審決取消請求事件(JASRAC事件審決取消訴訟) |
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解説 |
公取が2009年に出したJASRACの行為が独禁法に違反するとした排除命令を、公取が審判において取り消す審決を出した(2012年)ので、これを不服としてこの審決を取り消す訴訟を東京高裁に行った審決取消請求事件において、排除型私的独占の要件を充足しないと判断された事例
(東京高等裁判所 平成24年(行ケ)第8号 審決取消請求事件 判決言渡:平成25年11月1日)
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第1 事案の概要 |
参加人(一般社団法人日本音楽著作権協会・JASRAC、以下「JASRAC」という)は、音楽著作物の著作権(音楽著作権)の管理事業者として、著作権者から音楽著作権の管理を受託している。そして放送事業者に音楽著作物の利用を許諾するとともに、使用料を徴収してこれを著作権者に分配する事業を行う法人である。この利用料の計算は楽曲の利用の有無や回数に関係なく各放送事業者の放送事業収入に一定の率を乗ずる等の方法で、徴収する方式(いわゆる包括徴収の方式(以下「本件行為」という)を採っている。
被告(公正取引委員会(以下「公取」という))は、本件行為は独占禁止法(独禁法)2条5項「排除型私的独占」に該当し、同法3条に違反するとしてJASRACに対し、平成21年2月27日、同法7条1項に基づく排除措置命令(本件排除措置命令)を行った。 これに対しJASRACが本件排除措置命令の取消を求めて審判を請求したところ、公取は、平成24年6月12日、本件排除措置命令を取消す審決(以下「本件審決」)を行った。 原告は、平成18年以降、放送等利用に関する管理事業に参入したが、競争者は、JASRACのみであった。本件行為により、放送事業者が原告の管理楽曲を利用する場合、放送事業者はJASRACに支払う包括的な使用料の他に個別使用料を原告に対して支払うことになる。このため、経費負担を避ける放送事業者は原告の管理楽曲の利用を回避し、代替えが効く限りJASRACの管理楽曲を利用することになっていた。このような本件行為による排除効果により原告の管理する楽曲の実質的利用は殆どゼロであった。 そこで、本件審決が確定すると本件行為の排除により、得られるはずの競争上の地位という、独占禁止法が保護する利益を失うなどと主張し、公取を被告として、東京高等裁判所に、本件審決の取消訴訟を提起した。そして、同訴訟にJASRACが参加(行政訴訟22条1項)した。 |
第2 本件審決の要旨 |
本件行為が独占禁止法2条5項所定のいわゆる排除型私的独占の要件を充足しないと判断した。
本件審決は、排除型私的独占に該当するためには@本件行為が、他の管理事業者の事業活動を排除する効果を有すること、A本件行為が、正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有すること、B本件行為が、一定の取引分野における競争を実質的に制限するものであること、C本件行為が、公共の利益に反するものであること、との各要件を充足する必要があるとした上で、上記@に係る事実の認定及び要件充足性を判断し、同要件を充足しないと判断した。 |
第3 主な争点 |
争点1は、(原告適格の有無)について
細かな法律上の争いに関する面もあるので、本解説では省略する。 争点2は、(事実認定の誤り)についての判断 |
第4 判決 |
被告(公取)が、公正取引委員会平成21年(判)第17号審判事件について、参加人に対し平成24年6月12日付けでした審決を取り消す。
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(1)少なくない数の放送事業者が原告管理楽曲の利用を回避し、又は回避しようとしたことが認められるところ、このように放送事業者が原告管理楽曲の利用を回避し、又は回避しようとした理由としては、原告管理楽曲を利用した場合には、参加人(JASRAC)に支払う放送等の使用料に追加して、原告への放送等使用料を支払わざるを得ないことがあったこと、放送等使用料が追加負担となる理由としては、放送事業者が参加人に支払う放送等使用料が放送等利用割合を反映していないことにあったことを認めることができる。
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(2)この点、本件審決は、「放送事業者が原告管理楽曲の利用につき慎重な態度を採ったことの主たる原因が、参加人と放送事業者との間の包括徴収を内容とする利用許諾契約による追加負担の発生にあったと認めることはでき(ない)」、「原告が準備不足の状態のまま放送等利用に係る管理事業に参入したために、放送事業者の間に原告管理楽曲の利用に関し、相当程度の困惑や混乱があったことがその主たる原因であったと認めるのが相当である」としたが、本件審決の上記認定は、実質的証拠に基づくこのとはいえない。
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(3)結論
以上の通り、本件行為は、放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野における他の管理事業者の事業活動を排除する効果を有するものと認められることから、この点が認められないことを理由として、本件行為が独占禁止法2条5項に定める排除型私的独占に該当しないとした本件審決の認定、判断には誤りがある。従って、原告主張の取消事由には理由があるから、その余の点について判断するまでもなく、本件審決は取り消すこととする。 |
第5 考察 |
JASRACが、音楽の著作権料の徴収に各放送局の売上高の一定率を決めてこれを徴収すること(包括徴収方式)は、この分野に新規参入を難しくする行為であり、これが独禁法に違反するとした主張に対して、公取はその通りであるとして排除命令を出した(2009年)。
この徴収方法は、曲が流れた回数や時間を問わず、各局の放送事業収入の1.5%を使用料とするものである。 ところが、公取が2009年に出したJASRACの行為が独禁法に違反するとした排除命令を、公取が審判において取り消す審決を出した(2012年)ので、これを不服としてこの審決を取り消す訴訟を東京高裁に行ったものである。 日本の音楽著作権管理業務は、2001年に著作権管理の法律が導入され、管理事業者の新規参入が可能となった。しかし、日本の音楽管理事業は実際には、JASRACが9割以上の国内シェアを維持したままで、他の新規参入が極めて難しい状況にある。 即ち、JASRACが包括徴収方式を行っているため、放送事業者が他の管理事業者の管理楽曲を利用すれば放送等使用料の総額が必ず増加するので、放送事業者が他の管理事業者の管理楽曲を使用しなくなり、著作権者も他の管理事業者に管理を委託しなくなると、いうのである。これが競争を阻害している根本的な原因であるというものである。 JASRACは、基本的に公平均一で「画一料金」「非差別的」「非独占的」であると言われている。包括的な方法はブランケット契約と呼ばれる。本件は双方が、最高裁に上告受理申立を行ったので、何れにしても最高裁の判断に持ち込まれ、決着には時間がかかる見込みである。 なお、日本における音楽著作権管理業務は、競争という観点からは、現状を改善する余地があると考えられるので、本判決は極めて常識的な結論であると思われる。 開会中の第186回通常国会で成立した「特許法等の一部を改正する法律」において、商標では、新たに音の商標が保護対象に追加されることになった。音の商標の場合、音楽著作物として音楽著作権との関係が生じことがあり得る。本件は、音楽著作権に関する判決であり、実務の参考になる部分があると思われるので紹介した。 以上
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