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◇◆◇ 鈴木正次特許事務所 メールマガジン ◇◆◇
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2024年7月1日号
本号のコンテンツ
☆知財講座☆
■弁理士が教える特許実務Q&A■
(79)新規事項を追加する補正の禁止(1)
〜特許審査基準の紹介〜
☆ニューストピックス☆
■国際標準化めぐり新国家戦略(知的財産推進計画2024)
■AI技術の国際競争が激化(令和6年版科学技術白書)
■iPS特許の使用めぐり研究者と理研が和解
■特許権の侵害に関する訴訟における統計(知財高裁)
■知財エコシステムで活躍する女性人材の事例集(特許庁)
◆助成金情報 令和6年度「中小企業等海外侵害対策支援事業」
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特許庁は、日本貿易振興機構(ジェトロ)を通じて、海外展開に際して模倣品被害や自社商標の抜け駆け出願など、産業財産権の係争を抱える中小企業に向けた支援事業(模倣品対策支援、冒認商標無効・取消係争支援、防衛型侵害対策支援)を実施しています。
今号では、令和6年度「中小企業等海外侵害対策支援事業」の概要を紹介します。
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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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■弁理士が教える特許実務Q&A■
(79)新規事項を追加する補正の禁止(1)
〜特許審査基準の紹介〜
【質問】
特許出願を行った後に特許出願で提出していた明細書や図面の記載内容を修正することは可能だが、技術的に新しい事項を追加する修正を行うことはできないとうかがっています。これはどのようなことなのでしょうか?
【回答】
特許出願時の明細書や図面に記載していなかった新しい技術的事項を明細書などに追加する補正は「新規事項を追加する補正」(特許法第17条の2第3項)として禁止されており、拒絶理由(特許法第49条第1項第1号)や、特許異議申立の理由(特許法第113条第1項第1号)、特許無効理由(特許法第123条第1項第1号)になります。
新規事項を追加する補正の禁止について特許庁が公開している情報を参考にして今回と次回の2回に分けて説明します。
<特許審査基準、特許の審査基準のポイント>
特許庁は特許審査基準を公表しています。この特許審査基準は「出願の審査が一定の基準に従って、公平妥当かつ効率的に行われるように・・・」、「特許法等の関連する法律の適用についての基本的考え方をまとめたもの」で、「審査における判断基準」及び「特許管理等の指標」になるものであると説明されています(特許の審査基準のポイント(特許庁 審査第一部 調整課 審査基準室))。
特許審査基準
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/index.html
特許の審査基準のポイント
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tokkyo_shinsakijyun_point.html
これらで説明されている内容に基づいて新規事項を追加する補正の禁止について紹介します。
<願書に添付した明細書、特許請求の範囲、図面の補正>
特許出願の際に特許庁へ提出する書類には、特許請求している発明を文章で説明する「明細書」、「特許請求の範囲」、「要約書」と、発明を図面で説明することができる場合に提出する「図面」があります。
特許出願人は、特許出願の際に提出していた明細書、特許請求の範囲、図面の記載内容を、特許出願後に、補充したり、訂正したりする補正を行うことができることになっています(特許法第17条の2)。
手続の円滑で迅速な進行を図るためには、特許出願人が初めから完全な内容の書類を提出することが望ましいところです。
しかし、特許法では、同一の発明については一日でも先に特許出願を行っていた者でなければ特許を受けることができないという先願主義(特許法第39条)が採用されています。
先願主義の下では、出願を急ぐ必要があること等により、実際には完全な内容の書類を準備できない場合があります。
また、特許庁で審査を受けて拒絶理由の指摘を受けた場合などに、明細書等の記載に手を加える必要が生じることがあります。
これらの事情を考慮して特許出願を行った後に明細書等の記載jb内容を補充、訂正する補正を行うことが許容されています。
<新規事項を追加する補正が禁止されている理由>
明細書などの記載について補正が行われた場合、その補正の効果はいつから発揮されるのかが問題になります。
「補正が行われた時点から補正の効果が発揮される」という取扱いにすると、特許出願の内容がいつ補充・訂正されるかわかりませんし、どのような内容に、補充・訂正されるか予想できません。このため、将来、特許権という独占排他権が成立する可能性がある特許出願を第三者が監視する負担が増大してしまいます。
そこで、特許法では、明細書等の記載内容を補正すると、補正後の内容で特許出願が行われていたとする取り扱いがなされています。特許出願の時点から補正後の内容であった、とするものです。
特許出願時に遡って効果が発揮されるとしていることから、これを補正の遡及効と言います。
このように、補正は出願時に遡って効力を発揮するとしているので、出願当初の明細書、特許請求の範囲、図面(以下これらをまとめて「当初明細書等」といいます。)に記載した事項の範囲を超える内容を含む補正を出願後に許容すると、上述した先願主義の原則に反することになります。
そこで、出願人を保護すべく、明細書等を特許出願後に補正できることとする一方、先願主義の原則を実質的に確保し、第三者との利害の調整を図るため、補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしなければならない、すなわち、新規事項を追加する補正は行ってはならない、とされたものです。
特許法では、このようにすることによって、以下の機能が果たされると考えています。
(@)出願当初から発明の開示が十分になされるようにして、迅速な権利付与を担保できる。
(A)出願当初から発明の開示が十分にされている出願とそうでない出願との間の取扱いの公平性を確保することができる。
(B) 出願時に開示された発明の範囲を前提として行動した第三者が不測の不利益を被ることのないようにして、第三者の監視負担を軽減することができる。
<補正が新規事項追加にあたるかどうかについての基本的な考え方>
審査官は、補正が「当初明細書等に記載した事項」との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるか否かにより、その補正が新規事項を追加する補正であるか否か判断するとされています。
そこで、補正によって新たな技術的事項が追加されるならば、それは新規事項追加の補正であるとして、特許出願に対する拒絶理由、成立した特許に対する異議申立理由、特許無効理由になります。
なお、「当初明細書等に記載した事項」とは、「当業者によって、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項」とされています(知財高判平成20年5月30日(平成18年(行ケ)10563号)「ソルダーレジスト」大合議判決)
<補正が新規事項追加になるかどうかの具体的判断>
具体的な判断手法は次の@、A、Bようになるとされています。
@ 当初明細書等に明示的に記載された事項にする補正⇒新規事項追加に当たらず許容されます。
ここで、「明示的記載」とは、特許出願時の「明細書」、「特許請求の範囲」又は「図面」に記載されていた事項のことをいいます。
A 当初明細書等の記載から自明な事項にする補正⇒新規事項追加に当たらず許容されます。
ここで、「当初明細書等の記載から自明な事項」といえるためには、「当初明細書等の記載に接した当業者であれば、出願時の技術常識に照らして、補正された事項が当初明細書等に記載されているのと同然であると理解する事項でなければならない。」とされています(特許審査基準)。
なお、補正内容が「当初明細書等の記載から自明な事項」と認められるかどうかについては、次の(i)、(ii)に留意しなければならない、とされています。
(i)補正された事項に係る技術自体が周知技術又は慣用技術であるということだけでは、「当初明細書等の記載から自明な事項」とはいえない。
(ii)当業者であれば、出願時の技術常識に照らして、補正された事項が当初明細書等の複数の記載から自明な事項と理解する場合もある。当初明細書等の複数の記載とは、例えば、発明が解決しようとする課題についての記載と発明の具体例の記載、明細書の記載と図面の記載等である。
この(ii)の具体例として以下が審査基準に記載されています。
当初明細書等には、弾性支持体を備えた装置が記載されているのみで、特定の弾性支持体について開示されていない。しかし、当業者であれば、出願当初の図面の記載及び出願時の技術常識からみて、「弾性支持体」は「つるまきバネ」を意味していることが自明であると理解するという場合は、「弾性支持体」を「つるまきバネ」にする補正が許される。
B 補正された事項が上述した@、Aのいずれにも該当しない場合であっても、 「当初明細書等に記載した事項」との関係において新たな技術的事項を導入するものでなければ、その補正が許容されることがあります。後述する「特許請求の範囲の補正」、「明細書の補正」ごとに特許審査基準で示されている、補正が許容される場合、補正が許容されない場合も考慮して、補正が新規事項を追加するものであるか否か判断されることになっています。
<次号のご案内>
次回は「新規事項を追加する補正の禁止(2)〜特許審査基準の紹介〜」として特許審査基準に掲載されている「特許請求の範囲の補正」、「明細書の補正」が新規事項追加にあたる場合、あたらない場合を紹介します。
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■ニューストピックス■
●国際標準化めぐり新国家戦略(知的財産推進計画2024)
政府の知的財産戦略本部は、「知的財産推進計画2024」を決定しました。同計画では、国際標準化のルール形成に日本として積極的に関与するため、総合的な国家戦略を2025年春をめどに整備する方針を明記しました。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/chitekizaisan2024/pdf/siryou2.pdf
国際標準化に関する戦略の改定は19年ぶりです。本部長の岸田首相は「経済安全保障や環境など重要性が高まっている領域において、産学官連携で戦略的に国際標準化を推進し、それを支える人材の育成や支援機関の強化を進める」と述べています。
国際規格は、国際標準化機構(ISO)などの国際機関が、品質管理や互換性確保を目的に製品や部品の標準仕様を定めています。日本企業にとって自社の技術に適合する国際規格が採用されれば、国際競争力の向上につながります。
米国、中国、欧州連合(EU)は、すでに国家戦略を策定しています。日本は知財戦略本部が2006年に「国際標準総合戦略」を策定しましたが、最新の国際情勢を踏まえ、官民連携で取り組む新たな国家戦略が必要と判断しました。
●AI技術の国際競争が激化(令和6年版科学技術白書)
文部科学省は、「令和6年版科学技術・イノベーション白書」を公表しました。
https://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpaa202401/1421221_00019.html
今年の白書では、人工知能(AI)の研究開発を巡る国内外の動向やAIを活用した科学研究の取り組みなどを特集しています。
白書によると、AIに関する論文数は、世界で2010年以降3倍以上になり、高度化するAI技術の国際競争も激化しています。
米国や国家主導で戦略的な投資を行う中国がAIの研究開発を加速させている一方、日本は人材育成や研究資金の確保などの課題が山積していると分析しています。
こうした中、日本では、強みである自動車やロボット工学の分野でAIを活用した研究開発が進められています。具体的な事例として生成AIを活用した自動車のデザインなどが紹介されています。
また、科学研究にAIを活用する動きも始まっています。白書では、大量の顕微鏡画像から生成AIを使ってたんぱく質の構造変化を予測し、創薬につなげる研究なども紹介されています。
●iPS特許の使用めぐり、研究者と理研が和解
iPS細胞(人工多能性幹細胞)から網膜の組織を作る技術の特許をめぐり、技術を開発した研究者が、特許権を保有する企業に対して特許技術を利用できるよう経済産業相に裁定を求めていた問題で、研究者側は、企業との間で和解が成立し、一部の治療について特許が利用できるようになったと発表しました。
https://www.vision-care.jp/news/20240530/
理化学研究所の元研究者の高橋政代氏は、視界がゆがんだり、視力が低下する目の難病「加齢黄斑変性」の治療を目指して、iPS細胞から網膜の組織を作る技術を開発し、2014年に世界で初めて患者に移植する手術を行いました。
高橋氏が開発した技術の特許権は、理化学研究所や東京のベンチャー企業などが持っていますが、当初の予定どおり治験が始まらなかったため、独自に治験を進めようと、自らベンチャー企業を立ち上げて特許の利用を認めるよう求めたものの、企業側との交渉が進まなかったということです。
高橋氏は発明者ではありますが、特許権を持っていないため、2021年、「公共の利益」を理由に、自らが代表を務めるベンチャー企業「ビジョンケア」(神戸市)も特許が使えるよう、国に裁定を請求しました。裁定とは、特許法に基づき、本来は国が保護すべき財産権である特許を、特許権者とは別の第三者が使うことを国が認める制度です。
今回の和解合意を受け、高橋氏は「公共性の高い特許発明は、よりよく活用できる者による実施が認められなければならないという主張の正当性が実を結んだ」などとコメントしています。
●特許権の侵害に関する訴訟における統計(知的財産高等裁判所)
〜45%が原告(特許権者)の実質的勝訴〜
知的財産高等裁判所は、「特許権の侵害に関する訴訟における統計(東京地裁・大阪地裁、平成26年〜令和5年)」を公表しました。
https://www.ip.courts.go.jp/vc-files/ip/2024/j_sintoukeiH26_R5.pdf
平成26〜令和5年に判決又は和解などにより終局したケース(807件)をみると、566件(約70%)が判決で終局し、241件(約30%)が和解により終局しています。
このうち、「判決」の内容をみると、「認容判決」が30%、「棄却」が64%。この他に、債務不存在確認訴訟の判決(21件)や却下(15件)があります。認容判決とは、原告の請求を正当と認める判決で、原告にとっての勝訴判決となります。
和解の内容(差止給付条項・金銭給付条項の有無)では、@「差止給付条項・金銭給付条項あり」(80件、33%)、A「差止給付条項のみあり」(22件、9%)、B「金銭給付条項のみあり」(90件、37%)、C「差止給付条項・金銭給付条項なし」(49件、20%)でした。
「@差止給付条項・金銭給付条項あり、A差止給付条項のみあり、B金銭給付条項のみあり」については、特許権者の訴えが、何らかの形で認められたものです。したがって、和解内容のうち、約80%は、実質的に「勝訴的和解」といえます。
「認容判決(勝訴判決)」と「勝訴的和解」を合計すると、終局したケース807件の中の45%が実質的な原告(特許権者)勝訴といえます。
このほか、1億円以上の認容判決が39件、1億円以上の支払和解が31件となっています。
●知財エコシステムで活躍する女性人材の事例集(特許庁)
特許庁は、知財エコシステムで活躍する女性人材の事例とマネジメント層の考えなどに関する情報を取りまとめた「Diversity & Innovation 〜知財エコシステム活性化のカギとなる女性活躍事例〜」を作成しました。
https://www.meti.go.jp/press/2024/05/20240517001/20240517001.html
事例集は、持続可能な経済成長の実現のため女性の活躍をはじめとしたダイバーシティ(多様性)の推進が求められることを背景に、組織のマネジメント層に、組織でのダイバーシティを高めるきっかけとして提示したものです。
日本においては、女性研究者の割合は増加しているものの、依然として国際的には低い水準にとどまっています。ジェンダーダイバーシティがイノベーションや企業業績に与える影響についての研究によると、男女が協力して発明した特許の方が経済的価値が高く、ジェンダーダイバーシティが高い企業の財務指標が優れていることが示されています。
女性が活躍できる環境を整えるには、制度だけでなく、組織の文化や周囲のサポートも重要です。そこで、事例集では、知財エコシステムで活躍する女性研究者などを取り上げ、その成功事例をもとに、組織におけるダイバーシティの意義や効果を詳しく説明しています。
なお、「知財エコシステム」とは、「知的財産を創造し、保護し、活用する循環を示す知的創造サイクルの概念に加え、そこから生まれる知的財産を基に、人々が互いに、また、社会に対して好影響を及ぼし、自律的に新たな関係が構築され、新たな「知」が育まれ、新たな価値が生み出される、いわば知的財産の生態系を指します。」と特許庁が定義しているものです。
https://www.jpo.go.jp/introduction/tokkyo_mvv.html
◆助成金情報 令和6年度「中小企業等海外侵害対策支援事業」
特許庁は、海外で取得した特許・商標等の侵害を受けている中小企業に対し、日本貿易振興機構(ジェトロ)を通じて対策費用の一部を助成する「令和6年度中小企業等海外出願・侵害対策支援事業費補助金(中小企業等海外侵害対策支援事業)」を開始しました。
同事業は、海外展開に際して模倣品被害や自社商標の抜け駆け出願、産業財産権に係る係争などの課題を抱える中小企業に向けた支援(模倣品対策、冒認商標無効・取消係争、防衛型侵害対策)を実施するものです。申し込み締め切りは10月31日(予算がなくなり次第終了)。
模倣品対策支援は、海外での模倣品流通状況の調査や模倣品業者への対抗措置に要する経費の3分の2(上限額400万円)を助成。
冒認商標無効・取消係争支援は、現地企業などに不当に出願・権利化された商標を取り消すために要する費用について、3分の2(上限額500万円)を助成。
防衛型侵害対策支援は、悪意ある外国企業から冒認出願で取得された権利等に基づいて権利侵害として訴えられた場合の対抗措置に要する費用について、3分の2(上限額500万円)を助成。
支援対象や要件等の詳細は、特許庁HPをご参照ください。
https://www.jpo.go.jp/support/chusho/shien_kaigaishingai.html#mohohin
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