知的財産戦略推進計画の概要
 政府は、現在、知的財産基本法に基づき、知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画の検討を進めている。

 平成15年6月20日開催の第4回知的財産戦略本部会合において、『知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画(案)』が検討されたが、その内容は厖大になるので、その内の主要な8項目について、概要を説明する。

 我が国は、40年来知的創造立国を国是として努力して来たので、それなりの成果が上がっているが、近来の技術革新は目覚ましいものがある。
 そこで、将来30年・50年に亘って国家戦略を樹立すべく、内閣に設けられたのが、知的財産戦略本部である。従って、今後の我が国の戦略大綱を定めるものと思われるので、中間的にその概要を説明する。

 
1.大学における知的財産の創造・保護・活用
 大学における知的財産活動の強化として、知的財産活動の創出を重視した研究開発の推進、研究開発評価(研究予算の配分等)において知的財産の取得・活用を評価に反映し、また、必要な特許関連費用の充実を図る。
 大学で取得した特許権は原則として大学に帰属することを明確にする。
 大学知的財産本部や技術移転機関(TLO)といった、知的財産に関する総合的な体制を整備する。大学発のベンチャー企業の育成も必要とされる。
 企業の経営者側が、大学の優れた研究成果の価値を見い出す、いわば「目利き機能」の向上をはかることにより、知的財産の活用能力の向上を図るように奨励する。


2.特許審査迅速化法(仮称)の制定
 特許は、熾烈な国際競争の中で、優れた発明の事業化を促し、経済の活性化に繋げる為に不可欠であるが、この特許審査の迅速化は、その前提をなすものであるが、現在我が国の特許庁では約50万件の滞貨(審査待ちの特許)及び今後発生が見込まれる約30万件と合わせると、約80万件の膨大な滞貨の発生が見込まれる。
 この解決策として、審査待ち期間の短縮の目標と達成時期を定める。そのために、外部人材の活用による任期付き審査官の大幅増員、審査補助職員の活用、先行技術調査の外部発注などが検討されている。
 あわせて、特許審査の迅速化に必要な措置を包括的に定めた、特許審査迅速化法(仮称)を2004年の国会に提出する。


3.医療関連行為の特許保護
 現在の特許は実務上、医療業は「産業」でないと解釈されており、人間の治療方法や診断方法に関する発明は、産業上の利用可能性はないとして、特許性が否定されている。
 最先端の生命科学の更なる進歩と医療目的への利用を促進するため、ヒト胚性幹細胞(ES細胞)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)等を用いた発明について、生命倫理、科学技術政策、医療政策等の観点から、特許保護のあり方について検討する。
 医療関連行為の特許法上の取り扱いについて幅広く検討する場を設け、2004年度中の早い時期に結論を得る。


4.知的財産高等裁判所の創設
 知的財産に関する迅速な裁判、訴訟の判決の統一(判決の予見可能性を確保)を図るため、知的財産訴訟専門の高等裁判所の創設を検討する。
 これにより、専門性の向上と、国内外に対する知的財産重視の政策表明の効果がある。2004年の通常国会に知的財産訴訟専門の高等裁判所の創設の必要な法案を提出することを目指してその在りかたを含めて必要な検討を行う。


5.偽物対策や水際措置の抜本的強化
 模倣品・海賊版などの知的財産権侵害品による我が国の被害は、年々増加し、被害額も増加一途を辿っている。
 これらは、知的財産立国を目指す上で大きな障壁となっているため、これらに対応する為、模倣品・海賊版に係る情報ネットワークを構築する。
 効果的な水際、国内取締りを行うべく一層の対策強化を行う(関税から権利者への侵害品の輸出入者、製造者に関する情報の開示)ことにより、権利者はニセモノ輸入者・製造者を訴訟で追及でき、ニセモノ製造者の追跡が可能となる。
 水際での当事者の主張を基にした迅速な侵害判断ができる仕組みを早期に構築する。


6.国際標準に対応した特許の取得・活用
 将来的にその成果の普及が期待され広く社会に影響を及ぼす可能性の高い研究開発は、早期の段階から、産学官による戦略的な標準化戦略(ビジョン)を立てる国際標準化活動を強化する。
 これにより、新技術の普及で国際貢献し、製品の普及で国際市場の形成ができると共に、規格となった特許を運用して知的財産による収入を確保することができる。


7.コンテンツビジネスの振興
 世界的に優位にあるコンテンツ(映画、アニメ、ゲームソフトの著作物等)を活用したビジネスを飛躍的に拡大することが必要不可欠である。
 創造の分野では、製作者やプロデューサーの人材育成、資金調達の多様化が必要であり、保護の分野では、コピー防止等の技術的保護の促進、著作権等による適切な保護を行い、流通促進分野では、海外市場進出の支援、映画や放送業界の取引の適正化、放送番組の二次利用の促進が必要である。
 1兆円コンテンツビジネスを飛躍的に拡大することを目指す。


8.知的財産に重点を置いた法科大学院等の設置
 2003年以降、法科大学院、技術経営大学院(MOT「マネージメント・オブ・テクノロジー」)、知的財産専門職大学院、知的財産を専攻する学部・学科について、夜間法科大学を始め、夜間の講座の開設等、社会人教育や実務家教員の参画を容易にするための各大学の取り組みを促す。
 実務経験者教員の充実、知的財産を重視したカリキュラムの採用、技術と法律に強い人材の育成、魅力ある夜間講座の充実強化(一流教員の充実)、国民の知的財産意識の向上も必要とされている。
以上


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鈴木正次特許事務所