不正競争行為差止等請求控訴事件(商品形態のデッドコピーにおける輸入販売業者の調査義務)

解説  不正競争行為差止等請求控訴事件、同附帯控訴事件において商品形態模倣商品の善意取得保護に関する不競法19条1項5号ロの適用を認めなかった事例
(知的財産高等裁判所 平成25年(ネ)第10062号、同第10083号
判決言渡 平成25年12月26日(原審・東京地裁、平成24年(ワ)第4229号))
 
第1 事案の概要
 本件は、原告商品1〜6を販売する一審原告が、被告商品1〜6は原告商品の形態を模倣した商品であり、一審被告による被告商品の販売は不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為(商品形態のデッドコピー)に当たる旨主張して、一審被告に対し、同法3条1項、2項に基づき、被告商品1、4ないし6の販売等の差止め及び廃棄、等を求めるとともに、同法4条に基づく損害賠償を求めた事案である。
 原判決は、一審原告の請求について、被告商品1、4ないし6の販売等の差止め及び廃棄並びに損害賠償を認めた。
 これに対し一審被告が、原判決中、損害賠償請求に関する部分の一審被告敗訴部分のみを不服として控訴した。また、一審原告が、原判決中、損害賠償請求に関する部分の一審原告敗訴部分について、一部に変更を求める限度で附帯控訴し、これに伴い、附帯請求について請求の一部減縮をした。
 一審被告は、原告商品1〜6の原告によるインターネットショップでの販売開始後、自ら運営するウェブサイト上のネットショップ等において、中国のメーカーであるティファニー社(「QIXIANG TIFFANY LIGHTING Co.,LTD」。以下、単に「ティファニー社」という。)が製造した被告商品1〜6を販売した。
 被告商品1〜6はそれぞれ原告商品1〜6と実質的に同一の形態の商品であり、被告各商品は、ティファニー社によって製造された原告各商品の形態をそれぞれ模倣した商品である。

第2 当審における争点
(1)一審被告による被告各商品の販売について不競法19条1項5号ロ(適用除外 第2条1項第3号に掲げる不正競争における「他人の商品の形態を模倣した商品を譲り受けた者(その譲り受けた時にその商品が他人の商品を模倣した商品であることを知らず、かつ、知らないことにつき重大な過失がない者に限る。)がその商品を譲渡、等する行為」による同法4条の適用除外の有無(争点1)
(2)一審原告の損害額(争点2)
 ここでは不競法19条1項5項ロによる同法4条(損害賠償請求の根拠条文)の適用除外についてのみ紹介する。

第3 判決
1 本件控訴及び本件付帯控訴をいずれも棄却する。(以下省略)
2 理由
 一審被告は、インテリア用品の輸入販売業者として、 他人の商品の形態を模倣した商品を輸入し、これを販売することにより他人の営業上の利益を侵害してはならない義務を負うというべきであるから、一審被告がティファニー社から被告各商品を輸入するに当たり、ティファニー社に対し、被告各商品のデザイン完成に至る開発経緯等を問い合わせるなどして被告各商品が他人の商品の形態を模倣した商品ではないことを調査確認すべき注意義務を負っていたものと解するのが相当である。
 しかるところ、一審被告は、被告各商品を輸入するに当たり、ティファニー社に対し、被告各商品が被告各商品が他人の商品の形態を模倣した商品ではないことを調査確認したことがなかったことが認められ、また、一審原告の代理人弁護士から被告商品1ないし5が楽天市場の原告ショップで販売されている原告商品1ないし5の形態を模倣した商品である旨の警告を受けた後も、原告ショップを調査することなく、被告商品1ないし5の販売を継続するとともに、原告商品6の形態を模倣した被告商品6の販売を行っていたのであるから、一審被告には、被告各商品が他人の商品の形態を模倣した商品ではないことを調査確認しようとする意思もなかったものと認められる。
 加えて、楽天市場は、大手のインターネットショッピングモールであり、一審原告が楽天市場の原告ショップで販売するステンドグラスの各商品は、 平成20年5月ころ以降、楽天市場の洋風ペンダントライト、シャンデリア、 壁掛け照明の各部門の「ランキング市場」でしばしば1位等のランキング上位を獲得していたことからすると、一審被告において、被告各商品のデザイン完成に至る開発経緯等をティファニー社に問い合わせていれば、楽天市場の原告ショップを調査することに格別の困難はなかったものと認められる。そして、原告ショップには、ステンドグラスのペンダントランプが原告各商品を含めて100種類程度展示されていたが、原告各商品の形態と被告各商品との形態は酷似していることに照らすと、一審被告が原告ショップを調査すれば、被告各商品が原告各商品の形態を模倣した商品であることを容易に認識し得たものと認められる。
 以上を総合すると、一審被告において被告各商品の輸入時に被告各商品が原告各商品の形態を模倣した商品であることを知らなかったとしても、それは、被告各商品が他人の商品の形態を模倣した商品ではないことを調査確認すべき注意義務を怠ったことによるものであり、しかも、上記調査確認をすることにより被告各商品が原告各商品の形態を模倣した商品であることを容易に認識し得たにもかかわらず、一審被告には調査確認をしようとする意思すらなかったのであるから、一審被告において被告各商品の輸入時に被告各商品が原告各商品の形態を模倣した商品であることを知らなかったことにつき重大な過失がなかったものと認めることはできない。
 したがって、一審被告は、警告の前後を通じて、被告各商品について不競法19条1項5号ロの「他人の商品の形態を模倣した商品を譲り受けた者(その譲り受けた時にその商品が他人の商品を模倣した商品であることを知らず、かつ、知らないことにつき重大な過失がない者に限る。)」に該当しないから、一審被告の主張は、採用することができない。
 以上によれば、一審被告は、故意又は過失により、原告各商品の形態を模倣した被告各商品を販売する不正競争行為(不競法2条1項3号)を行って、 一審原告の営業上の利益を侵害したものといえるから、同法4条に基づいて、一審原告が被った損害を賠償すべき責任を負うというべきである。

第4 考察
 本件は、商品形態模倣商品の善意取得保護に関する不競法19条1項5号ロの適用を認めなかった事例である。
 判決は、@一審原告が、楽天市場の一審原告ショップで販売するステンドグラスの各商品は、各部門の「ランキング市場」でしばしば1位等のランキング上位を獲得していたこと、A一審被告は、一審原告の代理人弁護士から警告を受けた後も調査確認を怠っていたこと、B一審原告各商品と一審被告各商品の形態は酷似していることが認定されており、判決の従来の枠組みとしては先例を踏襲しているものである。
 なお、不競法19条1項5号の存在理由については、不競法2条1項3号による保護について、登録による公示が要求されていないことからも説明されている。これと同様、公示制度を有しない著作権法にも不競法19条1項5号ロと類似の善意者保護規定が存在する(著作権法第113条の2)。
 実務の参考になる部分があるとおもわれるので紹介した。
以上


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '16/12/26