謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
期待を持てるコロナウィルス治療薬の開発
昨年夏の第五波と呼ばれた新型コロナウイルス(covid-19)感染症の拡大は医療現場をはじめとする多くの皆さんの努力により収束しました。ワクチン接種の対象年齢に満たない子どもを含む全人口の八割程度が2回のワクチン接種を済ませ、国民の間で広く取り組まれているマスク着用と手洗い・手指消毒の徹底などにより、他の先進国には見られない、顕著な感染者数減少を実現できたのではないかと思われます。
covid-19の治療薬として飲み薬タイプの治療薬が複数の企業によって開発されていることが昨年末に報道されています。患者が自宅でも使用できる飲み薬が提供されるようになることで、covid-19は、インフルエンザの医療に近づくことになるかもしれません。
昨年末からの欧米でのオミクロン株感染拡大の状況を見ますと予断を許しませんが、ワクチン接種の更なる拡大、飲み薬をはじめとする治療薬の普及、これまで同様のマスク着用と手洗い・手指消毒の徹底などにより、covid-19感染症の影響を収束できる道が見えてくるのではないかと思われます。
コロナ禍に立ち向かう事業者
我が国政府は「新しい資本主義実現会議」(議長は岸田文雄首相)を発足させ、本年春までに全体構想を取りまとめ、成長戦略と分配戦略を両輪にするという「新しい資本主義」を、本年度以降の予算などに反映させるとしています。
「新しい資本主義」の検討が行われている一方で、社会、経済の現場ではコロナ禍を乗り越えようとする取り組みが広がっています。
コロナ禍を乗り切ろうと様々なアイディアや工夫を重ね、企業として持続的な効果をあげることができるような取り組み事例として、日本政策金融公庫が募集し、これに応募した事業者の取り組みが「コロナ禍に立ち向かう事業者の取り組み」として日本政策金融公庫のウェブサイトや、広報誌「日本公庫つなぐ」(22号、23号)に公表されています。
コロナ禍で見つけた新しいニーズに対して、自社で培ってきた技術力で対応し、新製品を開発して自社の従来の事業分野から新しい事業分野に進出した企業や、機械部品製作・メンテナンスサービス等を行っている企業が、コロナ禍での移動制限や感染防止等に対応して「機械のオンライン相談(修理)」を開始し、営業範囲を全国に拡大した事例などが紹介されています。
新型コロナウイルス(covid-19)感染症の拡大というこれまで誰もが経験したことのなかった事態の中で、新しいニーズを見つけ出し、自社の事業で培ってきた技術力などを活用する新しいアイディア・工夫により事業の拡大や、新たな事業への広がりにつなげた事例が多く存在しています。
日本政策金融公庫が公表している「2022年の中小企業の景況見通し」(〜「中小企業景況調査」(2021年11月)の付帯調査結果〜)によれば、中小企業は、昨年の業況判断DI(実績)を15.3と一昨年の−60.2から大幅改善したと判断し、本年の業況判断DI(見通し)は21.9と、昨年から6.6ポイント上昇すると判断しているとのことです。また、建設関連、設備投資関連、食生活関連、衣生活関連業界では本年が昨年に比べて業況改善するのではないかという中小企業の判断が示されているようです。
新型コロナウイルス(covid-19)感染症の影響収束を期待できる本年、これまで誰もが経験したことのなかった新しい状況の下で、新たに生まれてくる新しいニーズに気づき、新しいアイディア・工夫を活用することで事業の拡大や新たな広がりにつなげる可能性が生まれています。
重要性を増す知財創造サイクル
総務省は2020年10月に実施した国勢調査の確定値を昨年11月に公表しました。これによれば、日本の総人口は1億2614万6099人で2015年の前回調査から94万8646人(0.7%)減少しました。前回調査から外国人が84万人増えていることから、日本人の人口では前回調査から5年間で178万人の減少です。
日本の人口は今後も減少し続ける見通しです。人口が減少し、それにつれて労働力人口も減少し続ける我が国では、新しいアイディアを用いて、今までになかった、付加価値の高いものを造りだしていくことが今まで以上に重要になります。
今世紀に入って、我が国は、「知財立国」を宣言しました。発明・創作を尊重し、「ものづくり」に加えて、アイディア、技術、デザイン、ブランドといった無形・無体の資産、すなわち、人間が頭の中で考え出した新しい情報であって、それを用いることで財産的価値を生み出すことのできる知的な情報、知的財産を、産業の発達、社会発展の基盤に据えようとする構想です。人口の減少が進行する我が国において「知財立国」構想は重要性を増しています。
新たな状況の中で生まれてくる新たなニーズを見つけ出し、この新たなニーズに応える新しい知的な情報・アイディア・工夫を創作し、新たなニーズを解決する新たな技術、取り組みなどにこの新しい知的な情報・アイディア・工夫を活用する。こうして誕生した、新たなニーズを解決する新たな技術、取り組みを広く社会に展開することで産業を発達させ、社会を豊かにする。このような知財創造サイクルと呼ばれる取り組みが望まれています。
産業の発達を法目的にしている特許、実用新案、意匠、商標などの工業所有権制度は、このような知財創造サイクルの中心を担います。知財創造サイクルの取り組みを強化し、社会、市場に対して、これまでになかった新しい価値を提供することで、事業の拡大や新たな広がりにつなげる一年にしたいものです。
以上