特許法等の改正案(平成14年)

   特許法の改正案が今国会に提出されるべく、平成13年2月19日に閣議決定された。以下、発表された内容を記載すると共に、若干の解説を試みた。
 
 法律改正の目的
 情報技術の急速な進展に伴い、ネットワークを利用した新たな事業活動に即応した法整備を行うと共に、社会経済の変化を契機として特許権等の効力範囲の在り方を見直す必要があるとされている。
 また、制度の国際調和、出願人の負担軽減、特許庁における審査の効率化の観点から、特許実用新案の出願方式の見直しを図る必要があるとされている。
 前記目的理由は何れもその通りであり、異論を挟む余地はないが、平成6年又はそれ以後の特許法等の改正時に前記と同様の文言によって改正の目的を説明しても、何等の違和感もなかったであろうことを指摘する。


 法律改正の概要
 1.現行法は、有体物が基本であったために、無体物の保護範囲が必ずしも明らかでなかった。例えば、ブロードバンド化に伴い、CD−ROM等の媒体に記録されていない状態でのインターネットを介したプログラムの販売・流通が増大してきたことに鑑み、特許にされたプログラム等をネットワーク上で無断で送信する行為も特許権侵害に当たることを明確化した。

 2.現行法では、間接侵害を「その生産にのみ使用する物」に限定している為に、侵害と認められなかったケースもあったが、改正法は悪意で(特許権侵害と知って)部品を供給する行為まで間接侵害の成立範囲を拡大した。

 3.ネットビジネスで使用される商標の信用保護強化の為に、インターネット上での商品やサービスの提供も普及しており、ユーザのパソコンや携帯電話の画面上で表示される商標(マーク)についても十分な保護が求められているため、ネットワークを介した商品流通、サービス提供及び広告等の事業活動において、画面上に表示して商標を使用する行為についても、商標権侵害になることを明確化した。

 4.国際出願における国内書面の提出期間を一律30ヵ月に延長し、翻訳文の提出に2ヶ月の猶予期間を与え、翻訳文の質的向上を促し、ユーザの便宜及び審査の促進を図るようにした。
 出願人が有する先行技術文献情報を出願の際に審査官に開示することを制度化することにより、より迅速かつ的確な審査の実現を図った。
 国際商標登録出願の個別手数料のうち、登録料に相当する額について、国内出願の場合と同様、出願が国内で登録査定された場合に支払えば良いこととするようになった。


 改正案の内容
1.2条3項、4項について
 2条3項については、「物にプログラム等を含む」ことを明文化し、更に譲渡等に関して「物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む」とされている。
 また、2条4項が新設された。2条4項は、「プログラム等とは、プログラム(電子計算機に対する指令であって、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。以下この項において同じ)その他電子計算機による処理の用に供する情報であって、プログラムに準ずるものをいう。」とされ、プログラム等の解釈が明確にされている。

2.36条4項について
 36条4項2号が追加された。36条4項2号は、「その発明に関連する文献公知発明(29条1項3号の発明)のうち特許を受けようとする者が特許出願の時に知っているものがあるときは、その文献公知発明が記載された刊行物の名称その他の文献公知発明に関する情報の所在を記載したものであること」とされている。
 しかし、事前調査により知っている場合は兎も角、事前調査しないと公知発明を知らない場合が多い。
 また、事前調査の検索手段がずれていたり、範囲を絞りすぎると、同一発明であっても調査網に引っかからない場合がある。
 前記幾多の不合理があるので、特許出願時でなくとも、後の追加を認めるか、単なる注意規定とすべきである。

3.48条の7について
 前記36条4項の不備については、36条4項の改正によって改善されるけれども、36条4項2号の記載は、発明者により千差万別であろうから、48条の7によって平均化(公平化)を図ったものと解される。
 しかし、意見書提出の機会を与えられなかった場合の不備を如何にすべきか不明という外はない。

4.49条5号について
 49条5号は、「前条の規定による通知をした場合であって、その特許出願が明細書についての補正又は意見書の提出によってもなお36条4項2号に規定する要件を満たすこととならないとき。」とされている。
 48条の7は任意規定であるが、一旦意見書提出の機会を与えられ者が、その趣旨に従わないと認められたときは拒絶査定にするというのは如何にもアンバランスであり、検討されるべきであろう。
 元来発明の内容不備について拒絶査定を受けるのは当然としても、出願前公知技術の記載不備により拒絶査定するのは如何なものであろうか(わざと隠匿したものと相違する。)

5.102条2号、4号について
 102条2号は、「特許が物の発明についてされている場合において、その物の生産に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く)であって、その発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業としてその生産、譲渡等、若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為。」とされ、102条4号は、「特許が方法の発明についてされている場合において、その方法の使用に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く)であって、その発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業としてその生産、譲渡等、若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為。」とされている。
 前記のように改正することにより、「のみ」にとらわれることなく実質的侵害を防止しようとしたものである。
 元来侵害であることを知りながら、その部品等を製造販売することは、特許法の趣旨に反するけれども、その部品が他にも使用できる場合には、他に使用しているか否か問うことなく、「のみ」でないとされていたが、今回の改正によって、悪意の実施者が「のみ」の言い訳が出来なくなった。
 行き過ぎがないようにする為に、「一般に流通しているものを除く。」とされたのであるが、形状構造としては一般に流通していても、特許発明の実施に用いる物としては、寸法又は形状上、他に流用が出来ないときは侵害とされるべきである。

6.184条の4について
 184条の4第1項但書が追加された。184条の4第1項但書は、「但し、図面提出期間の満了前2ヶ月から満了の日までの間に事情第1項に規定する書面を提出した外国語特許出願にあっては、当該書面の提出の日から2月以内に、当該翻訳文を提出することができる。」とされ、従来より翻訳文の提出期間が延長されている。
 前記は、翻訳文の提出期間を延長したものであるが、元来外国文の出願書類は規定通りに出願されているのだから、審査に支障を来さない期間ならばよいのではないか。

7.商標法の改正について
 2条3項2号、7号、8号として、電気通信回路を通じて提供する行為と、電磁的方法による映像面を介した役務の提供に当り、その映像面に標章を表示して役務を提供する行為、又は役務に関する広告等を電磁的方法により提供する行為が追加された。
 これは当然であって、むしろ遅い位である。
 但し、実質的効果影響力は千差万別であるから、運用上はケースバイケースによる然るべき配慮が必要である。定を厳格に行う基準となるものと考える。


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鈴木正次特許事務所