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「ボルトヒーター」とは、大径ボルトを緩めたり、締め付けたりする場合に、ボルトに予め穿孔した小孔にヒーターを挿入し、当該ボルトを加熱してボルトを焼き伸ばすことにより、ナットと被締付体との間に間隙を生じさせて緩めを容易にする、あるいは、締め付け後に冷却して所定の締め付け力を得るものである。
従来のボルトヒーターは、可燃ガス等や電気抵抗によるヒーター熱で加熱していたが、本件発明では、高周波誘導加熱により加熱するものである。
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(2) |
本件発明
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請求項2 金属製ボルトの軸新方向に穿孔された孔内に挿入されたヘアピン状誘導加熱コイルと、同コイルの往復路線間に設けられた磁性体とを備え、かつ同コイルの内部に水を流すようにした高周波ボルトヒーターにおいて、前記誘導加熱コイル表面に耐熱性絶縁物を施したことを特徴とする高周波ボルトヒーター。
請求項3、請求項4 (略)
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(3) |
主たる争点は、進歩性欠如による無効理由の存否であった。
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(4) |
本件発明2ないし4と、引用発明2との対比・相違点の判断
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乙2の2文献に記載された引用発明2が、高周波ボルトヒーターに限定されていない点及び誘導加熱コイルが挿入される孔内について金属性ボルトの軸心方向の穿孔された孔内に限定されていない点については、これらの点は何れも乙2の2文献に記載された引用考案1において開示されていると認められる。
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A |
原告は、引用考案1の「加熱トーチ」では、ボルトの二次電流を誘導できないことから、引用発明2に引用考案1を適用して、本件発明2に想到することは困難であると主張する。
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B |
然し乍ら、乙2の1文献おいて、実際には高周波加熱を実施することが困難な構成しか開示されていないとしても、当業者であれば、引用発明2に、引用考案1に開示されているボルトの軸心孔に挿入した導体に、電流を流すことにより当該ボルトに対して高周波加熱を行うという技術思想を適用することに困難性はないと言うべきである。
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C |
原告は、ボルト孔に対する誘導電流による発熱作用が全く無く、通電時に導体自体の発熱も冷却される引用考案1の「加熱トーチ」に用いられる耐熱絶縁塗膜は、本件発明の2ないし4における耐熱絶縁物を示唆するとは言えないとするが、引用発明2に引用考案1を適用することに困難性がないから(何れも、金属部材の孔の内面の加熱を高周波誘導加熱で行うという技術分野に属する技術として共通していると言うことができる。高周波加熱は、証拠文献から周知の技術である。)当業者であれば、乙の2の2の文献に記載されたヘアピンコイル状高周波ヒーターに、引用考案1を適用し、その導電体表面に耐熱性絶縁物を施すことは、容易にできるというべきである。
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D |
原告は「高周波ボルトヒーター」では、大電流を流すので、一般電気機器用の柔軟性ケーブルの技術常識はそのまま適用できないと主張する。しかし、電気機器の接続に於いて、使用される電力に応じてケーブルを選択しなければならないことは自明のことであるから、当該電力に耐え得るケーブルを選択することは、当業者が適宜なし得ることに過ぎず、従来の技術常識に属するというべきである。
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E |
乙2の4の文献の「磁性材料の利用」の項には「磁性材料は、その他の部分より磁束が通りやすいので、磁性材料をコイルの適当な位置に部分的に取り付け使用して、被加熱材料を貫通する磁束分布を調節できる」との記載があり、磁性体を取り付けることにより加熱させる部分を調節できることが示されているが、このことは同時に、当業者にとって、加熱をあまり望まないような部位には、磁性体を取り付けないようにして、磁束分布、加熱分布を調節することも開示されているというべきである。
以上からすれば、誘導加熱コイルにおいて加熱しようとする部分に磁性体を設け、加熱が必要でない、或いは、加熱を望まない部分には磁性体を設けないようにすることは、従来から周知の技術であると言える。
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F |
このようにボルト部分の必要部位のみ積極的に加熱するべきであること、ナット装着ネジ部やナットを不必要に加熱しないことは、当業者にとって技術常識である以上、ボルトのナット装着ネジ部に相当する部位を非加熱部とすること、そのために前記の周知技術を適用して同部位を磁性体省略部とすることは、当業者あれば容易に想到し得たことである。
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G |
以上検討したところによれば、本件特許権2ないし4は、何れも特許法29条2項に該当する事由があり、同法123条1項2号の規定に基づき特許無効審判により無効とされるべきものと認められるから、原告は、被告らに対し、本件特許権2ないし4に基づき、その権利を行使することはできない。
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