裁判外紛争解決手続の利用

解説  『裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律』について
 
1.目的
 裁判外紛争解決手続(以下「ADR」という。Alternative Dispute Resolution)の利用の促進に関する法律が制定され、平成16年12月1日公布された。公布の日から2年6月超えない範囲内において政令で定める日から施行するとしている。
 この法律の制定目的は以下の通りである。

第1条(目的)
 この法律は、内外の社会経済情勢の変化に伴い、裁判外紛争解決手続(訴訟手続によらずに民事上の紛争を解決しようとする紛争の当事者のため、公正な第三者が関与して、その解決を図る手続をいう。以下同じ。)が、第三者の専門的な知見を反映して紛争の実情に即した迅速な解決を図る手続として重要なものとなっていることにかんがみ、裁判外紛争解決手続についての基本理念及び国等の責務を定めるとともに、民間紛争解決手続の業務に関し、認証の制度を設け、併せて時効の中断等に係る特例を定めてその利便の向上を図ること等により、紛争の当事者がその解決を図るのにふさわしい手続を選択することを容易にし、もって国民の権利利益の適切な実現に資することを目的とする。


2.構成
この法律の基本的な構成は、以下の通り。
 (1)裁判外紛争解決手続の基本理念及び国の貢務を定めたこと。
 (2)民間業者の行う和解の仲介の業務について、一定の要件に適合していることを法務大臣が認証する制度を設けたこと。
 (3)認証を受けた民間業者の行う和解の仲介の業務については、時効の中断、訴訟手続の中止等の特別の効果が認められたこと。

3.国としてのADR促進政策
 現在我が国で、裁判所、行政機関、民間といった多様な主体による、仲裁、調停、あっせん等の多様な形態の裁判外紛争解決手続が行われている。
 裁判所の調停などは多く利用されているが、民間の行う裁判外紛争解決手続は一部のものを除き、必ずしもその利用が十分なされているとは言えない状況にある。
 そこで、国としてのADR促進政策は、
 (1)司法の効率化を図る(一定の種類のADRに適した事件をADRに任せて、裁判所の負担を軽減する)。
 (2)政策的救済の増進、効率化(行政機関が独自の政策的観点から、国民の要望に答え、廉価、迅速な現実的な救済を提供する)。
 (3)事件の性質によっては、訴訟より実情に即した質的に優れた紛争解決サービスを提供する。
等が促進政策の目標とするところである。


4.認証制度
 認証制度は、裁判外紛争解決手続のうち、和解の仲介の業務を行う民間業者について、その申請により法務大臣が法の定める要件を満たす民間業者を認証するものである。認証を受けたものを認証紛争解決事業者と言う(第2条)。
 (1)業務の認証の基準(第5条〜第6条、第8条〜第13条)
 (2)欠格事由 暴力団員等の排除等が規定されている(第7条)。

5.報告等
 認証紛争解決事業者は、事業年度ごとに、事業報告書等の書類を作成し、法務大臣に提出しなければならない(第20条)。

6.認証の取消
 法務大臣は、認証紛争解決事業者の適正な運営を担保する為、報告書の徴求、検査、勧告、命令、認証の取消ができる(第23条)。
等を定めている。


7.認証紛争解決手続の利用に係る特例(法的効果の付与について)
 (1)時効の中断(第25条)
   認証紛争解決手続によって和解が成立する見込みのなく当該手続を終了した場合、当該紛争につき1ヶ月以内に裁判所に訴えを提起した時は、該認証紛争解決手続の請求の時に、訴えの提起があったものとみなす(時効中断の効力が発生する)。
 (2)訴訟手続の中止(第26条)。
   当事者間に訴訟が係属する場合に、認証紛争解決手続が実施されている場合、認証紛争解決手続によって紛争を解決する合意がある場合に、当事者の共同した申立てがある場合、受訴裁判所は、4月以内の期間を定めて訴訟手続を中止することができる。
 (3)調停の前置に関する特則(第27条)
   訴えの提起前に裁判所の調停を経なければならない事件(調停の前置)のうち、認証紛争解決手続を経ている場合には、原則として、調停の前置を必要としない。
以上のような法律上の効果が付与されている。


8.報酬
 認証紛争解決事業者は、認証紛争解決手続の業務を行うことに関し、報酬を受けることができる(第28条)。
 また、「報酬等が著しく不当なものでないこと」を認証基準の一つとしている。


9.罰則(第32条〜第34条)
 違反行為に対しては、二年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金が科せられる。

10.考察
 近時、我が国の社会は、法律制度としても事前規制を出来るだけ緩和又は少なくして、事後チェック、事後救済制度の体制への移行が急速に行われている。
 当然の結論として、これに伴う紛争の増加が想定されているところである。
 このADR法は、訴訟の他に、法に裏付けられた新たな紛争解決手段を提供したこととなる。
 (1)多様なADRを法律で規律すると言う新しい試みであるから、この法律の施行5年後見直しをすることが規定されている(法附則第2条)
 (2)法的裏付けを得たADRを利用することにより、多様な紛争に関し、紛争の性質に応じた解決手段が多様化されることとなった。紛争解決のための選択肢が増え、事件に相応しい(弁護士以外の)専門家の専門的な知見を反映させた実情に即した迅速な権利の実現される場面が拡大され、社会的正義の実現が拡がることが望まれる。
 裁判及びADRを活用して、紛争の迅速な解決が実現され、「遅延した裁判は、裁判を拒否するのに等しい。」との法格言の解消されることが望まれる。
以上


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '05/4/25