(1)当裁判所も、本件各発明は進歩性を欠くものであり、本件各特許には、無効理由があるので、原告は、被告に対し、本件各特許権を行使することはできないと判断する。
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(2)付言
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A
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事実審の最終口頭弁論終結後の訂正審判請求について
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原告は、当審の最終口頭弁論終結後である平成20年7月1日、第2次無効審決を不服として、審決取消訴訟を提起し、同年7月17日、特許請求の範囲を減縮等を目的とする訂正審判を請求し、さらに、同年8月20日、特許請求の範囲を減縮等を目的とする訂正審判を請求した。
なお、本件について口頭弁論の再開申請はされてはいない。
そこで、本件について口頭弁論の再開の要否を含む審理のあり方について、以下の通り、当裁判所の見解を述べる。
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B |
本件各特許の手続の経緯
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被告は、原審に本件訴訟係属後、各特許に対して無効審判を請求し、特許庁は平成19年8月3日、本件各特許を無効とする無効審決をした(第1次無効審決)。
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A |
原告は、第1次審決を不服として、該審決取消訴訟を提起すると共に、同年11月14日特許請求の範囲の減縮等を目的とした訂正審判を請求した。知財高等裁判所は、事件を審査官に差戻すため、第1次審決を取消す決定をしたのを受けて、同年12月20日、訂正請求をした。
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B |
原判決は、平成19年12月26日、被告の無効主張を採用して、原告の請求を棄却した。
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C |
原告は、平成20年1月18日に本件控訴を提起した後、本件各特許の無効審判において、同年3月28日に再開された無効審判において特許請求の範囲の減縮等を目的とした訂正請求をした。
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D
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特許庁は、平成20年5月22日、同年3月28日に、各訂正請求を認めた上、該各特許を無効とする審決を行った(第2次審決)。
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(3)当裁判所の見解
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ア
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上記訂正審判請求の内容を検討すると、平成20年7月17日の各訂正請求は、本件各特許の無効理由を解消するものとは認められず、平成20年8月20日の各訂正審判請求は、これが認められる蓋然性は極めて低いものと判断できる。
また、被告製品が上記各発明の技術的範囲に含まれることを認めるに足る証拠は見当らない。そして技術的範囲に含まれるか否かの点について、原告に主張立証を補充する機会を与えるとするならば、原告と被告との間の本件各特許権の侵害に係る紛争の解決を著しく遅延させることとなると解すべきである。
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イ
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仮に、上記平成20年8月20日の各訂正審判請求が認められ、訂正審決が確定すると言う事情が生じることを想定した場合には、当審のした判断を覆す主張をする余地が生じ、また、たとえ、判決が確定した後においても、民訴法338条1項8号所定の再審事由に当たる余地が生じ得ることになる。
しかし、仮にそのような事情が生じたとしても、原告が、そのような事後的事情の変更を理由として、当審のした判断を覆す主張をすることは、特許法104条の3の規定の趣旨に照らして許されないというべきである。
その理由は、特許法104条の3第1項の規定が、特許権侵害訴訟において、当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められることを特許権行使を妨げる事由と定め、無効主張するのに特許無効審判手続による無効審決の確定を待つことを要しないものとしているのは、特許権の侵害に係る紛争をできる限り特許侵害訴訟の手続内で解決すること、しかも迅速に解決することを図ったものと解され、また、同条2項の規定が、同条1項の規定による攻撃防御の方法が審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められるときは、裁判所はこれを却下することができるとしているのは、無効主張について審理、判断することによって訴訟遅延が生ずることを防ぐためであると解され、このような同条2項の規定の趣旨に照らすと、無効主張のみならず、無効主張を否定し、又は覆す主張(以下「対抗主張」という。)も却下の対象となり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を理由とする無効主張に対する対抗主張も、審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められれば、却下されることになるというべきであるから(最高裁判所平成18年(受)第1772号事件・平成20年4月24日代小法廷判決)。そして本件においでは、第1、2次審決、原判決に採用された被告の無効主張に照らすならば、原告は、被告の無効主張を排斥し又は覆すための対抗主張として、平成20年3月28日の訂正請求の他、当審の口頭弁論終結前に、第2次無効審決の取消訴訟を提起するなどして、これに基づく対抗主張を行うことが可能であったと言うべきである。従って、原告の対抗主張を、適法な主張として審理することは、本件訴訟による紛争解決を著しく遅延させることになると解すべきである。
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ウ
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以上のア及びイの何れの観点からも、原告が上記各訂正請求に係る対抗主張を当審の口頭弁論終結前に提出しなかったことが正当化される根拠はなく、本件について口頭弁論を再開する必要はないものと認められる。
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