新弁理士法について
 改正前の弁理士法(以下旧弁理士法という)は、大正10年制定から80年振りに大改正され、平成13年1月6日から施行された。

 旧弁理士法は、大正10年に旧々工業所有権法が制定されたのに呼応して制定され、これに十分対応できる内容であった。前記旧々工業所有権法は、産業界の変革に対応して、昭和34年法、昭和45年法の大改正を経て、平成になって以来1年又は2年毎に改正された。
 従って、工業所有権法は、前記大正10年法に比較すれば勿論、昭和34年法又は昭和45年法と比較してさえ、内容が著しく変わり、体系的にも区別し得る程となった。これに対し、旧弁理士法は、前記工業所有権法の大改正に際しても、必要最小限の改正に止まり、今日に到ったものである。
 然し乍ら、旧弁理士法は、昨今の激しい変革に追随困難となり、知的所有権を保護する点に関しても、十分とは言えない状況となったことに鑑み、最大の受益者たる知的所有権を保有する者及び関係者の利益の擁護を最大の目標と定めて此の度の改正となったのである。

 旧弁理士法によれば、弁理士は工業所有権(特許、実用新案、意匠、商標)の権利の創生の際の代理を主要業務とし、特許庁に対してなすべき事項の代理及びこれに付随する鑑定その他の業務を行うこととされ、創生の一貫として、審決取消訴訟の代理人となり、創生した権利の保全又は権利行使に際しては、知的財産侵害訴訟の輔佐人としてかかわっていた。

 新弁理士法は、旧弁理士法における工業所有権に関する創生等の際の手続代理人に加え、その他の知的所有権の手続代理についても制限的に関与できるようになって、権利の擁護をより容易にしたものである。
 以下新しく加わった業務について概略を列挙説明する。

 弁理士は、関税定率法に基づく輸入差止申立の手続代理と侵害物品認定手続に関する手続の代理を行うことができるようになった。前記のように、弁理士は、工業所有権の権利の創生に深くかかわり、権利内容を十分知っており、かつ鑑定できることになっているにも拘わらず、海外製造品等の我が国への輸入については、輸入差止申立の手続代理ができなかったので、当該製品について日本国内に工業所有権を有する権利者自らが申立の手続を行うか、弁護士が前記申立の手続の代理をしていたが、前記のような輸入差止申立は輸入品が権利侵害であることを正しく認識しなければ、徒に混乱を招き、結果的に損失等の拡大を生じるため、輸入差止申立の実務が円滑に行われない場合もあった。そこで、輸入品に係る知的所有権について専門知識を有する弁理士の手続代理を認めることにしたのである。
 言うまでもなく、権利者本人の手続、弁護士の手続代理が従来通り行われることを妨げる趣旨ではないので、輸入差止申立を行う者の代理人の選択権が拡がり、事件毎により適切な対応ができるようになったのである。

 弁理士は、工業所有権関係の紛争の仲裁手続の代理人又は仲裁における和解手続の代理人にもなることができるようになったので、裁判事件になる以前に仲裁、和解により問題の解決を図る場合の手続代理ができる。従来契約に関する代理、媒介、相談等は一切弁護士の専業であったが、新弁理士法では、工業所有権・技術上のノウハウの売買契約の締結に関する代理、媒介、相談等を行うことができる(但し平成14年4月27日以後施行)。このように施行時期が遅くなったのは、契約等に関して、弁理士の専門知識が必ずしも十分でないので、施行までの2年間に研修等により弁理士の資質を高め、実施に対し、遺漏なきを期する為と解する。

 工業所有権の侵害訴訟については、従来輔佐人として出廷し、陳述しているが、新弁理士法によって、輔佐人として尋問することができることになった。従って技術事項についての訴訟活動が一段と円滑になる場合が多くなった。

 新弁理士法は、弁理士の専権範囲が減り、業務範囲が広がったのであるが、総て知的所有権の権利者等が受益者となる観点から定められたものである。従って弁理士としては、従来の業務を確実に行うことは勿論、新しく業務範囲となった知識についても十分研鑽し、万事遺漏なきを期さなければならない。

 前記趣旨に鑑み、経営等の規制緩和、事務所の法人化と弁理士の活動範囲の拡大、事務手数料の規制撤廃、倫理と責任についての明確化、研修の義務化等が明らかにされた。

 前記経営等の規制緩和については、総合的かつ長期的に安定したサービスを継続する為に、複数事務所の設置が認められることになった。そこで現在のような東京、大阪、名古屋周辺に集中している特許事務所が地方分散型になることが可能となった。現在特許庁に対する手続等は電子出願(オンライン)が主流であって、地域性は撤廃されたが、工業所有権の出願、その他書類の作成上必要な相談については、地域性は免れなかった。然し乍ら事務所を複数化することによって、依頼者の本社と、工場などが散在している場合に、工業所有権の出願手続を本社経由で行い、発明者等は工場にいる場合に、協議、相談等の地域的制約、人的制約の為に手続等が遅れるおそれがあった。そこで事務所を複数にすれば、同一特許事務所で取扱うにも拘わらず、例えば工場所在地又は近辺の事務所が対応し、手続等がきわめて円滑かつ迅速にできる可能性が増大した。

 事務所形態についても、特許業務法人(社員弁理士のみ)が認められることになったので、前記総合的きめ細やかなサービス及び長期安定化したサービスの提供をより容易にすることができる。前記は我が国の国内事務所についてであるが、外国に事務所を開設し、外国関係業務を現地において取扱うこともできるようになったので、依頼者はもとより、国家的見地に立っても弁理士の活動の場が拡大したことにより、権利の保護がより適切に行えるようになり、誠に好ましいことである。
 従来、弁理士は、工業所有権の創生(権利化)を軸として、これに関連する業務のみを行っていた。この度の新弁理士法の施行により、従来の業務に加えて、前記輸入差止申立の手続代理、侵害物品認定手続の代理、紛争仲裁手続、紛争和解手続、その他契約、訴訟等に関する業務が付加された。従って弁理士としては、拡大された業務の負託に応えるべく、その資質を更に向上しなければならない。また弁理士に依頼する者(知的所有権者等)は、代理人等の選択の範囲が拡大されたことを十分理解の上、各業務(本件)毎に適切な人選をすれば、新弁理士法の趣旨を十分達成し得るものである。

 新弁理士法は、近来のプロパテントの傾向と、今後の発展に対応すべく改正されたのであるけれども、此の度の新弁理士法のみで十分とするのでなく、その趣旨を全うする運用を心掛けると共に、足らざる所は更に改正し、我が国はもとより世界の知的所有権制度の発展と知的所有権の適切な保護をすべく、弁理士はもとより、知的所有権の所有者と共に努力し、より高度の効果を達成することが望ましい。
以上


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鈴木正次特許事務所