損害賠償請求事件(不正競争防止法2条1項3号の請求主体)

解説  損害賠償請求事件において、不正競争防止法2条1項3号(商品形態模倣規制)の請求主体に関して、一応の具体的な基準が示された事例
(東京地裁・平成21年(ワ)第43952号、口頭弁論終結日 平成24年1月13日)
 
第1 事案の概要
 原告が販売しているフルーツジュースと内容物容器デザインが同一の商品を、被告らが輸入し、販売する行為は、不正競争防止法(以下「不競法」という。)の2条1項3号の不正競争に該当するとして、同法4条に基づき損害賠償を求めたものである。
 原告は平成19年5月頃、訴外A社との間で同社の発注で本件ジュースを継続的に輸入して同社に売り渡す契約を締結し、取引を開始したが、同契約は同年8月頃終了した。同じ頃、原告はY4との間で同じ契約を行うこととなった。その後原告とY4は争いとなり、Y4は、平成21年1月以降、Y5を介して同商品を輸入して日本国内で販売している。
 原告は、本件商品を輸入、販売している各社に対して損害賠償を請求した。

第2 主な争点
 原告は、ジュースの配合比率の検討、容器デザインの制作、命名等自ら本件商品を開発して市場に投入したことを主張した。
 本件においては、原告の不競法2条1項3号の請求主体性が争点となった。これについてのみ解説し、その他の請求については、省略する。
第3 判決
 「原告は、不競法2条1項3号の不正競争に付き損害賠償を請求することができる者ということはできない。」として、原告の請求を棄却した。
第4 裁判所の判断
(ア)不競法2条1項3号は、商品化のために資金や労力を投下した者の開発利益を、当該商品の形態を模倣するとうい行為を競争上不利益な行為とすることにより保護することを目的とするものであり、この様な目的からすれば、本号の不正競争につき損害賠償を請求することができる者は、当該商品を自ら開発、商品化した者又はこれと同様の固有かつ正当な利益を有する者と解すべきである。
(イ)本件ジュースについては、その内容物、商品名、商品容器のデザインの何れについても原告が独自の費用、労力を掛けてこれを開発、商品化したと言うことはできない。従って、自ら開発、商品化した者と認めることは出来ず、また、これと同様の固有かつ正当な利益を有するものと認めることはできないから、不競法2条1項3号の不正競争に付き損害賠償を請求することができる者ということはできない。
(ウ)原告は、本件ジュースが原告の開発、商品化した商品であることの根拠として、原告によるJANコード等の取得や、食品生成法に基づく輸入届、関税の納付をも主張するが、これらは何れも本件ジュースの開発、商品化に関するものとは言えず、採用することができない。
結論
 以上により、不競法2条1項3号の不正競争に付き損害賠償を請求することができる者ということはできない。
第5 考察
 不競法2条1項3号は商品形態摸倣規制に関する規定で、請求期限は3年以内と限定がされている。
 請求主体性に関する判例は分かれている。キャディバッグ事件では(輸入した)否定され、ヌ―ブラ事件では(輸入・独占的販売権者)肯定されている。
 本件ジュースに開発過程においても、原告は一定の関与が認められるが、この程度では、自ら開発、装品化したとまでは言えないと判断されたので、一応の具体的な基準が示されているものと考えられる。
 本判決は、本号の請求主体は、一般論として当該商品を自ら開発・商品化した者に限らず、これらの者と「又はこれと同様の固有かつ正当な利益を有する者」について、言及している点が目につく。判例に言う「固有かつ正当な利益」とはどんな場合なのか疑問が残る。
 実務の参考になる部分があるかと思われるので、紹介した。
以上


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '13/06/01