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第1 事案の概要
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本件は、本願発明の発明の名称「超音波カテーテル」とする発明につき、拒絶査定がなされた。これに対し拒絶査定不服審判を請求した。特許庁はこれを不服2001−9726号事件とし、審理して、平成16年3月30日付けで「本件審判の請求は成り立たない」との審決をした。これを不服とした原告は、同審決の取消を求めた事案である。
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第2 審決の理由要旨 |
(1) |
補正後の【請求項59】
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カテーテルの末端に搭載可能な、脈管系内の画像を提供する超音波トランスデューサ・プローブアセンブリにおいて、該アセンブリは、超音波信号を発信、受信するトランスデューサのアレイと、該トランスデューサのアレイによる超音波信号の発信、受信を制御する集積回路と、前記トランスデューサのアレイのトランスデューサー・エレメントを支持し、該エレメントに取り付けられる可撓性シート材料からなる基板及び、集積回路とトランスデューサのアレイとの間で電気信号を移送する導電経路を備えることを特徴とする超音波トランスデューサ・プローブアセンブリ、である。
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(2) |
審決は、刊行物1(以下「引用発明1」という)に記載された発明及び本件出願前に周知の技術に基づいて当業者が容易に発明することが出来たものであるから、請求項1〜58、60〜92に係る発明についての検討に拘らず、本件出願は拒絶されるべきものである。
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第3 争点 |
本件出願と引用発明1とのトランスデューサー部分における両者の対応関係について、一致点、相違点の認定の誤りが争点となった。
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第4 原告主張 |
審決は、訂正の許否についての判断を誤り、また本件発明2と引用発明1との相違点6についての判断を誤ったものであるから、取り消されるべきである。
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第5 被告の反論 |
取消事由2(一致点の認定の誤り・相違点の看過)について
原告は、審決が引用発明1の「可撓性シートからなるリング」を「可撓性シート材料からなる基板」と認定したことが誤りであると主張するが次の通り失当である。
即ち、審決は、引用発明1の「可撓性シートからなるリング」と本願発明の「可撓性シート材料からなる基板」とが、トランスデューサ・エレメントを組み立てるための板である点で相当するとしており、支持する構成等の詳細な点については相違点として検討している。つまり、審決は、本願発明においては、可撓性シート材料からなる基板がトランスデューサ・エレメントを支持している点を引用発明1との相違点として認定し、この相違点は、トランスデューサ・エレメントを可撓性シート材料からなる基板で支持するという周知の構成から当業者が容易に相当し得たものとして判断しているものであり、実質的に「可撓性シート材料からなる基板」がトランスデューサ・エレメントとは別体のものであることを前提として判断を行っているから、審決の結論に影響を及ぼさない。
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第6 裁判所の判断 |
判決:特許庁が不服2001−9726号事件について平成18年5月12日にした審決を取り消す。
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(1) |
審決は、引用発明1の「可撓性シートからなるリング」が本願発明の「可撓性シート材料からなる基板」に相当すると認定した上、「トランスデューサ・エレメント取り付けられる可撓性シート材料からなる基板」を有する点を一致点の構成の中に含めて認定している。これに対し、原告は、引用発明1の「可撓性シートからなるリング」は圧電気材料からなり、トランスデューサ要素の構成要素そのものであるのに対し、本願発明の「可撓性シート材料からなる基板」は、トランスデューサ・エレメント(トランスデューサ要素に相当)の構成要素ではなく、当該トランスデューサ・エレメントを支持するための別部材であって、両者が相当するとは言えないから、審決の上記の認定は誤りである旨主張する。
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(2) |
検討するに、本願発明に言う「トランスデューサ・エレメントを支持し、該エレメントに取り付けられる可撓性シート材料からなる基板」という文言は、@の「第1導電用電極」、Aの「トランスデューサ材料」及びBの「導電用電極」の3層からなる「トランスデューサ・エレメント」に、「可撓性シート材料からなる基板」であるところのCの「整合層」が「取り付けられ」、「トランスデューサ・エレメント」を「支持し」ていることを示している。
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(3) |
引用発明1では、@導電トレース部、A圧電気材料のリング(可撓性シート)、B金属材料による薄い被覆、で構成され、「リング」は可撓性シート材料であることが認められるものの、「リング」は圧電気材料そのものであって、本願発明のトランスデューサ・エレメントの構成要素に含まれる。
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(4) |
そうとすると、本件明細書には「トランスデューサ・エレメント」を「可撓性シート材からなる基板」によって支持し、これを取り付けるに当たっての具体的態様について規定されていないとは言っても、本願発明の「可撓性シート材からなる基板」は、トランスデューサー・エレメントの構成要素でないのに対し、引用発明1の「可撓性シートからなるリング」はトランスデューサー・エレメントの構成要素である圧電気材料であって、両者は明らかに異なるものであるから、両者が相当するとは言えない。
従って、両者が相当するとした審決の認定は誤りであり、この誤った認定の下でなされた一致点、相違点の認定も、また誤りであることは明らかである。
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(5) |
以上のとおり、本願発明の「可撓性シート材からなる基板」と引用発明1の「可撓性シート材からなるリング」とが、相当するとした審決の認定は誤りであり、その結果、審決は、一致点、相違点の認定を誤り、「可撓性シート材からなる基板」の有無についての相違点を看過して判断をおこなっている。この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであり、原告の取消事由2の主張は理由がある。
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(6) |
そこで、審決の一致点、相違点の認定の誤りをいう取消事由2は理由があり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。よって、その余の点について判断するまでもなく、本件審決は違法として取消すべきである。
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第7 考察 |
本判決は、本願発明が、引用発明1との構成要素が一致していないからとして、審決が取り消された事例である。実務の参考になると思われるので、紹介した。
以上
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