損害賠償請求控訴事件(ファッションショーにおけるモデルの動作等の著作物性)

解説  損害賠償請求控訴事件においてファッションショーにおけるモデルの動作等の著作物性が判断された事例
(知的財産高等裁判所 平成25年(ネ)第10068号)平成26年8月28日判決言渡
 原審・東京地方裁判所平成24年(ワ)第16694号)
 
第1 事案の概要
 控訴人らの開催したファッションショー(本件ファションショー)の映像を、被控訴人が被控訴人の従業員を介して提供を受け、その一部の映像(本件映像部分)を、被控訴人のテレビ番組において放送したことにつき、控訴人A(イベント等の企画制作コンサルティング会社)が、その著作権(公衆送信権)及び著作隣接権(放送権)の侵害を、控訴人B(イベントの企画運営受託者)がその著作者及び実演家としての人格権(氏名表示権)の侵害を主張し、被控訴人に対し、損害賠償を求めた事案である。
 原判決は控訴人らが主張した著作権(公衆送信権)侵害、著作隣接権(放送権)侵害、人格権(氏名表示権)侵害をいずれも否定し、控訴人らの請求を棄却していた。

第2 争点
 控訴人らは、本件ファッションショーにおける,@個々のモデルに施された化粧や髪型のスタイリング、A着用する衣服の選択及び相互のコーディネート、B装着させるアクセサリーの選択及び相互のコーディネート、C舞台上の一定の位置で決めるポーズの振り付け、D舞台上の一定の位置で衣服を脱ぐ動作の振り付け、Eこれら化粧、衣服、アクセサリー、ポーズ及び動作のコーディネート、Fモデルの出演順序及び背景に流される映像等、を著作権侵害の対象として主張し、これらの著作物性が争われた。

第3 判決

 控訴人らの本件各控訴を何れも棄却する。

理由
 著作権法は、著作権の対象である著作物の意義について、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(著作権法2条1項1号)と規定しており、当該作品等に思想又は感情が創作的に表現されている場合は、保護の対象となり、そうでない場合は保護の対象とはならない。そして、「創作的」に表現されたものと言うためには、作成者の何らかの個性が表現として表れていることを要し、表現が平凡かつありふれたものである場合は、「創作的」な表現と言うことはできない。
 また、著作権侵害を主張するためには、当該作品等の全体において上記意味の表現上の創作性があるのみでは足りず、侵害を主張する部分に思想又は感情の創作的表現があり、当該部分が著作物性を有することが必要となる。

1 公衆送信権又は著作者としての氏名表示権侵害の成否
 前記@、A、B及びEについては、いわゆる応用美術に属する(ただし、Eについては、ポーズ及び動作の部分を除く)。
 応用美術品が著作物として保護されるか否かが著作権法の文言上明らかではなく、この点は専ら解釈に委ねられるものと解される。応用美術に関する下級審判例の存在とタイプフェイスに関する最高裁判決を踏まえ、(1)著作権法2条2項は、単なる例示規定であると解すべきである、(2)著作権法2条1項1号の定義からすれば、量産される美術工芸品であっても、全体が美的鑑賞目的のために制作されるものであれば、美術の著作物として保護される、(3)実用目的の応用美術であっても、実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できるものについては、2条1項1号に含まれることが明らかな「思想又は感情を創作的に表現した(純粋)美術の著作物」と客観的に同一なものとみることができ、当該部分を同号の美術の著作物として保護すべきである、(4)実用目的の応用美術であっても、実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握することができないものについては、2条1項1号に含まれる「思想又は感情を創作的に表現した(純粋)美術の著作物」と客観的に同一なものと見ることは出来ないのであるから、これは2条1項1号における著作物して保護されない。
 前記@ないしBについては、いずれも上記(2)にも(3)にも該当せず、著作物性が認められない。
 前記C及びDについては、応用美術の問題ではないが、特段目新しいものではなく、著作物性が認められない。
 以上の判断を踏まえると、前記Eについても著作物性は認められない。
 前記Fのうちモデルの出演順序についても、思想又は感情が創作的に表現されているものとは認められず著作物性がない。
 本件映像部分において、上記創作性を感得できる態様で公衆送信が行われているものとは認められない。背景に流される映像等については、控訴人らが著作権者であると認めるに足りない。

2 放送権又は実演家としての氏名表示権の侵害
 前記@ないしFのうち、背景映像に用いられた写真を除いては著作物性が認められないのであるから、モデルのポーズや動作の振り付けや、モデルがヘアメイクや衣装を着用しながらポーズや動作をとることは著作物を演ずることには当たらない。上記写真に著作物性があるとしても、その展示が著作物を演ずることには該当しない。
 本件ファッションショーの本件映像部分に表れている部分のうち、前記C及びD以外に、「演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること」や「これらに類する行為」に該当する部分があるものとは認められず、本件ファッションショーのうち、本件映像部分に表れていない部分については、その内容自体が明らかでないので、本件ファッションショーのうち前記C及びD以外の点が、「劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること」に「類する行為」に当たるものとは言えない。
 前記C及びDの点も、ポーズや動作をとったものに過ぎず、しかも、その態様もありふれたものに過ぎないのであるから、「これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するもの」に該当するものとは言えない。

3 以上のとおり、原判決の結論は相当であって、本件各控訴は何れも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。


第4 考察
 ファッションショーにおけるモデルの化粧、衣服の選択、動作等についての著作権関係は、どうなっているのか。この判決は、数少ない、正にその答えとなっている。興味をお持ちの方もいらっしゃるかと思い、解説した。著作権法で保護される著作物とは何かを考えるヒントになるかとも思う。
 今後、実務の参考になる部分があるかと思われるので紹介した。
以上


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '15/7/14