損害賠償請求控訴事件(文化庁長官による著作権登録原簿への登録の意義)

解説  損害賠償請求控訴事件において、著作権法における「著作権の移転の登録」に関する判決であって、無方式で発生する著作権と、審査を経て設定される他の無体財産(特許権など)と比較して相違がある、著作権法上の登録制度の本質を考えるよい事例
(知的財産高等裁判所・平成25年(ネ)第10015号 判決言渡平成25年6月20日)
 
第1 事案の概要
 本件は、著作物の題号を「受話器の象徴」とする6点の図柄(本件図柄)について、著作権(著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含む)の移転登録を受けた控訴人が、その登録申請に際し、文化庁長官に違法行為があったことにより、登録免許税相当額等の損害を被ったなどと主張して、被控訴人(国)に対し、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償及び遅延賠償金を求めた事案である。
 控訴人は、本件図柄の著作権の譲受を受けた旨、文化庁長官に著作権の移転登録を申請し、文化庁長官による登録が完了していた。
 その後、控訴人は、本件図柄の著作権(複製権及び翻案権)侵害を理由に訴外Aに対して損害賠償請求訴訟に及んだ。これについて、福岡地方裁判所は「本件図柄は著作物には当たらない、著作権登録原簿に登録されていることを根拠として本件図柄が著作物であるという原告の主張は採用することができない」などと判示して、控訴人の請求を棄却する判決を言い渡した。
 控訴人は、控訴人が著作権の移転登録を申請した際、「文化庁長官は、担当職員をして、控訴人に対し、登録をしたからといって著作権の権利者という地位は保証されない等の説明をさせるべき職務上の法的義務を負っていたのに、これを怠った違法がある」等と主張し、「文化庁長官の行為が国家賠償法上違法である」として出訴した。
 原判決は、文化庁長官の行為に違法はないとして、原告の請求を棄却した。そこで、控訴人は、これを不服として控訴した。

第2 主な争点
争点1:文化庁長官の行為が国家賠償法上違法であるか否か
争点2:原告の賠償額

 この解説では争点1についてのみ紹介する。

第3 判決
 本件控訴を棄却する。

第4 裁判所の判断
 著作権法(以下「法」)は、著作権は著作物の創作によって発生し、著作権の発生に登録その他の方式の履行を要しないとする無方式主義を採用しており(法17条2項)、著作権の発生を登録する制度は存在しない。
 一方で、法は、著作権は、その全部又は一部を譲渡することができ(法61条1項)、著作権の移転(相続その他の一般承継によるものを除く。)は、登録しなければ第三者に対抗することができないと規定し(法77条1号)、著作権の移転を公示する登録制度を設けて、当事者の意思表示によって生じた著作権の譲渡(移転)について登録を第三者に対する対抗要件としている。
 そして、著作権の移転登録は、申請又は嘱託により、文化庁長官が著作権登録原簿に記載し、又は記録して行うものとし(法78条1項、著作権法施行令15条1項)、登録の申請は、原則として登録権利者及び登録義務者が共同で(著作権法施行令16条ないし19条)、著作物の題号、権利の表示、登録の原因及びその発生年月日、登録の目的等の所定の事項を記載した申請書を登録の原因を証する書面等の所定の添付資料とともに文化庁長官に提出して行わなければならないとしている(著作権法施行令20条、21条)。
 文化庁長官は、@登録を申請した事項が登録すべきものでないとき、A申請書が方式に適合しないとき、B申請書に必要な資料を添付しないとき、C申請書に登録の原因を証する書面を添付した場合において、これが申請書に記載した事項と符合しないとき、D登録免許税を納付しないときなどの却下事由(著作権法施行令23条1項各号)の有無を審査し、却下事由が認められないときは、登録の申請の受付けの順序に従って著作権の移転登録を行うものとされている(著作権法施行令22条)。
 しかし、この却下事由には、移転登録の対象とされた著作権の客体が法2条1項1号の「著作物」に該当しないことは含まれていないから、文化庁長官の審査権は、上記「著作物」の該当性に及ぶものではない。
 なお、文化庁長官官房著作権課が平成23年6月に発行した「登録の手引き」には、「著作権の登録に関するQ&A」の「Q13 文化庁に登録されている著作物は、公的に認められた価値あるものなのでしょうか。」に対する「答」として、「A 著作権に関する登録の審査は、…登録の前提となる事実が行われているか否かを申請書等から形式的に審査するものであり、文化庁は登録されている著作物の内容には関知しておりません。」との記載がある。
 以上によれば、著作権の移転登録は、当事者の意思表示によって生じた著作権の権利変動を公示し、第三者に対する対抗要件となるものではあるが、移転登録の対象とされた著作権が発生していることや、その著作権の客体が法2条1項1号の「著作物」に該当することを公示すらするものでないことは、著作権の移転登録の制度上明らかである。
 そこで、文化庁長官は、著作権の移転登録申請があった際に、申請者に対し、その申請に係る登録がされたからといって著作権が発生するものではないとか、著作権の権利者という地位が保証されるものではないなどの説明を著作権の移転登録事務を担当する文化庁の担当職員にさせるべき職務上の法的義務を負うものとはいえないし、文化庁長官がかかる法的義務を負うものとする法令の定めや根拠はない。
 したがって、文化庁長官がかかる法的義務を負うことを前提に、文化庁長官の行為が国家賠償法1条1項の適用上違法となるとする控訴人の主張は、その前提を欠くものとして、理由がない。

第5 考察
 本件は、著作権法における「著作権の移転の登録」に関する判決である。
 著作権は著作物の創作によって発生し、著作権の発生に登録その他の方式の履行を要しないとする無方式主義を採用している(法17条2項)。
 一方で、法は、著作権の移転を公示する登録制度を設けて、当事者の意思表示によって生じた著作権の譲渡(移転)(相続その他の一般承継によるものを除く)について登録を第三者に対する対抗要件としている。
 控訴人は、控訴人が原告になった、著作権侵害訴訟において「著作物には当たらない」と判示された本件図柄について、これがそもそも著作物に該当し、著作権が成立しているものであるかどうか判断することなく著作権移転の登録を行った文化庁長官の行為が国家賠償法上違法である、と考えたのだと思われる。
 東京地裁、知財高裁とも前記のように判断して控訴人の請求を棄却した。
 無方式で発生する著作権と、審査を経て設定される他の無体財産(特許権など)と比較して相違がある。著作権法上の登録制度の本質を考えるよい事例であり、今後の実務の参考になる部分があるかと思われるので、紹介した。
以上


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '14/4/23