| 知的財産基本法の概要 |
知的財産基本法は、先に成立した科学技術基本法と相俟って、車の両輪の如く、技術立国を国是とする我が国の今後を担う技術の憲法ともいうべき法律である。 知的財産基本法は、平成14年12月4日に公布され、来年早々施行の運びとなる。 以下その概要を述べる。 この法律は総則、基本的施策、知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画及び知的財産戦略本部の四章、33条である。 以下、各章、各条について、特質を列挙し、核心に迫ることとする。 | |
(目的) この法律は、内外の社会情勢の変化に伴い、我が国産業の国際競争力の強化を図ることの必要性が増大している状況にかんがみ、新たな知的財産の創造及びその効果的な活用による付加価値の創出を基軸とする活力ある経済社会を実現するため、知的財産の創造、保護及び活用に関し、基本理念及びその実現を図るために基本となる事項を定め、国、地方公共団体、大学等及び事業者の責務を明らかにし、並びに知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画の作成について定めるとともに、知的財産戦略本部を設置することにより、知的財産の創造、保護及び活用に関する施策を集中的かつ計画的に推進することを目的とする(第1条) |
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(定義) 知的財産とは、発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造活動により生み出される物、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの、営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいう(第2条) |
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(国民経済の健全な発展及び豊かな文化の創造) 創造力豊かな人材の育成環境の整備、国民が知的財産の恵沢を享受できる社会を実現する(第3条) |
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(我が国産業の国際競争力の強化及び持続的な発展) 創造性のある研究及び開発の成果の円滑な企業化を図り、知的財産を基軸とする新たな事業分野の開拓並びに経営の革新及び創業を促進することにより技術力の強化及び活力の再生、経済の活性化など(第4条) |
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(国、地方公共団体の責務) 知的財産の創造、保護及び活用に関する施策及び実施する責務を有する(第5条、第6条) |
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(大学等の責務) 大学等は、人材の育成並びに研究及びその成果の普及に自主的かつ積極的に努めるものとする。 大学等は、研究者及び技術者の職務及び職場環境がその重要性にふさわしい魅力あるものとなるよう、研究者及び技術者の適切な処遇の確保並びに研究施設の整備及び充実に努めるものとする。 国及び地方公共団体は、知的財産の創造、保護及び活用に関する施策であって、大学等と共同利用機関に係るものを策定し、これを実施するに当たっては、研究者の自主性を尊重し、大学等と共同利用機関における研究の特性に配慮しなければならない(第7条) |
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(事業者の責務) 事業者は、我が国産業の発展において知的財産が果たす役割の重要性にかんがみ、基本理念にのっとり、活力ある事業活動を通じた生産性の向上、事業基盤の強化等を図ることができるよう、当該事業者若しくは他の事業者が創造した知的財産又は大学等で創造された知的財産の積極的な活用を図るとともに、当該事業者が有する知的財産の適切な管理に努めるものとする。 事業者は、発明者その他の創造的活動を行う者の職務がその重要性にふさわしい魅力あるものとあるよう、発明者その他の創造的活動を行う者の適切な処遇の確保に努めるものとする(第8条) |
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(連携の強化、競争促進の配慮 国、地方公共団体、大学等、事業者の連携と知的財産の保護活用を図る(第9条) |
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(研究開発の推進) 研究者の確保、施設の整備、研究開発の推進に必要な施策を講ずる(第12条) |
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(研究成果の移転の促進) 大学等の研究成果を事業者へ円滑に移転する。手続の改善、情報の提供等(第13条) |
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(権利の付与の迅速化等) 発明、植物の新品種、意匠、その他国の登録により権利が発生する知的財産については早期に権利を確定する(第14条) |
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(訴訟手続の充実及び迅速化等) 訴訟手続の一層の充実及び迅速化、処理体制の整備並びに裁判外における紛争処理制度の拡充を図る(第15条) |
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(権利侵害への措置) 侵害物の取締り強化(例えば輸入品)、条約に定める権利の的確な行使その他必要な措置を講ずる(第16条) |
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(国際的な制度の構築) 知的財産の保護に関する制度の整備が行われていない国に対して必要な措置を講ずる(第17条) |
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(新分野における知的財産の保護) 生命科学その他技術革新の分野の知的財産権を適正に保護する(第18条) |
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(事業者が知的財産を有効かつ適切に活用することができる環境の整備) 国は、事業者が知的財産を活用した新たな事業の創出及び当該事業の円滑な実施を図ることができるよう、知的財産の適正な評価方法の確立、事業者に参考となるべき経営上の指針の策定その他事業者が知的財産を有効かつ適切に活用することができる環境の整備に必要な施策を講ずるものとする。 前項の施策を講ずるに当たっては、中小企業が我が国経済の活力の維持及び強化に果たすべき重要な使命を有するものであることにかんがみ、個人による創業及び事業意欲のある中小企業者による新事業の開拓に対する特別の配慮がなされなければならない(第19条) |
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(情報の提供) インターネットその他高度情報通信ネットワークの利用を通じて迅速に情報を提供する(第20条) |
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(教育の振興) 知的財産権尊重の社会の実現と、知識の普及のために必要な施策を講ずる(第21条) |
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(人材の確保) 知的財産に関する専門的知識を有する人材の確保及び資質の向上に必要な施策を講ずる(第22条) |
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(知的財産戦略本部) 推進計画の作成、達成時期の決定、内容の公表、達成状況の公表、毎年一回の推進計画の検討・変更、その他を規定する(第23条) 知的財産戦略本部は、内閣に置き、推進計画の作成実施、審議、調査、調整する。 知的財産戦略本部長は内閣総理大臣とし、国務大臣を副本部長とする(第26条、第27条、第28条) |
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(本部員) 本部員は国務大臣、内閣総理大臣の任命する知的財産の創造、保護作用に対し優れた見識を有する者をもって充てる(第29条) |
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(その他) 政令への委任により細部を定める(第33条) |
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(考察) 本知的財産基本法は、次の特性を供えている。 (1)発見等を保護対象に加えた。 従来植物の新品種又は微生物においては、発見について特許権による保護が与えられていたが、この度知的財産として、保護範囲を明確にした点である。 (2)知的財産の保護、作用に関し、国、地方公共団体、大学等及び事業者の責任を明確にした。 (3)知的財産の成果について、より協力態勢をとり易くした。 (4)国際的保護について国が関与すべきことを明らかにした。 (5)新分野の研究開発について明文を入れた。 前記各新設、補充項目については、工業所有権法、著作権法、不正競争防止法の各分野において、実施の円滑化、実行をあげるための具体的事項その他について整備されることを期待する。 以上
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