謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
日本の科学・技術に自信と確信をもって
昨年も我が国からノーベル賞受賞者が誕生しました。ノーベル医学・生理学賞を受賞された大隅良典東京工業大学栄誉教授です。湯川秀樹博士(1949年物理学賞受賞)からの日本のノーベル賞受賞者(外国籍含む)は25人(物理学賞11人、化学賞7人、医学・生理学賞4人、文学賞2人、平和賞1人)、21世紀に入ってからの自然科学系のノーベル賞受賞は16人になりました。3年連続して自然科学分野でのノーベル賞受賞者を出したことは我が国の科学研究レベルの高さを証明したもので、日本の科学・技術に対する自信と確信を私たちに与えてくれます。
6年前、ご出身の高校で講演を行われた大隅教授は、「自分の眼で確かめよう」、「はやりを追うのは止めよう」、「小さな発見を大切にしよう」、「様々な面からじっくり考えよう」という4つの理念を研究者にとって大切なものとして紹介されたそうです。
この4つの理念は、未来に希望を抱く高校生や、研究者だけでなく、技術の開発、製造・生産、販売など社会のあらゆる分野で働く者にとっても大切なものであるように思われます。
世界的、歴史的な技術革新の時代
「低炭素社会」から「脱炭素社会」へ
私たちが生きている世界には、今、大きな変革が起きようとしています。その一つが「脱炭素社会」への挑戦です。
昨年発効したパリ協定は「低炭素社会」よりさらに進んだ「脱炭素社会」を目指す国際的な取り組みになります。
20世紀は化石燃料に依存した時代でした。自動車産業は内燃機関エンジンの開発、改良で大きく発展しました。
21世紀は、20世紀後半に登場してきた電気自動車など、内燃機関エンジンを使用しない自動車が主役になると思われます。
すでに、EUでは、2050年までにガソリンエンジン車、ディーゼルエンジン車を全廃し、2050年以降はCO2ゼロエミッション車のみの販売が許可される方向での調整が始まっています。
日本でも、「新車のCO2排出量を2050年までに2010年比で90%削減し、工場CO2排出量を2050年にゼロにする」ことを目標にして取り組みを始めている大手自動車メーカーがいます。また、「自らの事業活動及び製品のライフサイクルを通して、2050年に環境負荷をゼロにする」ことを目標として掲げた大手電機メーカーもいます。
世界中で「脱炭素社会」への取り組みが進みますと、高度経済成長時代の公害を克服し、1970年代のオイルショック以降、省エネルギー技術、再生エネルギー技術に取り組んできた日本の企業には大きなビジネスチャンスが広がります。
「低炭素社会」から「脱炭素社会」へ、今までになかった発想、技術の革新が要求される時代です。
「第四次産業革命」
21世紀に入って始まっているもう一つの大きな変革が「第四次産業革命」と呼ばれているものです。
ドイツでは「Industry 4.0(第四次産業革命)」をスローガンに産官学一体となった製造業改革プロジェクトが2011年から進められています。
我が国の政府は、昨年、「第5期科学技術基本計画」を公表し、日本の未来像として、必要なもの・サービスを各人のニーズに応じて提供できる社会「Society 5.0」を提示しました。
また、経済産業省は、昨年、「新産業構造ビジョン 中間整理 〜第4次産業革命をリードする日本の戦略〜」を取りまとめました。
IoT(Internet of Things、モノのインターネット)、ビッグデータ、人工知能(AI)、ロボットなどにより、この「第四次産業革命」の下で、産業構造や就業構造が劇的に変わる可能性が指摘されています。自動車の自動走行、ドローンを利用した監視・管理・配送など、これまで実現不可能と思われていたことが可能になる社会の登場です。
第4次産業革命の動きは社会で着実に進んでおり、デジタル家電やIT(情報技術)分野で国内最大、アジアでも最大級の展示会である家電・IT見本市「CEATEC(シーテック)ジャパン」には、昨年、IoTに力を入れる企業などの出展が増え、出展企業・団体数が一昨年の2割増しになる盛況でした。
わが国は、従来から、職人気質や、きめ細かい仕事、信頼される人間関係に支えられたモノづくりの現場に強みを持っていました。IoTを活用してモノづくりの現場から情報を収集し、積み重ね、これまでの我が国の強みを生かした産業構造、経済活動に支えられた社会を創り出すことが要請されています。
新しい時代に挑戦する気概を持って
化石燃料が主役であった20世紀から「低炭素社会」を経て、一気に、「脱炭素社会」へ進もうとする今日、また、「第四次産業革命」と呼ばれる世界的、歴史的な変化の時代である今日、「自分の眼で確かめ」、「はやりを追うのは止め」、「小さな発見を大切にし」、「様々な面からじっくり考え」て、新しい時代を切り開く技術の開発に挑戦したいものです。
新しい時代に挑戦する気概を持って新しい一年を始めましょう。
以上
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