審決取消請求事件(データム機能付クランプ装置)

解説 2以上の請求項を対象とする訂正審判請求における訂正の許否の判断を請求項ごとに行なうべきことを知財高裁が説示した審決取消請求事件
(知的財産高等裁判所 第3部 平成18年(行ケ)第10426号 口頭弁論終結 平成19年12月12日)
 
第1 事案の概要
(1)原告は、発明の名称「データム機能付クランプ装置」とする特許第3338669号(以下「本件特許」という。平成11年8月3日出願、設定登録平成14年8月9日)の特許権者である。

(2)本件特許については、平成17年9月1日、これを無効とすることを求めて無効審判の請求があり、無効2005−80265号事件として特許庁に係属した。特許庁は審理の結果、平成18年1月17日、「特許第3338669号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする」との審決をした。
 原告は、この審決を不服として、同年2月9日、上記審決の取消訴訟を提起し、同訴訟は当庁において係属している(当庁平成18年(行ケ)10056号)。

(3)原告は、平成18年4月28日、本件特許に係る明細書の訂正を求める審判を請求した(請求項2を削除する。本件特許の請求項3を2項に繰上げる訂正を含む訂正審判を請求した。)。特許庁はこれを訂正2006−39064号事件として審理した結果、平成18年8月18日、「本件審判の請求は成立たない」との審決(特許庁は何れも独立特許要件を欠くことを理由に訂正審判不成立の審決)をした(以下「本件審決」という)。これに対し、原告は本件審決の取消訴訟を提起した。

第2 争点
(1)原告は、審決取消事由を1〜8までを主張した。
 審決には、取消事由1〜8が存するところ、これらの誤りが何れも結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、違法なものとして取消されるべきである。

(2)被告特許庁長官は、原告の取消事由1〜8につき反論した。
 審決の認定判断は何れも正当であって、審決を取り消すべき理由はない。


第3 裁判所の判断
(1)判決:原告の請求を棄却する。
 判決は、原告主張の取消事由を検討した上で、本件特許に係る請求項1及び2の発明について何れも独立特許要件を欠くとした審決は相当であるとして、原告の請求を棄却した。そして、結論の中で以下の通りの説示をした。
(2)結論
(A)上記検討したところによれば、本件各訂正発明は、何れも引用発明1、2及び刊行物2〜4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないものであり、同法第126条第5項の規定に適合しないことは、審決の判断の通りである。
(B)ところで、昭和62年法律第27号による特許法の改正により導入された、いわゆる改善多項制の下において、複数の請求項について訂正審判が請求された場合における訂正の許否については、@改善多項制導入前と同様に訂正審判請求全体を一体のものとして、一部の請求項に係る訂正につき特許法所定の要件を満たさない点があれば、他の請求項に係る訂正について要件の充足の有無を判断するまでもなく、請求にかかる全ての請求項についての訂正を許さないものとすべきか(以下「一体説」という。)、或いは、各請求項ごとに訂正が特許法所定の要件を満たすものかどうかを判断した上で、訂正審判請求のうち、要件を満たさない請求項に係る部分のみについて訂正を許さないものとし、要件を満たす請求項に係る部分については訂正を許すものとすべきか(以下「請求項基準説」という。)という点で、検討すべき問題が存在する。
(C)審決は、本件において、本件訂正発明1に係る訂正が許されないと判断したにもかかわらず、このことのみをもって審決の結論を導くことをせず、進んで本件訂正発明2に係る訂正の許否についての検討を行っている。このような審決の措置は、本件訂正請求に先立って特許庁によりされた無効審決において、本件特許の請求項1ないし3(本件訂正前)に係る特許が無効とされ、特許権者(原告)により審決の取消しを求めて提訴された訴訟(当庁平成18年(行ケ)100056号)が当庁に係属していることに照らし、本件訂正審判請求(原告)において、本件特許の請求項1ないし3について、一部の請求項に係る訂正であっても、これを許す旨の審決を求めていると善解する余地があることを配慮しての措置と理解することが可能である。
 本件における審判合議体のこのような措置は、改善多項制の下における訂正審判のあり方について、前記の請求項基準説を採用したものと即断することはできないにしても、適切な措置と評価することができる。
(D)以上によれば、審決の判断に誤りがない。原告はその他縷縷主張するが、何れも理由がなく、審決を取消すべきその他の誤りも認められない。よって原告の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。


第4 考察
 判例としては、複数の訂正個所がある場合に請求の一部についてのみ訂正を許す審決をすることは出来ない(実用新案に関する最高裁判決・昭和55年)。しかし、特定の請求項に複数の訂正個所がある場合ではなく、各別の請求項につき訂正請求がされている場合には、同判例の射程外であるとして、請求項毎に訂正の許否を判断すべきであるとしたのが、本判決である。
 2以上の請求項を対象とする訂正審判請求については、前記の「一体説」と「請求項基準説」とがあり、上級審の判例がなく、実務の指針となるべきものが見当らなかった。
 本件判決は、2以上の請求項を対象とする訂正審判請求における訂正の許否の判断を請求項ごとに行なうべきことを説示した知財高裁の判決であり、実務上の指針・参考になると思われるので紹介した。

以上


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '08/12/01