特許法改正のあゆみ
−各年度改正の比較解説−

  はじめに
 現行法は平成11年5月14日に公布され、平成12年1月1日から施行された改正法である。特許法は平成年代になって以来数次に亘り改正されたが、特に平成5年4月23日公布されて以来、著しく変貌し、昭和年代と比し今昔の観がある。そこで平成5年以後平成12年1月1日施行までの主なる改正点を抜粋列挙した。

 然し乍ら各年度の改正は何れも大改正となっており、各年度毎の改正内容の説明のみでも厖大な紙数を要するため、平成年代の改正法の概説は至難である。そこで各年度における改正の動向を明らかにし、特に重要な事項のみを抜粋して説明し、法条項の詳細な記載は省略した。

 本書においては、特許法のみに終始し、実用新案法、意匠法及び商標法についは割愛したので予め了承をお願いする次第である。

  目次
  1.特許法改正の変遷
2.補正の範囲の適正化
3.審判制度の簡素化
4.英語出願制度の導入
5.明細書の記載要件
6.特許請求の範囲の解釈
7.特許異議の申立て
8.特許権侵害に対する民事上の救済措置の拡充と刑事罰の強化
9.特許等に関する先願の地位の見直し
10.特許料等の改正について
11.むすび
別表出願審査請求料各年分の特許料)  ('04/07/13 更新)

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1.特許法改正の変遷
(1) 平成5年4月23日、法律第26号として公布(平成5年法)、平成6年1月1日から施行され、同法中、手数料等の改正規定は平成5年7月1日から施行された。
 この改正は、主として補正の範囲の適正化及び審判制度の簡素化を図り、国際的に調和のとれた制度を目指したものである。

(2) 平成5年11月12日、法律第89号として公布(平成5年11月法)、平成6年1月1日から施行された。
 この改正は、主として、不特許事由の減縮、明細書の記載要件の見直し、補正分割時期の緩和などを図ったものである。

(3) 平成6年12月14日、法律第116号として公布(平成6年法)、平成7年7月1日から施行され、同法中、特許異議申立てに関係した改正規定は同8年1月1日から施行された。
 この改正は、主として、TRIPS協定遵守に伴う特許権の存続期間の変更(出願日から20年は現に存続中の特許権に適用)、英語出願の許容、特許請求の範囲の解釈規定の加入、補正分割時期の緩和、特許権付与後異議の実施、特許料の追納による特許権の回復制度の導入などを図ったものである。

(4) 平成7年5月12日、法律第91号附則として公布、同年6月1日から施行された。(刑法の一部改正に伴う改正)

(5) 平成8年6月12日、法律第68号として公布(平成8年法)、同9年4月1日から施行され、同法中、現金納付制度の導入に関係した改正規定は同8年10月1日から施行された。

(6) 平成10年法律第51号として公布(平成10年法)、同11年1月1日から施行され、同法中、特許料の引下げに関係した改正規定は同年6月1日から施行され、国と国以外の者との共有に係る特許権の特許料等の改正規定は同11年4月1日から施行された。
 この改正は、主として、先願の地位の見直し、特許権侵害に対する民事上の救済及び刑事罰の見直し、特許料の引下げ、証明等の請求規定の見直しなどを図ったものである。

(7) 平成11年法律第41号として公布(平成11年法)、同12年1月1日から施行され、特許料の引下げに関する改正規定、訴訟と審判との関係の整備に関する改正規定は同11年6月1日から施行され、出願審査期間の短縮に関する改正規定は、同13年10月1日から施行される。
 この改正は、主として、出願審査期間の短縮、特許出願人の請求による早期出願公開の導入、特許権の存続期間の延長登録出願の条件の見直し、特許権等の侵害に係る訴訟における救済措置の整備、特許料の引下げ、その他(特許要件の見直し、訂正請求の見直し、訴訟と審判の関係整備)などを図ったものである。

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2.補正の範囲の適正化
(1) 補正の内容的制限
 明細書又は図面の補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてしなければならない(第17条の2第3項(旧第17条第2項、旧第17条の2第2項))。
 @従来、明細書又は図面の補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面の要旨を変更しない限り認められた(旧第53条第1項)ため、迅速な権利付与が図られず、第三者の監視負担が増大する等の問題があり、旧第53条第1項は、主要国と比べても特異な規定であったことから、平成5年法で、新規事項追加不可の規定が新設された。
 A前記規定により、明細書又は図面の補正は、明細書又は図面に記載した内容の範囲に含まれるものについてまで許容されるのでなく、実際に明細書又は図面に記載した事項の範囲内についてのみ許容されることが明確となった。
 B前記規定が新設されたことに伴い、明細書又は図面の補正と要旨変更について規定した従来の40条及び明細書又は図面の要旨を変更しない範囲を規定した従来の41条は廃止された。
 C前記規定における「明細書又は図面に記載された事項の範囲内」とは、明細書又は図面に実際に記載されている事項及び明細書又は図面に実際に記載されている事項から当業者が直接的、かつ一義的に導き出せる事項をいうとされている。

(2) 特許請求の範囲の補正の制限
 最後の拒絶理由通知を受けた後の特許請求の範囲の補正は、請求項の削除、特許請求の範囲の限定的減縮、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに限られる(第17条の2第4項、同5項(旧第17条の2第3項、同4項))。
 @従来、旧41条により、出願公告決定の謄本送達前は、明細書又は図面の要旨を変更しない範囲であれば特許請求の範囲を自由に補正することができたが、この規定の下では、出願間の取扱いに公平性を欠き、審査の遅延のおそれもあること等から、平成5年法では、拒絶理由通知を最初と最後に区別し、最初の拒絶理由通知に対する補正は、明細書又は図面に記載した事項の範囲内において自由にすることができるが、最後の拒絶理由通知に対する補正は、既に行われた審査の結果を有効に活用できる範囲の補正のみを許容した。
 A従って、最後の拒絶理由通知に対する補正(拒絶査定不服審判請求時の補正を含む)は、新規事項を追加するものであってはならず(第17条の2第3項(旧第17条第2項))、請求項の削除(一号)、特許請求の範囲の減縮であって、更に補正前の発明と産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である発明の構成に欠くことができない事項の範囲内で、その補正前発明の構成に欠くことができない事項の全部又は一部を限定するもの(二号)(平成6年法で第36条第5項の改正に伴い、条文上の文言が改正されたが、実質上の改正を企図したものでない。)、誤記の訂正(三号)、明りょうでない記載の釈明(拒絶理由に示す事項についてするものに限る)(四号)に限定し、審査官の調査範囲外の発明に変貌する補正ができないようにしている。
 B前記における最後の拒絶理由通知とは、原則として最初の拒絶理由通知に対する応答時の補正によって通知することが必要になった拒絶理由通知のみをいう。

(3) 出願公告後の補正(平成6年法で廃止)
 出願公告(旧51条)後に拒絶査定不服審判を請求する際の補正(旧第17条の3)、特許付与前異議申立(旧55条)を受けた場合における補正(旧第64条)は、拒絶査定の理由又は拒絶理由若しくは異議申立理由に示す事項について(旧第17条の3第1項、旧第64条第1項)、何れも明細書又は図面に記載された範囲内においてする(旧第17条の3第2項、旧第64条第2項)外、請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明に限られる(旧第17条の3第3項、同4項、旧第64条第3項、同4項)。

(4) 補正の特例
 外国語特許出願に係る明細書又は図面の補正は、国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲若しくは図面の翻訳文等に記載した事項又は国際出願日における国際出願の図面に記載した事項の範囲内でしなければならない(第184条の12第2項(旧第184条の11第3項))。外国語特許出願の処理について、我国では翻訳文をその基礎としており(第184条の6第2項)、実際の審査は翻訳文に基づいて行われるため、審査官は翻訳文に基づいて新規事項であるか否かの判断を行う旨を規定したものである。

(5) 補正が不適法であった場合の取扱い
 @補正が第17条の2第3項(旧第17条第2項、旧第17条の2第2項)に規定する要件を満たしていないときは、拒絶理由(第49条第1項第一号)、特許付与前異議申立理由(旧第55条第1項)(平成5年法)となり、看過されて特許された場合であっても、特許付与後異議申立理由(第113条第一号)(平成6年法以降)及び無効理由(第123条第1項第一号)となる。
 A最後の拒絶理由通知に対する特許請求の範囲の補正が、第17条の2第3項から同5項(旧第17条の2第2項から同4項)までの規定に違反しているものと、特許査定の謄本送達前(平成5年法では出願公告決定の謄本送達前)に認められた場合には、迅速な権利付与を担保するため、当該補正は却下される(第53条第1項)。この却下処分に対しては、不服を申し立てることができない(第53条第3項)が、拒絶査定不服審判においては不服を申し立てることができる(第53条第3項但書)。
 B最後の拒絶理由通知に対する特許請求の範囲の補正が、第17条の2第3項から同5項(旧第17条の2第2項から同4項)までの規定に違反しているものと、特許査定の謄本送達後(平成5年法では出願公告決定の謄本送達後)に認められた場合には、新規事項を追加する場合(第17条の2第3項違反(旧第17条の2第2項違反)のみ拒絶理由(平成6年法で廃止)となり、特許付与後異議申立理由(第113条第一号)及び無効理由(第123条第1項第一号)となる。
 C外国語特許出願の明細書又は図面に記載した事項が国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内にないときは、拒絶理由、特許付与後異議申立理由及び無効理由となる(第184条の18)。(平成5年法では、国際出願日時点の明細書と翻訳文の双方に記載した発明以外の発明について出願公告又は特許がなされたときは、外国語特許出願固有の異議申立理由(旧第184条の14)又は外国語特許出願固有の無効理由(旧第184条の15)となる。)

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3.審判制度の簡素化
(1) 拒絶査定不服審判請求時の補正の適正化
 @前記したように、拒絶査定不服審判を請求する際の補正も、最後の拒絶理由通知に対する補正と同様の制限が課される(第17条の2第3項乃至5項(旧第17条の2第2項乃至4項))。審査時における最後の拒絶理由通知に対する補正と同じ範囲とすることによって、審理範囲を限定し、その迅速性及び的確性が十分に確保されるようにしたものである。
 A拒絶査定不服審判の請求の際における補正が不適法であった場合には、前置審査及び拒絶査定不服審判の審理において、その補正は却下される(第163条第1項、第159条第1項)。
 前置審査又は拒絶査定不服審判において通知された最後の拒絶理由通知に対する補正が不適法であった場合にも、その補正は却下される(第163条第2項、第159条第2項)。
 但し、審査段階になされた最後の拒絶理由に対する補正が不適法であっても、前置審査又は拒絶査定不服審判において、その補正は却下されない(第163条第1項括弧書、同2項括弧書、第159条第1項括弧書、同2項括弧書)。審査段階で一旦看過された補正をその後の手続である審判において応答の機会を与えずに却下することは、出願人に酷だからである。このため、審査段階でなされた最後の拒絶理由通知に対する補正が新規事項を追加するものである場合には、第50条但書が適用されず、拒絶理由が通知される。
 B前置審査においては、特許査定をする場合を除き、その他の決定(補正却下、異議決定(平成5年法)など)を行うことができない(第164条第2項)。前置審査において、更なる審判請求を回避するため、平成5年法で規定されたものである。

(2) 補正却下不服審判の廃止
 @平成5年法以前は、補正却下に対して不服がある場合には、拒絶査定不服審判の請求を行うこととされていた(旧第122条第1項)が、補正却下不服審判が請求された場合には、審決が確定するまで当該出願の審査を中止するため、迅速かつ的確な権利付与が確保され難いことから、平成5年法で、補正却下不服審判は廃止された。
 A補正却下不服審判が廃止されても、出願人は補正が不適法であるという拒絶理由通知に対して、意見書又は補正書を提出することができ、拒絶査定を受けても、拒絶査定不服審判において補正の是非を争うことができるため、出願人に不利になることはない。

(3) 無効審判における訂正の請求(第134条第2項)
 審判の被請求人は、指定期間内に限り、願書に添付した明細書又は図面の訂正を請求することができる(第134条第2項)。
 @その訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であって、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明に限られる(第134条第2項各号)。
 A訂正の請求は、答弁書提出期間又は職権審理の規定(第153条第2項)による指定期間内に限定される(第134条第2項)。訂正による被請求人の利益を認めると共に、審判を簡素化する為に提出期限を限定し、無期限の訂正請求を規制したものである。
 B訂正明細書又は図面の補正は、訂正の請求が認められる期間の経過後は原則として認められないが、例外として、職権審理による指定期間内及び訂正拒絶理由通知に対する応答期間内に限り認められる(第17条の4第2項)。

(4) 訂正審判の請求(第126条)
 特許権者は、特許異議の申立て(平成6年法以降)又は第123条第1項の審判が特許庁に係属している場合を除き、願書に添付した明細書又は図面の訂正について審判を請求することができる(第126条第1項)。
 @その訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であって、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明に限られる(第126条第1項各号)。
 Aその訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならず(第126条第2項)、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものであってはならない(第126条第3項)。
 B新規事項の判断の基準となる明細書は、第17条の2第3項(旧第17条の2第2項)の規定は「願書に最初に添付した明細書又は図面」であるが、訂正審判は、既に特許が付与されているため、「願書に添付した明細書又は図面」であり、訂正審判を請求する際の明細書又は図面であるとされている。
 C平成5年法では、制度の国際的調和及び審判制度の簡素化を図る観点から、訂正審判における請求公告制度(旧第164条第2項、旧第165条)が廃止された。
 D訂正明細書又は図面は、審理終結通知があった後は原則として補正することができない(第17条の4第3項)。

(5) 無効審判と訂正審判との関係
 無効審判と訂正審判が特許庁に同時係属する場合には、原則として無効審判が優先して審理され、無効審判の請求後副本送達までに請求された訂正審判は適法な審判請求として取り扱われる。

(6) 訂正無効審判の廃止
 @従来、訂正審判による訂正の可否は、訂正無効審判を請求することにより争うこととされていたが、審理の遅延をもたらし、国際的にも特異な制度であったため、平成5年法で、訂正無効審判は廃止された。
 Aこれに伴い、不適法な訂正は、特許の無効理由とされ(第123条第1項第七号)、明細書又は図面の訂正の可否は無効審判で争うこととされた。

(7) 審決等に対する訴え(第178条第1項)
 拒絶査定不服審判において、明細書又は図面の補正が却下された場合には、拒絶査定不服審判の審理の遅延を防止するため、審決取消訴訟で争うこととし、補正却下の是非のみを理由として東京高裁へ出訴することは認めないこととされた。

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4.英語出願制度の導入(第36条の2)
(1) 特許を受けようとする者は、日本語の明細書、図面及び要約書に代えて、英語で記載した明細書及び図面を願書に添付することができる(第36条の2第1項)。
 従来、明細書は日本文で記載されなければならなったため、パリ条約の優先権の主張ができる1年の期間が切れる直前に特許出願せざるを得ない場合には短期間に翻訳文を作成する必要があり、翻訳の質的低下の一因とされていたが、平成6年法で、明細書の英文提出が認められたため、前記時間不足のトラブルが大幅に解消された。

(2) 前記の場合には、出願日から2ヶ月以内に日本語の翻訳文を提出しなければならない(第36条の2第2項)。前記英文が原本となるが、翻訳がないと審査等に支障を来すため、期間を定めて翻訳文を提出させることにしたものである。

(3) 前記翻訳文の提出がない場合には、特許出願は取り下げられたものとみなされる(第36条の2第3項)。
 @前記は、特許協力条約に基づく外国語特許出願について、明細書及び請求の範囲の訳文の提出がなされなかった場合の取扱いの規定と同様に、外国語書面出願は取り下げられたものとみなすことについて規定したものである。
 A図面について翻訳文の提出がなされなかった場合には、第36条の2第4項の規定により願書に添付された図面はなかったものとして取扱われ、出願のみなし取下げとはならない。
 B要約書について翻訳文の提出がなされなかった場合には、技術情報としての利用ができるように補正の対象とされ、出願のみなし取下げとならない。

(4) 提出した翻訳文は、第36条第2項の規定により願書に添付して提出した明細書、図面及び要約書とみなされる(第36条の2第4項)。翻訳文が審査及び特許権等の対象とされる書面であることを明確に規定したものであり、この規定により外国語書面出願における審査は、特許法における明細書等とみなされた翻訳文を基礎として行われることになる。

(5) 外国語書面出願制度を利用するにあたっては、以下の事項についても考慮すべきである。
 @外国語書面出願は、正規の国内出願として受理されたものであるため、外国語書面出願に基づいて分割出願や変更出願を行うことは可能であり、かつ分割出願及び変更出願は、特許出願であることにおいて通常の出願と異なるところがないため、これらの出願を外国語書面出願により行うことも可能である。
 A前記の英文で記載した明細書及び要約書は補正することができない(第17条第2項)が、その翻訳文については補正することができる。当然願書に添付した明細書及び図面の範囲内においてしなければならない(第17条の2第3項)。
 B前記のように、英文明細書、要約書は認められたが、願書は日本文の日本様式となる。前記明細書は訂正することができない(第17条第2項)ため、訂正が必要であるときは翻訳文によるが、元来訳文は原文の範囲内でなければならない(第49条第五号)ため、原文が間違っていた場合には救済されない。
 Cそこで、優先権主張などの点で猶予があれば、翻訳して日本文を原本として出願するのも一つの方法である。日本語で出願した場合には補正が容易であるが、願書に添付した明細書又は図面の範囲内でしなければならない(第17条の2第3項)。

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5.明細書の記載要件(第36条第4項)
(1) 明細書の記載は、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しなければならず(第36条第4項)、これに基づく省令には、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない(省令第24条の二)とされている。

(2) 従来発明が解決しようとする課題、課題を解決する為の手段、発明の実施の形態、発明の効果などの項分け記載しているが、必ずしも項分けしなくてもよいという主旨である。
 然し乍ら「当業者が実施し得る程度に明確かつ十分に記載」とは、どの程度か不明の場合も多いのが実情である。
 前記の改正は項分け記載を排除したものでなく、項分け記載がなくても理解できれば良しとしたものであるから、例えば効果としての明確な記載がなくても、全体から優れた点が読みとることができれば、前記効果の記載がないことは拒絶の理由にならないということである。

(3) この改正は、英文明細書を原本とすることに伴い、翻訳時に項分け記載ができなくなったこと、及び原本には効果の記載などない場合が多いから、効果の記載がなくても全文から発明が把握され、当業者が実施(容易にが削除された)できればよいとされたものである。また、「容易に実施」と、「実施」との差異は必ずしも明確でないが、「当業者であれば出来る」という点に重点が置かれたものである。

(4) 特許発明の技術的範囲の解釈に際し、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲の用語の意義を解釈するものとする(第70条第2項)とされたので、この規定を念頭において明細書中詳細な説明(図面との対応を含む)を記載しなければならない。
 特許請求の範囲の文字は往々抽象的表現(上位概念)で記載されるが、発明の詳細な説明の項に、前記抽象的表現を支持すべき説明がない場合には、実施例と同一、又は実施例ときわめて近い範囲に解されるおそれがある。従って特許請求の範囲に抽象的文書を用い又は上位概念で記載した場合には、発明の詳細な説明に、複数の具体的説明又は複数の下位概念を記載した方が有利になることが多い。

(5) 発明の詳細な説明を記載する場合には以下の事項を考慮するのが望ましい。
 @特許を受けようとする発明に関連する従来の技術がある場合には、なるべく記載し、従来の技術に関連して文献が存在するときは、その文献名も成るべく記載する。この記載は、原則として発明が解決しようとする課題の記載の前に記載し、当該記載事項の前には(従来技術)の見出しを付することが好ましい。
 A次に従来技術のどのような点を、その発明により解決しようとするのかという課題を記載するのであるが、従来技術の問題点を誇張することなく、当業者が理解できる表現により、実体をのべる必要がある。
 B当業者が実施することができる程度に詳細に説明する必要があるので、通常特許請求の範囲の記載よりも下位概念で、具体的に実施の形態を記載すると共に、少くとも1つの実施例を記載した方がよい。
 特許請求の範囲の記載が実質的に実施例と同一に近いような場合には、表現形態を実施例のようにして記載する。
 特許請求の範囲の記載が、抽象的、上位概念的又は包括的である場合には、実施例も複数記載されることが好ましい。何故ならば、抽象的記載がしてあっても、当業者が技術用語として当然理解できる以上の範囲にまで含むとすることは困難だからである。
 そこで当業者が実施し得る程度にまで記載していなければ、前記のように特許請求の範囲を抽象的又は包括的に記載した主旨を達成することはできない。
 即ち、実施例を複数記載することによって、抽象的、包括的記載の内容が理解できるので、当業者が実施できる発明が明確化されるからである。
 C特許を受けようとする発明が従来技術との関連において明確な効果を奏する場合には、これを記載することが好ましい。明細書中に効果の記載がないことを拒絶の理由にされることはないが、効果の記載がないと、従来技術との相違が不明確になり易く、産業上利用すべき発明の有無の判断を困難にする場合がある。
 そこで明細書全文の記載から、産業上利用すべき発明が確認されるような記載ならば、発明の効果の項がなくてもよいということである。
 発明の効果を主張するの余り、従来技術の問題点を誇張することは避けた方がよい。あくまでも発明の効果を明確にする説明にすべきである。

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6.特許請求の範囲の解釈
(1) 平成6年法によれば、特許発明の技術的範囲を定めるについて、「明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮して特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする」(第70条第2項)と規定されている。

(2) 特許請求の範囲は、抽象的、包括的又は上位概念で記載される場合が多いが、何れの記載にしても、用語の意義のは、明細書中発明の詳細な説明及び図面を考慮して解釈することになっている。従って、明細書中発明の詳細な説明及び図面から解釈できない意義を前提にして特許請求の範囲を解釈することはできない。

(3) 発明の詳細な説明には、通常従来技術の問題点を解決する為の手段が記載され、当該発明を当業者が実施することができる程度に記載する為に、実施例が記載してある。
 前記において、特許請求の範囲に、例えば上位概念で記載されているが、詳細な説明には最も好ましい実施例が1つ記載されていたとすると、前記上位概念は、本来の範囲から、前記実施例から当業者が実施できる範囲まで限定されることになるおそれがある。仮に当該発明の発明者が、上位概念に含まれる他の実施例(当業者が実施困難な程度)を予測乃至実験していたとしても、前記明細書の実施例と著しく相違し、当業者が明細書記載の実施例又は上位概念から考えも及ばないような内容ならば、最早当該発明とは別異の発明と解される。
 前記において、明細書中に実施例を複数記載して発明の範囲が明らかにしてあれば、この複数の実施例から当業者が実施し得る範囲まで上位概念の解釈が拡大される。
 特許は、産業上利用することができる発明について受けることができるのであるから(第29条第1項)、特許出願の際に完成された発明がなければならないことは勿論、その発明を当業者が実施できる程度に記載されていなければならない(第36条第4項)。
 従って、用語の意義の解釈に際しても、前記特許要件及び明細書の記載要件を前提とされなければならない。何故ならば、前記要件を充足しないならば、元来特許発明とされなかったからである。
 換言すれば、前記特許要件を充足されたものとして特許されたのであるから、詳細な説明及び図面の記載により、用語の意義が解釈されるのである。

(4) 改正前の規定によれば、特許発明の技術的範囲は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない(第70条第1項)との規定のみであったから、明細書又は図面の記載を参酌するか否かは裁判官等の裁量事項とされていた。
 この改正法によって用語の意義の解釈について明細書及び図面を考慮するように規定されたから、特許請求の範囲のみの解釈により技術的範囲を定めることはできないことになり、発明の本質に一歩近づいて、特許請求の範囲を解釈することができるようになった。

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7.特許異議の申立て
(1) 特許付与後の異議申立の特色
 @平成8年1月1日以降は、特許掲載公報の発行日から6月以内に限り、特許異議の申立ができることになり、請求項毎の特許異議の申立ができることになった(第113条)。
 A前記特許異議は、既に特許権が成立しているのであるから、異議の決定は、「維持する」か「取消す」かに限られる(第114条第2項、同4項)。取消しの決定に対しての不服は、取消訴訟による(第178条第1項)。

(2) 特許異議の申立があった場合の法上の取扱い
 @特許異議の申立書の副本を特許権者に送付する(第115条第3項)が答弁は求めない。そこで審判官が継持決定をする場合には、特許権者の意見を聞くことなく決定する。
 A審判官が取消決定をしようとするときには、特許権者に取消しの理由を通知し、相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えなければならない(第120条の4第1項)。特許権者は、取消しの理由が明らかに間違って居る時には、その理由を述べて審判官の取消し理由を解消すべく主張するが、取消しの理由があると判断した場合、又は取消し理由ありと判断する理由通知の内容が合理的な場合であって、明細書の訂正によって取消しを逸れると判断した場合には、指定期間内に訂正請求により、明細書又は図面の訂正を請求することができる(第120条の4第2項)。
 B訂正請求によって訂正が許可されると、審判官は訂正した内容について再び審理し、取消の理由を発見しない場合には、維持決定を行う(第114条第4項)。前記訂正した内容についてもなお取消の理由を解消しないと認めた場合には、取消決定をする(第114条第2項)。
 C前記において、訂正の結果、訂正前の理由と異なる取消し理由が発生した場合には、再び取消し理由通知を出して意見書提出の機会を与える。そこで特許権者は意見書を提出すると共に、必要と認めた時には再び訂正を請求して、前記取消し理由に該当しないように明細書又は図面を訂正する。
 D前記訂正が認められた場合には、審判官は訂正された明細書又は図面により再び審理し(第120条の4第3項で準用する128条)、取消しか維持かを決定する。
 E審判官が取消しの理由を通知した後は、特許異議の申立は取下げることができない(第120条の3第1項)。前記通知前に特許異議が取下げられた場合には、特許異議申立の決定をしなくてもよい。
 F特許異議の申立の審理においては、申立人等が申立てない理由についても審理をすることができる(職権審理)(第120条第1項)が、特許異議の申立がされていない請求項については、審理をすることができない(第120条第2項)。即ち特許異議の申立は請求項毎にすることができる(第113条本文)ので、その申立に係る請求項についてのみ職権審理する。
 G訂正の請求を行う場合に専用実施権者・質権者、通常実施権者がある場合には、その承諾が必要である(第120条の4第3項で準用する127条)。尤も承諾が得られなければ、取消される公算が大きいが、明細書又は図面の補正によって、権利範囲が縮小されるのが一般的であるから、内容によっては俄かに訂正の請求に承諾を与えることができない場合もある。このような場合には、特許権者と専用実施権者等は利害得失を勘案して愼重に対処しないと悔を残すことになるおそれがある。
 H特許異議申立の結果の取消し決定に対しては東京高裁に取消訴訟を提起できる(第178第1項)。一方維持決定に対して異議申立人は不服を申立てることができない(第114条第5項)。異議申立人が維持決定に不服がある場合には無効審判を請求することになる。前記特許異議申立と無効審判との間にいわゆる一事不再理の適用はないので、同一理由、同一証拠で無効審判を請求することができる。
 然し乍ら異議申立で三人の審判官が維持決定したのであれば、無効審判でも同様に審決されるおそれがある。そこで可能性のある限り、同一理由、同一証拠をさけるが、新しい論点をみつけることが好ましくなる。

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8.侵害に対する民事上の救済措置の拡充と刑事罰の強化
(1) 損害額の推定(第102条第1項)
 侵害者が侵害行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量に特許権者等が、その侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当りの利益の額を乗じて得た額を、特許権者等の実施能力を超えない限度において、特許権者等の受けた損害の額とすることができる(第102条第1項本文)。但し、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者等が販売することができない事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除する(第102条第1項但書)。
 @本規定は、特許権者等の得べかりし利益を侵害者の販売数量から推定しようとしたものである。
 A前記における「特許権者等の実施能力を超えない限度」とは、その侵害行為がなかったならば、特許権者等が同様の物を販売できたであろうことを想定している。従って、製造能力と共に、販売能力も考慮される。
 例えば、年間1万個の製造能力に対し、侵害物が年間10万個売ったとしても、特許権者は10万個に自己の利益の額を乗じて得た額を損害額とすることができない。
 同様に特許権者の販売能力が年間10万個である場合に、特許権者とは別販路において、侵害物が年間10万個販売されたとしても、特許権者は10万個に自己の利益の額を乗じて得た額を損害額とすることはできない。
 B特許権者等が全部又は一部に相当する数量を特許権者等が販売することができない事情があるときとは、例えば特許権者が実施していない場合、通常実施権者が実施している場合、その他各種形態があるが、業界の実情として実施できないような事情がある場合には、第102条第1項但書が適用される。

(2) 侵害行為の立証の容易化
 @具体的態様の明示義務(104条の2)
 特許侵害訴訟において、特許権者等が侵害行為を組成したとして主張した物件又は方法の具体的態様を侵害者が否認するときは、侵害者は自己の行為による物件又は方法の具体的態様を明らかにしなければならない。ただし、明らかにすることができない相当の理由がある場合にこの限りでない(第104条の2)。
 対象物件の確定について、侵害者も積極的に参加させることにより、対象物件の確定を正確、かつ迅速にさせようとするものである。
 この場合に企業秘密が含まれている場合等、明らかにすることができない場合はこの限りでないとされたのは、例えば、方法の実施の一部に特許方法が使用されているという推定で訴訟が提起された場合に相当するが、侵害者は単なる否定のみでは対象物件の確定ができないので、特許権者と、侵害者は協力して対象物件を確定させるように努力する趣旨である。
 特許侵害訴訟において侵害物の確定に相当の時間を費し、本論に入れない場合がある。
 然して侵害物の確定は、特許発明の技術的範囲に属するか否かの判断に際し、最も重要であるから、原告、被告共に部分構造及び用語などで譲れない場合がある。
 此の度の改正は、前記困難な対象物件の確定に際し、原告と被告の協同作業を要請するものであり、対象物件の確定が格段に早くなると期待される。
 A文書提出命令の拡充(第105条第1項、第2項、第3項)
 第105条の規定は、民事訴訟法上の文書提出命令の特則として位置づけられており、侵害訴訟における損害の計算に必要な書類の提出義務については、提出を拒む正当な理由があるか否かの観点から判断することとし、営業秘密関連文書であっても、直ちに提出を拒むことができることにはならない。
 前記における書類の提出対象は、「損害の計算の為に必要な書類、侵害の行為について立証する為に必要な書類」である。また裁判所は、書類不提出の正当性を判断する為に、書類の所持者にその提示をさせることができるとされた。

(3) 計算鑑定人制度の導入(第105条の2)
 当事者の申立により裁判所が当該侵害行為による損害の計算をする為に必要な事項について鑑定を命じたときは、必要な事項を説明しなければならない(第105条の2)。
 @前記は、訴訟遅延問題を解決する為に、専門家を活用する為、専門家の理解を迅速にする為、当事者の協力義務を課し、実効をあげようとしたものである。
 Aこの規定は、民事訴訟法の一般における鑑定制度一般の特則として、裁判所が、経理、会計の専門知識を持った専門家を鑑定人に選任し、鑑定人に対して必要な事項を命じると共に、鑑定に必要な説明をするよう当事者の協力義務を定め、鑑定人が迅速かつ適確にその職務を遂行できるようにして、証拠調べに資するものである。

(4) 損害額の立証の容易化(第105条の3)
 特許侵害訴訟において、損害額を立証する為に必要な事業を立証することが、当該事実の性質上極めて困難であるときは裁判所は口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる(第105条の3)。
 @特許侵害においては、損害額の算定方式を具体的に規定し(第102条第1項)、権利者の損害額の立証の困難性の軽減を図っているが、侵害行為があった為に、製品の値下げを余儀なくされた場合、製品に対する特許発明の寄与度、利益率の算定が困難な場合には、第102条第1項の規定の適用が困難な場合があり、また第102条第1項の規定が適用できる場合であっても、一部地域の販売数量は立証できるが、他の地域の販売数量は立証できない場合、或いは故意又は過失によって販売台帳が消失してしまった場合など、侵害者の販売数量を立証し得ないこともあるため、平成11年法で、民事訴訟法第248条の規定が目指す考え方を適用し、第105条の3の規定を新設したものである。
 A特許発明が装置等の一部に使用されている場合には、当該特許に係る器具等を備えることによって、装置が販売され、前記器具等を他の装置に代えると、装置全体が販売されないような場合には、寄与度は特許発明の器具等の価格と、装置全体の価格の比率よりも相当高くなるが、前記に反し、特許発明に係る器具等を他の器具に代えて装置が成り立ち、現に販売されているような場合には、特許発明の寄与度は当該器具等の価格と全装置の価格の比率となる。

(5) 判定制度の強化(第71条、第71条の2)
 @従来の判定制度は、証拠調等の手続規定が必ずしも明確でなかったため、平成11年法では、紛争の解決手段の充実強化を図るべく、審判の規定を判定に準用することにした(第71条第3項)。
 A平成11年法で、裁判所から特許庁へ技術的範囲について鑑定の嘱託があったときの規定を第71条の2に新設し、明確かつ迅速に実行できるようにした。

(6) 刑事罰の強化(第196条、第201条)
 @平成10年法で、侵害に対する訴訟が親告罪でなくなり、罰金額の上限が1億5千万円となった。
 A平成11年法で、詐欺行為、虚僞表示を犯した法人に対する罰金額の上限が1億円に引き上げられた。

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9.特許等に関する先願の地位の見直し
(1) 放棄され、取下げられ若しくは却下された特許出願若しくは実用新案登録出願又は拒絶査定若しくは審決が確定した特許出願は、先願の地位を有しない(第36条第5項)。
 @従来、放棄された出願又は拒絶査定若しくは審決が確定した出願には先願の地位が認められていたが、公開される前に放棄され又は拒絶査定若しくは審決が確定した場合には、その発明の内容は公開されないため、これらの出願に先願の地位を認めると、これらの出願に与えられる効果が公開された後に放棄された出願又は拒絶査定若しくは審決が確定した出願に与えられる効果との関係で大きすぎ、バランスを欠くため、平成10年法で、放棄された出願又は拒絶査定若しくは審決が確定した出願は原則として先願の地位を認めないことにしたものである。
 A従来の規定は、出願の取下げと放棄によって先願の地位に対する法的効果が相違したが、前記改正によって、出願の放棄と取下げの法的効果は同一となった。

(2) 但し、協議が成立せず又は協議できなかった場合において、拒絶査定又は審決が確定したときは先願の地位を有する(第36条第5項但書)。協議不成立又は協議不能で拒絶査定又は審決が確定した場合に先願の地位を認めないと、不公平、不平等を招致するのみならず、協議制度を設けた趣旨が蔑ろになるからである。

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10.特許料等の改正について
(1) 特許料の引下げ(第107条第1項)
 特許料については、?特許特別会計が収支相償の原則のもと運営できる歳入が、長期的に確保される料金であること、@昨今の社会情勢を踏まえ、見直し後の各年の特許料は、現行の特許料を超えない料金とすること、A出願後20年目の特許料は、審査請求時期によって異なるが、審査請求をどの時点で行っても主要国の出願後20年目の特許料と比較して同程度以下の料金となること、B特許権者の負担の容易性を考え利益直線に近い形の料金とすること、?料金体系の複雑化をさけることを考慮し、平成10年法で、10年目以降の特許料の金額を平準化する料金体系とされた。
 近年、創造的技術開発の推進の観点から基本発明の重要性が増しているが、基本発明については多面的にその内容を権利化する必要があるため、請求項が多数となることから、平成11年法で、特許料の料金体系が請求項数の増加に抑制的にならないよう、請求項数の増加に応じた特許料の増加割合が一律25%引き下げられ、出願審査請求料も同様の理由により請求項に応じた部分を一律25%引き下げられた。 別表に現在の 出願審査請求料及び 各年分の特許料の料金体系を示す。

(2) 国と民間との共有に係る特許料及び手数料の取扱い(第107条第3項、第195条第5項)
 @国と民間とが特許料を共有している場合には、特許料の金額に民間の持分を乗じて得た額を納付すればよいこととされた。
 A国と民間とが特許を受ける権利を共有している場合には、政令で定め手続に係る手数料について、当該手数料に民間の持分を乗じて得た額を納付すればよいこととされた。
 B前記持分について民法第250条(共有者の持分は、相等しきものと推定する)の規定は適用することなく、持分の定めがある場合に限ることとされた。
 C国と民間との共有で持分の定めがある場合に、電子化手数料についても、夫々持分に該当する手数料を定めればよいこととされた。然し乍ら指定情報処理機関に対し、磁気ディスクへの記録を求める場合には、この限りでないとされている。現在電子化処理業務はすべて財団法人工業所有権電子情報化センターが行っていることから、「指定情報処理機関に対し、磁気ディスクへの記録を求める場合」に相当するので、前記規定の適用はない(即ち、事実上民間の負担となる)。

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11.むすび
  特許法の改正は、平成5年4月23日の改正以来、大小の改正を経て現行法に至ったのである。
 前記数次に亘る改正中、他の法律の改正に伴う改正もあるが、その多くは、次のような趣旨のもとに行われた。
 我が国は技術立国を国是とし、これにより世界のフロントランナーとしての地位を維持して行こうとする為に、急速な変革を期待し、これを実現する為の法制度を整備したのである。
 そこで知的財産権の広い保護と、強い保護を求め、これを達成する為に、適正な権利を迅速にして付与すること、そのシステムは世界的に調和のとれたものであること、実質を損わない範囲において、手続等を簡略化すること、権利侵害に対しては、その実体を迅速に把握して適確に対処すること、権利内容の解釈が適確に出来るようにして、技術的範囲に過不足を戒めることなどであり、一応の目的を達成したものである。
 然し乍ら余りにも急速な変革であった為に、特許庁に係属する特許出願及び特許権に対し、その出願後施行された法律が適用されることもあって、甚だ混乱を来す要因となっている。そこで今後共今迄のような大改正はないとしても、施行後不備が明らかになったものは速かに是正し、余りにも複雑化した規定は実質を損わない程度に簡略化してよりよい法律に完成しなければならない。
 特に、平成5年法により新たに加えられた規定が、その後削除されたり、内容的に著しく変化した場合には混乱を生じ易いので、特に注意を要する。例えば明細書又は図面の補正については、制度の変化(出願公告の廃止、付与後異議創設)に伴って創設され、新概念のもとに運用され、同一内容について別名で取り扱われる(訂正審判と訂正請求)場合もあるので注意を要する。
 本稿は、次の改正を順次摘記すると共に、重要と目される項目について概説を試みたものであるが、改正法の弊見にすぎないばかりでなく、改正法を全部網羅した解説書でもない。従って本稿をインデックスとして法文及び詳細な解説書を参酌されることにより、改正法の全貌が正確に把握できる。

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別表
1.出願審査請求料 (平成15年改正前)
(1)昭和62年12月31日以前の出願
   一件につき77,300円に、一発明につき9,000円を加えた額
(2)昭和63年1月1日以降の出願
   一件につき84,300円に、一請求項につき2,000円を加えた額

1'.出願審査請求料 (平成15年改正後)
(1)昭和62年12月31日以前の出願
  一件につき154,600円に、一発明につき18,000円を加えた額
(2)昭和63年1月1日以降の出願
  一件につき168,600円に、一請求項につき4,000円を加えた額

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2.各年分の特許料 (平成15年改正前)

(1)昭和62年12月31日以前の出願

各年の区分 金  額
第1年から第3年まで 毎年8,500円に、一発明につき5,600円を加えた額
第4年から第6年まで 毎年13,500円に、一発明につき8,400円を加えた額
第7年から第9年まで 毎年27,000円に、一発明につき16,800円を加えた額
第10年から第25年まで 毎年54,000円に、一発明につき33,600円を加えた額

(2)昭和63年1月1日以降の出願

各年の区分
金  額
第1年から第3年まで 毎年13,000円に、一請求項につき1,100円を加えた額
第4年から第6年まで 毎年20,300円に、一請求項につき1,600円を加えた額
第7年から第9年まで 毎年40,600円に、一請求項につき3,200円を加えた額
第10年から第25年まで 毎年81,200円に、一請求項につき6,400円を加えた額

2'.各年分の特許料 (平成15年改正後)

(1)昭和62年12月31日以前の出願(平成16年3月31日以前に審査請求をした出願)

各年の区分 金  額
第1年から第3年まで 毎年 8,500円に、一発明につき 5,600円を加えた額
第4年から第6年まで 毎年13,500円に、一発明につき 8,400円を加えた額
第7年から第9年まで 毎年27,000円に、一発明につき16,800円を加えた額
第10年から第25年まで 毎年54,000円に、一発明につき33,600円を加えた額

(2)昭和62年12月31日以前の出願(平成16年4月1日以降に審査請求を行う出願)

各年の区分 金  額
第1年から第3年まで 毎年 1,700円に、一発明につき 1,100円を加えた額
第4年から第6年まで 毎年 5,400円に、一発明につき 3,300円を加えた額
第7年から第9年まで 毎年16,200円に、一発明につき10,000円を加えた額
第10年から第25年まで 毎年54,000円に、一発明につき33,600円を加えた額

(3)昭和63年1月1日以降の出願(平成16年3月31日以前に審査請求をした出願)

各年の区分 金  額
第1年から第3年まで 毎年13,000円に、一請求項につき1,100円を加えた額
第4年から第6年まで 毎年20,300円に、一請求項につき1,600円を加えた額
第7年から第9年まで 毎年40,600円に、一請求項につき3,200円を加えた額
第10年から第25年まで 毎年81,200円に、一請求項につき6,400円を加えた額

(4)昭和63年1月1日以降の出願(平成16年4月1日以降に審査請求を行う出願)

各年の区分 金  額
第1年から第3年まで 毎年 2,600円に、一請求項につき  200円を加えた額
第4年から第6年まで 毎年 8,100円に、一請求項につき  600円を加えた額
第7年から第9年まで 毎年24,300円に、一請求項につき1,900円を加えた額
第10年から第25年まで 毎年81,200円に、一請求項につき6,400円を加えた額

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鈴木正次特許事務所