新春展望
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 皆様あけましておめでとうございます。
 昨年、我が国は、3月11日の東日本大震災、そして、東京電力福島第一原子力発電所の事故により大きな打撃を受けました。本年は、昨年に引き続き、大震災からの復旧、復興、原発事故の収束に向けた大切な年になります。
 政府は、平成24年度の予算を「日本再生元年予算」と名付け、大震災からの復興策を柱に据えることを昨年末に閣議決定しました。大震災からの復旧、復興と、原発事故の収束が、国を挙げて取り組まれるものと思われます。

   震災からの復興と知的財産
 特許権をはじめとする知的財産権も、震災からの復興と、その後の我が国経済の成長・発展において大切な位置を占めると考えられます。昨年7月に内閣府が発行した経済財政白書では、震災後の持続的な成長の3つの鍵の中の一つに「人的資本(労働者のスキル)やその他の無形資産(ノウハウ、特許、ソフトウエア等)への投資」が挙げられ、無形資産への投資とマネジメントを通じたイノベーションの必要性が指摘されました。
 特許庁は昨年末に「がんばろう日本!知的財産活用企業事例集2011」、「なるほど、日本の素敵な製品 デザイン戦略と知的財産権の事例集」という2冊の冊子を発刊しました。
 前者は、東日本大震災により、サプライチェーンの断絶やこれに伴う受注の減少など、日本のものづくりが大きな打撃を受けた中で、「震災から復興し、グローバル競争激化の中で持続的な成長を実現するためには、優れた技術力と戦略的な事業展開が重要」という観点から、我が国のものづくりを支えてきた中小企業において、開発した技術を知的財産権として保護・活用してきた50の事例を紹介しています。
 後者は、意匠権を中心とした産業財産権の活用戦略の検討に資する目的で発刊されました。立体マスクなどの生活用品から、自動車のような運輸・運搬機械まで、世の中で良く目につく20の製品・デザインについて、新製品開発プロセスと意匠権の出願プロセス、企業の事業戦略、企業活動の視点から見た知的財産戦略などがビジュアル化してまとめられています。
 昨年改正され、本年4月1日から施行される改正特許法の中では、制度の利便性向上に向けた料金・手続面での見直しの一環として、特許出願審査請求料金の25%値下げ等が、昨年8月1日から先行して施行されています。
 このような特許庁の取り組みは、震災後の持続的な成長における「無形資産(ノウハウ、特許、ソフトウエア等)への投資とマネジメントを通じたイノベーションの必要性」が指摘される中で、発明・考案・意匠などの新たな創作を促し、生み出された新たな創作を適切に権利化し、有効に活用することを支援するものであると思われます。

   革新的な技術の開発によるブレイクスルー
 かつて自動車メーカーに対する非常に厳しい排出ガス規制が低公害・低燃費の自動車エンジンの開発・普及を進めるきっかけになったことがありました。米国で1970年に成立した大気浄化法改正法(マスキー法)です。期限内に規制(改正法後5〜6年で有害物費排出量を1/10以下に削減)をクリアできない自動車は販売が禁止されるという厳しい排出ガス規制でした。世界中の自動車業界から期限内に規制をクリアすることは不可能と言われました。しかし、わずか3年で日本の自動車メーカーがこの規制をクリアする、当時の「常識」からすれば「奇跡」のエンジンを開発しました。日本の自動車メーカーが世界で大きく飛躍するきっかけになり、以降、低公害・低燃費の自動車エンジンが広く普及しました、
 困難な状況の中で、それを突破(ブレイクスルー)する革新的な技術の開発(イノベーション)が、その後の産業の発達、社会の発展を切り開いた好例です。
 現在、国際的にはイタリアやスペインなど欧州の政府債務危機、国内的には震災の影響と、引き続く円高、原発事故による電力供給不安等、困難な状況が続いています。このような困難な状況を突破する技術革新が求められています。

   新たな付加価値を創造する技術開発
 昨年末に東京ビッグサイトで開催された第42回東京モーターショーは「さまざまな困難から立ち上がる日本のモノづくりのたくましさを国内外に発信できたもの」(日本自動車工業会)といえました。その中でも、「クルマ、都市、人々の暮らしに結びつく先端技術」をかかげた主催者テーマ「Smart Mobility City 2011」に応えた各社の展示には、住宅メーカーからの東京モーターショーへの初出展など、大きな注目が集まりました。
 太陽電池、燃料電池、蓄電池、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車に搭載されるバッテリー、そして、これらを組み合わせて制御することによる発電と蓄電、電力供給の効率化、など多くの提案がなされました。電力の供給に社会的な注目が集まる中での新たな技術の提案でした。
 昨年11月21日、枝野経済産業大臣は「日本再生に向けた検討課題」を公表し、「新産業分野を創出し、新たな付加価値を創造し拡大する経済に転換する」必要性を訴えました。昨年末の東京モーターショーに出展された多くの先端技術は「新産業分野を創出し、新たな付加価値を創造し拡大する経済」に向けた一歩であるように思われます。
 現状を突破する革新的な技術の開発と、これによる新たな付加価値の創造により震災からの復興に立ち向かう一年にしたいものです。

以上

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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '12/04/25
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