皆様あけましておめでとうございます。
日本の「物づくり技術」が評価された2010年
7年の年月をかけて宇宙から帰還した探査機「はやぶさ」が小惑星「イトカワ」の微粒子を持ち帰ることに成功した快挙に沸いた昨年は、ノーベル賞で、米国のリチャード・ヘック氏と共に、鈴木章・北海道大学名誉教授、根岸英一・米パデュー大学特別教授が化学賞を受賞したという我が国の科学技術分野の歴史において誇るべき年にもなりました。
日本人のノーベル賞受賞は湯川秀樹博士以来、米国籍の南部陽一郎シカゴ大学名誉教授を含めて合計で18名になりました。21世紀に入ってからでは物理学と化学の2部門で合計10名が受賞し、ほぼ毎年1人が選出されるペースになっています。
根岸、鈴木両氏の授賞業績は化学合成技術のひとつである「有機合成におけるパラジウム触媒によるクロスカップリング反応」で、反応しにくい炭素原子を組み合わせて創薬やエレクトロニクス産業に役立つ有機化合物を生み出す画期的な手法であるとして高く評価されました。この反応は、医薬品や化学原料などの分野だけでなく、自動車、電機など多くの産業で必要とされる素材技術に活用されています。環境に配慮したこれからの低炭素社会の中で重要な技術となる太陽電池や電気自動車用の電池、省エネルギー型の照明である発光ダイオード(LED)などにおける素材にも活用されています。
このように根岸、鈴木両氏の研究成果が生かされる素材創成技術は物づくりの源泉になるものであり、この分野における日本での研究や人材の層の厚さが両氏の受賞につながったものと思われます。
昨年末、政府の総合科学技術会議(議長:管直人首相)は本年から2015年までの5年間の科学技術政策の指針となる第4期科学技術基本計画の答申を取りまとめました。科学技術分野への政府の年間投資目標は国内総生産(GDP)比1%とされ、5年間総額で約25兆円が投じられることになりました。環境関連の技術革新などを目指す「グリーンイノベーション」や、健康・医療分野の研究開発に取り組む「ライフ・イノベーション」が重点的に推進され、基礎研究や人材育成にも目配りがされることになりました。
今後の我が国産業の更なる発展にとって必要な基礎研究や研究者の育成、研究・開発によって生まれた成果の産業への橋渡しなどに力が注がれることになります。根岸、鈴木両氏のノーベル賞受賞で改めて評価された我が国の「物づくり技術」の更なる発展が期待されます。
技術を価値につなげる国
昨年6月、政府は「強い経済」、「強い財政」、「強い社会保障」を一体的に実現することを目標にした「新成長戦略」を閣議決定しました。この「新成長戦略」は、具体的な施策の実行時期を工程表に記し、その進捗状況を継続的にフォローアップする仕組みを盛り込んだものです。
「新成長戦略」の中では、「イノベーション創出のための制度・規制改革と知的財産の適切な保護・活用を行う」、「中小企業の知財活用を促進する」という方向性も打ち出されました。
経済産業省は「新成長戦略」の下での「新たな経済成長の実現」を積極的に担うべく、昨年8月に、100の具体的な取り組みを盛り込んだ「新成長戦略実現アクション100」(平成23年度経済産業政策の重点)を取りまとめました。
「市場機能を最大限活かした新たな官民連携の構築」をうたうこの「アクション100」では7項目の提案が行われ、その中の一項目である科学技術の分野では「『技術を価値につなげる』研究開発と国際標準戦略の推進−『技術で勝って、事業でも勝つ』事業戦略への転換−」が打ち出されました。
特許庁の産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会は、前述した「新成長戦略」や「新成長戦略実現アクション100」の提案も踏まえて、昨年4月から行っていた特許制度に関する法制的な課題についての検討結果を報告書として昨年末に公表し、パブリックコメントを募集しました。
近年の知的財産を取り巻く環境変化に適切に対応し、イノベーションを通じた我が国の成長・競争力強化に貢献する目的で行われてきた報告書の中には、特許権などの権利を活用することを目的とした登録対抗制度の見直しなどと並んで特許料金の見直しも含まれています。
近く提案される予定の特許法改正において、特許料金の見直しでは、特許出願の審査請求料金(特に、基本料金:168,600円)の引き下げ等、知的財産の適切な保護・活用、中小企業の知財活用を支援する方策が検討されるものと思われます。
高い目標を目指して進む一年に
東京都墨田区に建設中の東京スカイツリーは昨年末に514mを越えました。来年春には634mという、電波塔としては世界一の高さで開業が予定されています。昨年は多くの人々が見物に訪れました。東京タワーの建設を眼にしながら戦後の復興と高度経済成長に汗を流したベテランから21世紀を担う子供たちまで多くの人々が建設中の東京スカイツリーに胸を躍らせました。
世界で高く評価される日本の「物づくり技術」に自信を持ち、天空に向かって伸びる東京スカイツリーの建設と共に、新たに開発する技術を新たな価値の創出に結びつける高い目標を目指して進む一年にしたいものです。
以上
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