新春展望
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 皆様あけましておめでとうございます。

   世界的な景気後退の中で迎えた2009年
 2009年は百年に一度と称されている世界的な景気後退の中で年を明けました。
 1929年に始まった世界大恐慌の最も深刻な影響は数年後の1933年に現れたといわれておりますが、現下の世界的な景気後退から立ち直る一歩を築く努力が各方面で要請される年になっております。

   新たな発展の礎を築く新技術の開発
 米国の科学誌サイエンスは2008年の科学の画期的成果の1位に万能細胞(@PS細胞(誘導多能性幹細胞))を創出した山中伸弥京都大学教授グループによる「細胞の初期化」を選びました。同誌記者や編集者による選考です。医学の進歩に大きく貢献するものとして一日も早い実用化が望まれています。日本の研究では細野秀雄東京工業大学教授グループによる新タイプの高温超伝導物質の発見も10大科学成果の中に選ばれました。
 いつの時代も次世代の産業発展の礎となる新技術の開発が行なわれています。特許庁の「特許行政年次報告書2008年版」(産業財産権の現状と課題〜グローバル化に対応したイノベーションの促進〜)から、環境・エネルギー分野を中心にした特許出願の技術動向(2007年)をいくつか紹介します。

(幹細胞関連技術)
 「ES細胞(胚性幹細胞)」や山中教授が創出した@PS細胞などは組織や臓器を構成する様々な細胞に分化できる「幹細胞」で、将来的には目的とする臓器を作成して再生医療に利用するなどの産業応用が期待されています。世界の特許出願の大多数を占める日本、米国、欧州と、近年特許出願件数が激増している中国、韓国を含めた日米欧中韓の幹細胞関連技術分野における特許出願件数で最も多いのは米国(56%)、次いで、欧州(19%)、日本(13%)となっています。日本は@PS細胞の創出を始めとした基礎研究で高い技術レベルにあることが認められています。今後これを応用産業に発展させていくことが望まれています。

(ディーゼルエンジンの有害排出物質低減技術)
 日本ではディーゼルエンジンはトラック、バスなどの商用車に使用されるのが中心ですが、欧州では普及が進み、乗用車の新車登録台数に占めるディーゼル車の割合は2006年で50%に近づいています。日米欧中韓におけるこの技術分野の特許出願件数は1995年頃から急増し2001年〜2003年にピークを迎えています。日本からの出願が54%と最も多く、欧州34%、米国10%となっています。
 昨年の北海道洞爺湖サミットでも主要なテーマとなった環境保全、地球温暖化防止に貢献する動力源として開発が進められるものと思われます。

(ヒートアイランド対策技術)
 ヒートアイランド対策技術には、屋上緑化や壁面緑化などの緑化技術と、舗装体内に保水した水分が蒸発する際の気化熱で路面を冷やす保水舗装技術、太陽光の中の赤外線を反射することにより路面温度の上昇を抑制する遮熱性舗装技術などの機能性舗装技術、高反射・遮熱性を有する保水性建材・塗料に関する技術などが含まれるとされています。
 日米欧中韓におけるこの技術分野の特許出願件数は2000年代に入って急増し、この中で日本からの出願が67%を占め、次いで、欧州17%、米国10%となっています。
 緑化技術に関しては東京都による義務化(2001年)、機能性舗装技術については東京都や国のプロジェクトによって技術開発、応用が急速に進み、今後も大きく発展するものと思われます。

   新たな発展を展望して選択と集中を進める年
 1929年の世界大恐慌と比較される今回の世界的な景気後退局面の中で前回と相違している点は、世界で協調して難局に立ち向かう体制が構築されている点にあります。米・欧・日に、中国、インド、ブラジル、ロシアなどの新興大国も含めた世界20カ国の首脳によるワシントンでの第1回G20金融サミット(昨年11月)を始め、国際的に協調する体制が構築されています。
 米国のオバマ次期大統領は250万人の雇用創出を目指し、日本円換算で50兆円を上回る「経済復興計画」を提案すると表明しています。EUもこれからの2年間に約25兆円規模の経済対策を実施するよう加盟国に提案し、中国は2010年までに約57兆円の投資を実施する大規模な景気刺激策を発表しております。
 我が国でも世界各国で開始されようとしている景気刺激策に呼応した施策が採用されるものと期待されます。過去の二度にわたる石油ショックでの大幅な景気後退を見事に乗り越えたのも、省エネルギー技術の開発、低燃費車の開発、自動車の有害排出物を低減させるクリーン技術の開発、等、新たな産業の発展を切り開く官民一体となった新規技術の開発でした。
 本田技研工業が、その技術力とエンジン性能を世界のモーターファンに認めさせたF1から撤退することは自動車産業の苦境を示す一例といえますが、同時に、同社はこれまでF1開発に携わっていた約400名の技術者を、ガソリン消費の少ないハイブリッド車開発、ハイブリッド車用次世代電池の開発などに象徴される環境技術開発に投入すると表明しています。
 新たな産業の発展を展望し、選択と集中とによって難局を乗り切ることが期待される1年になると思われます。
以上

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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '09/01/04
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