審決取消請求事件(半導体素子搭載用基板及び半導体パッケージ)

解説  無効審判請求における訂正請求についても請求項ごとにその許否を判断すべきであるとした事例
(知的財産高等裁判所・平成20年(行ケ)第10093号 判決 平成20年11月27日)
 
第1 事案の概要
 本訴は、特許第3352084号(発明の名称「半導体素子搭載用基板及び半導体パッケージ」)の請求項1に係る特許無効審判において、特許庁が平成20年2月5日にした、同特許を無効とするとの審決の取り消しを求めるものである。

第2 本件審決の要旨
 本件訂正のうち本件発明1についての訂正請求は特許請求の範囲を減縮するものである。しかし、本件訂正発明2は、引用例1ないし20に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件訂正は特許法134条の2第5項において読み替えて準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法126条3項の規定に適合せず、本件訂正は認められない。そして、訂正前の本件発明1についての特許は、引用例18の記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり、特許法123条1項2号に該当する。
(注)無効審判請求は、請求項1に対してのみ請求されていたものである。

第3 主な争点
 原告は、訂正請求を一体のものとして許否を判断した誤り(取消事由1)があると主張した。これに対し、被告は、訂正請求を一体のものとして許否を判断することには、誤りがないと主張した。

第4 裁判所の判断
(1)主文 特許庁が無効2006−80140号事件について平成20年2月5日にした審決を取り消す。

(2)本件審決には、取消事由1に係る違法が存在するものと判断する。その理由は、以下の通りである。
 すなわち、昭和62年法律第27号による改正により、いわゆる改善多項制が導入され、平成5年法律26号による改正により、無効審判における訂正請求の制度が導入され、平成11年法律41号による改正により、特許無効審判において、無効審判請求されている請求項の訂正と無効審判請求されていない請求項を含む訂正請求の独立特許要件は、無効審判請求がされていない請求項の訂正についてのみ判断することとされた。このような制度の許で、特許無効審判手続における特許の有効性の判断及び訂正請求による訂正の効果は、何れも請求項ごとに生ずるというべきである。特許法は、2以上の請求項に係る特許について請求項ごとに特許無効審判を請求することができるとしており(特許法123条柱書)、特許無効審判の被請求人は、訂正請求することができるとしているのであるから(特許法134条の2)、無効審判請求されている請求項についての訂正請求は、請求項ごとに申立てをすることができる無効審判請求に対する、特許権者側の防御手段としての実質を有するものと認められる。このような訂正請求をする特許権者は、各請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解するのが相当であり、また、このような各請求項ごとの個別の訂正が認められないとするならば、無効審判事件における攻撃防御の均衡を著しく欠くことになるといえる。このように、無効審判請求については、各請求項ごとに個別に無効審判請求することが許されている点に鑑みると、各請求項ごとに無効審判請求の当否が個別に判断されることに対応して、無効審判請求されている請求項についての訂正請求についても、各請求項ごとに個別に訂正請求することが許容され、その許否も各請求項ごとに個別に判断されるべきと考えるのが合理的である。
 以上のとおり、特許無効審判手続における特許の有効性の判断及び訂正請求による訂正の効果は、何れも請求項ごとに生じ、その確定時期も請求項ごとに異なるというべきである。
 そうとすると、2以上の請求項を対象とする特許無効審判の手続において、無効審判請求がされている2以上の請求項について訂正請求がされ、それが特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である場合には、訂正の対象となっている請求項ごとに個別にその許否が判断されるべきでものであるから、そのうち1つの請求項についての訂正請求が許されないことのみを理由として、他の請求項についての訂正事項を含む訂正の全部を一体として認めないとすることは許されない。そして、この理は、特許無効審判の手続において、無効審判請求の対象とされている請求項及び無効審判請求の対象とされていない請求項の双方について訂正請求がされた場合においても同様であって、無効審判請求の対象とされていない請求項についての訂正請求が許されないことのみを理由(この場合、独立特許要件を欠くという理由を含む。)として、無効審判請求の対象とされている請求項についての訂正請求を認めないとすることは許されない。本件においては、請求項1に係る発明についての特許について無効審判請求がされ、無効審判において、特許無効審判請求の対象とされている請求項1のみならず、特許無効審判請求の対象とされていない請求項2以下の請求項についても訂正請求がされたところ、本件審決は、無効審判請求の対象とされていない請求項2についての訂正請求が独立特許要件を欠くことのみを理由として、本件訂正が認められないとした上で、請求項1に係る発明についての特許を無効と判断したのであるから、本件審決には、上記説示した点に反する違法がある。
 従って、原告主張に係る取消事由1は、理由がある。
 よって、本請求に理由があるから認容し、主文の通り判決する。

第5 考察
 本判決以前に、最一小判(平20・7・10)は、特許異議申立事件の係属中に複数の請求項に係る訂正請求がされた場合、異議申立がされている請求項についての特許請求の範囲の滅縮を目的とする訂正は、訂正対象となっている請求項ごとに個別にその許否を判断すべきであり、一部の請求項に係る訂正事項が訂正の要件に適合しないことのみを理由として、他の請求項に係る訂正事項を含む訂正の全部を認めないとすることは許されないとして、請求項ごとに許否を判断すべきであると判示していた。この法理は、無効審判における訂正請求についても妥当し、前記判決の射程距離内と理解されていたが、これを直接的に認めた判決がなかった。
 本判決は、前記最高裁判決後に、無効審判請求における訂正請求についても請求項ごとにその許否を判断すべきであるとした知財高裁の判決である。実務上の指針・参考となるので紹介した。
以上


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '10/03/08