(1) 争点1 |
(被告製品が本件特許発明の技術的範囲に属するか) |
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本件特許のように、特許請求の範囲に記載された発明の構成が作用的、機能的な表現で記載されている場合において、当該機能ないし作用効果を果し得る構成であれば、すべてその技術的範囲に含まれると解すると、明細書に開示されていない技術思想に属する構成までもが発明の技術的範囲に含まれ得ることとなり、出願人が発明した範囲を超えて特許権による保護を与える結果と成りかねない。
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A |
従って、係る場合は、その記載のみによって発明の技術的範囲を明らかにすることはできず、当該記載に加えて明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌し、そこに開示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて当該発明の技術的範囲を確定すべきものと解するのが相当である。
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B |
これらの記載に依れば、アイスクリーム本来に食感を有し、かつ、通常のアイスクリームの解凍温度に達しても溶けない形態保持性を有するアイスクリームは,少なくとも通常のアイスクリームの組成に寒天及びムースの安定剤を添加することに因り製造することができることが開示されているが、本件明細書においては、それ以外の方法については、何らの記載がない。本件特許の目的は、アイスクリーム充填苺について糖度の低い苺が解凍された時にも、苺の中に充填された糖度の高いアイスクリームが柔軟性と形態保持性を有することにあるところ、これを実施するために、通常のアイスクリーム成分以外に「寒天及びムース安定剤」を添加することを明示し、それ以外の成分に就いて何ら言及していない。
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C |
また、「芯のくり抜かれた新鮮な苺の中にアイスクリームが充填され、全体が冷凍されているアイスクリーム充填苺」自体は、本件特許の出願前の平成5年に広く販売されて、公知であったことに照らせば、本件特許発明に進歩性を認めるとすれば、充填されたアイスクリームが「外側の苺が解凍された時点で、柔軟性を有し且つクリームが流れ出ない程度の形態保持性を有していること」を実現するに足りる技術事項を開示した点にあると言うべきである。
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D |
従って、「外側の苺が解凍された時点で、柔軟性を有し且つクリームが流れ出ない程度の形態保持性を有していることを特徴とする」アイスクリームに該当するためには、通常のアイスクリーム成分のほか、少なくとも「寒天及びムース用安定剤」を含有していることが必要であると解するのが相当である。
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E |
以上のように本件特許の特許請求の範囲の解釈を前提とすると、被告製品は、苺アイス成分配合表に「寒天及びムース用安定剤」が含まれていない。従って、被告製品は、本件発明の構成要件を充足していないから、被告製品は、本件特許の技術範囲に属しないとし、原告の請求を棄却した。
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(2) 争点2 |
(本件特許には無効理由があることが明らかであって、本件特許権に基づく原告等の差止請求及び損害賠償請求は、権利の濫用に当るか)
さらに判決は、前記の判示で、被告製品が本件特許の技術的範囲に属さないことが判断されたが、念のため、本件特許には無効理由があることが明らかであるかどうかについての争点2についても判断をしている。
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@平成5年の公然実施を理由とする無効主張 |
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前記の通り、93年及び94年の商品は2年に亘って「全日空フレッシュギフト」カタログに掲載され広く販売されていたものであることに照らせば、(該商品は、原告の商品であった)原告のいうような欠点(クリームが溶け出してしまうと言う苦情)があったとは容易に措信できず、結局本件発明のいう「外側の苺が解凍された時点で、柔軟性を有し且つクリームが流れ出ない程度の形態保持性を有している」が実現できていたものと認めるのが相当である。また、原告は前記商品が本件特許と全く構成を異にするものであれば、これを証明するものを提出すべきであるにもかかわらず、証明するものを何ら提出していない。
上記によれば、平成5年及び6年当時、既に本件特許発明は公然実施され公知となっていたものと言うべきである。
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A平成13年の公然実施を理由とする無効主張 |
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該商品は、お中元商品として高島屋デパート等に持参し、試食させ、商品の仕様書には、本件特許発明に実施品と同一の配合組成が示されている。前記に判示したとおり、本件特許における「外側の苺が解凍された時点で、柔軟性を有し且つクリームが流れ出ない程度の形態保持性を有していることを特徴とする」アイスクリームに就いては、通常のアイスクリームの成分のほか、少なくとも「寒天及びムース用安定剤」を含有することを要するものと解釈すべきであるが、このように解しても、平成13年商品により、本件特許発明は、特許出願前に公然実施され、公知となっていたものというべきである。
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B |
従って、本件特許は、特許法第29条1項1号ないし2号の規定に違反して特許されたものであり、同法第123条1項2号所定の無効理由を有することが明らかであるというべきであるから、本件特許に基づく原告らの請求は、権利の濫用に当たるものとして許されないとした。
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