損害賠償等請求事件(多関節搬送装置、その制御方法及び半導体製造装置)

解説 損害賠償等請求事件
 訂正審判請求或いは訂正請求がなされている場合には、特許法第104条の3第1項の「当該特許が無効審判により無効とされるべきものと認められる」かどうかは、訂正後の特許発明、即ち、将来その訂正が認められ、当該特許が無効審判により無効とされるべきものと認められるかどうかにより判断すべきであるとされた事例
(東京地裁 民事46部 平成15年(ワ)第16924号 平成19年2月27日、判決言渡)
 
第1 事案の概要
 本件は、発明の名称「多関節搬送装置、その制御方法及び半導体製造装置」とする特許第2580469号の特許権者である原告が、被告の製造販売する装置が、前記特許発明の技術的範囲に属するとして、その製造等の差止めと、損害賠償金の支払を求めた事案である。

@ 特権特許は平成8年11月21日 設定登録された。
A 原告は判定を求め、イ号物件が本件特許の発明の技術的範囲に属するとの判定を平成15年5月2日に得た。
B 被告は本件特許の無効審判を請求し、平成17年6月28日、無効とする審決を得た。
C 原告は平成17年8月1日、知財高裁に該審決の取消訴訟を提起した。
D 原告は、同22日に訂正審判を求めた(本件訂正特許発明という)。知財高裁はこれを受けて審決取消す旨の決定を行い、事件を特許庁に差し戻した。原告は、取消し後の無効審判において、上記訂正審判請求と同じ内容の訂正請求をした。
E 特許庁は平成18年8月15日、本件訂正を認め、本件訂正特許発明を無効とする審決をした。原告は、平成18年9月19日付けで、知財高裁に前記審決の取消しを求める訴えを提起した。

【特許請求の範囲】
 第1の搬送部(15)と、前記大の搬送部(15)の回転面に対して上下又は下側に位置するように高さを規定した第2の搬送部(16)と、前記第1の搬送部(15)を一方向に伸縮する第1の多関節駆動部(11)と、前記第2の多関節駆動部(12)と、前記第1の多関節駆動部(11)の回転中心となる第1の固定軸(13A)と、前記、前記第2の多関節駆動部(12)の回動中心となる第2の固定軸(13B)とを有し、かつ、前記前記第1の多関節駆動部(11)、第2の多関節駆動部(12)及び共通駆動部(13)を回動制御する駆動制御手段(14)とを備え、前記第1の搬送部(15)及第2の搬送部(16)を前記九通駆動部(139の上部に縮めたとき、前記第1の搬送部(15)と第2の搬送部(16)とを高低差をもって重なるようにしたことを特徴とする多関節搬送装置。


第2 主な争点
@ イ号物件が本件訂正発明の技術的範囲を充足するか。
A イ号物件の未完成品の製造ないし販売が直接侵害ないし間接侵害が成立するか。
B 本件訂正発明が審判により無効とされるべきものと言えるか。
C 本件特許発明の無効理由が本件訂正により解消されるか。
D 本件明細書の発明の詳細な説明が平成6年法律第26号による改正前の特許法36条(以下「改正前36条」という。)4項及び5項2号の規定する要件を満たしているか。
 尚、スペースの制約上、技術問題は省略し法律上の問題を解説し、間接侵害行為関係について、解説を省略する。


第3 被告の主張
@ 被告製品は、当該特許発明の構成要件を充足しない。
A 本件特許発明は、乙2発明と同一又は当該発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものと言えるから、特許無効審判により無効とされるべきものと認められる。従って、原告は、被告に対して本件特許権を行使することができない。
B 本件訂正発明は、乙7発明及び乙4発明から当然に予測可能な効果である。従って、本件訂正発明は進歩性を有しておらず、独立特許要件を欠く。


第4 裁判所の判断
 判決:
(1)被告は、別紙目録記載の各製品を製造し、譲渡し、輸入し、又は譲渡の申出をしてはならない。
(2)被告は、その占有する前項の製品を廃棄せよ。
(3)被告は、原告に対し、3004万円及びこれに対する平成15年8月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
@ イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲を充足する。
A 以上に拠れば、本件特許発明は、当業者が乙1発明と乙7発明から容易に想到し得るものであるから、無効理由を有しており、特許無効審判により無効にされるべきものと認められる。
B 本判決では、訂正確定前の特許発明につき、被告製品の充足性を認め、特許法29条2項の無効理由があるとした。
 従って、本来であれば、被告が主張した特許法第104条の3第1項の抗弁が認められそうな状況であった(請求棄却となる)。
C しかし、本件については、その無効審判事件において、本件訂正の請求がなされており、特許庁は、その審決において、本件訂正を認め、本件訂正特許を無効と判断したものの、原告が同審決に対し審決取消訴訟を提起したために、未だ本件訂正が確定していない状況にある。
D そこで判決は、特許法104条3項1号における「当該特許が無効審判により無効にされるべきものと認められるとき」とは、当該特許について訂正審判請求あるいは訂正請求がなされたときは、将来その訂正が認められ、訂正の効力が確定したときにおいても、当該特許が無効審判により無効とされるべきものと認められるかどうかにより判断すべきである、とした。
 従って、原告は訂正前の特許請求の範囲の請求項について容易想到性の無効理由がある場合においては、@当該請求項について訂正審判請求ないし訂正請求したこと、A当該訂正が特許法126条の訂正要件を充たすこと、B当該訂正により、当該請求項について無効の抗弁で主張された無効理由が解消すること(特許法29条の新規性、容易想到性、同36条の明細書の記載要件等の無効理由が典型例として考えられる)、C被告製品が訂正後の請求項の技術的範囲に属することを、主張立証すべきである。として、原告の主張を検討する。
E その結果、以上によれば、本件訂正は未だ確定していないものの、訂正要件を満たすものであり、本件訂正特許発明について被告が主張する無効理由は認められず、かつ、被告製品は、本件訂正特許発明の技術的範囲に属するものである。そうとすると、本件訂正特許発明に係る特許が特許無効審判により無効とされるべきものとは認められないから、特許法第104条の3第1項に基づく被告の無効の抗弁は認められない。


第5 考察
 本判決は、訂正審判請求或いは訂正請求がなされている場合には、特許法第104条の3第1項の「当該特許が無効審判により無効とされるべきものと認められる」かどうかは、訂正審判請求或いは訂正請求がなされている場合には、訂正後の特許発明、即ち、将来その訂正が認められ、当該特許が無効審判により無効とされるべきものと認められるかどうかにより判断すべきであると判示している。実務の参考になると思われるので、紹介した。
以上


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '08/1/28