ニュース報道の記事見出しの無断使用 |
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解説 |
著作物としての創作性が認められないニュース報道の記事見出しについて、その無断使用が不法行為に該当するとされた事例、著作権 民事訴訟事件 平成17年(ネ)第10049号 平成17年10月6日、判決言渡し 知財高裁
(原審・東京地裁 平成14年(ワ)第28035号、平成16年3月24日) |
1.事案の概要 | ||||||||
@ 原告は(株)読売新聞東京本社であり、その運営するホームページ「Yomiuri On-Line」に原告のニュース記事及びその記事見出し(以下「YLO見出し」という。)を掲出している。 被告有限会社デジタルアライアンスは、インターネット上で「ライントピックス」と称するサービス(以下「被告ライントピックスサービス」という。)を提供している。被告は被告サイトにおいて、ヤフー(株)の開設するウェブサイト「Yahoo!Japan」(以下「ヤフーサイト」という。)上のニュース記事にウェブページへのリンクをはり、そのリンクボタンの多くを上記ニュース記事の「見出し」語句と同一の語句を使用している。 被告は、被告サイト上の被告リンク見出し及びリンク先のURLを、ヤフーサイト上の記事を参考にして、定期的に更新している。 原告とヤフーは、原告がヤフーに対し、ヨミウリ・オンラインの主要なニュースを有償で使用許諾する内容の契約を締結した。「Yahoo!ニュース」には原告のYOL見出しと同一の記事見出しが表示されている。 被告は、他のウェブサイト上に被告リンク見出し(原告が配信しているヤフーの運営に係るヤフーサイトのニュース記事見出しと、ほぼ同一のものである。)を表示させる制御情報を表すHTMLのタグを作成し、同タグに係るデータを、ライントピックスサービス登録ユーザーに、被告サーバーから、インターネットを通じて送信し、ライントピックサービス登録ユーザーは、上記データをダウンロードし、被告サービスにおいて指定された手順を踏むことにより、そのウェブサイト上に、被告リンク見出しを掲出させることができるという、サービスを提供している。 原判決は、YOL見出しは著作物であるとは認められず、著作権侵害になるとは言えない。さらに、被告の行為は、不法行為を構成しないとして、原告の請求をいずれも棄却した。 そこで、原告は、原判決を不服として、控訴(知財高裁)したものである。 |
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2.争点 | ||||||||
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3.裁判所の判断 | ||||||||
@ YLO見出しの著作権侵害の主張について 一般に、ニュース報道における記事見出しは、内容を簡潔な表現で正確に伝えるという性質から導かれる制約があるほか、使用する字数にも限界があり、表現の選択の幅は広くなく、創作性を発揮する余地が比較的少なく、著作性が肯定されることは、容易ではないものと考えられる。しかし、ニュース報道の記事見出しであるからといって、直ちに総てが著作物性を否定されるものと即断すべきものではなく、その表現いかんでは、創作性を肯定し得る余地もないのではないのであって、結局は、各記事の見出しの表現を個別具体的に検討して、創作的表現であるといえるか否かを判断すべきである。問題となった365個の見出しについて検討を加え、何れも著作物として保護されるための創作性を有するとはいえないとした。 A 不正競争防止法違反について 不正競争防止法2条1項3号における「商品の形態」とは、需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感であると解すべきである。そうすると、YOL見出しを模倣したとしても、不正競争防止法2条1項3号における「商品の形態」を模倣したことには該当しない。 B 不法行為について 不法行為が成立するためには、必ずしも著作権など法律に定められた厳密な意味での権利が浸害された場合に限らず、法的に保護に値する利益が違法に侵害された場合であれば不法行為が成立するものと解すべきである。 本件YOL見出しは、控訴人の多大の労力、費用をかけた報道機関としての一連の活動が結実したものといえること、著作権法による保護のもとにあるとまでは認められないものの、相応の苦労・工夫により作成されたものであって、簡潔な表現により、それ自体から報道される事件等のニュースの概要について一応の理解ができるようになっていること、YOL見出しのみでも有料での取引対象とされるなど独立した価値を有するものとして扱われている事情があることなどに照らせば、YOL見出しは、法的保護に値する利益となり得るものというべきである。 また、このような被控訴人のライントピックスサービスが控訴人のYOL見出しに関する業務と競合する面があることも否定できない。 そうとすると、被控訴人のライントピックスサービスとしての一連の行為は、社会的に許容される限度を超えたものであって、控訴人の法的保護に値する利益を違法に侵害したものとして不法行為を構成するものというべきであるとした。 次いで、損害額を計算して、23万余の損害賠償を命じた。 不法行為に基づく差止請求については、一般に不法行為に対する被害の救済としては、損害賠償請求が予定され、差止請求は想定されていない。本件において差止請求を認めなければ、深刻な事態を招来するものとは認められないから、差止請求は肯認できないとした。 |
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4.考察 | ||||||||
インターネット上での記事見出しの無断使用が問題となった事件である。 著作権法で保護される著作物には当たらないが、他人の作った記事見出しの無断使用が民法上の不法行為になるとした判断が示された。 判決の中で言う「この種の使用料について適正な市場相場が十分に形成されていない現状」である現実がある。この種の事案は、賠償金額によることなく、他人の権利を犯してはならないという戒めと見るべきであろう。本件については、当該業界として厳粛に受け止め、自浄作用を果たすことを期待したい。 以上
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