な技術流出を防ぐため、航空機をレーダーで捉えにくくする技術や、無人飛行機などの25の技術分野を対象に原則公開とされる特許の出願内容を非公開にできる制度を定めています。
 本年5月1日から出願される特許を対象に非公開に指定するかの審査が行われる予定で、非公開に伴い損失が生じた場合は、国から補償を受けることができます。
 非公開指定を受けた企業は、発明に関する情報を保全する措置を講ずることが求められていて、政府は情報漏えい対策などの対応を盛り込んだ新たな指針をとりまとめました。
 指針では、発明した技術に関する情報を共有する人物を必要最小限に限定することや、情報を管理する場所への立ち入りを制限すること、対策の責任者を指名することなどを求めています。

●「初音ミク」が日本ネーミング大賞で最優秀賞

 一般社団法人日本ネーミング協会主催の「日本ネーミング大賞 2023」で、歌声合成ソフトの「初音ミク」が最優秀賞を受賞しました。
https://j-naming-award.jp/award2023/

 初音ミクは、2007年8月31日に発売された歌声合成ソフトの名称で、同ソフトのキャラクター。「未来からきた初めての音」が名前の由来となっています。発売直後から多くのクリエイターによって音楽やイラスト、動画などが作られ、ネットで拡散されて世界中に広まりました。
 ネーミング大賞の審査対象となったのは、2022年10月1日から2023年9月30日までの間に、日本国内で販売または提供されている「商品名」「サービス名」「社名」などで、そのネーミングが商標登録されているものです。今回は509件のノミネートから、クリプトン・フューチャー・メディア(北海道札幌市)の「初音ミク」が大賞に選ばれました。
 このほか、「レジェンド賞」として、「タイガー魔法瓶」「青春18きっぷ」「地球の歩き方」「ごはんですよ」などが受賞しました。

●意匠の新規性喪失の例外規定の解説動画を公開(特許庁)

 特許庁は、意匠の新規性喪失の例外規定適用手続に関する解説動画 「意匠犬と学ぼう!出願前にデザイン公開した場合の手続(応用編)」を公開しました。
https://www.youtube.com/watch?v=w4xqQHJpsOQ
 2匹の「意匠犬」が、意匠法の概要と出願前にデザインを公開した場合の手続について、8分程度の動画で分かりやすく解説しています。


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最終更新日 '24/09/25