著作権侵害差止等請求控訴事件(釣りゲームタウン2)

解説  携帯電話機向けに配信されるソーシャルネットワークシステムの釣りゲームの著作権侵害差止等請求控訴事件において、翻案の解釈の参考判例として、表現それ自体でない部分又は創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するに過ぎない場合には、翻案権の侵害には当たらないされた事例
(知財高裁・平成24年(ネ)第10027号、判決言渡 平成24年8月8日)
 
第1 事案の概要
 第1審原告は、平成19年頃、釣りを題材とした携帯電話用インターネット・ゲームである原告作品〔「釣り★スタ」以下「原告作品」という。〕を制作し、平成19年5月24日から、携帯電話機向けGREEにおいて、その会員に対し、原告作品の公衆送信による配信を開始した。
 第1審被告らは、被告作品を共同制作〔「釣りゲームタウン2」以下「被告作品」という〕し、平成21年2月25日、携帯電話機向けモバイルタウンにおいて、その会員一般に対し、公衆送信による配信を開始した。
 第1審原告は、被告らの行為は、原告の著作権を侵害するものであるとして、被告の行為の差止請求・損害賠償請求を行ったものである。
 第1審判決は、著作権侵害及び著作者人格権の侵害に基づく差止請求、損害賠償請求を認容したのに対し、被告が控訴したものである。

第2 主な争点
(1)著作権(翻案権、著作権法28条による公衆送信権)及び著作者隣接権(同一性保持権)の侵害の成否
(i)魚を引寄せる動作を行う画面の映像及びその変化の態様や、(ii)ユーザーがゲームを行う際に必ず辿る画面(主要画面)の選択及び配列並びに各主要場面での素材の選択及び配列の点において類似する。
(2)その他 不正競争防止法関係(周知商品等表示)     略

第3 判決
 原判決を取り消す。請求棄却する。
(1)著作権及び同一性保持権について
 著作物の翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的な表現に修正、増減、変更等を加えて、新たな思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。
 そして、思想、感情若しくはアイディア、事実若しくは事実若しくは事件などの表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分においては既存の著作物と同一性を有するに過ぎない著作物を創作する行為は、既存の著作物の翻案に当たらない(平成11年・最高萩判決)。また、既存の著作物の著作者の意に反して、表現上の本質的な特徴部分の同一性を保持しつつ、具体的表現の変更、切除その他の変更を加えて、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを創作することは、著作権法20条2項に該当する場合を除き、同一性保特権の侵害にあたる(昭和51年・最高裁判決)。
(2)魚の引寄せ画面の比較
 第1審原告は、被告作品における「魚の引寄せ画面」は、原告作品における「魚の引寄せ画面」の翻案にあたる旨主張する。
〔翻案権の成否〕
 両作品の「魚の引寄せ画面」は、水面より上の様子が画面から捨象され、水中のほぼ等間隔である三重の同心円と、黒色の魚影及び釣りの意図が描かれ、水中の画像の背景は、水の色を含め全体的に青色で、下方に岩陰が描かれている点、釣り針にかかった魚影は、水中全体を動き回るが、背景の画像は静止ている点において、共通する。
 しかしながら、そもそも、釣りゲームにおいて、まず、水中のみを描くことや、水中画像に魚影、釣り糸及び岩陰を描くこと、水中の画像の配色が全体的に青色であることは、他の釣りゲームにも存在するものである上、実際の水中の映像と比較しても、ありふれた表現と言わざるを得ない。
 抽象的に言えば、原告作品の魚の引き寄せ画面と、被告作品の魚の引寄せ画面は、水面より上の様子が画面から捨象され、水中のみが真横から水平方向に描かれている点、水中の画像には、画面のほぼ中央に、中心からほぼ等間隔である三重の同心円と、黒色の魚影及び釣り糸が描かれ、水中の画像の背景は、水の色を含め全体に青色で、下方に岩陰が描かれている点、釣り針にかかった魚影は、水中全体を動き回るが、背景が静止している点において共通するというものの、上記共通するとは言うものの、上記共通する部分は、表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性がない部分にすぎず、また、具体的な表現において異なるものである。
(3)以上の通り、被告作品の魚の引寄せ画面は、アイディアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において原告作品の画面と同一性を有するに過ぎないものと言うほかなく、これに接する者が原告作品の魚の引寄せ画面の表現上の本質的な特徴を直接感得することは出来ないから、翻案に当たらない。
 このような原告作品の魚の引寄せ画面の共通部分と相違部分の内容や創作性の有無又は程度に鑑みると、被告作品の魚の引寄せ画面に接する者が、その全体から受ける印象を異にし、原告作品の表現上の本質的な特徴を直接感得できると言うことはできない。従って、原告作品に係る同一性保特権を侵害すると言うことはできない。
(4)第1審原告は、個々の要素がそれぞれバラバラでは表現上の創作性を有しない場合でも、複数の要素が全体として表現上の創作性を有することがあるから、一つのまとまりある著作物を個々の構成部分に分解して、パーツに分けて創作性の有無や、アイデアか表現かを判断することは妥当でないと主張する。
 然しながら、著作物の創性的表現は、様々な創性的要素が集積して成り立っているものであるから、それぞれについて、表現と言えるか否か、また表現上の創作性を有するか否かを検討することは、有益であり、且つ必要なことであり、その上で、作品全体又は侵害が主張されている部分全体について、表現と言えるのか、また表現上の創作性を有するか否かを判断することは、正当な判断手法といえる。

第4 考察
 本件は、第1審とは、逆な侵害ではないとの結論で注目を集めた事件であり、新聞等に報道された。両作品は、何れも携帯電話機向けに配信されるソーシャルネットワークシステムの釣りゲームである。本件では、いわゆる翻案権が問題となったケースであり、翻案の解釈の参考判例としての意義を有するものである。表現それ自体でない部分又は創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するに過ぎない場合には、翻案権の侵害には当たらないとしている。本件はその後上告された。最高裁の判断が待たれるところである。
以上


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '13/2/24