商品形態模倣行為差止等請求事件

解説 不正競争防止法のいわゆる製品の形態を「模倣した商品」の差止請求等の訴訟において、自己の商品形態を模倣された者が、請求の主体と成り得ないとされた事例
商品形態模倣行為差止等請求事件
(平成13年(ワ)第26431号 平成16年2月24日、判決言渡し 東京地裁)
 
1.事案の概要
@ 原告ビップビジネスは、原告ビップから技術の開示を受けて、これを用いておから等の食物残滓を原料とした円筒状多孔質体のペット用糞尿処理剤(猫砂)(以下「原告商品」という。)を製造し、原告ビップと共同で「エコシードV1」の商品名でこれを販売している。
 被告Aは、平成10年から平成12年に、原告の事実上の工場長として原告商品の製造販売に携わっていた。平成13年以降は、被告サンメイトに雇用され、同被告の下で働いている。
 被告サンメイトは、平成12年、原告商品につき原告等と販売総代理店契約を締結し、以降原告商品を「トップサンド21」の商品名で販売している。
 被告奈良農場は、平成12年から13年まで、原告商品の原料となる乾燥おからを被告サンメイトを介して原告らに納入していた。平成13年頃以降、被告Aの技術指導の下、乾燥おからを主原料とする円筒状多孔質体の猫砂を自ら製造し、被告サンメイトに納入している。被告サンメイトは、これを「トップサンド21」の商品名で販売している(以下「被告商品」という。)
2.争点
@ 原告は、不正競争防止法2条1項3号の請求の主体となり得るか。
A 原告商品の形態が、前記同号により保護される「形態」にあたるか。
B 被告商品が、原告商品の形態を「模倣した商品」にあたるか。
C 秘密保持義務の有無について
D 共同不法行為の成否について
3.裁判所の判断
@A及びB
 原告は、原告商品の形態を構成する諸点として、イ〜ホ(省略)を挙げた上で、これらの内円筒状及び多孔質体の点を特に強調し、被告商品の形態が原告商品の形態を模倣したものであると主張していて、円筒状の猫砂の形態の原告商品は、不正競争防止法2条1項3号にいう「形態」に該当し得るものと言える。
 然し乍ら、不正競争防止法2条1項3号のいわゆる形態模倣行為を不正競争として規定した趣旨は、他に選択肢があるにも係わらず、他人が資金や労力を投下して開発商品化した商品の形態をことさら模倣し、これを自らの商品として市場に置くことは、先行者の開発成果にいわばただ乗りする行為であって、競争上不正競争と評価されるべきものであるばかりか、この様な行為を許容すると、新商品の開発に対する社会的意欲を減殺しかねないことから、上記行為を規制することによって、先行者の開発利益を模倣者から保護することにあると解される。
 このような立法趣旨に照らせば、同号に基づく請求の主体となり得る者は、形態模倣の対象とされた商品を自ら開発・商品化して市場に置いた者に限られるというべきである。
 証拠によれば、平成10年5月に訴外エコシードから製造委託を受けた訴外エコラルにおいて、原告ビップの預かり知らないところで、サンプル提供できる程度に商品化されたもので、商品の形態としてはこの時点で既に完成していたものと認められる。
 原告らは訴外エコシードから、単に同社の技術成果を事実上保持していた被告Aから指導を受けたに止まるから、原告をもって円筒状の猫砂の形態を自ら開発した者ということはできない。
 従って、原告等は、不正競争防止法2条1項3号に規定する請求を成し得る主体となり得る者とは、認めることはできない。

C 原告等が被告Aを事実上の工場長として処遇したのは、被告Aの技術知識が必要であったからで、現に被告Aは円筒状猫砂の製品化に成功している。上記事情の照らせば、原告等と被告Aとの間に、同被告が円筒状猫砂の製品化についての技術情報を、専ら原告等の利益のために利用し、同情報を第三者に漏洩しない旨の合意が成立していたことは十分に認め得るところである。
 また、原告ビップが被告A宛に作成した平成10年11月1日付けの「労働条件通知書」に「業務上機密に属するものは、在職中は勿論、退職後と言えども一切これを他に公表しない」との一文が定型文言で記載されていること、被告Aを含む社員全員により平成10年12月1日付け「機密保持に関する約定書」が作成されている事情も、同情報を第三者に漏洩しない合意が存在していたことを裏付ける事情の一つと認めるのが相当である。
 また、原告らは、被告サンメイトとの間で、平成12年3月21日付け販売総代理店契約に記載の秘密保持条項第9条として、「甲及び乙は、本契約及び個別契約により知りえた双方の営業上、技術上の秘密(情報)を第三者に開示又は漏洩してはならない。」と定められているのも、被告Aとの間の秘密保持契約と同様、被告サイメイトが、原告と技術情報ないし製造ノウハウを含めた技術情報を第三者に漏洩しないことを取り決めたものと認めることができる。
 被告Aは、原告等の下において、事実上の工場長として稼動していたにも拘らず、自ら持ちかけて被告奈良農場に原告商品と実質的に同一の円筒状猫砂を製造させ、原告等と販売総代理店契約を締結していた被告サンメイトにこれを販売させ、自らも同被告に雇用されて円筒状猫砂の製造販売に従事し、原告等に経済的打撃を与え続けているものであり、被告Aのこのような行為は、原告等とに間の秘密保持契約に違反するものと認めることができる。

D 被告A及び被告サンメイトの上記行為は、何れも契約上の秘密保持義務に違反するとともに、一般不法行為を構成するものと言うべきである。
 従って、契約上の義務違反ないしは不法行為を理由に、連帯して885万円9033円を損害賠償の責任がある。


4.考察
 上記の理由で、原告商品は、不正競争防止法の製品の「形態」に該当し得るものであると言えるが、原告商品の特徴を組合わせた形態につき、原告商品の発売前に他人によって既に完成していたとし、従って、原告は原告商品を自ら開発した者でないから、同号に規定する差止請求等の主体となりえ得ないとされた事例である。不正競争防止法2条1項3号の適用条件を明らかにし、かつその条文の保護すべき利益を明快に説明した判例である。
 本件は、複雑な人間関係及び事実関係が絡んでいるが、結局、被告等の行為は、契約上の義務違反ないし不法行為に該当するとして、損害賠償を命じられた。
以上


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '05/11/2